地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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黒い影

聞き覚えのある声……その方向に、全員が振り向いた。

 

 

「く……久留美」

 

 

土手から降りてきた久留美は、腕を組み七海達と麗華、広達を見ながら言った。

 

 

「七海、アンタいつから余所者と仲良しになったの?」

 

「そ、それは……」

 

「まぁいいわ。七海達より……」

 

 

七海を睨んでいた久留美は、遙の隣にいた大輔を睨んだ。

 

 

「大輔、どういう意味……さっきの」

 

「そのままの意味だ」

 

「アンタも異端人と一緒だったんだ。変なもの見えてたんだね。

 

外でいじめてるとかって言ってたけど、それは嘘だったってことね」

 

「……」

 

「九条さん、もうやめようよ!」

 

「やめる?何を?」

 

「余所者扱いとか……神崎さんの事をいじめるとか……」

 

「何が言いたいの?」

 

「久留美、謝ろう……

 

あの時の事、全部麗華に謝ろう……」

 

「はぁ?何言ってんの?

 

七海、アンタこいつ等と一緒にいて、頭おかしくなった?

 

 

何がイケないっていうの!前にも言ったわよね?

 

体が弱いんだか何だか知らないけど、いつも体育見学して、体調が優れないからっていう理由で好き放題に学校休んで、年上の人がいるからその人から教えて貰ってるおかげで勉強できて……

それで何で、罰を与えちゃいけないわけ?」

 

「そんなことで、いじめるなんてやっぱりおかしいよ!」

 

「生意気な事言うんじゃないわよ!!」

 

 

怒った久留美は、七海の頬を平手打ちした。

 

 

「飯塚さん!」

「七海ちゃん!」

 

「七海、アンタいつから私にそんな反抗的になったわけ?」

 

「……」

 

「お前、いくら何でも酷過ぎるぞ!」

 

「余所者は黙ってなさいよ!!

 

 

こうなったのも全部、異端児アンタのせいよ!!」

 

 

麗華を睨み付け、久留美は寄ってきて突き飛ばした。麗華は押された勢いで、海辺付近に尻を着いた。

 

 

「麗華!」

 

「酷いわ!いくらなんでも」

 

「余所者は口出ししないで頂戴!!

 

 

今起きてる事件も、どうせ神崎さんの仕業なんでしょ?」

 

「……」

 

「透かした顔して……何か言ったらどうなの!!

 

 

真鈴や徹、慎也に駿、さらには奈美まで……皆いなくなったのよ!!

 

どう責任取ってくれるのよ!!」

 

「責任取れって……麗華は悪くないわよ!!」

 

「そうよそうよ!!」

 

「九条さん、神崎さんはさっき僕達を妖怪から救ってくれました!そんな人が、この事件を」

「遙は黙ってなさい!!」

 

「九条、いい加減しろ!

 

飯塚や渡部は」

「アンタも黙ってなさい!!化け物!!」

 

 

その言葉に、麗華はキレ怒りが満ち、久留美の頬を殴った。彼女は殴られた勢いで飛ばされ地面に倒れた。

 

 

「れ、麗華」

 

「神崎さん……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「痛いじゃない!!何すんのよ!!異端児!!」

 

 

立ち上がった久留美は、麗華を睨み怒鳴った。彼女は息を切らしながら、久留美の胸倉を掴んだ。

 

 

「化け物はアンタだよ。

 

たかが普通の奴と違うだけで、それで化け物扱いかよ……」

 

「……アンタ、話せたんだ。

 

何にも喋らないから、てっきり言葉なんて知らないものだと思ってたわ」

 

「喋るのが面倒くさかっただけ。特にアンタと喋るなんて、時間の無駄」

 

「何よ!!アンタがこの島に来なければ、こんな怪奇事件起きなかったわ!!」

 

「!!」

 

「九条!!今起きてるのは」

「うるさい!!

 

アンタさえ、ここに来なければ……来なければ」

 

 

麗華から離れ、久留美は麗華達を見ながら訴えた。その時、何かの気配に気付いたのかまことは、ふと海の方を振り向いた。

 

 

「な、何なのだ!?あれ」

 

「?!」

 

「どうした?まこと」

 

「あ、あれ!!」

 

 

彼が指差す方には、人のような黒い影が海から自分達に向かって走って来た。

 

 

「あ、あれって」

 

「黒い影……

 

確かいなくなった奴らが、前日に何かに追いかけられたって……」

 

「まさか、その何かがあの黒い影?」

 

「という事は……

 

僕達の誰かが、明日いなくなるってことですか?!」

 

 

すると、黒い影は形を変え、麗華の体をすり抜けどこかへ飛んで行った。すり抜かれた彼女の脳裏に、一瞬フラッシュバックで、何かが映った。

 

どこかの祠……その前で泣きながら何かを訴える自分……

 

 

その映像と共に、麗華は力なくその場に倒れてしまった。

 

 

「神崎!!」

 

 

倒れた麗華を、大輔は駆け寄り体を起こし、声を掛けた。大輔に続いて広達も彼女に駆け寄り、呼び掛けたが麗華は全く反応がなかった。

 

 

 

 

倒れた麗華を家に送って広達は、帰り道をトボトボ歩いていた。

 

 

「麗華、どうしちまったんだろ……」

 

「また、喘息?」

 

「でも、咳なんてしてなかったわよ?」

 

「そう…よね」

 

「じゃあ何で」

 

「気を引こうとしただけじゃない?」

 

 

広達の後ろを歩いていた久留美は、腕を組みながらそう言った。

 

 

「気を引こうって……」

 

「麗華はそんなことしないわ!!」

 

「なら何で倒れたの?

 

気を引く以外、考えられないじゃん」

 

「何だと!!」

「やめとけ」

 

 

何かを言おうとした広に、大輔は止めに入り久留美を見た。彼女は腕を組み、いつでも来いとでも言っているかのような平然とした態度をとった。

 

 

「何で止めんだよ!」

 

「アイツと云い合ったところで、何か得でもするのか?」

 

「それは……」

 

 

「お前等ぁ!!」

 

 

大声で、広達に呼びかけながら、町長とぬ~べ~が駆け寄ってきた。

 

 

「ぬ~べ~!」

「町長さん!」

 

「ここにいたのか!」

 

「どうしたんだよ、ぬ~べ~」

 

「お前達、すぐ宿に戻って明日まで絶対に外に出るな」

 

「え?何で?」

 

「妖怪が出たんだ」

 

 

息を切らしながら、町長は皆にそう伝えた。

 

 

「町長さん、どういう事です?」

 

「さっき、章義が何かに追いかけられたって、血相を掻いて家に帰ってきたんだ」

 

「まさか、それって……」

 

「黒い影」

 

「まだ分かんねぇ。

 

お前達、すぐに家に戻れ!それから、明日俺が良いと言うまで、絶対に外に出るな。分かったな?」

 

「はい」

 

「町長の言う通り、お前達も俺が良いと言うまで、宿から出ず大人しくしてろ」

 

「分かった」

 

 

「本当に出たんですか?」

 

 

七海達のを退かしながら、久留美は町長に近寄った。

 

 

「な、何が言いたいんだ」

 

「その黒い影って、さっき倒れた神崎さんだったりして」

 

「何言ってんの!!」

 

「麗華がそんなことするはずないじゃない!!」

 

「あのさ、さっきからアンタ達の話聞いてるけど……

 

そんなに神崎さん庇ってどうするの?」

 

「どうするって……」

 

「この怪奇事件起きたのって、神崎さんがこの島に来たからじゃないの?」

 

「九条!」

 

「だってそうじゃない。

 

神崎さんが、この島に来た五年前も今までの怪奇事件、いつもその現場には彼女がいたじゃない!

 

 

彼女以外、誰が起こしたっていうのよ!言っとくけど、妖怪の仕業とかいうのは、止めてよ」

 

「っ……」

 

「……

 

 

お前達、すぐに家に帰りなさい」

 

「は…はい」

 

 

町長の言葉に、七海と遙は家へと向かった。広達は、不安げな顔でぬ~べ~の顔を見た。ぬ~べ~は彼等に先に帰れと合図を顔で送り、広達はそれに従い皆、宿へと戻った。

 

その場に残った大輔は、久留美を睨んだ。彼女は透かした顔で、腕を組み直し大輔の方を見た。

 

 

「これでもし、神崎のせいじゃなかったらどうすんだ?」

 

「その時は、そうね……

 

土下座して謝ろうかしら。神崎さんに」

 

「……」

 

 

大輔はそれを聞き入れたかのようにして、自分の家へと帰り、久留美も自分の家へと帰った。残ったぬ~べ~と町長は二人を見届けた後、急いで龍実達の家へと向かった。




夜……


龍実の家の居間で、いなくなった子供たちのリストと現場が記されている地図を見る龍二達……


「いなくなった現場はバラバラ……

だけど、行方不明になった子供は皆小学五年生の奴ら……」

「行方不明の奴等に、何か共通点があるのか?」

「あるって言えば、麗華の同級生……」

「ん~……

そう言えば、麗華は?」

「今寝てる。

さっき倒れてな……」




二階の部屋で眠る麗華……大量の汗を掻きながら、悪夢に魘されていた。


暗闇に自分が一人……目を開けると、そこには辛かったあの島の日々が映像で流れていた。耳を塞ぎ目を閉じる麗華……その時息が苦しくなり、やがて咳き込んでいった。




「ゲホゲホゲホゲホゲホ!!」


聞こえてくる咳き込む声……隣の部屋にいた大空と龍実はその咳に気付き、二人は龍二達の部屋の襖を恐る恐る開けた。

布団の上で、苦しそうに咳き込む麗華……その背中を焔は、擦りながら心配そうな顔を浮かべていた。


「麗華!」

「龍実…すぐに龍を呼んでくれ!!」

「分かった!」

「お姉ちゃん!」


大空は部屋へ入り、苦しむ麗華の所へ駆け寄った。龍実はすぐに階段を駆け下り、居間へと向かった。廊下の騒ぎに気付いた龍二は、立ち上がり襖を開けようとした時、突然襖が開き龍実が血相を掻いてやってきた。


「龍実?どうし」
「麗華が!!麗華が!!」

「麗華……!!」


二階から聞こえてくる咳に、龍二は龍実を倒しに階の部屋へ向かった。床に尻を着いた龍実は、ぬ~べ~に立たされ共に、二階へ上がった。


「麗華、しっかりしろ!!麗華!!」


咳き込む麗華の傍には、吸ったであろう携帯用の吸引器が捨てられていた。龍二は咳をし蹲る麗華の背中を擦りながらずっと彼女の名を呼び叫んだ。


「龍実!!すぐに小母さんに、医者呼んでくれるよう頼んでくれ!」

「分かった!!」


咳が一旦落ち着いた麗華は、浅く息をしながら起き上り、胸元を手で掴みながら龍二の方に顔を向けた。


「麗華」

「ハァ……ハァ……

アニキ?」

「大丈夫か」

「ヌエノ……ウッ

ゲホゲホゲホゲホゲホ!!」

「麗華!!」
「麗!!」




数分後……龍実の母が呼んだ医者がすぐに駆け付け、麗華に薬を投与した。彼女はすぐに落ち着きを取り戻し、静かに眠りに入った。
医者が帰ると共に、ぬ~べ~も宿へと帰った。二人が帰ってしばらくした後、麗華は目を覚まし起き上った。


「麗」


目を覚ました麗華に、焔は顔を摺り寄せた。擦り寄ってきた彼の顔を麗華は撫で自分の顔を摩った。その様子に、焔に乗っかっていたシガンは、彼女の肩に飛び乗り頬ずりした。そんなシガンを麗華は手で撫で、立ち会上がり階段を下りた。




「麗華」


下へ降りてきて、居間に入ってきた彼女を見た龍二は、驚いた表情をした。


「お前、大丈夫なのか」

「まぁね……


兄貴」

「?」

「もしかしたら、今回の事件……


私が関係してると思う」

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