地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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麗華が学校へ来なくなってから、一週間が過ぎた。広と郷子以外の生徒は、ぬ~べ~から風邪を拗らせてしばらく休むと聞かされていた。


そんな中、学校ではある噂が流れていた。その噂を休み時間、お喋りの美樹はクラスの皆に話していた。


美樹と麗華

「犬鳳凰(イヌホウオウ)?」

 

 

美樹が言い放った名前をクラスの一人が繰り返した。

 

 

ここ最近、頻繁にゴミ置き場や空き家、公園の草花が燃える事件が続いていた。その事件の原因が妖怪の仕業だと美樹はクラスに話していた。

 

 

「何だ?犬鳳凰って?」

 

「愛媛に伝わる怪鳥よ!

 

狐火と同じ炎を口から吐き出す妖怪なの!」

 

「最近起きてる火事が、その妖怪の仕業なの?」

 

「そうよ。

 

現に目撃者がいるんだから」

 

「いるの?!」

 

「えぇ。

 

消防署に通報したOLさんが云ってたのよ!帰り道にゴミ置き場から飛び立つ影と同時に、火が上がったんだって!」

 

「へぇ……」

 

「美樹、それ本当なの?」

 

「本当よ!昨日話してるの聞いたんだもん!

 

あ!これとは別の話なんだけど……

 

 

昨日の帰り道、麗華見かけたわよ」

 

「え?!」

 

「嘘?!」

 

「だって神崎さん、風邪拗らせて休んでるんでしょ?」

 

「そうなのよ。

 

私も、目を疑ったわ。それに、なんかお兄さん連れてたのよねぇ……」

 

「お兄さん?」

 

「うん。

 

何か、平安時代の人が着るような服着て、白い髪生やして頭に赤いバンダナ巻いてた男の人」

 

「何それ……」

 

「本当に、お兄さんなのか?」

 

「ただの変人じゃないの?」

 

「言えてる」

 

 

“キ―ンコーンカーンコーン……キ―ンコーンカーンコーン”

 

 

休み時間が終わるチャイムが鳴り響き、それと同時にぬ~べ~が教室へ入ってきた。ぬ~べ~が入ってきたことに気付いた生徒たちは皆、自分の席へ戻り三時間目の教科書を机から出した。

 

 

(麗華ねぇ……

 

そういえば、郷子も広も麗華の話になると、ちょっと顔を曇らせるわねぇ……

 

 

怪しい。

 

今日の帰り道、何隠してるんだか暴こう)

 

 

そう思いながら、美樹は三時間目の授業を受けた。

 

 

 

 

放課後―――――

 

 

「ねぇねぇ!お二人さーん!」

 

 

二人で帰る郷子と広を、美樹は呼び止め二人の前に立った。

 

 

「何?美樹」

 

「今日さ、お二人さんに聞きたいことがあるのよ!

 

麗華のことについて」

 

 

麗華の名前を美樹が言い放った途端、広と郷子は顔を曇らせて下を向き美樹から目線を逸らした。その異様な行動を見逃さなかった美樹は、郷子の顔を覗き込むように見ながら質問した。

 

 

「どうしたのぉ?郷子ぉ?

 

何か隠してるのぉ?」

 

「べ、別に隠してないわよ」

 

「ふぅ~ん……

 

広は?」

 

「お、俺も何も……」

 

「な、何よ!

 

何が聞きたいのよ!」

 

「別にぃ~。

 

アンタたち二人が麗華のことになると顔色を変えるから、何か彼女のことについて知ってるんじゃないのかなぁって」

 

「!!」

 

「その顔!やっぱり、何か隠してるんでしょ?」

 

「か、隠してるわけないじゃん!!

 

広、帰るよ!」

 

 

広の手を引いて、郷子は美樹の横切って二人は帰っていった。そんな二人の後ろ姿を見た美樹は、諦めずに二人の後をついて行った。

 

 

二人を尾行する美樹……

 

 

しばらく尾行していると、二人の前にガムを噛む麗華が現れた。美樹は慌てて近くにあったポストの陰に隠れ覗き見た。

 

 

(こんなところで、麗華に会うなんて……美樹ちゃんってばチョーラッキー!)

 

 

「いい加減に付き纏うの止めてくれない?」

 

 

自分自身の運に感激していた美樹は、麗華の声に耳を傾け、見つからぬようにポストから顔を覗かせ見た。

 

 

「だったらいい加減、学校に来たらどうなんだ?」

 

「また、その話?

 

一週間も、同じこと言われると、だんだん腹立つんだけど?」

 

「じゃあ、来ればいいじゃねぇか?」

 

「そうよ。

 

そうすれば、私たちだってもう付き纏わないわ!」

 

「だから言ってるでしょ?

 

行く気はない!気分が乗ったら行くって!」

 

「気分で学校に行こうとすんな!毎日来い!」

 

「あのねぇ……

 

ハァ……

 

 

話にならない。そこのポストの陰に隠れている奴持って、とっとと帰ってちょうだい」

 

「?ポスト?」

 

 

麗華の言った言葉に疑問を持った広と郷子は顔を見合わせて、ポストの所へ駆け寄った。そこには引き攣った笑顔を浮かべ、やってきた二人に手を挙げて挨拶をする美樹がいた。

 

 

「美樹?!」

 

「ど、どうも」

 

「な、何でアンタがここに?!」

 

「だって、麗華のこと心配だったし……

 

それに、アンタ達の様子が気になったものでして」

 

「?!」

「?!」

 

「やっぱり、何か隠してるわねぇ?

 

麗華について」

 

「そ、それは……」

 

「何隠してるんのよ?」

 

「ったく……

 

私は帰るよ」

 

「あぁ!待ちなさいよ!」

 

 

立ち去ろうとする麗華の前に、美樹は声を上げながら前に立った。麗華は迷惑そうな顔を浮かべながら、噛んでいたガムを膨らませ、パチンと割りまた噛みながら美樹を睨んだ。

 

 

「何?」

 

「(うわっ!怖ぁ)

 

風拗らせて休んでるって、嘘だったのね!ズル休みじゃない!!」

 

「人の事何も知らないで、勝手なことばかり言わないで!!」

 

「何よ!!その言い方!!

 

ちょっと、広、郷子!

 

 

アンタ達、この事知ってたの?」

 

「えっと……」

 

「それは……」

 

「顔の様子からして、全部知ってたみたいね?

 

これはいいネタになるわ。『風邪を拗らせて休んでいた神崎麗華は、単なるズル休みでした』ってね?」

 

「ちょっと、美樹!!酷過ぎるわ!!」

 

「何が酷過ぎるのよ?

 

事実を伝えるだけじゃない?クラスのみんなに」

 

「伝えるって……

 

麗華は好きで学校休んでるんじゃないのよ!!」

 

「じゃあ何で来ないのよ?

 

納得のいく理由を話して貰おうじゃない?」

 

 

言いながら美樹は、麗華に顔を近付けさせて、覗き込むように話した。麗華はそんな美樹を睨みながら溜め息を吐き、そして美樹の耳元へ顔を持っていき口を開いた。

 

 

「今夜、気を付けな?」

 

「え?」

 

「じゃあね」

 

 

忠告するかのように、麗華は美樹に囁くとそのまま路地裏へと姿を消した。ハッと我に返った美樹は麗華の後を追いかけて、路地裏を見るとそこにいるはずの麗華の姿が無くなっていた。

 

 

「な、何なの?あの子……」

 

「美樹」

 

 

心配そうな声で、郷子は美樹に話しかけてきた。美樹はそんな郷子に顔を向け怯えた顔を浮かべながら、郷子達に質問した。

 

 

「れ、麗華って……何者なの?」

 

「それは……」

 

「私、何かされるの?!ねぇ?」

 

「分からないわ……」

 

「嫌よ!!嫌よ!!

 

私、そんなの信じないから!!」

 

 

泣き叫びながら、美樹はその場を立ち去った。郷子と広はそんな美樹に声を掛けようと手を伸ばしたが、怯え逃げて行く美樹の後ろ姿を引き留めることができなかった。


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