地獄先生と陰陽師少女 作:花札
島に着いた一隻の船……
船から降りてくる、川島家……その中、龍実の手を握りながら、怯えて島へとやってきた幼い麗華。
龍実の家に付き、島で初めての一夜を過ごした。
だが、まだ母・優華が死んだ事と、突然別れることになった兄・龍二を恋しがり、夜泣きをした。そんな麗華を、一緒に来ていた焔は、慰めるようにして彼女の涙を舐め、顔を摺り寄せた。焔に抱き着きながら、麗華は泣くのを堪え彼の胴に頭を置き眠りに入った。
そんな日々が過ぎて行き、四月に入り入学式を迎えた。
不安そうな顔を浮かべ、体育館の中に並べられた椅子に座る麗華……楽しげに騒ぐ同級生隊は皆、昔からの幼馴染であり、麗華だけが新顔であったため、話し掛けるものなど誰もいなかった。
通う様になってから麗華は小六であった龍実と一緒に行った。だが麗華は学校に馴染むことができず、いつも教室の窓を眺めながら、優華が生きていた頃の楽しかった日々の事を思い出していた。
学校が終わると、麗華は鞄を部屋に置き外へ出て行き、入り江の奥にある小島へ遊びに行っていた。森の中を歩きながら、あちらこちらにいる妖怪を見て楽しんだ。
この頃の麗華は、まだ多少笑顔になったり、笑えることができた……いじめが起きるまでは。
学校に通い始めて、二ヶ月……プールの時間、麗華はプールサイドにあるベンチに座り持っていたスケッチブックに絵を描きながら、暇を潰していた。
担任が少しプールか離れた時、久留美がプールをから上がり男子二人を連れ、ベンチに座っている麗華の前に立った。彼女は動かしていた手を止め、久留美達を見上げた。すると二人の男子は、彼女の腕を掴み勢いに任せてプールの中へと突き落とした。
“バシャ―ン”
水の音に、慌てて担任はプールサイドへ戻ってきた。麗華は息を切らしながらびしょ濡れでプールから這い上がった。担任はすぐに予備のタオルを彼女に掛け、急遽保健室へ連れて行かせた。
その日から、久留美とクラスメイトからのいじめが始まった。
学校に来ると、中傷的な言葉を浴びさせられ、時折暴力を受けたり、私物が全て鋏で切られていたり、最悪の場合は階段から突き落とされたこともあった。
日に日に傷を負って帰ってくる麗華が気になった龍実は、担任にいじめがあるのではないかと訴えた。しかし担任にはまともに聞いて貰えず、そのまま夏休みへと入った。
島へ着た頃より、麗華は無表情になり余り喋らなくなってしまった。休みの間、家でも中傷的な言葉を龍実の祖母から酷く言われており、居辛い麗華はいつも小島へ行っていた。
海辺へ来ると、怪我をした人が浜に上がっていた。麗華は倒れている者の傍へと寄り、焔に手伝ってもらい傷の手当てをした。
だが、手当てをした者は人ではなかった。怪我が治るとその者の姿は変わり、変わる前に海へと飛び込んでしまった。海へ走り入ると、水面に背びれが出て、下を見ると鮫が一匹そこで泳いでいた。
鮫は麗華にお礼を言っているかのようにして、周りを泳ぎ回った。それから夏休みの間、小島へ来ては救った鮫と泳いで遊んだ。
そんなある日、島である事件が起きた。島にある森へ行った老夫婦が、怪我をして戻ってきた。負った怪我は、まるで爪で引っ掻かれたかのような、背中一面に広がっていた。怪我を見た町長は、数人の大人を連れ、森を調査しに行こうとした時だった。森の前で待っていた麗華は、町長達に行かない方が良いと忠告したが、彼等は聞く耳も持たず森の中へと入っていった。
数時間後……
町長達は傷だらけで、森から出てきた。それを見た麗華は、皆の目が離れた隙に森の中へと入りそこに潜んでいた悪霊と戦った。
日が暮れた頃、麗華は傷だらけで森から出てきた。その姿を見た町長は、気が動転していたのか、森で起きたことを全て麗華が裏でやっていたことにされてしまった。
その翌日、海沿いを歩いていた麗華は、浜で網に絡み海に戻れないでいた妖怪を見つけ、網を解き助けていたところを、運悪く久留美に観られしまった。
夏休みが終わり、学校へ行くと久留美は麗華は、変なものが見えそいつ等と遊んでいるという噂を流した。それからの麗華に対するいじめは、ますますひどくなってしまい、耐え切れなくなった麗華は、学校を休みがちになってしまった。
学校を休み、いつもの様に小島へ遊びに行った時だった。先を歩く見覚えのある人の背中が見えた。麗華はその背中を追いかけて行き、島の森の中へと入った。歩いて行き、その背中は歩きの前に止まり、そこにいた妖怪の頭を撫でていた。それを見た麗華は、その人に姿を現した。
その人は、クラスの男の子で自分のいじめにいつも参加しようとしない男子だった。
男子と一緒に、島にいる妖怪を見る麗華……そんな様子を、焔は木から木へと移りながら、眺めていた。
「お前にも、見えてたのか?」
陽が沈む光景を、二人は崖から眺めており、男の子は麗華に質問した。彼女は何も答えず、ただ頷いた。
「そうか……
俺、物心ついた頃から見えてたんだ。けど、そんな事話したら、九条に何言われるか分かんなくてさ、ずっと黙ってたんだ……
そしたらアイツ、夏休み開けてから突然お前が変なものと遊んでるって……」
「……
以前住んでた所が、妖怪や幽霊が集まる場所だったんだ……
昼間、お兄ちゃんと母さんがいない時、いつも相手してくれてたんだ……だから、寂しいって思ったこと一度もなかった」
「お前、何でここに来たんだ?」
「……
母さんが死んだから……」
「……
父ちゃんは、いねぇのか?」
「父さん、私が生まれた日に亡くなったの……
だから、父さんの顔は知らない……」
「……
似た者同士だな、俺等」
「え?」
「俺の母ちゃん、本当の母ちゃんじゃないんだ。
俺が一歳の時に、父ちゃんと別れちゃって……それからは、別の母ちゃんなんだけど……
その母ちゃん、スッゴイ厳しくて、学校休もうとすればすぐに怒鳴るし、叩くし……」
「……
知ってるの?あなたが見えるってこと」
「知らないよ。多分言えば、『何バカなこと言ってるの』って怒られて、打たれるだけだよ。」
「……」
何を放せばいいか分からない麗華は、何も答えずただ一緒に陽が暮れる空を眺めた。
“ピシャーン”
雷鳴が鳴り響く夜……
雷の音で、目が覚めた麗華は隣で寝ている龍実を起こさぬように、起き上り焔と一緒に窓から外を眺めた。
ふと窓から見えた、離島に雷が落ちた。その雷を目を凝らして見ると、中に馬の姿をし赤い角を輝かせた生き物らしき影が、その島に落ちていくのが見えた。
(何だろう……あれ)
「麗、さっきの影」
「……明日、行くよ」
「了解」