地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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結界を貫き、鎌鬼の胸に刺さる一本の矢……


「あ……あ……」


自分の胸に刺さった矢を見る鎌鬼……矢に書かれていた文字が輝きだし、鎌鬼の体内から光が次々に光線が出てきた。

光線に驚いた郷子達は、まるで何かにぶたれたかのようにして、倒れ気を失ってしまった。気を失った郷子達を見た氷鸞と雷光は、互いを見合い頷き外へと出て行った。


救いと別れ

「わぁぁあああああ!!!」

 

 

苦しみ叫ぶ鎌鬼……

 

結界を解いた龍二と輝二は、倒れかけた。そんな二人の傍にいた迦楼羅と渚が慌てて二人を支えた。

 

 

弓を放った麗華とぬ~べ~は、息を切らしてその場に座り込んだ。麗華は弦で打った右腕を押えながら、再び立ち上がり薙刀を構えた。そんな彼女の元へ、危機を察した焔が駆け寄った。

 

 

「い、嫌だ!!死ぬのは嫌だぁ!!」

 

「それがお前の辿る道だ。

 

お前は人を殺し過ぎた。その罰としてお前の魂は消滅する。二度と生まれ変わることはない」

 

「嫌だ!!

 

僕は、この世の人間を消すんだ!!この鎌を手にした時から、それが僕の定めだ!!」

 

「アンタは、神になったつもりか!!」

 

 

鎌鬼の元へと寄る麗華……鎌鬼はそんな彼女の方を向いた。

 

 

「罪もない人たちを殺して、その魂を食って……」

 

「黙れ!!何も知らないくせに!!

 

 

人間の頃、僕がどれだけ助けを求めたか……いじめにあって、ずっと助けを求めていた……親や兄弟(姉妹)、友人やその現場を見ていたクラスメイトや、担任にも……

 

なのに…誰も助けてくれなかった!!誰も、僕の事を助けてくれなかった!!」

 

 

鎌鬼に蘇る、数々の記憶……

 

叫ぶ鎌鬼の様子を見た麗華は焔を待たせ、鎌鬼の元へと近付いた。彼女の元へ行こうと、立ち上がる龍二に輝二は手を握り、その行為を止めた。

 

 

「親父…」

 

「ちょっと待ってろ」

 

「……」

 

 

鎌鬼に歩み寄る麗華……鎌鬼は鎌を振り回しながら、近寄ってくる彼女を追い払おうとした。

だが彼女は、その攻撃を薙刀で受け止め防いでいった。鎌を振り下ろした瞬間、麗華は薙刀を振り払った。鎌は鎌鬼の手から離れ飛ばされ、鎌は地面へ突き刺さってしまった。

 

無防備なってしまった鎌鬼は、目の前にいる麗華を睨んだ。彼女は傍に薙刀を突き刺し、鎌鬼に抱き着いた。

 

 

その行為に驚く、輝二達……

 

 

「……何で」

 

「アンタの気持ち……分かるよ」

 

「え?」

 

「私も一歩間違えてたら、アンタと同じ道を行ってた……

 

けど、それを救ってくれたのは、周りにいた妖怪達だった……あいつ等がいてくれたから、私は間違った道を行くことはなかった……」

 

「……」

 

「私は、この学校へ来る前、酷いいじめを受けてた。

 

だから、アンタの気持ちが分かる」

 

 

麗華の言葉が響いたのか、鎌鬼の目から透き通った涙が流れ出てきた。

 

 

「麗華……君……君だけだよ……

 

僕を……僕を、救ってくれたのは……」

 

 

鎌鬼の涙に反応するかのように、彼の体内から出てきた光線は、麗華の体を貫いた。彼女と同じようにして、輝二と龍二の体、更には焔、渚、迦楼羅の体を貫き、貫いた光線は光を増し、やがて輝二達を包んでいった。

 

 

 

 

光が弱まり、眩しさから目を閉じていた麗華は、恐る恐る目を開けた。

 

 

「麗華!」

 

 

自分に駆け寄ってくる龍二と輝二……麗華は鎌鬼から離れ、不思議そうに二人を見た。

 

駆け寄ってきた龍二は、麗華を抱き寄せ頭を雑に撫でまくった。

 

 

「い、痛い!兄貴!」

 

「よくやったな!麗華」

 

「全くだ」

 

 

龍二と共に寄ってきた輝二は、龍二と変わるかのようにして、彼女の頭を撫でた。麗華は頬を赤くして、輝二を見つめた。

 

 

「本当によくやってくれたな、麗華」

 

「……

 

 

 

ねぇ、ここって……」

 

『ここは、あの世とこの世の狭間……』

 

 

その声に気付き、麗華は後ろにいるはずの鎌鬼の方を振り向いた。鎌鬼は人の姿に戻っており、体が光っていた。

 

 

「鎌鬼……」

 

『麗華……

 

君のおかげで、僕はまた生まれ変わることができるよ』

 

「え?」

 

「お前の言葉が、鎌鬼の罪を軽くしてくれたんだ。

 

鎌鬼は、たくさんの人を殺していったことを、心から反省している」

 

「じゃあ、鎌鬼は……」

 

『何に生まれ変わるか分からない。

 

でも、生まれ変わったら、必ず君の元へ行くよ。麗華』

 

「待ってるよ、鎌鬼」

 

『ありがとう……

 

それから、済まなかった』

 

「……」

 

『君達二人の父親輝二と、渚と焔の父親迦楼羅の命を奪ってしまって……』

 

「……」

 

『僕は、どうやってお詫びすればいいか……』

 

「だったら、麗華と交わした約束、しっかり果たせ。

 

そしたら、俺もお前の事を許してやる」

 

「無論、私達も。

 

ね!焔」

 

「あぁ!」

 

 

龍二と麗華の傍にいた渚と焔は、互いを見合いながら嬉しそうに返事をした。

 

 

「焔…」

「渚…」

 

『ありがとう……龍二。

 

ありがとう……渚…焔』

 

 

やがて、鎌鬼の体は足から光の粒へとなり、消え始めた。

 

 

『そろそろ時間だ……

 

僕は先に、あの世へ逝くよ』

 

 

光の粒は、鎌鬼を包み込み天へと昇っていった。

 

光の粒を見送る麗華と龍二……

 

 

そんな二人を、輝二は自分に抱き寄せた。

 

 

「親父……」

「父さん……」

 

「俺もそろそろ、時間だ……」

 

「……」

 

「龍二、お前の成長した姿を見れてよかった。

 

麗華をしっかり守るんだぞ」

 

「あぁ……」

 

「麗華、お前に会えてよかった。それだけが、父さんの心残りだったんでな。

 

龍二に思いっきり甘えろ。俺や母さんがいない分、お前には寂しい思いをさせてきた。だから、我慢なんかするな」

 

「うん……」

 

 

二人は顔を下げながら返事をし、輝二の服を強く握った。そんな二人の行為に、少し困り果てた顔を浮かべながら、輝二は二人の頭を撫でながら強く抱いた。

 

 

三人が別れを惜しんでいる時……

 

迦楼羅も、渚と焔を抱き寄せていた。

 

 

「渚、お前は弥都波(ミツハ)と同じ水を使う白狼だ。

 

その水で龍をしっかり守るんだぞ」

 

「うん……」

 

「焔、お前は俺と同じ火を使う白狼だ。

 

その火で麗をしっかり守るんだぞ」

 

「あぁ……」

 

 

涙を流す渚は、別れを惜しむかのようにして、迦楼羅の服を掴み離れようとしなかった。余り目にしない姉・渚の姿を見た焔は、渚に釣られ涙が流れ落ち、迦楼羅に抱き着いた。

 

 

だが、時間は待ってくれなかった……

 

輝二と迦楼羅の体は、光の粒となり消え始めた。

 

 

「親父!」

「父さん!」

 

「父上!」

「父上!」

 

 

天へ昇っていく光の粒となる二人を見上げる四人……四人に向かって、二人は微笑みそして光の粒となり、天へと消えていった。

 

 

二人がいなくなると共に、周りを包んでいた光が強まり、四人は眩しさの余り目を閉じた。

 

 

 

 

『女の子かぁ……』

 

 

聞こえてくる父・輝二嬉しそうなの声……麗華は暗い空間の中を彷徨うかのようにし、身に任せて流れていた。

 

 

『名前、どうします?』

 

『俺に、考えさせてくれないか?』

 

『いいですよ。

 

変な名前は、付けないでくださいね』

 

『付けたりしないさ!龍二の名前だって、変な名前じゃないだろ?』

 

『そうでしたね』

 

 

おかしそうに笑う女性の声……

 

 

(この声……母さん?)

 

『何々?二人で、何話してるの?』

 

 

どこからかやってきたまだ幼い龍二の声……

 

目を覚ました麗華は、暗い空間を見回した。するとそこにまるで映画のようにして映る、輝二の膝に乗ってくる幼い龍二と、そんな龍二の頭を雑に撫で笑う輝二……じゃれ合う二人を見て笑う母・優華の姿……優華のお腹は、大きくなっていた。

 

 

『龍二、アンタもう少ししたら、お兄ちゃんになるのよ』

 

『兄ちゃん?俺が?』

 

『そうだぞ、龍二。

 

母さんの腹の中には、お前の妹がいるんだぞ』

 

『妹?母さんの腹の中に、俺の妹がいるのか?』

 

『そうだ』

 

『龍が兄になるなら、私は姉だな!』

 

 

まだ子狼姿の渚が、龍二の膝の上へと登ってきた。渚についてきた狼姿の迦楼羅は、輝二の後ろに体を下ろし座った。

 

 

(あれは……迦楼羅に渚)

 

『迦楼羅、弥都波の容態はどうなの?』

 

『オメェさん同様、大丈夫だ。腹の中にいるガキも順調に育っている』

 

『そう……良かった』

 

『早く生まれてこねぇかな?俺の妹!』

 

『そうだな。

 

早く生まれて、俺達にその元気な姿を見せてほしいなぁ……』

 

『二人とも、お腹の子が生まれるのは、まだ二ヶ月も先の話よ?』

 

『もう生まれてきていいよ!』

 

『駄目よ!

 

そんな早く生まれたら、この子生まれて早々に死んじゃうかもしれないわよ?』

 

『え?!それは困る!!』

 

『じゃあ、もう少しの辛抱だ。

 

龍二、ちゃんと待っていられるか?』

 

『うん!』

 

 

笑い合う五人……

 

そんな姿を見ていた麗華は、涙が溢れ出てきて一人泣いていた。

 

 

(そうか……

 

私、これを憶えてたんだ……だから、あの時父さんを見て『父さん』って呼べたんだ……)

 

 

すると目の前に広がっていた家の中の風景が消え、境内の風景へと変わった。

 

本殿の階段に腰掛ける優華と輝二……二人の隣で体を下ろし座る迦楼羅と弥都波の姿……

 

 

そんな四人の前で、境内を遊び回る龍二と幼い自分、そして渚と焔……

 

 

(……何もなければ、こんな日が訪れてたかもしれない……)

 

 

見ていた映像は、光を放ち麗華は眩しさのあまり目を閉じた。

 

 

 

 

「麗華!!」

「麗華!!」

 

 

郷子と美紀に呼ぶ声で、麗華は目を覚ました。麗華はいつの間にか狼姿になっていた焔の胴に頭を乗せ寝かされていた。

 

 

「稲葉……それに、細川」

 

「麗華……」

 

「はぁ~、目が覚めてくれてよかったぁ!」

 

「……!!

 

痛ってぇ!!」

 

 

気が抜けたのか、麗華の右腕に激痛が走り大声を上げながら起き上り右腕を抑えた。

 

 

「だ、大丈夫?!麗華」

 

「う、腕がぁ……」

 

「腕?」

 

 

抑える麗華の腕は、真っ赤に腫れていた。

 

 

「うわぁ……痛そう」

 

「これ、骨折れてんじゃないの?」

 

「い~や、折れちゃいねぇよ」

 

 

気が付いた龍二は、渚と共に彼女の元へと駆け寄ってきた。

 

 

「お兄さん、目が覚めたんですね!」

 

「まぁな」

 

「ねぇ、これが折れてないってなんで分かるんですか?」

 

「俺も部活で弓道やってるけど、始めた頃はしょっちゅう腕を当ててたからなぁ、弦に。」

 

「じゃあ、これは単に腫れてるだけってことですか?」

 

「そういうこと。二・三日すりゃ元通りになるよ」

 

「何だぁ」

 

「よかったね!麗華」

 

「あぁ」

 

「麗殿ぉ!!」

「麗様ぁ!!」

 

 

その声に気付いた麗華は、声の方向に目を向けた。彼女に釣られて、三人もその方向に顔を向けた。

 

ぬ~べ~のもとにいたのか、馬の姿になった雷光と巨鳥の姿になった氷鸞、丙と雛菊が二人の元へと駆け寄ってきた。

 

 

「氷鸞、雷光!」

 

「丙、雛菊!」

 

 

飛んできた氷鸞は、麗華の傍に着地し顔を摺り寄せた。雷光も彼女の傍では止まり顔を摺り寄せてきた。

 

丙と雛菊は走ってきた勢いに任せ、龍二に飛び付いた。龍二は飛び付いてきた二人を受け止めたと同時に、そのまま後ろへ倒れてしまった。

 

 

「麗殿!よくぞご無事で!!」

 

「ご無事で何よりです!麗様!」

 

「お前らこそ、よく頑張ってくれたな。感謝するよ」

 

 

「龍!!心配したぞ!!」

 

「全くだ!!童達を、心配させるとは…」

 

「ハハハ……悪ぃ悪ぃ。

 

 

お前達、本当ご苦労さんだったな。ありがとう」

 

「おぉ!!龍に褒められたぞ!!丙!!」

 

「だな!雛菊!!」

 

 

嬉しさのあまり龍二を抱きしめる丙と雛菊……

 

 

そんな中に、広と克也に支えられてやってきたぬ~べ~……

 

 

 

学校はいつの間にか元通りに戻っていた。空には雲一つなく陽が沈みかけていた。

 

 

「おぉ!晴れてやがる!」

 

「この調子だと、七日は晴れだな」

 

「本当!?」

 

「焔の言う通り、この夕日は明日が張れるって予兆だよ」

 

「それに雲一つない。という事は、しばらく雨も降らないってことさ」

 

「やったぁ!!」

 

 

燥ぐ郷子達……

 

 

座っていた麗華は、人の姿になった焔に支えられ立ち上がり夕焼けを見た。

 

そんな彼女を抱き寄せ、龍二は笑い掛けた。そんな彼を見た麗華は頬を赤くして、笑い返した。

 

 

燥ぐ郷子達を、ぬ~べ~は抱き寄せ後ろにいる麗華達を見ながら言った。

 

 

「さぁ、帰るか!」

 

「うん!!」

「うん!!」

「うん!!」

「うん!!」

 

「郷子達は、俺が責任もって送ってやる」

 

「恩に着るぜ!ぬ~べ~!」

 

「鵺野!

 

俺達は、こいつ等と一緒に帰るから」

 

「そうか!」

 

「学校行くのは、たぶん来週かな?」

 

「しっかり体を休ませろよ?麗華」

 

「へいへい」

 

「麗華、行くぞ」

 

「あぁ」

 

 

狼姿になっていた渚に乗りながら、龍二は後ろで狼姿になった焔に乗る麗華に言った。

麗華の返事で、龍二は渚を飛ばした。渚が飛んだのを合図に焔、氷鸞、雷光、丙、雛菊も共に飛んで行った。

 

 

「じゃあねぇ!麗華ぁ!

 

また来週!!」

 

 

飛んでいく麗華達に郷子達は、手を振った。そんな郷子達に、麗華と龍二は手を振り学校を離れて行った。




七月七日……


墓参りをする麗華と龍二……

お線香を上げ、墓場を後にした二人は家へと帰った。


家へ帰った麗華は、森に作った鎌鬼の墓に花を添えた。


「まだ来ないのかなぁ……」

「そのうち来るさ。

どんな姿かは分からねぇけどな」

「だといいけど…」

「それより、早く支度しろよ?

約束してんだろ?祭り行くって」

「あれは、勝手に稲葉達が決めたことだ」

「そう言うなって。

俺も今日、誘われてんだからさ」

「それって、真二さん達?」

「そうだよ。

ほら行くぞ。着替えるんだろ?」

「はーい」


返事をしながら立ち上がり、先行く龍二の後を追いかけて行った。




夜………


商店街へ着た麗華と龍二……


「あ!麗華ぁ!!」


先に来ていた郷子は、麗華の姿を見つけるなり手を上げながら大声で彼女の名を呼んだ。龍二は待ち合わせの場所へ行くと言い、麗華から離れて行った。


「あれ?お兄さんは、一緒じゃないの?」

「兄貴は、友達と一緒に行くんだとさ」

「な~んだぁ、せっかくお兄さんと一緒に行けるかと思ったのに」

「美樹!」

「なぁ、早く屋台に回ろうぜ!」

「そうだね!」

「麗華、行こう!」

「あぁ!」


走り出した郷子達の後を、麗華は追いかけるようにして走り出した。


そんな麗華を、近くの木の上から眺める焔は、ほっと息を吐き彼女の後を追いかけて行った。




祭りを楽しむ麗華と郷子達……

屋台を見ながら歩いていると、一つの屋台で皆は足を止めた。


「可愛い!!」


その屋台に売られている、一匹二百円のフェレット……


「わぁ!!ふわふわしてるぅ!!」

「一匹二百円だよ。どうだい?お嬢ちゃん達」

「二百円かぁ……」

「ちょっと高いよねぇ……」


「ねぇ、おっさん」

「?」


麗華は、屋台を出しているオジサンの傍らにあるケージに入っている黒い毛並みをしたフェレットを見ながら、オジサンに話し掛けた。


「このフェレットだけ、何で売りに出さないんだ?」

「そいつ、つい先日買ってきたんだけど……どうにも、人に慣れてないようでさぁ。

近寄ってくるお客を、やたらと噛みつくんで、今日の祭りが終わり次第返品しようと思ってさ。」

「ふ~ん」


ケージの中にいるフェレットを見つめる麗華……中にいたフェレットは、麗華の目を見るなりケージから出ようと、扉の鍵を開けようとした。その行為を見た麗華は、何かを察したのか、オジサンの目を盗みケージの鍵を開けた。
戸が開くとフェレットは、一目散に麗華の腕に登り彼女の目を見つめた。


「……」

『麗華』

「?!」


聞き覚えのある声……振り返りその声の主を捜したが、姿はなくふと自分の腕に乗るフェレットにもう一度目を向けた。


(……鎌鬼?)


フェレットの目は、どこか鎌鬼の目に似ていた。


「おぉ?!

こいつ、お嬢ちゃんには、噛みつかねぇんだな?」


麗華に顔を近付けさせ、フェレットと彼女を交互に見るオジサン……


「あ、あの」
「頼む!

そいつ、引き取ってくれ!代金はいらねぇ!」

「え?」

「さっきも言ったけど、そいつ噛みつく癖があるんだ。

けど、お嬢ちゃんには噛みつかねぇ!どうだ?引き取ってくれるか」

「……

喜んで!!」


嬉しそうに声を上げ返事をする麗華……

麗華はフェレットを肩に乗せ、自分を待っていてくれた郷子達の元へと駆け寄った。

彼女の肩に乗っていたフェレットを見る、郷子と美紀は羨ましそうな目で麗華を見た。


「良いなぁ、麗華」

「タダでもらえたんでしょ?そのフェレット」

「あぁ!」

「ねぇねぇ、名前どうすんの?そのフェレットちゃん」

「そうだな……


シガン…」

「へ?」

「こいつの名前、シガンって名前にするよ。」

「シガン?どういう意味だ?」

「現実世界のかなたの霊的な世界って意味だ。」

「へぇ……」


“ドン”


「お!

太鼓の音だ!」

「行こうか!」

「うん!」

「麗華、行こう!」

「あぁ!」


太鼓の音に釣られて、郷子達は商店街の中心部へと駆けて行った。




“チリーン”


祭りが終わり、家へと帰ってきた麗華……

縁側に座り柱に背凭れている彼女の膝の上には静かに眠るシガンがいた。


「そのシガンが、鎌鬼の生まれ変わった姿とはなぁ」


風呂から上がった龍二は髪を拭きながら、麗華の隣に座った。


「こいつ見てたら、不思議と鎌鬼の声が聞こえてきたんだ……」

「そうか……」

「約束、果してくれた」

「だな」


眠るシガンの頭を撫でる龍二……ふと麗華を見ると、彼女はいつの間にか眠ってしまっていた。そんな麗華を龍二は抱き寄せ、自分の肩に羽織っていた羽織を、彼女に掛けた。狼姿になっていた焔と渚は二人に寄り添い、自分達の尾を二人に乗せた。


“チリーン”


縁側に吊るしている風鈴が、夏の心地よい風に揺られ優しい音色を響かせた。

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