地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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校庭へ出てきた輝二達……


外には、鎌鬼の姿はなかった。


「早速、行動を開始と行こうか。


迦楼羅、結界ができるまでの間、お前は麗華の弓を見てくれ」

「分かった」

「何で?弓なら」

「チャンスは一度だけだ。

その前に、念入りに練習をしといてくれ」

「……」


納得がいかないような表情で、麗華は渋々頷いた。そんな彼女に輝二は少し困ったような表情を浮かべながら、彼女の頭を撫でた。


「麗、行くぞ」

「行くって…」

「いいから、ついて来い」


先行く迦楼羅の後を、麗華は慌てて追いかけて行った。


射を引く者

校舎の中を放浪する鎌鬼……

 

そんな鎌鬼を、広達はからかうかのようにして馬の姿になっていた雷光に跨り、逃げ回っていた。

 

 

 

 

結界を張るのを待つ麗華は、校舎裏に生えている木の的に向かって矢を放っていた。矢は打つごとに真中へと当たり続けていた。

 

 

“パーン”

 

 

「命中率、ざっと八割ってところか」

 

 

木に刺さる無数の矢を見ながら、迦楼羅は麗華に向かって言った。

 

 

「何が言いたいのさ」

 

「いや……流石、輝のガキだなと思ってな」

 

「……

 

 

ねぇ迦楼羅」

 

「ん?」

 

「父さんって……昔から、あんな性格なの?」

 

「あぁ。

 

輝とは、オメェ達と一緒でガキの頃からの付き合いだからな。

 

 

いつも呑気で、気ままで物静かで、周りから見りゃ何考えてんだか分からねぇ野郎だったぜ……」

 

「まるで麗華だな」

 

 

傍にいた焔は、麗華をからかうようにして言った。そんな焔の言葉にキレたのか、麗華は彼の頭を殴った。

 

 

「けど、仕方ねぇことなんだよな。あいつがそんな風になっちまったのは」

 

「?」

 

「輝の親父さんとお袋さん、奴が中学生の時、交通事故で死んじまったんだ……俺達の親はとうの昔に他界していた。

 

その後は、双子の兄貴と一緒に過ごした。

 

 

そしていつの日か、アイツに大事な女ができた」

 

「それって母さんのこと?」

 

「そうだ。

 

 

それから結婚して間もなく、輝に龍、俺に渚が生まれた。

 

あの頃は、幸せそうだった……平日はいつも仕事でまだガキだった龍と過ごせる時間が限られてたけど、休日になると必ずって程、龍と遊んでたっけなぁ……」

 

「……」

 

「そんで、龍が学校に通うようになった頃、オメェができた。

 

女だって聞いた時、輝は嬉しそうな顔をして喜んでた。

 

 

麗」

 

「何?」

 

「オメェの名前、決めたの輝なんだぜ」

 

「え」

 

「『麗』って漢字は、アイツのお袋さんの名前から取ったんだ。

 

そんで、オメェの母親であり輝の妻であった優の名前から『華』を取って、繋げたんだ。」

 

「それが……『麗華』」

 

「そうだ。

 

いなくなる前に、これだけは話しておこうと思ってな。

 

もし死んでなければ、お前が大きくなった時にでも、輝は話すつもりだったんだ。

 

 

輝はあの調子だ。おそらく何も話さず逝っちまうだろうな。

 

もっと時間が欲しかったと思うぜ……オメェ等ともっと話をしたかったしな……」

 

「……」

 

 

思い出す、幼い頃の自分……

 

休日、龍二と共に公園へ行くと、周りの子は必ずって言い程父親と遊んでいた。幼い頃の自分は、いつもその光景を羨ましく見ていた。

 

 

(私だって……父さんともっと、話がしたい……

 

それに兄貴だって…)

 

 

「父上!焔!」

 

 

三人のもとへとやってきた渚……麗華は木に刺さっている多数の矢を引き抜きながら、渚の方を見た。

 

 

「結界の準備ができた」

 

「分かった。麗、焔行け」

 

「承知。麗」

 

 

弓矢を持った麗華は、焔と迦楼羅とともに校庭へ向かった。渚は開いている窓から校舎の中へと入り、郷子達へ知らせに行った。

 

 

 

 

校庭では、鬼の手を出しその手を上げるぬ~べ~と、剣を地面に刺し呪文を唱える龍二、そして同じく地面に槍を差し、呪文を唱える輝二……三人が立つ場から光が放ち、大きな三角形の結界が張られていた。

 

 

(かなりの霊力を使うな……この結界は)

 

 

校庭へ出てきた雷光に跨った広と克也……その後ろから鎌を振り回しながら鎌鬼が追いかけてきた。雷光は龍二達が造り出した結界の中へと入り、鎌鬼を中へと誘い込んだ。鎌鬼は結界の中へ入り、雷光目掛けて鎌を振り下ろした。雷光は寸前で鎌を避け、結界から出ていき校舎の中へと入っていった。

 

 

「すっげぇ!!俺達、なんか最強じゃねぇか?!」

 

「あぁ!!なんか、本物の主人公見てぇだな!!」

 

 

燥ぐ広達を、校舎の中へ入り教室で降した雷光は、人の姿へと戻り校庭を見た。

 

 

(麗殿……)

 

 

 

結界の中へ入ってしまった鎌鬼……

 

 

「これは一体……」

 

「やぁ、鎌鬼。

 

また会えたな」

 

「やぁ、輝二に龍二。

 

それに……鬼の主さん」

 

「悪いが、俺は鬼の主ではない」

 

「左手に鬼を封印しているのに?

 

まぁいいか……

 

 

それより、こっから早く出してくれないかな?」

 

「それは無理な願いだ。鎌鬼……

 

 

お前には、ここで消えてもらうからね。無論魂ごと」

 

「……クッ

 

ハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 

腹を抱え笑い出す鎌鬼……そこへやってきた麗華は、息を整え弦に矢筈を嵌め構え、狙いを定めた。

 

 

「バカだなぁ、輝二……」

 

「?」

 

「僕はもう、十年前の僕じゃないんだよ?」

 

「?……!!」

 

 

その時、鎌鬼の赤い目が不気味に光り出した。鎌鬼の鎌はひとりでに動き出し、結界を破り弓を構えていた麗華目掛けて突っ込んでいった。

 

 

「麗華!!」

 

 

彼女を庇うかのようにして焔は、彼女と共に倒れ込んだ。焔の背中と麗華の腕には、痛々しい切り傷ができそこから血が流れ出ていた。

 

 

「麗華!!」

「焔!!」

 

「だから言ったでしょ?

 

僕はもう、十年前の僕じゃないって」

 

「霊力が高まっていたのか……」

 

「いやぁ、何……

 

ここの人達、とっても霊力が高くてさぁ……思わずいっぱい殺しちゃったよ」

 

「嘘だろ……てめぇ!!」

「龍二、集中しろ!!

 

結界が破れては、何にもならない!」

 

「けど!!」

 

「いいから、集中しろ。

 

麗華!!焔!!」

 

 

倒れている麗華と焔に呼びかける輝二……丙と雛菊に支えられて、何とか起き上がっていた。

 

 

「丙!麗華は引ける状態か!?」

 

「無理だ!!右腕の傷が酷い!!弓を押せても、弦を引くことが出来ん!!」

 

 

丙に支えられている麗華の右腕は、血塗れになっていた。胸に巻いていたさらしが赤く染まり上がっていた。

 

 

「さてと……

 

どうやら、君達三人を殺さないと、この結界から抜け出すことはできないみたいだね……」

 

 

結界の外に出ていた鎌が、形を変えもう一人の鎌鬼へと変形した。もう一人の鎌鬼は、顔を上げ丙に支えられ起き上っている麗華を見るなり、ニタぁっと笑うと覆っていたマントを脱ぎ捨てた。露わになった腕には、二つの刃が生え出ているかのようにして、腕から生えていた。

 

腕を構え麗華目掛けて突進して行くもう一人の鎌鬼……

 

 

「麗華!!」

 

 

位置にいたぬ~べ~は、居ても立っても居られずその場から駆け出してしまった。

 

 

「あのバカ教師!!」

 

「意識を逸らすな!!集中しろ!!」

 

「けど!!」

 

「この結界が破れれば、矢は何の効果もなくなる!!」

 

「クッソ!!」

 

「欠けた分、霊力を上げろ!

 

結界が破られる前に!!」

 

「了解!」

 

 

霊力を上げる二人……

 

 

その一方、もう一人の鎌鬼の攻撃をギリギリのところで、ぬ~べ~は防いだ。

 

 

「ジャマ……ダ」

 

「俺の生徒に、指一本触れさせはしない!!」

 

「ジャマダ!!」

 

 

腕を振りかざすもう一人の鎌鬼……ぬ~べ~の後ろにいた麗華は、焔に持たせていた薙刀を手に取り、ぬ~べ~の前へ立ち振り上げてきた刃を防いだ。

 

 

「狙うなら、私だけを狙え!!

 

こいつは関係ない!!」

 

 

薙刀を振り上げ、もう一人の鎌鬼を振り飛ばした。もう一人の鎌鬼は、元の姿へ戻り本体の元へと戻っていった。




薙刀を地面に刺し、膝を着いた麗華は出血している腕の傷を抑えた。そんな麗華を心配したぬ~べ~は、彼女の元へと駆け寄り肩に手を乗せようとした。すると麗華はぬ~べ~の手を叩き、彼の顔を睨みながら振り向いた。


「何で、アンタがここにいる」

「っ……」

「あの結界が破れれば、全てが水の泡になるの!!分からないの!?」

「……」


黙り込むぬ~べ~……

麗華は、龍二と輝二がいる方へ目を向けた。二人はいまだに結界を解かずに頑張っており、その結界の中にいる鎌鬼は内から放たれている文字の触手により、身動きが取れない状態になっていた。


「(チャンスは今か……)

鵺野」

「?」

「弓は私が押す。代わりにアンタが弦を引け」

「だが、危険じゃ」
「この作戦しかない。

この腕じゃ、まともに弦を引けない。私が狙いを定めるから、鵺野は私の合図と共に、弦を放せ」

「……分かった」


麗華は地面に転がっていた弓と矢を拾った。片腕で、弦に矢筈を嵌めぬ~べ~の元へと行った。後ろを振り返り、まるで自分の指示を待っているかのように立つ、焔と渚、迦楼羅、丙がいた。


「渚と迦楼羅は、兄貴と父さんの元へ」

「了解」
「承知」

「焔と丙は二人の援護」

「承知」
「了解」


四人がそれぞれの位置へ着いた後、麗華は弓を握り押しぬ~べ~は弦を鬼の手で引いた。

弓手を動かし、狙いを定める麗華……息を整え頬付けをし狙いが定まった時……


「鵺野、放て!!」


麗華の掛け声と共に、ぬ~べ~は弦を放した。弦は勢いよく放たれ、麗華の腕を叩き付けその勢いに任せられた夜は、そのまま鎌鬼目掛けて飛んで行った。


“パーン”

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