地獄先生と陰陽師少女 作:花札
麗華の家へと着いた郷子達……
家へ入ろうとした時、同時に戸が開き中から出てきた焔と、危うくぶつかりかけた。
「焔!?」
「?!お前等」
「大変なの!!麗華のお兄さんが!!」
「とっくに知ってる!!
今から、行くところだ!!退け!!」
郷子達を退いて、焔は狼へと姿を変えどこかへ飛んで行ってしまった。
「郷子、この事すぐにぬ~べ~に伝えましょ!」
「うん!!」
美樹の提案に、全員が賛成し麗華の家を後にした。
病院のロビーで、椅子の上で膝を抱え脚に顔を埋めて座る麗華……
その時、壁に掛けられていた時計が鳴りだした。傍にいた氷鸞は、その音の方に目をやり時計を観た。
(もう、五時か……)
椅子に座る麗華の肩を擦る氷鸞……雨で濡れた髪の上には、先程茂が被せたタオルが掛かっていた。
「麗!」
中へ入ってきた焔は、麗華を見つけるなり彼女の名を呼びながら駆け寄ってきた。
「焔」
「氷鸞、すまねぇ。お前に任せちまって」
「別にいい。とにかく貴方が麗様の傍にいなさい」
「……」
「それより、姉上は大丈夫なのですか?」
「あぁ。丙と雛菊が手当てしている。命には別条ないって……」
「そうか……」
「龍は?」
「まだ意識が戻っていないとのことだ」
「……」
「焔、麗様方がこのような状況になったのは初めての事か?」
「イヤ……たぶん、初めてだと思う……」
「……焔、麗様を頼んだぞ」
「命に代えて」
氷鸞は一枚の紙へと戻り、麗華の腰に着けていたポーチの中へと戻った。
「焔……」
顔を埋めながら、麗華は弱り切った声で焔の名を呼んだ。
「?」
「兄貴が死んだら、どうしよう……」
「麗……」
「あそこにはもう、戻りたくない……
戻りたくない……」
「……」
身を縮込ませ、麗華は焔に言った。焔は隣へ座り、黙って雨で冷たくなった彼女を抱き寄せた。
しばらくして、病院へぬ~べ~が駆け付けてきた。中へ入り麗華を見つけると、彼女のもとへと駆け寄ってきた。傍にいた焔は麗華に彼が来たことを伝え、立ち上がりぬ~べ~を見た。彼の後に続いて、郷子と広も一緒に二人の傍へと駆け寄ってきた。
そこへ、茂がやってきて、ぬ~べ~を連れ診察室へと行き、残った郷子と広は麗華とロビーに残った。
「何で、兄貴を……」
「?」
顔を上げながら、頭を片手で抱え麗華はそう言った。彼女の目には泣いたであろう跡が残っており、少し腫れていた。
「殺すなら、さっさと殺せばいいのに……」
「麗華……」
「あの殺人鬼が、私と焔を見て『輝二』と『迦楼羅』って呼んでたの、聞いてたでしょ?」
「うん……」
「その二人……私と焔の父さん達なんだ……」
「え?!」
「私が生まれた日に死んだんだよ……父さん達」
「っ……」
「兄貴じゃなくて……私を……私を殺せば……」
「麗……」
泣き出したのか体を震えさせ、麗華は再び顔を埋めた。
彼女の話を聞いた郷子と広は、何も言い返す言葉がなく、黙り込んでしまった。
「麗華」
診察室から出てきたぬ~べ~は、麗華の名を呼んだ。その声に気付いた彼女は顔を上げ、床に履き捨てていた黒い下駄を履き、焔と共にぬ~べ~の所へと行った。
二人がいなくなると、広は郷子の耳元で小さな声で話した。
「あの二人(美樹と克也)、連れてこなくて正解だったな」
「うん……」
「けど、麗華の親父さんまさか、麗華の誕生日に亡くなってたなんてな……」
「七日は、麗華の誕生日でもあり、お父さんの命日だったんだね……」
「何か、休む理由が何となく、分かったぜ……」
ぬ~べ~の所へ行った麗華は、茂に連れられ龍二が寝ている病室へと入った。
中へ入ると、龍二は目が覚め既に起き上っていた。
「兄貴……」
目覚めた龍二のもとへと駆け寄り、麗華は起き上がっていた彼に抱き着いた。茂はその瞬間を、隠すようにしてぬ~べ~の顔前にカルテで塞いだ。
抱き着いてきた麗華を受け止めた龍二は、彼女に釣られてか目から涙を流し強く抱きしめながら言った。
「ごめんな……心配かけちまって……」
「もう止めてよ……勝手な行動するの……
それで死んだら、話にならないじゃん……」
「だな……」
麗華を自分から話した龍二は、彼女の目に溜まっている目を指で拭ってやった。その様子を見てホッとした茂は、ぬ~べ~からカルテを放し、二人の元へと寄った。
「鵺野?!何で」
「お前が病院へ運ばれていくのを、郷子と広が見ていてな……」
「そうだったのか……?!渚は」
「今家で、丙達が手当てをしてる。大丈夫、命に別条はないってさ」
「よかったぁ……」
「龍二、お前に聞きたいことがある」
「?」
「あの殺人鬼……俺の子の鬼の手を見て自分も鬼だと言ってきた。
アイツは、何者なんだ」
「……
鎌鬼」
「え?」
「奴の名前は、鎌鬼……
元々は人間だったんだ……」
「やっぱり、人だったんだ……」
「あぁ……
もとは、中学生の男だったんだ。けど学校のいじめや家庭内で起きてた虐待があって……ある日、アイツはその自分の運命に耐えきれなくなって」
「自殺…したの」
「そうだ。
だがアイツは、死際にクラスの奴等に言ったんだ。『この世にいる全ての人間を殺すまで、僕の魂は尽きることはない!!無論、君達も全員殺すつもりだから、覚悟しておけ!!』って……
そいつが死んでから、しばらくして通ってた学校の関係者が全員遺体で発見された。体には鎌で斬られた様傷を負ってな。
それが始まりだった。十年前に起きたあの通り魔の」
「だけどその事件父さんが、命を掛けてその鎌鬼を神木に封印して、終わったんじゃ」
「その神木に、雷が落ちて封印が解けちまってたんだ。
アイツが狙ってるのは、麗華の命だ」
「……」
「龍二、お前はとにかく傷を治せ。その間はこの俺が、麗華を守ってやる」
「うわ、頼りねぇ」
「何!!」
「だったら、焔達に守られてた方がよっぽど良い」
「お!それ言えてるかも」
「コラぁ!!兄妹揃って!!教師をからかうな!!」
病室から響いてくる笑い声に連れられ、ロビーにいた郷子達は病室へ入って行った。
数時間後……
ぬ~べ~は郷子と広を連れ、病院を後にした。
二人っきりになった病室では、麗華と龍二は互いを見合い頷いた。
しばらくして看護婦が病室へ行くと、ベットの上は物家の空になっており、代わりに窓が開いていた。
家へと帰ってきた龍二と麗華……
龍二は、丙に傷を完全に治してもらうと、自分の部屋へと行った。部屋へ行くと龍二は服を脱ぎ腹にさらしを巻き、黒い単を着ると上から白い狩衣を着た。
同じ頃、麗華も自分の部屋で胸に晒を巻き、赤い水干を着た。
部屋を出た二人は、本殿へ行き神棚に供えられていた、一枚の紙を手に取り、外で待っている狼姿へとなった焔と渚の所へ行った。
外へ出ると、いつの間にか雨が止んでいた。
「麗華、覚悟はいいな」
「当たり前じゃん。でなきゃ、ここにいない」
「だよな」
話をしながら、二人は渚と焔の背に乗った。乗ったのを確認すると、焔と渚は互いを見合い、先に渚が飛び続いて焔が飛んで行った。
二人は、首からかかっている勾玉、手首に着けている勾玉を見た。
(……親父)
(母さん)
勾玉を放し、意を決意したかのような目で、二人は向かう方向を見た。