地獄先生と陰陽師少女   作:花札

34 / 174
麗華が家を出て行ってから数分後……

麗華の家へと着いた郷子達……

家へ入ろうとした時、同時に戸が開き中から出てきた焔と、危うくぶつかりかけた。


「焔!?」

「?!お前等」

「大変なの!!麗華のお兄さんが!!」
「とっくに知ってる!!

今から、行くところだ!!退け!!」


郷子達を退いて、焔は狼へと姿を変えどこかへ飛んで行ってしまった。


「郷子、この事すぐにぬ~べ~に伝えましょ!」

「うん!!」


美樹の提案に、全員が賛成し麗華の家を後にした。


決意

病院のロビーで、椅子の上で膝を抱え脚に顔を埋めて座る麗華……

 

その時、壁に掛けられていた時計が鳴りだした。傍にいた氷鸞は、その音の方に目をやり時計を観た。

 

 

(もう、五時か……)

 

 

椅子に座る麗華の肩を擦る氷鸞……雨で濡れた髪の上には、先程茂が被せたタオルが掛かっていた。

 

 

「麗!」

 

 

中へ入ってきた焔は、麗華を見つけるなり彼女の名を呼びながら駆け寄ってきた。

 

 

「焔」

 

「氷鸞、すまねぇ。お前に任せちまって」

 

「別にいい。とにかく貴方が麗様の傍にいなさい」

 

「……」

 

「それより、姉上は大丈夫なのですか?」

 

「あぁ。丙と雛菊が手当てしている。命には別条ないって……」

 

「そうか……」

 

「龍は?」

 

「まだ意識が戻っていないとのことだ」

 

「……」

 

「焔、麗様方がこのような状況になったのは初めての事か?」

 

「イヤ……たぶん、初めてだと思う……」

 

「……焔、麗様を頼んだぞ」

 

「命に代えて」

 

 

氷鸞は一枚の紙へと戻り、麗華の腰に着けていたポーチの中へと戻った。

 

 

「焔……」

 

 

顔を埋めながら、麗華は弱り切った声で焔の名を呼んだ。

 

 

「?」

 

「兄貴が死んだら、どうしよう……」

 

「麗……」

 

「あそこにはもう、戻りたくない……

 

戻りたくない……」

 

「……」

 

 

身を縮込ませ、麗華は焔に言った。焔は隣へ座り、黙って雨で冷たくなった彼女を抱き寄せた。

 

 

 

 

しばらくして、病院へぬ~べ~が駆け付けてきた。中へ入り麗華を見つけると、彼女のもとへと駆け寄ってきた。傍にいた焔は麗華に彼が来たことを伝え、立ち上がりぬ~べ~を見た。彼の後に続いて、郷子と広も一緒に二人の傍へと駆け寄ってきた。

 

そこへ、茂がやってきて、ぬ~べ~を連れ診察室へと行き、残った郷子と広は麗華とロビーに残った。

 

 

「何で、兄貴を……」

 

「?」

 

 

顔を上げながら、頭を片手で抱え麗華はそう言った。彼女の目には泣いたであろう跡が残っており、少し腫れていた。

 

 

「殺すなら、さっさと殺せばいいのに……」

 

「麗華……」

 

「あの殺人鬼が、私と焔を見て『輝二』と『迦楼羅』って呼んでたの、聞いてたでしょ?」

 

「うん……」

 

「その二人……私と焔の父さん達なんだ……」

 

「え?!」

 

「私が生まれた日に死んだんだよ……父さん達」

 

「っ……」

 

「兄貴じゃなくて……私を……私を殺せば……」

 

「麗……」

 

 

泣き出したのか体を震えさせ、麗華は再び顔を埋めた。

 

彼女の話を聞いた郷子と広は、何も言い返す言葉がなく、黙り込んでしまった。

 

 

「麗華」

 

 

診察室から出てきたぬ~べ~は、麗華の名を呼んだ。その声に気付いた彼女は顔を上げ、床に履き捨てていた黒い下駄を履き、焔と共にぬ~べ~の所へと行った。

二人がいなくなると、広は郷子の耳元で小さな声で話した。

 

 

「あの二人(美樹と克也)、連れてこなくて正解だったな」

 

「うん……」

 

「けど、麗華の親父さんまさか、麗華の誕生日に亡くなってたなんてな……」

 

「七日は、麗華の誕生日でもあり、お父さんの命日だったんだね……」

 

「何か、休む理由が何となく、分かったぜ……」

 

 

 

 

ぬ~べ~の所へ行った麗華は、茂に連れられ龍二が寝ている病室へと入った。

 

中へ入ると、龍二は目が覚め既に起き上っていた。

 

 

「兄貴……」

 

 

目覚めた龍二のもとへと駆け寄り、麗華は起き上がっていた彼に抱き着いた。茂はその瞬間を、隠すようにしてぬ~べ~の顔前にカルテで塞いだ。

 

抱き着いてきた麗華を受け止めた龍二は、彼女に釣られてか目から涙を流し強く抱きしめながら言った。

 

 

「ごめんな……心配かけちまって……」

 

「もう止めてよ……勝手な行動するの……

 

それで死んだら、話にならないじゃん……」

 

「だな……」

 

 

麗華を自分から話した龍二は、彼女の目に溜まっている目を指で拭ってやった。その様子を見てホッとした茂は、ぬ~べ~からカルテを放し、二人の元へと寄った。

 

 

「鵺野?!何で」

 

「お前が病院へ運ばれていくのを、郷子と広が見ていてな……」

 

「そうだったのか……?!渚は」

 

「今家で、丙達が手当てをしてる。大丈夫、命に別条はないってさ」

 

「よかったぁ……」

 

「龍二、お前に聞きたいことがある」

 

「?」

 

「あの殺人鬼……俺の子の鬼の手を見て自分も鬼だと言ってきた。

 

アイツは、何者なんだ」

 

「……

 

 

鎌鬼」

 

「え?」

 

「奴の名前は、鎌鬼……

 

元々は人間だったんだ……」

 

「やっぱり、人だったんだ……」

 

「あぁ……

 

もとは、中学生の男だったんだ。けど学校のいじめや家庭内で起きてた虐待があって……ある日、アイツはその自分の運命に耐えきれなくなって」

 

「自殺…したの」

 

「そうだ。

 

だがアイツは、死際にクラスの奴等に言ったんだ。『この世にいる全ての人間を殺すまで、僕の魂は尽きることはない!!無論、君達も全員殺すつもりだから、覚悟しておけ!!』って……

 

 

そいつが死んでから、しばらくして通ってた学校の関係者が全員遺体で発見された。体には鎌で斬られた様傷を負ってな。

 

それが始まりだった。十年前に起きたあの通り魔の」

 

「だけどその事件父さんが、命を掛けてその鎌鬼を神木に封印して、終わったんじゃ」

 

「その神木に、雷が落ちて封印が解けちまってたんだ。

 

アイツが狙ってるのは、麗華の命だ」

 

「……」

 

「龍二、お前はとにかく傷を治せ。その間はこの俺が、麗華を守ってやる」

 

「うわ、頼りねぇ」

 

「何!!」

 

「だったら、焔達に守られてた方がよっぽど良い」

 

「お!それ言えてるかも」

 

「コラぁ!!兄妹揃って!!教師をからかうな!!」

 

 

病室から響いてくる笑い声に連れられ、ロビーにいた郷子達は病室へ入って行った。




数時間後……

ぬ~べ~は郷子と広を連れ、病院を後にした。

二人っきりになった病室では、麗華と龍二は互いを見合い頷いた。



しばらくして看護婦が病室へ行くと、ベットの上は物家の空になっており、代わりに窓が開いていた。




家へと帰ってきた龍二と麗華……

龍二は、丙に傷を完全に治してもらうと、自分の部屋へと行った。部屋へ行くと龍二は服を脱ぎ腹にさらしを巻き、黒い単を着ると上から白い狩衣を着た。

同じ頃、麗華も自分の部屋で胸に晒を巻き、赤い水干を着た。


部屋を出た二人は、本殿へ行き神棚に供えられていた、一枚の紙を手に取り、外で待っている狼姿へとなった焔と渚の所へ行った。


外へ出ると、いつの間にか雨が止んでいた。


「麗華、覚悟はいいな」

「当たり前じゃん。でなきゃ、ここにいない」

「だよな」


話をしながら、二人は渚と焔の背に乗った。乗ったのを確認すると、焔と渚は互いを見合い、先に渚が飛び続いて焔が飛んで行った。


二人は、首からかかっている勾玉、手首に着けている勾玉を見た。


(……親父)
(母さん)


勾玉を放し、意を決意したかのような目で、二人は向かう方向を見た。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。