地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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麗華の魂を奪ったのは、桜守・桜雅の知り合い、人の魂を餌として生きてきた皐月丸という妖怪だった。

彼は麗華を返して欲しければ、桜雅を殺せとのこと……


そして、彼は麗華の体から離れる寸前、桜雅に言い放った。


「もうあの桜も姫も還ってはきません。過去の事は忘れなさい」


その言葉を聞いた龍二は、桜雅自身が人間だった頃の過去に何があったのか話すよう要求した。


桜雅は、重い口を開きながら、自分の過去について語り始めた。


桜守の過去

――――俺は、ある城に仕える兵士でした。

 

 

『桜雅!見て下さい!桜が、今年も満開です!』

 

 

当時、俺には幼少期時代からお世話をしていた城の姫君、桜夜(サクヤ)姫という女性がいました。

 

 

姫はとても明るく大らかで、そしてとても美しくまさに、桜の人とも呼べるほどの女性でした。

 

 

『桜夜!また勝手に外へ出て!

 

こんな所、殿に見つかったらまた叱られますよ?』

 

『別に良い!

 

只でさえ、この狭い城に閉じ込めているんだから……

 

 

庭に出て、大好きな桜を見たって別に……』

 

『……

 

 

 

そうだ、桜夜』

 

『?』

 

『今晩、俺の秘密の場所へ連れてってやる』

 

『本当か?!』

 

『あぁ。

 

だから、今日は大人しく部屋へ戻ってろ』

 

『約束だぞ!!』

 

『分かった分かった!』

 

 

姫は、父上当時私の主であった桜生様は、姫君を大変可愛がられていて、姫を他の男と結婚させたくないがために、姫を城の中へ閉じ込め誰一人と、姫に近付かせようとはしなかった……

 

 

俺は、そんな姫が不憫に思い、よく姫を城の外へ出しては、城下町や森を見せて遊ばせた。姫はいつも楽しそうに笑いながら、遊んでいた。

 

 

 

 

そして、その日の夜……

 

 

私は姫を連れて、山の奥深くへと行きそこに生えている、美しい枝垂れ桜を姫に見せ

た。

 

 

『とても綺麗な、枝垂れ桜だ!!

 

桜雅、こんなところに桜が生えていたのか?!』

 

『この間見つけたんだ。

 

多分、もう何十年も前から生えてる桜だ。絶対気に入ると思って、見せたんだ』

 

『ありがとう!!桜雅!!

 

とても、気に入った!!』

 

『そうか?

 

なら良かった!』

 

 

月が照らしたあの日……

 

 

俺は、ずっとこの幸せが続いてほしいと願った。

 

 

 

 

だが、神はそれを許してはくれなかった。

 

 

 

 

枝垂れ桜を姫に見せてから数日後、戦が始まってしまった。

 

 

俺もその戦に出なければならなくなってしまった。戦場へ行く前夜、姫は俺をあの枝垂れ桜の所へと呼んだ。

 

 

『どうしたんだ?こんなところに呼んで』

 

『……

 

桜雅』

 

『?』

 

『明日、戦場へ行かれるのでしょ?』

 

『!……はい』

 

『お前は行かなくて良い!!

 

ずっと、私と一緒にいてくれ!!』

 

『桜夜……』

 

『頼む……』

 

『……

 

 

桜夜』

 

『?』

 

 

俺は、姫に俺の父の形見であった小太刀を姫に渡し、そしてその枝垂れ桜の下で、約束をした。

 

 

『その小太刀はお前に預ける』

 

『?!

 

こ、これはあなたのお父様の』

『未来の花嫁に預けたって、父は怒ったりはしません』

 

「!!」

 

『あなたも、時期に城を離れ安全な場所へ移される。

 

その時、戦が終わりもし生きていれば、この枝垂れ桜の下で再開して……俺と結婚してくれないか?』

 

『……

 

 

はい』

 

 

姫は、顔を赤くしてそう返事をした。

 

 

月が二人を灯す中、俺達は約束を交わし枝垂れ桜を後にした。

 

 

 

 

約束した日から数日後……

 

 

 

 

俺は、敵が打ち放った矢に胸を貫かれ、亡くなった。

 

 

その時、俺の脳裏に桜の下で俺の帰りを待つ姫の姿が映り、その時に桜に対する強い思いが、俺を妖怪へと変えた。

 

 

だが、妖怪になったせいか俺は姫と約束したあの枝垂れ桜の所へ行くことが出来なかった……と言うより、場所を覚えてはいなかった。

 

 

 

 

それから、何百年という月日が流れ、俺は風の噂で桜の名所、この「山桜神社」の存在を知り、ここへ来ればあの桜もあるのではという思いから、神社へと足を運んだ。

 

 

神社では、先代の巫女が舞を振る舞い、先代の神主が妖怪達に酒を配っていた。その中を、まだ幼いあなたは妖怪達に近づいてはからかい、境内を走り回りながら妖怪達と遊んでいた。

 

 

 

 

そんな姿を見ているうちに、俺は久しぶりに幸せというものを感じた。そして、境内を見回っている時だった。

 

 

境内の隅に、生えていた枝垂れ桜を見つけたのは……

 

 

その桜を目にした瞬間、まだ姫はあの枝垂れ桜の下で一人、俺が来るのを待っているのではないか……

 

 

だが、もう俺は薄々気づいていた……

 

 

姫はもう、この世にはいない……もう生きてはいないと

 

しかし、諦めきれなかった俺は、いつかあの枝垂れ桜を見つけられる日が来ると思い、その日をずっと待っているのだ。今でもずっと……


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