地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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体育館からか聞こえる“ほたるの光”の歌。

その歌を歌いながら、郷子は泣いていた。


送らずの桜

練習を終え、広達五年生は皆、教室へ向かった。

 

 

「あーあ、同じ歌何度も歌わされて、疲れた~」

 

「でもよ、卒業生を送る会の練習で、授業に時間も潰れてよかったじゃん」

 

 

騒ぐ広達……そんな中、郷子は浮かない顔をしていた。

 

 

「しかしよ『ほたるの光』歌ってて思ったんだけどさ」

 

「何が?」

 

「『あけてぞけさ』って何なんだ?」

 

「あけてぞけさか……」

 

「佐渡おけさみたいなもんじゃない?」

 

「謎なのだ」

 

「謎でも何でもないよ……

 

『今朝は杉でできた扉を開けてクラスメートと別れていく』って意味」

 

「へ~」

 

「さっすが麗華!」

 

 

「皆!!」

 

 

皆が騒ぐ中、突然郷子は怒鳴った。

 

 

「本当に何とも思わないの!?

 

六年生になったら……皆、バラバラになっちゃうんだよ……分かってんの!?」

 

「……」

 

「大袈裟だなぁ!別に会えなくなるわけじゃないだろ?」

 

「そーよ!クラス替えなんて、毎年のことじゃないの!」

 

「クラス替えすんだ……この学校」

 

「そうよ!毎年ね」

 

「麗華はしたことねぇのか?」

 

「一クラスしかなかったからね」

 

「そんなことより、六年生の歌う『あおげば尊し』の『あおげば』って、何だ?」

 

「青ゲバ」

 

「妖怪みたいなのだ」

 

 

何も気にしない皆を見詰めながら、郷子は送る会の準備をしているぬ~べ~に話した。

 

 

「クラス替え?

 

そりゃあ、俺だって寂しいよ。でも、仕方ない……六年生になるんだからな。

 

それより……六年生になれば、新しい友達も出来るし……修学旅行とか楽しいこともいっぱいあるぞ!」

 

 

楽しそうに話すぬ~べ~だったが、郷子は納得しないかのようにして、体育館を出て行った。

 

 

放課後……校庭をトボトボと郷子は歩いていた。

 

 

「(どうして……皆平気で、いられるんだろう……

 

この一年……怖いことや悲しいこともあったけど……大好きな友達がいて、ぬ~べ~がいて、最高に楽しかった)

 

今の私達、五年三組がなくなっちゃうなんて嫌。もう一生のうち、二度とこんな楽しいクラスはないよ……」

 

 

「だったら……もう一回戻る?」

 

 

その声が聞こえ、ベンチから立ち上がり後ろを振り返った。そこにいたのは、こけしの様な容姿をした少女だった。

 

 

「あ、あなた誰?」

 

「私、桜……あなたと同じ五年生よ」

 

(こ、こんな子……いたっけ?)

 

「ずっと……五年三組でいられる方法、教えてあげるよ」

 

「え!?」

 

「ほら、校庭の桜で一本だけ花が咲いてない木があるでしょ?

 

あの木の幹に、自分の名前を刻むと……同じ学年を、もう一度やり直せるという、七不思議があるの」

 

「え!?それどういう事!?

 

単に落第するだけじゃないでしょうね!」

 

 

振り返り怒鳴ったが、そこにいたはずの少女は消えていた。半信半疑で郷子は、少女が言った咲かない桜の木へ行った。そこには、たくさんの名前が刻まれていた。

 

 

「やだ……本当に何人か名前が彫ってある。

 

この子達、同じ学年にもう一度戻ったの?タイムスリップでも、起こるのかしら?

 

 

で、でも……もう一度、五年三組をやれるなら……ちょっと、試してみてもいい……かな」

 

 

バックから彫刻刀を出し、木の幹に自身の名前を彫った。すると木の幹が、口のように大きく開き木の根で郷子の体を巻き中へと引きずり込んだ。

 

 

その頃、職員室では開かない机の引き出しを無理に引っ張り、椅子から転げ落ちたぬ~べ~の元へ、広達がやって来た。引き出しから落ちた古いノートを美樹は拾った。表紙に『童守小七不思議』と書かれていた。

 

 

「一……屋上に続く階段は、夜になると魔の十三階段になって悪い子を引き込む。

二……校庭の二羽の烏がいる木の下で、愛を告白すると必ず結ばれる」

 

「おー、懐かしい!」

 

「三……家庭科室の合わせ鏡を零時零分零秒に見ると、未来の自分が写る。

四……図工室のモナリザは人を食う」

 

「おーおー!」

 

「五……二宮金次郎が、夜校庭を走る。

六……人体模型が、夜掃除してる」

 

「あったあった」

 

「ん?これ、知らないわ。

 

校庭で一本だけ花の咲かない桜の木がある。それに名前を彫ると同じ学年をもう一度やり直せる」

 

「くだらん。古い噂だ」

 

「よーし、試そっと」

 

「やめろ!!

 

これはな、童守小に伝わる最後の七不思議だ。

 

もしこの、七不思議を試したら本当に……本当にこの世に帰ってこれない。

 

 

俺にも……助けられん」

 

「……」

 

「その七不思議で、兄貴の同級生の一人が行方不明になった。

 

兄貴が桜の木を見に行くと、そこにそいつの名前が彫られてたみたいだよ」

 

「え……」

 

「……

 

 

 

 

なーんちゃって!嘘々!こんなの、只の噂だよーん」

 

「鵺野に合わせて、冗談言ってみたけど案外騙されやすいんだね」

 

「……やめとく。

 

ぬ~べ~が、そういう態度取る時って、絶対に本当だもん。一年付き合って、よく分かったよ」

 

「なーに、噂だってう・わ・さ。

 

試してみたら?ほれほれ」

 

「ううう……嫌じゃ」

 

 

「先生!!」

 

 

血相をかいて、法子が職員室に駆け込んできた。

 

彼女に呼ばれ、桜の木へ行くとそこには赤黒い液が地面に流れ、その上に彫刻刀とリュックが置かれていた。

 

 

「す、凄ぇ血……

 

もう、死んでんじゃねぇか?!」

 

「よ、よかった~……今までこんな七不思議知らなくて」

 

「ま、まさか本当に……この七不思議の犠牲者が出るとは……

 

 

そうだ!犠牲者は、自分の名前を彫ったはず。何年何組の奴だ」

 

 

木の幹を見ると、そこに『稲葉郷子』の名前が彫られていた。




暗いよ……

ここは……どこ?



「郷子!郷子ったら」


美樹に起こされ、郷子は伏せていた顔を上げた。


「ったくもー、新学期一日目から、居眠りなんて」

「え?」


「お!ついに来たぞ」

「きゃー!」


足音が聞こえ、それと共にお馴染みのお経が聞こえてきた。


「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音……」


扉が開くと共に、ぬ~べ~の姿が現れた……だが、彼の頭に着けていた火の玉が彼の頭に燃え移った。ぬ~べ~は悲鳴を上げて、そこら中を走り回った。


「こ、これ……ぬ~べ~クラスの一日目の風景。

私戻ったのね!あの日に!!」


喜ぶ郷子……彼女の後ろには、あの桜と名乗るこけしの様な容姿をした少女が座っていた。

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