地獄先生と陰陽師少女   作:花札

166 / 174
とある学校の美術室……


首に縄を掛けられ、手を縄で縛られ台の上に立つに一人の女性……怯える彼女の前には、ベレー帽を被った骨姿の人がキャンパスに筆を躍らせていた。


「美しい……そんな怖がらなくてもいい。

お前はこの絵の中で生き続けるのだから……永遠に」


描き終えると、キャンパスは光だし女性を吸い取った。そこから女性は消え、骨人間も姿を消し残されたのは、消えた女性の絵が描かれたキャンパスだけだった。


魂を食らう絵

「凄ぇよなぁ」

 

「本当」

 

 

廊下の壁に飾られた絵を見る童守小の生徒達……先日行われた絵画コンクールに出した絵の中に、金のメダルが飾られた絵が飾られていた。

 

その絵は森の中にある月明かりが照らされる湖……その湖を眺める白い毛に覆われた狼が描かれており、まるで幻想の世界にいるような絵だった。

 

 

「これ本当に、小学生が描いたのか?」

 

「何か、大人が描いたって感じよねぇ」

 

「でもこの絵って、五年生の人達が描いて出したんでしょ?」

 

 

低学年が見ている中、その間を通って広達が絵を見に来た。

 

 

「お!やっぱり!

 

麗華!」

 

 

後ろから郷子と来ていた麗華は、広に呼ばれ駆け寄った。

 

 

「ほら、お前の絵金のメダルが着いてるぞ!」

 

「本当だ!お前、凄ぇな!」

 

「いいなぁ、絵が上手くて……私も上手く描けたらなぁ」

 

 

麗華を褒めたたえる広達……外からその絵を眺めていた焔は、嬉しそうに笑みを浮かべて宙を舞った。

 

 

「麗華って、どうしてあんなに絵が上手いの?」

 

 

教室に着いた広達は、席に着きながら麗華に質問した。

 

 

「どうしてって……

 

 

小さい頃から描いてるから……どうって言われても」

 

「外とかで遊ばなかったのか?」

 

「体弱かったから、母さんに余り外で遊ぶなって言われてたし……それに、アンタ達と違って保育園とか幼稚園に行ってないなから遊び相手もいなかったし……」

 

「そうだったの」

 

「けど、麗華の描いた絵のことだから、また何か事件でも起きんじゃねぇのか?」

 

「縁起でも無いこと言うなよ……」

 

 

チャイムが鳴り、ぬ~べ~が教室へ入り立っていたクラスメイトはそれぞれの席に座り、授業を受け始めた。

 

 

午後……

 

給食の準備をしている最中、雷の音が鳴り広はふと窓の外を見た。見たと同時に大粒の雨が降り出した。

 

 

「げ!雨かよ!」

 

「凄い雨」

 

 

雨を見た麗華は、廊下側に目を向けるとずぶ濡れになった鼬姿の焔が、自分の元へ寄ってきた。

 

 

「あ~らら……びしょ濡れだね」

 

 

そう言いながら、焔を抱き上げバックからタオルを出し彼を拭いた。拭きながら外を見ると、大雨が降る中白い布を被った人影が見えた。

 

 

『見つけた』

 

「!?」

 

 

声が聞こえ、麗華は辺りを見回したが怪しい人物はおらず、外にもあの人影は無くなっていた。

 

 

(……何だ、今の)

 

 

午後の授業が終わっても、雨脚は収まる気配は無く生徒達は、教室で担任が来るのを待っていた。しばらくして、ぬ~べ~が真剣な顔で教室に入り、黒板に書いていた自習という字を消しながら話し出した。

 

 

「先程、近くの川が氾濫してお前達を帰すのは危険だと判断し、今日は学校に泊まって貰うことになった」

 

「よっしゃ!泊まりだぁ!」

 

「保護者の方には、先生達が連絡しとく。

 

就寝時間は十時だ。それまでに各自布団を敷くように」

 

「はーい」

 

 

泊まることになり、生徒達は皆喜んでいた。

 

 

「泊まることになったな」

 

 

麗華は焔とシガンの頭を交互に撫でながら、ボソリと言った。

 

 

雨が降る外……その中に、あの白い布を被った人影が、校舎を見上げニヤリと笑うと、そのまま姿を消した。

 

夕飯を食べ終わり、就寝時間となった。体育館では、生徒達の寝息が聞こえ、麗華は何回か寝返りをすると、起き上がり体育館を出た。

 

 

暗い廊下を歩く麗華だったが、背後から聞こえる足音に気付き後ろを振り返った。そこにいたのは固まって歩く、広と郷子と美樹と克也だった。

 

 

「……何やってんの?」

 

「いや……麗華が起きて」

 

「どこ行くのかなぁって……」

 

「……トイレに行かないよ」

 

「え?そうなの?」

 

「眠れないから、校内散歩……?」

 

 

廊下の壁に飾られていた自分の絵に、麗華はふと目を向け眺めた。

 

 

「本当、麗華の絵って綺麗だよねぇ」

 

「何か、ずっと眺めてたい」

 

「……ねぇ、この狼って焔よね?」

 

「一応」

 

「何をイメージして描いたんだ?」

 

「人間が立ち入ることの出来ない深い森の奥……

 

絶滅した狼の生き残りが、ひっそりとこの湖の近くに住み生き続けてる……そんな感じかな」

 

「へぇ……」

 

「そういえば麗華って、人の絵は描かないの?」

 

「人の絵?

 

ちょいちょい描いてるけど……あんまり描かないなぁ。人描くの得意じゃ無いから」

 

 

“ドーン”

 

 

突然落雷の音が聞こえ、郷子と美樹は驚き思わず広と克也に抱き着いた。

 

 

「す、凄ぇ音」

 

「び、ビックリしたぁ」

 

「ねぇ麗華、早く体育館へ戻……?」

 

 

麗華に話し掛けながら、郷子は後ろを振り返った。だが、そこにいるはずの彼女の姿はどこにも無かった。

 

 

「あれ?麗華」

 

「郷子、どうかした?」

 

「麗華がいないのよ。麗華ぁ」

 

 

郷子の呼び掛けに続いて、広達も彼女の名を呼びながら廊下を歩いて行った。

 

 

雷が鳴る少し前、ぬ~べ~は霊水晶を手に美術室にいた。

 

 

(この辺りから、妖気を感じたんだが……)

 

 

ふと壁に飾られていた絵に目を向けた。

赤いドレスに身を包み悲しそうな表情を浮かべる女性の絵……

 

その時、落雷の音が響き渡った。その雷の光に照らされるぬ~べ~の背後に立つ人影……彼はすぐに後ろを振り返ったが、すぐ目の前に頭蓋骨が浮かび、赤く目を光らせながら口を開いた。

 

 

「君も私の芸術に楽しんで貰おう」

 

 

目が強く光り、ぬ~べ~は腕で目を塞いだ。

 

 

光が弱まり、ぬ~べ~は目を開けた。そこは先程までいた美術室だった。ぬ~べ~は警戒しながらドアを開けた。そのドアの前に、見知らぬ男子生徒が立っていた。

 

 

「……誰?」

 

「えっと……鵺野鳴介。この学校の教師だ」

 

「嘘……」

 

「え?」

 

「鵺野なんて名前の教師、この学校にはいない!!

 

テメェまさか、ダビンチの仲間か?」

 

「ダビンチ?」

 

「仲間となれば、退治する」

「待って!!」

 

 

突然声が聞こえ、少年はポケットから出そうとした何かを止め、その声の方に目を向けた。

 

 

「勇二、この人もさっきの子達と一緒だよ」

 

「え?」

 

「ダビンチに連れて来られたんだよ!」

 

「このゲジ眉がか?」

 

「コラ!」

 

「とにかく来て。説明は兄さんがしてくれるから」

 

「分かった」

 

「先生も」

 

「あ、あぁ……」

 

 

先を歩く少年の後ろ姿が、一瞬麗華の姿と重なって見えた。それを気にしつつも、ぬ~べ~は二人の後をついて行った。

 

着いた先は、結界が張られた五年三組と書かれた看板が下げられた教室だった。中には郷子達がおりその傍に大学生くらいの男性が立っていた。

 

 

「ぬ~べ~!!」

 

「お前等!何で」

 

「分からない……雷が鳴ったかと思ったら、麗華がいなくなって……」

 

「捜してたら、そこにいる男の子に会って……」

 

「そうだったのか……

 

説明してくれないか?何が起きてるのか」

 

「……兄さん」

 

「分かってる。

 

昔、俺が封じた妖怪がどういう訳か復活した。お前達がこの世界に来たのは、その妖怪が関係している」

 

「どういう事だ?」

 

「その妖怪は、自由に次元を超えることが出来る。未来にも行ければ過去にも行けるんだ……

 

時代を自由に行き、そこで見つけた美しい女を捕まえ絵を描く……そして、そのモデルの女の魂を食らう」

 

「私達が連れて来られたのって……じゃあ」

 

「お前等の中の誰かを、この世界に連れて来た。おそらくお前等はついでだろ」

 

「ついでって……」

 

「俺等、オマケかよ」

 

「じゃあ、早く麗華を捜さないと!」

 

「捜したいのは山々だけど……

 

今この学校には、ダビンチが呼んだ妖怪がうじゃうじゃいるんだ」

 

「なぁ、お前がさっきから言ってるダビンチって何だ?」

 

「妖怪の名前だよ。兄さんが封じた妖怪、元は絵描きの人間だったんだ。ダビンチの絵に憧れていつも描いてたんだけど、世の中に認められること無く、そのまま」

 

「その名前を取ったって事か!」

 

「単純だなぁお前」

 

「アハハ……」

 

「そういえば、名前は?聞いてなかったよな?

 

俺、立野広」

 

「私は稲葉郷子」

 

「俺は木村克也」

 

「細川美樹ちゃんでーす!」

 

「俺は桐島勇二。で、この二人は」

 

「神崎輝二……で、この人は俺の兄さんの輝三」

 

「こんな顔だけど、一応大学生何だぜ?」

 

「一言余計だ」

 

 

名前を聞いたぬ~べ~と広達は、互いと顔を見ながら驚き小声で話をした

 

 

「輝三って……確か、麗華の伯父さんじゃ」

 

「俺等、本当にタイムスリップしちまったのかよ!」

 

(どうりで、違和感を感じたわけだ)




「うっ……」


体育館倉庫のマットの上で、麗華は目を覚ました。頭を抑えながら起き上がり辺りを見回した。


「……体育館倉庫?何で……?」


ふと腕を見ると、服の色が違っていた。白いレースを着けた赤い袖になっていた。気になり全身を見ると、いつも着ている服とは異なり、膝下まである真っ赤なワンピースを着せられていた。すると傍で気を失っていた焔とシガンが目を覚ました。


「痛ててて……どこだ?こ」


焔は麗華の姿を見ると固まった。そして……


「ギャー!!麗がぁ!!」

「驚きすぎだ!!」


焔に扉を開けて貰い、麗華は警戒しながら倉庫から出て体育館を見た。


「誰もいない……どうなってんの?(ポーチが取られてなくてよかった)」

「いや、いる」

「……みたいだね」


体育館の中心に立つ人影……麗華は腰に着けていたポーチから、札を取り薙刀を構えた。


「美しい……」

「何が……って、人の服どこにやったの!?」

「君には、その服がお似合いだ。

さぁ、僕のモデルに」
「焔、炎」


いつの間にか狼の姿になっていた焔は、口から炎を出すと麗華を乗せその場から逃げ出した。


(……やはり、普通の女ではなかったか)


体育館を出て、廊下に着いた麗華は、鼬姿になった焔を肩に乗せながら周りを見た。


「何か、いつもと違う……おまけに、妖怪がうじゃうじゃいるし」

「……誰か来るぞ」


焔の言う通り、足音が聞こえ麗華は薙刀を構えた。廊下に現れたのは、黒い布で顔を覆った人の姿をした妖怪だった。


「人の子……輝に似ている」

「え?輝?……!」


強い妖気を感じ、二人はその方向に目を向けた。鎖鎌を持った人の姿をした妖怪だった。


「下がれ。俺がやる」

「下がるわけないでしょ。焔」


麗華の呼び掛けに、焔は人の姿となり構えた。その姿に隣にいた妖怪は、驚きの顔を隠せないでいた。


(迦楼羅に……似ている)


鎖鎌の錘を、麗華目掛けて妖怪は投げ付けていた。麗華は素早く避け彼女の前に、焔は立ち手から炎を出し攻撃した。その炎の中を通るように、黒い布で顔を覆った妖怪は腰に着けていた鞘から刀を抜き取り、妖怪を真っ二つに斬った。斬られた妖怪は、灰となり消えた。


「……お前、何者」

「何者って……」


「暗鬼!」


その声に、暗鬼は後ろを振り返った。角からやって来たのは輝二だった。


「凄い音したけど……あれ?この子……」

「ここで会った」

「君、名前は?」

「えっと……麗華」

「麗華……あ!広君達が言ってた」

「え?立野達がこっちに?」

「とにかく、教室に。ここは危険だ」

「わ、分かった」


先行く輝二の背中を見ながら、麗華は焔とシガンを交互に見ると、後をついて行った。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。