地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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玉藻に呼ばれた担当医は、麗華の近くに座り質問をしていった。質問の返答に対して、麗華は頭を左右に動かすことしかなく、決して声を発することはしなかった。

診察が終わると担当医は別室で、三人に結果を報告した。


「字は書けるし、簡単な計算も出来ますから、日常生活には支障はないと思います。

しかし、記憶に関しては恐らく何も……」

「……そうですか」

「それより、言葉を発さないのが少し気になります」

「警戒してるんだと思います」

「え?警戒?」

「麗華ちゃん、知らない人を前にすると何も話しません」

「そうですか……

では、何か記憶を戻されたり問題がありましたら、すぐに呼んで下さい」

「分かりました……色々ありがとうございました」


担当医が部屋を出て行った後、ぬ~べ~は玉藻に言われ鬼の手を奪われた時の事を話した。


病室のベッドに座り、首から掛けていたペンダントを眺めた。その様子を心配してか、同じ病室で寝ている焔の傍にいたシガンは、キャビネットから降り麗華のベッドへ乗り鳴き声を発した。その声に気付いた麗華は、シガンの方に目を向け、ソッと手を伸ばした。伸ばしてきた手を、シガンは擦り寄り舐めた。

シガンの様子に、麗華は微かだが微笑んだ。その様子に、渚はホッとしたように息を吐いた。


別室で話を聞き終えた玉藻と茂は、深く息を吐き背もたれに凭り掛かった。


「まさか、そんなことが」

「原因はそれだね。

その男が放った電気が、恐らく麗華ちゃんの記憶を消したか奪ったか」

「麗華君の記憶を取り戻すには、その男を捜すのが先ですね」

「そうですね……知り合いの刑事に、頼んどきますよ」

「お願いします」

「ところで鵺野先生、龍二君に連絡してきて貰わなくてもいいんですか?」

「連絡したいのは山々なんだが……龍二は今、修学旅行で沖縄に行ってるんだ。帰ってくるのは六日後だ」

「都合が悪いですね……」

「龍二君がいないとなると、麗華ちゃん絶対に言葉を発しませんよ」

「どんだけ人見知りなんだ…アイツは」

「まぁ、父親の輝二さんが小さい頃、相当人見知りだと聞いてますし……その父親に似たんですよ。麗華ちゃんは」


奪われたもの

翌日……学校が終わった広達は、退院した麗華の家に行き病院へ向かいながら町を歩いた。

 

 

商店街を歩きながら、建物の説明をした。

 

 

「この町でお前、えっと……何年か過ごしてたんだぜ?覚えてねぇか?」

 

「広、アンタ適当過ぎよ」

 

「いや、だって……」

 

 

三人の後ろを歩く麗華は、周りを見回した。

 

 

「あ!そうだ、桜雨堂に行きましょう!

 

麗華、あそこの和菓子好きだったでしょ!」

 

 

郷子に手を引かれ、麗華は桜雨堂へ行った。だが店はシャッターが閉まっており、都合のため休暇と書かれた紙が貼られていた。

 

 

「何で……こんな時に」

 

「嘘だろ……」

 

「……あ!ねぇねぇ!

 

陽一君呼びましょうよ!陽一君!」

 

「陽一?」

 

「だってほら!麗華の旦那だし、奥さんがピンチだって言えばすぐに飛んでくると」

「その陽一の連絡先、誰か知ってるのか?」

 

「あ……」

 

「どっか、麗華が記憶を取り戻せそうなところないかしら?」

 

「……そうだ!

 

あそこ行きましょ!」

 

 

美樹に釣られやって来たのは、牛鬼達が働いている喫茶店だった。

 

 

「ここ……」

 

「噂の蜘蛛の巣の喫茶店……別名『暗黙の喫茶店』」

 

「随分前に、学校帰りに麗華が牛鬼と一緒に歩いてたのを見つけてね!それで尾行したら、この喫茶店に着いたの!」

 

「そうか……牛鬼達を見たら、麗華の記憶も戻るかも!」

 

「そうだな!美樹、たまにはいい事するじゃねぇか!」

 

「えっへ~ん!」

 

「早速入ろうぜ!麗華、来いよ!」

 

 

広に手を引かれ、喫茶店へと入った。中に入ると、牛鬼がカウンターのテーブルを拭いていた。

 

 

「すいません、まだ開店……なんだ、お前等か」

 

「何か、酷ぇ出向かい」

 

「ここはガキが来る場所じゃないからだ」

 

「ガキって、麗華は来てるじゃない!」

 

「アイツは別だ」

 

「何で?」

 

「龍二から任されてるからだ」

 

「とか何とか云って、本当は麗華と一緒に居たいからじゃねぇの?」

 

 

背後から買い物袋を二つ持った安土が、からかうかのように悪戯笑みを浮かべながら言った。そんな彼の頭に牛鬼は拳骨を喰らわせた。

 

 

「さっさと買ってきた物、冷蔵庫に入れろ」

 

「ハイ……」

 

「ったく……?」

 

 

牛鬼は広の後ろに立っていた麗華が目に入り、彼女の様子がおかしいの事に気付いたのか、広達を退かした。牛鬼の姿を見た麗華は、震えながら彼に抱き着いた。

 

 

「わ!抱き着いた!」

 

「やっぱり、牛鬼には懐くのか」

 

「記憶ねぇみてぇだけど、何があった?」

 

「え?!見ただけで分かるの?!」

 

「当たり前だ!!こんな弱々しい麗華見たら尚更!

 

それに、微かだが嫌な霊気感じるし……二度と感じたくなかった霊気が」

 

「霊気?」

 

「何でもない、こっちの話だ」

 

「フ~ン……まあいいや。

 

それより牛鬼、早速で悪いんだけどこれから俺等と一緒に、病院に来てくれ!」

 

「何で?」

 

「頼むよ!」

 

「けど、店が」

 

「行って来いよ。店なら俺に任せて!」

 

「テメェに任せるのが、一番心配だ」

 

「兄貴ぃ!!」

 

「冗談だ冗談。泣かなくてもいいだろ」

 

「冗談には聞こえなかった……」

 

 

エプロンを外し、牛鬼は広達と共に病院へ向かった。

 

童守病院へ行き、玉藻の診察室へ広達は入り、診察室にいた担当医は麗華に質問した。

 

 

「この人は知ってるのか?」

 

 

黙りながら麗華は頷いた。

 

 

「な?牛鬼の記憶は残ってるみたいなんだよ!」

 

「確かに……彼女が怯えてないのを見ますと、そうですね」

 

 

しばらく質問していると、担当医は看護婦に呼ばれ玉藻の診察室を出て行った。

 

 

「残ってる……というより、妖怪は警戒しないんでしょ」

 

「警戒してないなら、何で喋らねぇんだ?」

 

「別に喋ったところで、妖怪と話せるわけでもない」

 

「え?」

 

「妖怪の中でも、人の言葉を理解できない奴はいる」

 

「そうなの?」

 

「極一部ですけどね」

 

「へ~」

 

「それより妖狐、焔達はどうした?」

 

「彼等は木戸先生のもとで、入院中です。未だに意識は戻ってませんが」

 

「え?焔達、茂さんの病院に移ったの?」

 

「えぇ。うちで預かるより、彼等の体を一番知っている先生のもとで治療を受けて貰うことにしたんだ」

 

「なるほど」

 

「とりあえず、記憶を戻すまでの間……牛鬼、麗華君の事君に任せるよ」

 

「別に構わねぇが」

 

「さっすが牛鬼!」

 

「変な事でもしてみろ……即殺すからな」

 

「何もしねぇよ……って、何でお前はここに残ってんだ?」

 

「さすがの私も、長距離の移動は無理がある。

 

龍のことは丙達に任せて、私はこっちで留守番になったんだ」

 

「そうだったんだぁ」

 

「焔達が動けない以上、私が麗を守るしかない」

 

「どうぞお好きに」

 

「……ねぇ、今思ったんだけど……牛鬼って、人じゃないの?」

 

「あれ?そうよね」

 

「テメェ等の先公や麗華達と同じ様に、霊感があんだよ。それに昔妖怪について少しかじったからだ」

 

「なるほど!」

 

(危ねぇ……)

 

 

帰り道、郷子達と別れた牛鬼は麗華と渚を連れて店へと戻った。

 

 

「えぇ!!?ここに置く?!」

 

「そうだ。まぁ記憶が戻るまでの間だ。

 

見張り台として、この女も一緒だが」

 

「別に迷惑じゃねぇけど……(何だ……この抑えきれない感情は)」

 

 

牛鬼の服の裾を掴み立つ麗華を見ていた安土は、胸の奥から吹き上がってくる怒りを抑えていた。

 

 

「キュウ?」

 

「あれ?このフェレットは、麗華についてんのか?」

 

「コイツだけ、怪我も無くなぜか麗華に好かれてるから、そのままにしたらしい」

 

「へぇ……」




真っ暗になった外……道を歩き、家の中へ入ったぬらりひょん。すると彼の背後に何かが降り立ち、そして光る何かで切り裂いた。小豆を洗うあずき洗いの背後に、ぬらりひょんと同様に何かが降り立ち光る何かで切り裂いた。


どこかの家の屋根の上に座り、鎌を見る秀二……


「スゲェ切れ味だ……どんどん妖怪が斬れる」

「さすが鬼の力だな……

ところで、あの優華のガキの記憶、どうする気だ?」

「さぁな……」


ふと思い出す記憶……誰もいなかった昼間。秀二は誰もいない麗華の家へ忍び込み、ベビーベッドに寝かされていた赤ん坊の麗華の頬に触れた。


「あの先公が、本当に鬼の手を返してほしいんであれば、探しに来るだろ?

これだけ妖怪を殺してんだからさ」


同じ頃……牛鬼の店のドアが開き、ショウと瞬火が入ってきた。


「お前等……」

「姉御がここに来てるって、茂の奴から聞いて……姉御は」

「上にある俺の部屋で寝てる。

記憶ねぇっていうけど、何で俺に」

「あれじゃねぇの?

以前記憶消しただろ?そん時の記憶が残ってんじゃねぇの?」

「じゃああれか?姉御は、牛鬼にさらわれた時と同じ状態ってことか?」

「さらったって……」

「嫌な記憶、蘇らせるなよ」

「悪ぃ……」

「ショウ、アンタね……

しばらくの間、ここにいてもいいか?姉さん事、心配だし。記憶が無いっていうなら尚更」

「構わねぇけど」

「俺も俺も」

「別にテメェに聞いてねぇ」

「お前といい牛鬼といい、俺の扱い酷くないか!?」


その時、ドアが開く音が聞こえた。ドアの方に振り向くと、傷だらけになった時雨が入ってきた。


「時雨?!どうしたんだ?!」

「鬼の手の……持ち主居るか?」

「ここにはいねぇけど……」

「鬼の手の力で、ここいら一体の妖怪達がどんどん傷を負ってる」

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