地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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とある山地……

唸り声を上げる妖怪を前に、フードを被った男は札を出し、その妖怪を消し去った。その隣には黒い巨狼がいた。


「この辺りの妖怪も、いなくなったな……」

「そうだな……

んじゃ、今度は童守町にでも、行ってみるか」

「童守町……確か、神崎輝三が住んでるんじゃ」

「いや、アイツは確か地方の方に住んでる。童守町を任されているのは、その弟の輝二だ」

「お前から、優華を奪った奴か」

「……殺すか」

「やめておけ、後々面倒になるぞ」

「冗談だ冗談。


そんじゃ、行くか……童守町へ」


道を外した分家

童守小……終了チャイムが鳴り響き、それと共に校舎からたくさんの生徒が走り出てきた。

 

 

 

「え!龍二さん、修学旅行で家にいないの?!」

 

 

掃除をしていた郷子は、驚きながら大声を上げてそう言った。黒板を掃除していた麗華は、椅子から降りながら話を続けた。

 

 

「五泊六日の沖縄旅行でね」

 

「沖縄かぁ」

 

「いいなぁ」

 

「何かお土産買ってきてくれないかな?」

 

「それじゃあ、帰ってくるまで麗華一人ってこと?」

 

「まぁ、そうだね」

 

「怖くないの?毎回思うけど」

 

「全然。だって、夜になると普通にショウ達が来るし(今じゃ安土や牛鬼、時雨も来るからな……)」

 

「そういえば……」

 

「麗華ん家って、妖怪が集まる場所だったな」

 

 

騒ぐ郷子達……麗華は椅子を元の場所に戻している時、何かの視線を感じ窓の外を見た。

 

 

(何か……今視線感じたような気が)

 

「麗華ぁ!そっち終わったら、こっち手伝って!」

 

「あ、あぁ(気のせいか)」

 

 

学校の木に座り、双眼鏡で麗華を見る男……双眼鏡を移動させ、職員室で寝ながら何かを書いているぬ~べ~を見た。

 

 

「へ~……面白いもん、持ってんじゃん」

 

 

 

放課後……紙束を運ぶ郷子達。

 

 

「ったく、何で掃除終ったのに、ぬ~べ~の手伝いしなきゃいけないのよ」

 

「そう言うな。これ今日中に、五年生全員分作らなきゃいけないんだ。協力頼む!」

 

「世話の掛かる馬鹿教師」

 

「何だと!」

 

「見たいテレビがあったのに」

 

「そうそう」

 

「お前等……文句言い過ぎだぁ!!」

 

「怒鳴る前に、とっとと書き上げろ!!」

 

 

数枚の紙を持ち、ぬ~べ~に怒鳴りながら麗華は美樹と一緒に資料室へ行った。資料室に置かれているコピー機で、持ってきた紙を学年分コピーした。

 

 

「全く、どうしてあの馬鹿教師のために、こんな労働しなきゃいけないんだか」

 

「ホントよねぇ」

 

「あ~あ(渚に怒られるなぁ……連絡だけ入れとくか)。

 

細川、ちょっと電話したい奴がいるから、ここ任せていいか?」

 

「いいけど……何々?陽一君に掛けるの?それとも龍二さん?」

 

「違う……家で留守番してる渚。この調子じゃ、遅くなりそうだからね」

 

 

そう言いながら、麗華は資料室を出て行った。廊下を歩き階段を下った時、麗華は何かにぶつかり顔を手で抑えた。

 

 

「す、すみません!つい……?」

 

 

顔を上げながら謝る麗華は、ぶつかった人物の顔を見て驚き声を出せずにいた。

 

左目に包帯を巻き、黒いフードを被った男と男の背後に黒い巨狼がいた。それを見た麗華は、居た堪れない恐怖を感じその場に立ち尽くしてしまった。

 

男は麗華の頬に触れ、そして髪を触り臭いを嗅いだ。

 

 

「優華と同じ匂いがする」

 

「……あ、アンタ…誰」

 

「分家のもんとでも、言っとくか」

 

「分家に、アンタみたいな奴は見た事も聞いた事も無い。それに一族が集合した時、アンタいなかった」

 

「頭の働きが良いねぇ……」

 

「……」

 

 

その時、ドアが開き中にいたぬ~べ~が、顔をひょっこりと出した。

 

 

「お~い!麗華!

 

すまんが、これも頼むわ~!」

 

「わ、分かったぁ!……?」

 

 

前を向くとそこに、男の姿は無くなっていた。

 

 

(あ、あれ?)

 

「麗華!頼む~!」

 

「あ、あぁ(確かにいたはずなのに……)」

 

 

職員室へ行き、追加の紙をぬ~べ~から受け取った麗華はすぐに資料室へ戻った。コピーを終え紙の束を運び職員室へ美樹と一緒に職員室へ戻った。

 

 

「はい!これで全部よ」

 

「悪いな」

 

「礼は弾んでくれるんでしょうね?」

 

「後でジュース奢ってやるよ」

 

「え~それだけ~」

 

「文句言うな!!こっちはお金が無いんだ!」

 

 

泣きながら言い訳をするぬ~べ~を見ながら、郷子達は紙の束を纏めた。すると麗華のフードにいたシガンと焔が、何かを感じたのか突然麗華の肩へ登り攻撃態勢に入り唸り声を上げた。

 

 

「?シガン、焔どうした?」

 

「嫌な気配だ」

 

 

そう言うと焔は鼬姿から、狼姿へと変わった。変わった途端職員室の天井に頭をぶつけ、焔は人の姿へと変わり、頭を抑えて座り込んだ。

 

 

「家じゃないんだから、普通に狼になるなよ。この学校、天井低いんだから」

 

「うぅ……」

 

「焔ぁ、お前何狼の姿になってんだ?」

 

「また麗華に甘えたくなったの?」

 

「焔もそうだけど、雷光と氷鸞も麗華に甘える時って、必ず動物の姿になるよなぁ」

 

「そうそう」

 

「コイツ等いっぺん、地獄に落としてやる!!」

 

「落ち着け焔!!」

 

 

手に炎を出し、郷子達に攻撃しようとした焔を慌てて麗華は抑えた。その時、突然職員室の電気が切れた。暗くなり焔は、出していた炎を灯りにしながら辺りを照らした。

 

 

「停電か?」

 

「キャー!広、怖~い!」

 

「美樹!!」

 

 

「祇園精舎の鐘の声」

 

「?」

 

 

廊下から突然、男の声が響いてきた。歩く足音と共にゆっくりとこの部屋へ近付いていた。

 

 

「な、何?」

 

「諸行無常の響きあり」

 

「何なの?」

 

「沙羅双樹の花の色」

 

「(まさか……)シガン、おいで」

 

「盛者必衰の理をあらわす」

 

 

職員室のドアが開きそれと同時に、職員室の灯りが付いた。ドアの前にいたのは、あの時麗華がぶつかった男だった。

 

 

(こいつ、さっきの?!)

 

「鬼が一匹……」

 

「何者だ」

 

「そこにいる女に聞いてみろ。

 

一応、そいつとは血縁関係だ」

 

 

男の言葉に疑問を持ったぬ~べ~は、男が見詰めている先にいる麗華を見た。自分と目線が合うと、彼女は激しく首を左右に振った。

 

 

「あらら……かなり嫌われたみたいだね」

 

「当たり前だ。テメェがさっき、変なことしたからだ」

 

「陽炎(カゲロウ)、お前はそこの白狼の相手でもしてろ」

 

「あいよ」

 

 

拳を鳴らすと、陽炎は目に見えぬ速さで焔の傍へ行き腹を殴った。焔は顔を顰めながらも、机を台にして外へと出て行き、陽炎はその後を追いかけて行った。

 

 

「焔!」

 

「狼は狼同士。俺達は俺達同士」

 

 

隠し持っていた何かを、男は麗華目掛けて突き出した。麗華は瞬時に突き出されたものを理解し、後ろへ引き手で振り払った。

 

 

「へ~……よく分かったな。ナイフだって」

 

「勘が働いただけ」

 

「へ~……しかし、面白い奴と一緒にいるな?」

 

「面白い奴?」

 

「そこにいる、鬼の手持った男」

 

「……」

 

「鬼さんよ、少しばかり相手してくれ」

 

 

そう言うと、男は札を出し赤黒く染まった鎌を出した。

 

 

「な、何……あの鎌」

 

「こ、怖い」

 

「どれくらい殺したかなぁ……

 

数え切れない妖怪を殺してたら、この色に染まったんだ。最初は白銀色だったんだぜ?」

 

 

男を睨みながら、麗華はポーチから紙を出した。紙は煙を出し中から人の姿をした雷光が現れ出た。

 

 

「稲葉達を連れて、今すぐここから立ち去りなさい!」

 

「承知」

 

「させねぇ。月影(ツキガケ)!影牙(エイガ)!」

 

 

黒い煙を放ち、中から黄色い着流しを身に纏った男と顔と腕に包帯を巻いた男だった。

 

 

(す、凄い妖気)

(す、凄い妖気)

 

 

「月影、お前はあの侍の相手をしろ。

 

影牙、お前はあのガキ共を」

 

「承知」

「諾」

 

「(ヤバい!)氷鸞!包帯男の相手しろ!」

 

 

悲鳴を上げる郷子達の前に、氷鸞は立ち影牙の攻撃を防いだ。

 

 

「氷鸞、吹雪!雷光、強風!」

 

 

麗華の命令通りに、氷鸞と雷光は技を出し攻撃した。二人は怯み、動くのを辞めその隙を狙いぬ~べ~は郷子達の背中を押しすぐに職員室を出て行き、それに続いて麗華も出て行き、五人を援護するかのようにして、雷光は攻撃を続け氷鸞が放った吹雪で、霧を作り姿を消した。

 

 

「あ~らら……逃げたか」

 

「どうする?」

 

「追うか?」

 

「……気儘に捜すさ」

 

 

鎌を肩に担ぎ、口笛を吹きながら男は暗い廊下を歩いた。




宿直室に辿り着き、息を乱す五人……その様子に、中でテレビを見ていた眠鬼は、少し驚いた様子で彼等を眺めた。


「だ、大丈夫?」

「な、何とか……」

「麗殿、あの者は一体……」

「知らない……あんな奴……」

「けど、麗華のことは知ってたみたいだったけど」

「……あんな変人、知らないよ。

そういえば」

「どうしたの?」

「いや……あの変人、母さんのことを知ってたみたいなんだ」

「お母さんを?」

「あぁ……でも、母さんからあんな変人の事、聞いた覚えないし……兄貴からも聞いたことは」

「じゃあ何で?」

「知らない……私が聞きたい」

「電話しようにも、公衆電話は職員室の離れた場所だし……」

「ここに長居すんのも、時間の問題じゃねぇか?

あいつ、下手したら俺等の事捜してるんだろ?」

「まぁ…そうだね」


呆れ溜め息を吐く麗華……その時、目の前に糸を天井から吊るし降りてきた蜘蛛が目に入った。


「あ!蜘蛛」

「掃除してねぇのかよ、この部屋~」

「しょうがないわよ。ぬ~べ~と眠鬼が暮らしてるんですもの」

「一言余計だ!」

「……って、麗華は?」


捜し回すと座っていた雷光の後ろに、麗華は引き攣った顔をしながら座っていた。


「麗華?」

「!」

「ハハ~ン……その様子だと、さては蜘蛛が苦手のようですなぁ」

「……るさい」

「そんじゃ、ほれ」


差し出された広の手を麗華は見た。その手には糸を吊るしぶら下がっていた蜘蛛だった。次の瞬間、麗華は広に後ろ蹴りを喰らわせた。


「雷光はここに残れ!今から焔探しに行って来るから、氷鸞!!来な!!」

「あ、はい!」


怒り満載の様子で麗華は、氷鸞と共に部屋を出て行った。


「麗殿を怒らせたら、例え味方でも容赦なく攻撃しますよ」

「そのようね(これからは、からかわない様にしよう……)」


廊下を歩く麗華……


「立野の野郎……次やったら、ただじゃおかないから」

「牛鬼と安土は平気なのに、何故普通の蜘蛛は」

「さぁ……ほかの虫とかは平気なんだけど、何でか蜘蛛だけは駄目なんだよねぇ」

「そうですか……?」


何かを感じた氷鸞は、足を止め手に持っていた錫杖を構えた。彼と同時に麗華も何かを感じ取り、氷鸞の後ろへ立ち薙刀を出し構えた。


「……!?」


暗い廊下から現れたのは、巨大な蜘蛛だった。


「ク……蜘蛛」


弱々しく言いながら、麗華は腰を抜かしたかのようにしてその場に座り込んでしまった。


「れ、麗様!」

「無理……腰が抜けて、動けない」


「そこは変わらないんだな?赤ん坊の頃と」


蜘蛛の後ろから、鎌を持ったあの男が姿を現した。


「何者なの?」

「……」

「答えてよ!!アンタ、何で母さんのこと知ってるの?!」

「……分家に華、三神家と神崎家、月神家以外にもう一つあったんだよ」

「え?」

「三神家と神崎家は兄弟同士だって聞いてるだろ?」

「う、うん」

「月神家にも兄弟がいたんだ……神田家っていうな」

「神田家?(聞いた事ない)」

「神田家は、お前が生まれる何十年の前に、月神家と神田家はお前等(神崎家と三神家)と同じ様な立ち位置だった。だが神田家にある悲劇が訪れた」

「悲劇?」

「俺以外の神田家は全員、事故で死んだんだ」

「?!」

「しかもその事故は、本家の奴等が仕組んだもの……

俺等を消せば、分家は三神家と神崎家と月神家だけ……その方が、都合が良いと思ってたんだろうな」

「……まさか」

「俺はその神田家唯一の生き残り……

名は神田秀二(カンダシュウジ)」

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