地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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友と出会ったのは、俺がまだ小学生の時だった。


一年の時から一緒だった……けど休みがちだった。来ても咳き込んですぐに早退。その上、体育はずっと見学。

余り気にならなかったが、四年なったある日……だんだんズルく思い始めて、ついには仲間を率いていじめた。


上履きを隠したり、悪口を言ったり嫌な仕事を全部押し付けたり……色々やった。しばらくしたら、来なくなった。

双子の兄に、何で休んでるのか聞いた。


『風邪引いて、その上喘息の発作が起きたから、しばらく来ないよ。

あいつ、周りに迷惑掛けたくないからって、行こうとしないんだ』


嘘ばっかり……どうせ、俺にいじめられるのが嫌だから、ズル休みしてるに決まってる……そう思った。


そんなある日の夜……

散歩がてらに、夜道を歩いていた時だった。


“ガアアアァァァアアア”


突然、化け物……いや妖怪に襲われた。必死に逃げるが、妖怪はそれを許してくれなかった。道を曲がった時行き止まりになり、俺は壁にへばり付き座り込み死を覚悟した。


そんな時だった……

目の前の妖怪に、白い毛に身体を包んだ大狼が攻撃した。


その狼に続いて、自分の前に槍を持ったあいつがいた。


『お前……』

『君は……』

“ガアアアァァァアアア”

『輝!早くそいつを離れさせろ!』

『分かった!

暗鬼、この子をお願い』

『諾』


黒い布で顔を覆った者は、刀をしまい俺を背負い飛んだ。上から見た光景は、今でも覚えている。

巨大な妖怪に向かって、槍を突き刺すあいつとそれを援護する大狼と羽織を着た者が闘っていた……


家に辿り着き、俺を送ってくれた者は稲妻のように走り戻っていった。


翌日、俺はあいつの兄からあいつについて話を聞いた。
あいつは生まれた時から喘息を持ち、その上体が弱かった。喘息のせいで、激しい運動は控えるように、医師から言われていたらしい……

だからあいつ、いつも絵を描いて俺等のことを恨めしそうに見ていたのか……


喘息について、俺は調べた。調べて分かった……

苦しい思いをしてたんだ……皆と一緒に遊びたいけど遊べない体……
今までやってたいじめが、急に恥ずかしくなった。


翌日……

俺はあいつを迎えに行った。出迎えたあいつは、怯えたような表情を浮かべていた。俺は真っ先にあいつに言った。


『今まで悪かった……ごめん』


頭を深々と下げて、俺は謝った。あいつはキョトンとした顔で俺を見ていた。


『今日、学校行けるか?』

『……ううん』

『そうか……

分かった。じゃあ、帰りにまた来るな!』


その日の夕方も、次の日の朝と夕方、次の日も、また次の日も……


そんなある日……


『え?行く?』

『うん……

もう体の方はいいし、医者からも学校には行っていいって言ってたし』

『そうか……

じゃあ待ってるから、早く支度してこい!』

『うん!』


あいつは荷物を持って、母親に声を掛け出て来た。ふとあいつの後ろを見ると、黒い忍服に身を包んだ男がいた。


『……そいつ誰?』

『え?

見えてるの?』

『見えてるって……』

『こいつ、霊感が無いと見えないようになってんだ……

だから、君が見えてるって事は霊感があるって事』

『……霊…感』


思い当たる節はあった……小さい頃から妖怪を見ていた。でもこれは全員見えているもんだと思っていた……けどある日、親に釣られて親戚の家に遊びに行った時、それは見えてはいけないものだと知った。


『あ、ご、ごめん!

何か、気に障るようなこと言って』

『……お前は俺に霊感があっても、変に思わないのか?』

『え?変?何で?』

『だって……普通の奴には見えないものが見えるのって』

『そういうこと、思ったこと無いよ。寧ろ嬉しいじゃん』

『嬉しい?』

『うん!

だって、助けを求める妖怪を助けることが出来るんだよ。
それに悪霊から、君等を守ること出来るし……』

『……そっか。

行こうか』

『うん』


救われた気がした……いじめられっ子に。


それからはずっとそいつと行動を共にした。このまま年を取るまで、そいつの親友でいようと……

けどそれは、呆気なく壊れた。


一緒に刑事になり、俺達はそれぞれの事件を担当していた。夜の更けたある日、俺の元へその話が流れてきたのは。


『……え……


死ん……だ』


眠気覚まし飲もうとしていた缶コーヒーを、思わず手から落としてしまった。信じられず、俺はそいつがいる部屋へと向かった。

案内されたのは、霊安室……

部屋の真ん中に、あいつは台に寝ていた……腹部を見ると、そこには大きく空いた穴があった……これが致命傷か。

周りを見回したが、あの妖怪はどこにもいなかった。


その後、遺体は家族の元へ行った。あいつの妻の腕には赤ん坊が抱かれていた。


『俺、二人目出来たんだ』


そんなこと言ってたな……輝二。

今度、赤ん坊の誕生を祝って飲もうって……約束したじゃねぇか。
なのに……なのに……


その日、俺はずっと泣き続けた。あいつにはもう会えない……助けに行けなかった悔しさ……それだけが心に溢れていた。




『……俺、二人目出来たんだ』


アイツは俺にそう言った……子供みたいな無邪気な笑顔で。


『名前はどうすんだ?』

『まだ考え中。女の子みたいなんだ。

どんな名前にしようかな~』

『貞子とかいいんじゃないか?』

『からかうのは止めてくれ。女の子の名前なんだから、本人が気に入るような名前がいいんだ』

『知るか。

第一、予定日はいつ何だ?』

『予定日は』


信頼
刑事の追憶


「先輩!」

 

 

机に伏せて寝ていた灰色のスーツに身を包んだ男は、眠い目を擦りながら体を起こした。彼を起こした紺色のスーツに身を包んだ男は、呆れた表情を浮かべながら先輩を見た。

 

 

「先輩、昨日まさか寝てないんじゃ……」

 

「だったらどうした」

 

「ダメじゃないですか!人間、寝なきゃ死んじゃいますよ!」

 

「それはお前だ」

 

「……?

 

もしかして、昨日起きた事件を調べてたんですか?」

 

「そうだ……

 

犯人は黒田定子……十五年前に、俺と組んでた男が逮捕した女だ」

 

「確か黒田って、十五年前に殺人未遂の容疑で逮捕された女で、先月出所してますね」

 

「黒田は当時逮捕した警部を逆恨みし、警部の家族を狙って、形振り構わず次々に家族連れの父親とその家族を刺している。未だに死人は出てないが……」

 

「その警部って、今どうしてるんです?早く伝えればいいんじゃないんですか?」

 

「……十一年前に亡くなった」

 

「え」

 

 

「桐嶋、すぐに童守町に向かえ」

 

 

ドアが開くなり、突然刑事達が入り込んできた。後輩刑事は驚いたかのように慌て、桐嶋は彼を落ち着かせるために頭を軽く殴った。

 

 

「い、痛いです」

 

「どうかしたか」

 

「犯人の黒田が、童守町に入ったって報告があったんだ。

 

すぐに向かえ。童守町は、お前の方が詳しいだろ」

 

「分かりました」

 

「先輩!俺も行きます!」

 

 

車を走らせ、童守町へ向かった。駐車場へ車を停め商店街を歩いた。

 

 

「黒田を見つけ次第、すぐに抑えろ。いいな」

 

「了解っす!」

 

 

敬礼し後輩刑事はどこかへ行ってしまった。桐嶋は辺りの人に目を光らせながら、商店街を歩いて行った。そして小学校へと辿り着いた。

 

 

「懐かしいな……?」

 

 

校舎から鞄を持った生徒達がゾロゾロと出てきた。その時、ある少女が目に留まった。

 

 

(あの子……)

 

 

その少女は、姿を消している焔と一緒に歩く麗華だった。

 

桐島は気付かれぬように、ソッと後をついて行った。すると麗華は、路地裏に入って行きそこのある店へと入った。そこは隠れ家のような喫茶店だった。

 

 

(こんな所に、小学生が)

 

 

桐嶋は店の写真を撮り、別の場所へと行った。

 

 

「つけられた?」

 

 

喫茶店のカウンター席で、ジュースを飲みながらカウンター越しにいる牛鬼に麗華はそう話した。この喫茶店は、牛鬼と安土が働いている『蜘蛛の巣』という喫茶店だった。

 

 

「うん」

 

「何でまた」

 

「知らない……

 

後で兄貴には言うけど……」

 

「ま、ここにいれば一応は安全だけどな」

 

 

ジュースを飲みきった麗華は、牛鬼達に礼を言いそのまま龍二の学校へと向かった。その後ろに、目を光らせ彼女を睨む女性が何かを呟きながらついて行った。

 

 

学校に着いた麗華は、丁度部活休みで校庭を歩いていた龍二を見つけ、駆け寄ろうとした時だった。突然叫び声を上げながら、背後からあの女性が手に持っていた包丁を麗華目掛けて振り下ろしてきた。咄嗟に麗華は避けたが、その反動で足を挫きその場に尻を突いた。叫び声に麗華が尻を突いたのを見た龍二は、すぐに麗華の元へ駆け寄った。焔は女性の動きを封じ、駆けつけた龍二に抱かれる麗華を見ると、素早く離し渚と並び構えた。

 

 

女性は、乾いた血が付いた包丁を舐めながら、二人目掛けて振り下ろした。焔はすぐに彼女の腕を抑え、渚は足払いを掛け女性を倒した。女性は見えない二人に攻撃され、怯えたのか包丁を口に銜えてそのままどこかへ行ってしまった。

 

騒ぎに気付いた生徒が先生に伝えたのか、体育教師と袴を着た少女が駆けつけてきた。

 

 

「神崎、大丈夫か!?」

 

「俺は平気です。先生、すぐに妹を保健室に!」

 

「分かった!」

 

「神崎君、さっきの変な人は」

 

「逃げた」

 

「逃げた?何で?」

 

「さぁな。それより先生、早く保健室に」

 

 

教師と共に龍二は校舎の中へと入って行った。

 

保健室の先生な、椅子に座った麗華の足の手当てをした。先生が足を動かすと、麗華は顔をしかめて足首を手で押さえた。

 

 

「捻挫みたいだけど、心配なら病院に連れて行きなさい。

 

とりあえず、湿布貼っとくから」

 

「分かりました」

 

「警察には連絡してある。

 

時期に捕まるだろ」

 

「はい……」

 

「しかし……お前も大変だな。

 

数日前に京都から帰ってきたばかりなのに。今度は変な人に目を付けられるなんて」

 

「家系問題と変人問題は、関係ないです。余計なこと言わないで下さい」

 

「悪い悪い……」

 

「先生……」

 

 

苦笑いする教師を龍二達は、深くため息を吐いた。

 

 

部活が終わった後、龍二は緋音達と共に帰路を歩いていた。龍二は足を挫いて動けなくなった麗華を背負っていた。

 

 

「その女、今度会ったらこの俺がボコボコに殴ってやる」

 

「やんなくていい。後は警察に任せとけ」

 

「でも、何で麗華ちゃんをいきなり襲ったのかな?」

 

「何か、理由でもあんのかな?麗華に怨みを持ってるとか」

 

「どんな怨みだよ……

 

第一、今起こってる通り魔事件は俺達が京都から帰ってくる前日から発生したんだろ?一日でどうやって怨み買うっていうんだ」

 

「それもそうだな」

 

「それじゃあ、怨んでる誰かと似てるとか?」

 

「立悪ぅ……」

 

 

二人と別れた後、龍二達は家へと向かった。階段に着くとその前に車が一台駐まっていた。龍二の背中にいた麗華は、彼の服を掴み怯えるようにして身を縮込ませた。そんな彼女を龍二は焔に渡し、警戒しながら階段を上り家を見た。家の前には二つの人影があり、一つは煙草でも吸っているのか火玉が見えた。

 

 

「渚、鼬になって俺の肩に。

 

焔、麗華を」

 

 

焔から麗華を受け取り、龍二は彼女を背負った。焔は渚と同様に鼬姿になり、麗華の肩へ登った。

 

 

「誰だ!」

 

「!?」

 

 

龍二は大声でそう叫んだ。すると一つの人影が、慌てふためた様にして、落ち着きを無くしていたが、もう一つの人影は煙草を口から離し二人の方に目を向けた。

 

 

「怪しい者じゃない……警察だ」

 

 

そう言いながら、桐島は警察手帳を見せた。彼に続いて慌てふためていた男も警察手帳を見せた。

 

 

「警察……刑事が、うちに何の用です?」

 

「君等二人に話があってね」

 

「話?

 

 

外じゃあれ何で、中でしません?」

 

「構わないよ」

 

 

家の中へ入り、龍二は桐島達を客間へ案内した。後輩は家の中をじろじろ見回していたが、桐島は部屋を見回し、ふと襖が開いた部屋を見た。

しばらくして、袴に着替えた龍二が部屋へと入ってきた。足を挫いた麗華は、龍二の隣に座った。

 

 

「で、話って」

 

「率直に言うけど、君等二人の命をある人物が狙っている」

 

「え」

 

「黒田定子……

 

十五年前に殺人未遂で逮捕された女性だ」

 

 

そう言いながら、桐島は髪を長く伸ばした女性の写真を龍二と麗華に見せた。

 

 

「……この女」

 

 

怯えた目で、麗華は龍二の服を掴んだ。龍二は怯えている彼女の頭に手を置き、写真を桐島に返した。

 

 

「……何で俺等を」

 

「君等二人のお父さん……神崎輝二が捕まえたんだ。

 

だけど黒田は、逮捕したのを逆恨みし君等二人と君等のお母さんを殺そうとしているんだ」

 

「そんな……」

 

「それで、この事を君等二人のお母さんに伝えたいんだけど、何時頃帰ってくるのかな?」

 

「……母はいません。

 

五年前に亡くなりました」

 

「っ……」

 

「だから、この家にいるのは俺等二人だけなんです……」

 

「……そうか。

 

 

それじゃあ、何かあったらすぐに連絡をくれ。名刺を渡しとくから」

 

「分かりました」

 

 

名刺を渡すと桐島達は靴を履き、家を去ろうとした時だった。

 

 

突然、前から唸り声が聞こえたかと思いきや、二人の横を黒い影が通り過ぎ、龍二目掛けて包丁を振り下ろしてきた。彼は咄嗟に避け、玄関に立て掛けていた木刀を手に持ち構えた。

 

 

「この女、どこから!」

 

「龍二君!早く妹さんを連れて、逃げなさい!!」

 

 

そう叫びながら、桐島は女の背後から抑えようと手を掛けたが、女はすぐに後ろを振り向き彼の腕を包丁で刺した。

 

 

「先輩!!」

 

「焔!!麗華を連れて早く逃げろ!!」

 

 

龍二に言われ、麗華の肩にいた焔は人の姿へと変わり彼女を抱えようとした。その時、背後から黒い影が焔を襲った。焔はすぐに振り向きその攻撃を手で抑えた。

 

 

「な、何だ!?こいつ」

 

「ふ、二人に化けたぁ!!」

 

「あれは……生き霊」

 

 

すると女は物凄いスピードで、麗華の元へと駆けて行き、包丁を振り上げた。

 

 

“ザシュ”

 

 

「!!」

 

 

麗華は目を疑った……目の前にいたのは、青ざめた顔をした龍二だった。彼の背中には女が振り上げた包丁が刺さっていた。

 

 

「……あ……あ」

 

 

龍二は意識を失い、麗華に凭り掛かるようにして倒れた。女は突き刺した包丁を抜き、付いた血を舐めた。白い着物に血が染まっていった……麗華は倒れた龍二の背中に手を乗せ起こそうとした。

 

生暖かい血が彼女の手に付き、麗華はその血を見た……その瞬間、記憶に優華が死んだ時の映像がフラッシュバックで蘇った。

 

 

「池蔵!!早く救急車と応援を呼べ!!」

 

「は、はい!!」

 

 

“ドーン”

 

 

突然、何かが壊れる音が聞こえ、桐島は家の方に振り向いた。玄関の戸が壊されその瓦礫に倒れる女がおり、その前には怒りに満ちた目で木刀を持ち立つ麗華がいた。

 

麗華は女は包丁を手に構え、フラフラしながら立ち上がり彼女目掛けて振り下ろした。麗華はその攻撃を避け、木刀を振り上げ女の頭を思いっ切り叩いた。女は頭から血を流しながらも、包丁を麗華の腕に刺した。だが彼女は、顔色一つ変えずに包丁を抜き取り、地面へ落とし女の脚に向かって木刀を振った。女は脚の痛みからその場に倒れ藻掻き苦しんだ。

 

その女に向かって、麗華はもう一度木刀を振り上げ攻撃しようとした。その瞬間を、桐島は止めた。

 

 

「これ以上はやり過ぎだ」

 

「……」

 

 

桐島の声に反応したのか、麗華はキョトンとした顔で彼を見た。そこへ焔が駆け付け、麗華の肩を掴んだ。

 

 

「麗、俺の事分かるか?」

 

「……焔」

 

「麗……」

 

「……!?

 

兄貴」

 

 

我に戻った麗華は、玄関へと駆け付け倒れている龍二の元へ行った。

 

 

しばらくして、救急車が到着し龍二は病院へ向かった。同じように警察も駆け付け、女はその場で逮捕された。

 

龍二が運ばれた病院へ、麗華も行き彼女はそこで腕の傷と挫いた足の治療をうけ、手術室の前の椅子に座った。傍には泣く渚を宥める焔と腕にサポーターをした桐島が立っていた。

 

 

「……ねぇ」

 

「?」

 

「……何で、兄貴の名前……知ってたの?」

 

「……」

 

「それに……何で、父さんの名前も」

 

「……

 

 

昔、君達のお父さんと組んでたんだ」

 

「組んでた?」

 

「昔馴染みでね。

 

お父さんとよく飲んだ。その時に赤ん坊だった龍二君を見せてくれていたんだ」

 

「……けど、兄貴はアンタのこと見た時、覚えてなかったみたいだけど……」

 

「龍二君に最後に会ったのは、彼がまだ二歳の頃だったからね。覚えて無くて当然だよ」

 

「……だからか」

 

「?」

 

「刑事さん……父さんと同じにおいがしてる」

 

「……お父さんに会ったことがあるのか?」

 

「昨日まで京都に行ってて、そこで口寄せして呼んだの……父さんと母さんを」

 

「そうか……

 

よかったね」

 

「信じるんだ……話」

 

「まぁね。

 

一応、見えてるから」

 

「……焔達のこと見えてるの?」

 

「もちろんだ。

 

君のお父さんの迦楼羅っていう奴も、見えてた」

 

「……」

 

「そういえば、名前まだ聞いてなかったね。

 

俺は桐島勇二。君は」

 

「……麗華…それが名前です」

 

「麗華ちゃんか……」

 

 

その時、手術室のランプが消え中からマスクを外しながら茂が出て来た。

 

 

「茂さん、兄貴は」

 

「大丈夫だ。今は傍にいてあげなさい」

 

 

包帯を巻き移動してきた龍二に、麗華は看護師と共について行った。彼女の後を、焔は渚を連れついて行った。

 

 

「そういえば、刑事さん……どこかで会いました?」

 

「あの子の父親と組んでいた桐嶋雄二です」

 

「……あ。

 

そういえば、確か何度かこの病院に来てた人」

 

「えぇ。

 

あなたは確か、輝二の奥さんと一緒にいた人……」

 

「木戸茂です。

 

今は、この病院の院長をやらせて貰ってます。それから、龍二君と麗華ちゃんの担当医やってます」

 

「そうでしたか……」

 

 

「茂!」

 

 

彼の元へ渚が呼びながら駆け寄ってきた。

 

 

「渚」

 

「龍が目を覚ました!」

 

「本当かい?!」

 

「はい!すぐに病室に来て!」

 

 

渚の言葉に、茂と桐嶋は急いで病室へ向かった。戸を開けると、中では起きた龍二のベッドに伏せて泣く麗華に、彼は笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でていた。

 

 

「龍二君……良かったぁ、目が覚めて」

 

「茂さん……」

 

「麗華ちゃん、もう大丈夫だよ。

 

目が覚めれば、入院して傷を治せば家に帰れるよ」

 

「……」

 

「刑事さん……妹を送ってやってください。

 

麗華、俺しばらく家に帰れない……後で楓に連絡しとくから、今夜は一人で……」

 

 

麗華の泣く姿を見ていた龍二は、話すのを止め彼女の頭を撫でた。

 

 

「刑事さん、やっぱりいいです。

 

茂さん、今日いいですか?」

 

「いいよ。

 

後で、毛布持ってくるね」

 

「ありがとうございます」

 

 

しばらくして、茂と桐嶋は病室を出て行き、桐嶋は病院を後にした。




それから数日後、龍二の元へ緋音達が見舞いへ来た。彼等が帰ってしばらくした後、桐嶋と池蔵が病室へ入ってきた。


「桐嶋さん……」

「元気そうだね、龍二君」

「おかげさまで。

傷口が塞がれば、もう退院していいみたいです」

「それは良かった」

「は~、安心しましたよ。

君等二人に何かあったらどうしようって、僕ずっと悩んでましたもん」

「お前はそれくらいがいいんだ」

「そんな、先輩!」

「今日は君等二人に報せがあってきたんだ」


騒ぐ池蔵を無視して、桐嶋は話をした。


「逮捕した黒田だけど、もう君等を襲うことは無い。

彼女は、刑務所行きになった」

「そうですか……」

「それから、君達二人はこの僕達が担当…ゲフ!」

「君等二人の事を調べさせてもらったよ。

ご両親は既に他界してて、今は輝二の……お父さんのお兄さん、神崎警部が親権を持っているみたいだね」

「一応…そうなってます。

けど、俺等はこの地を離れたくなくて……それで、二人で暮らしているんです」

「まさか……輝三の所に行けって」

「違うよ。

君等二人の事は、俺が任された。神崎警部から直々にね」

「輝三が……」

「だから、困ったことがあったら、俺に相談してくれ。何でも乗るよ」

「僕も僕も!」

「コイツは気にしなくていい」

「そ、そんな~!

先輩、いじわるするの辞めてくださいよ~!」


池蔵の反応に、龍二達は大笑いした。笑われた池蔵は、頬を膨らませながら、桐嶋に言い返した。桐嶋はため息を吐きながら、それを聞き流した。

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