地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「騒がしいと思えば、分家の方々ではありまへんか」
その声が聞こえると、大人達は一斉に顔色を変え後ろを向いた。そこにいたのは狐のような目付きをした父とその息子であろう子供がいた。
「アンタ達か」
「お久しゅうございます、輝三はん。相変わらず、あなた方の家系は賑やかですな」
「お褒めの言葉どうも」
「それはそうと……見慣れない、女子がいはりますな?誰です?」
龍二の傍にいた麗華に、男は目を向けた。その目つきに怯え、麗華は龍二の後ろに隠れた。
「おや?躾がなってまへんな?」
「コイツは人見知りだ。知らない奴の前じゃ、いつもこうだ。
そういうアンタも、礼儀がなってねぇじゃねぇか。自分の名前を言わずに」
「おや、これは失敬。
私は月影院晴政(ツキカゲインハルマサ)。この陰陽師家の本家の者です。そんで、この子は私の息子の晴彦(ハルヒコ)」
「晴彦です。初めまして」
「さぁ、これで自己紹介は終わりました。次はあなたの番です」
「……神崎麗華」
「ほう、麗華はんですか。そうそう、息子とあんさんとは同い年ですな?よかったら、仲良うしてくだはい」
麗華はふと晴彦の方に目を向けた。晴彦は不敵な笑みを浮かべて、自分を見つめており、その眼に怯えた麗華は龍二の後ろへ完全に隠れた。
「これはこれは分家の者達、遠い所からよう来はったな」
「当主、これはお久しぶりです」
「輝三、わざわざ遠い所からご苦労はん。
それで、山桜神社の神主は?」
「こいつです」
自分の後ろに立っていた龍二を、輝三は親指で指した。龍二は麗華を美幸に渡し、前へ行き輝三と並んで立った。
「山桜神社、現神主の神崎龍二です。初めまして」
「うむ……これで、神主達は揃ったわけか。
輝三、子供達は別室で待たせ、大人は本堂へ」
「分かりました」
「では……」
当主はそれだけを言うと、本堂へ向かった。当主も続いて晴政も、晴彦を置き本堂へと向かった。
「お前は別室で果歩の面倒を見てろ」
「……現巫女だけど、行っちゃダメ?」
「ダメだろ……
大人しく待ってろ」
麗華の頭を雑に撫で、麗華達子供は広い和室へと案内され、そこで大人しく待つことになった。
その一方、白狼一族は別の場所へと行った。そこは白狼一族に用意された庭……数々の白狼がおり、渚達はその中へと入り、人から狼の姿へとなった。
「……帰っていい?」
「ダメ……」
「……」
帰りたそうな焔を、波は擦り寄った。そんな彼女に、焔は驚きながらもため息を吐いて、仕方なくそこにいることにした。
「……!?」
突然、何かを感じた焔は、空を見上げた。それは姉の渚、竃も同じだった。
「渚、どうした?」
「……」
「焔、どなんしたん?」
「……」
「竃、どうかしましたか?」
「……」
三人の呼び掛けに、焔達は聞こえていないのか、ずっと空を眺めていた。
別室……広い和室の中、小さい子供達は机で絵を描いたり、追い駆け回ったりと遊んでいた。その中、麗華と陽一は、壁に寄り掛かって座り麗華はシガンを撫で、隣に座っていた陽一は持ってきていた本を読んでいた。
「麗華さん……でしたね」
その声に、シガンは警戒するような目付きになり、声の主を睨んだ。二人が顔を上げると、そこには晴彦が立っていた。
「晴彦……さん」
「“さん”はいらないよ。だって、僕達同い年だろ?」
「……でも、本家でしょ」
「もしよかったら、今度僕とどこか出かけませんか?本家についてお話」
「悪いけど、麗は俺の女や。手ぇ出したら、例え本家でも俺が許さへんで」
立ち上がり、はり合うかのようにして陽一は麗華の前に立ち、晴彦を睨んだ。晴彦は少し怖気着いたかのようにして、身を後ろへ引いた。
「……悪いけど、そんな事で怖がってるんじゃ、本家の恥だね。
私、強い人じゃないと付き合いたくないの」
「……」
何も言い返すことができず、晴彦はブツブツと文句を言いながら、自分達の前から立ち去った。二人は息を吐き、その場に座り込んだ。
「スゲェ、断り方やな?」
「アンタ以外の男と、付き合いたくないの。特に本家の男とはね」
「へへ、同感や」
「お姉ちゃーん!」
今まで絵を描いていた果歩が、大雅を抱っこしてよろよろの足で歩いてきた。だが、大雅の重さに耐えきれなかったのか、脚を絡めそのまま転び掛けた。二人は慌てて果歩達に駆け寄り、果歩を陽一が、大雅を麗華が受け止め難を逃れた。
「あ、危なかったぁ」
「ぎりぎりセーフ……」
「果歩、ダメじゃない。大雅を抱っこしちゃ」
「だって……」
「ま、怪我がなかったんやし、ええやん!」
陽一の言葉に、麗華は少し笑い果歩を抱えてその場に座った。果歩は持っていた紙を広げ、描いた絵を麗華に見せ、陽一も興味津々にその絵を大雅と共に覗き見た。
その時、麗華の肩に乗っていたシガンが、毛を逆立たせ威嚇声を上げ攻撃態勢に入った。その行為に麗華は一瞬理解できなかったが、ある気配を感じてすぐに分かった。果歩を下ろし、麗華は障子を開け外を見た。
外は先程まで晴れていたが、今は灰色の雲で覆い尽くされていた。
(……まさか)
話し合いをして二時間……なかなか、自分達の話に入らなかった龍二は、つまらない話に聞き飽き、眠そうにしていた。そんな彼の隣に座っていた輝三は、頭に軽く拳骨を喰らわせ、龍二はその痛みで何とか目を冴え、殴られた頭を撫でながら、目を開けた。
「悪い」
「寝ようとすんな」
「ヘイ……」
長々と話す当主……話を終え、ようやく自分達の話へと入った。
「それでは、本題である……山桜神社の子供達を今後、どうするかの話し合いじゃ」
「山桜神社といえば、確か……輝三の末の弟がいる神社やな?」
「えぇ。しかし、弟・輝二は十一年前に殉職しており、今はここにいる息子の龍二が勤めています」
「それでは、桜巫女は?」
「桜巫女は、龍二の妹であり俺の妻である美子の末の妹・優華の娘、麗華が勤めています」
「そうですか」
「そういえば、お二人さん確かまだ、未成年でしたな?」
「……はい」
「私等、どうも心配なん。未成年二人を、神社に置いとくのはどうかと……それに、神社が立っている場所は、確か『童守町』。霊界と最も接点が近いとされている地」
「確かに……妖怪は、いつも出ています。
しかし、俺達二人にとっては」
「問題が大きくなってからじゃ、遅いんだよ」
「っ……」
「輝三はん、二人の御両親は亡くなったと言いましたな?」
「そうだが」
「親権は、誰が持っているんです?」
「一応、俺が二人を引き取っている。だが二人の希望もあって、神社に残してる」
「そんな育児放棄の様な育て方をしてるんですか?アンタは?!」
「親として、失格ですで!!」
「ちょっと、私の」
「里奈、座ってろ」
「でも」
「いいから、黙って座ってろ」
「……」
刃向おうとした里奈を、輝三は里奈に怒りの目を向け、静かに言った。里奈は文也に抑えられながら、ゆっくりと席に座った。
「とりあえず、未成年で神社を経営するのは難しい。せめて、神主の龍二はんが成人するまでの間、輝一はんか輝三、どちらかに引き取ってもらいましょう。もちろん麗華はんも」
「そんな……
待ってください!やっと……やっと、妹は心の病が治ったんです!だから」
「心の病?
あぁ、確か遠縁の親戚に預けられて、迫害を受けたっていう?」
「ハイ……」
「子供やし、大丈夫やろ。
心に問題あっても、子供やし大人が思っているほど、ストレスなんか、大きくはありまへんし」
「……何、さも見たような口で言ってんだ」
「?何です」
「龍二君、抑えて」
輝一の声が聞こえてないのか、龍二は立ち上がり言ってきた女性の方に、怒りの目付きを向けた。
「アンタに何が分かるんだ!!」
「龍二君!」
「心をズタズタに傷付けられて帰ってきた、妹を見たことあるのか!?」
「龍二君!抑えて」
「親父とお袋が死んだ時、アンタ達本家は」
“ドーン”
「!?」
どこからか、爆発音が聞こえそれと共に地面が揺れた。
「な、何だ?!」
「何や、この揺れは?!」
「……!」
何かを察した龍二と輝三は、すぐに表へと出た。外は灰色の雲が広がっており、見回すと何処からかやって来たのか、妖怪の群れがあった。
「何だ……この群れは」
「さっきから、嫌な妖気は感じていたが……」
その妖気に誘われてか、白狼一族が自分達の主のもとへと駆け寄り、攻撃態勢に入った。
「里奈達女は、ガキ共の所に行け!!」
「はい!」
「残った男で、コイツ等を倒せ!!」
「了解!」
輝三の命通りに、一族は全員それぞれ動いた。里奈達女が子供達がいる部屋へ行くと、その部屋の前には既に無数の妖怪達が攻め寄っていた。
「ヤバいじゃない……これ」
その時、部屋の中から氷と水の攻撃が放たれ、出入り口に固まっていた妖怪達を倒した。中から、薙刀と刀を構えた麗華と陽一が出てきた。
「麗華ちゃん!陽一君!」
「里奈さん」
「ママ―!」
麗華にしがみ付いていた果歩は、里奈の姿を見ると泣きながら彼女の元へと駆け寄った。中で怯えていた子供達も、自分達の母親の元へと駆け寄り、しがみ付き泣いた。そんな光景を見て、麗華と陽一は息を吐き互いを見合うと、手でハイタッチした。
「二人共、よく頑張ったわね!」
麗華と陽一を褒める様にして、美子と彩華は二人の頭を撫でまくった。
「母ちゃん、頭撫でんといて!」
「ええやない!頑張ったんやから、褒めてんねん」
「それより、さすっが……私達の子供ね!」
「陽一君はともかく、麗華は何せ私の旦那のもとで修業したんだから!」
「ハハハ……」
「俺も今度、輝三の伯父さんに頼もうかなぁ」
「アンタはすぐに、根を上げて帰って来るやろ」
「上げへんわ!!麗が出来て、俺が出来ないはずがない!」
「かなり厳しいよ。私でも、挫折しかけたもん」
「う……マジか」
「マジ」
“パリ―ン”
ガラスが割れる音が、屋敷中に響き渡った。その音の方に全員顔を向けると、本堂の奥にある小さな社から黒い煙が上がっていた。
「あ、あそこの社には……」
「先祖が封印したとされている…妖怪が眠っている場所や」
「妖怪?」
「あの妖怪を復活させたら……この国が」
「?」
黒い霧は天へと昇り、そして黒い稲妻を落としそこに姿を現した。
巨大な胴体に、八つの首を持った妖怪……
「これって……」
「や、八岐大蛇?」
“キシャァァアアア”
大蛇は巨大な鳴き声を発した。その声に反応するかのようにして、無数の妖怪の群れが京都へと攻め込んできていた。
「よ、妖気がこっちに!!」
「何でや!!何で、コイツが復活したんや!!」
「つべこべ言ってねぇで、とっととアイツに攻撃……!?」
輝三の目に、見覚えのある姿が映った。
「久しぶりね~」
「お、お前は」
「……嘘だろ」
その者はゆっくりと降り、そして麗華の方に目を向けた。
「会いたかったわ……れ・い・か」
「……あ、梓」
そこには、不敵な笑みを浮かべた梓が浮いていた。
その事態は、童守町に住む玉藻やぬ~べ~達もすぐに感じた。ぬ~べ~は、授業中だったにもかかわらず、手を止め外を見た。玉藻はカルテを掻いている手を止め窓の外を眺めた。その他の霊能力者や妖怪達も皆、手を止め空を見上げた。
(何だ……このとてつもない妖気は)
(鬼……いや、それ以上)
「鵺野先生、すぐに職員室へ来てください」
教室のドアが開き、隣クラスの担任である律子先生が、彼を呼ぶとすぐに職員室へ向かった。ぬ~べ~は生徒全員に、自習と告げ律子先生後を追う様にして職員室へと向かった。
職員室へ駆けこむと、そこには職員全員がテレビを見ていた。
《番組を代えまして、臨時ニュースを送ります。
今日未明、突如京都を中心に黒い霧が発生しました。避難した住民の話によると、『化け物が突然、襲ってきた』と言う話です。すぐに救助隊が出動するも、黒い霧の中から羽の生えた化け物が攻撃をするため、救助は難航。中にはまだ数万人もの逃げ遅れた者達が残されています》