地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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鉄塔に立つ絶鬼……


「いい眺めだ……さてと、彼との約束を果たすとするかな。


絶鬼作曲、地獄の交響曲第一……『破壊』」


川の上に立つ線路を、絶鬼は波動で破壊した。破壊された線路の上には、電車が走っており、中の乗客は外を見ながら悲鳴を上げた。


「素敵だ!もっともっと、激しく歌っておくれ!」


だが落ちる寸前、駆け付けた雪女が壊された橋を氷で修復し、電車は落ちること無く難を逃れた。それに気付いた絶鬼は、顔を下に向けた。そこにはぬ~べ~がいた。


「絶鬼、そんなことをしなくてもお前と戦ってガッカリさせない程度の力は手に入れたぞ。場所を変えて再戦だ」

「妙に、自信あり気だね。何か秘策でも考え付いたかな。

いいとも。どこでやる?」

「お前が最初に出現した場所、童守公園だ」

「……なるほどね。じゃあついてきなよ」


翼を広げ絶鬼は空を飛び移動した。雪女も空を飛び移動したが、ぬ~べ~は飛ぶことが出来ず自転車で公園へ向かった。


公園に着き、絶鬼は笑みを浮かべながら、回転ジャングルジムに手を翳し鬼門を見せた。


「君がこの場所を選んだわけは、これだろ。


確かに、僕をここに落とせば何とかなるかもしれない。名案だ。

地獄ってのは、八つの層からなって居てね。鬼は深い層ほど強いんだけど、僕はその六番目の焦熱からやって来た。そりゃあ深かったよ。地上まで登るのに三年もかかったんだ。

しかし……もしあの鬼門に僕を落とせば、亜空間法則により、一瞬で僕は最下層の無間地獄に落ち、二度と這い上がって来れないだろう。つまり僕にとってはゲームオーバー…君等の勝ちってわけさ。

でもさあ、どうやって僕を落とすんだい?」

「さあな」


絶鬼に見えないように、ぬ~べ~は茂みに隠れている麗華達に合図を送った。龍二はそれを確認すると、全て手で支持し、その指示に従い麗華達はそれぞれの位置へ着いた。麗華は後ろで小声で喋る美樹達に振り返り、小声で怒鳴った。


「喋るな!

鵺野には内緒で、ここに来てんだろ?」

「へへ……そうですぅ」

「緊張感を持て」

「へ~い」


ため息を吐きながら、麗華は目線だけを後ろに向けた。木の陰から、玉藻は見守る様にして彼等を見ていた。


構えていた牛鬼と安土は、龍二の合図で動き二人は絶鬼の身体に糸を巻き付け拘束した。そして茂みから麗華と龍二が姿を現し、手に持っていた札を投げた。


「麗華!」

「いつでも!

牛鬼!安土!離れて!」


麗華の命に、二人は手から糸を離しその場から離れた。龍二と麗華は、手を合わせ霊気を溜めた。


「結界発動!」
「結界発動!」


その言葉を放つと、絶鬼を中心に地面に五芒星の陣が現れた。


「この結界……まさか」

「そのまさか」

「お前は大昔味わったはずだ。

先祖の結界を」

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!」
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!」


五芒星の陣が白く光り、地面から白い紐の様な者が、絶鬼を宙へ浮かせ鬼門に向けた。


「鵺野!!」

「今だ!」


鬼の手を出し、ぬ~べ~は動けなくなった絶鬼を押し、鬼門の中へと落とした。開いていた鬼門は、徐々に小さくなって行き、ぬ~べ~達は喜びの顔を浮かべた。


「やった……」

「勝った!」

「いや、まだだ!逃げろ!」

「玉藻?……?!」

「奴が上がって来る……力を全開にしてるんだ!]


「よくも……よくも」


閉じかけていた鬼門が、開き中から絶鬼の手が伸び、鬼門を完全に開き中から鬼化した絶鬼が怒りの形相をして姿を現した。


「よくもやったな虫けら共ぉ!!

君達全員、皆殺しだぁぁ!!覚悟しろよぉぉ!!」


滅気怒の火

「そ、そんな失敗だなんて……」

 

「いかん……奴の力は臨界に達しつつある。

 

こうなっては手が付けられない!」

 

「そ、そんな!!」

 

 

出てきた絶鬼は、初めに麗華達を目に向けると、勢いよく手を振り攻撃した。攻撃が当たる寸前、渚と焔は素早く二人を抱えその場から離れ、その攻撃を安土と牛鬼が喰らい身代わりになった。二人は口から血を出し、そのまま飛ばされ木に体をぶつけ気を失った。絶鬼はすぐに上を見上げ、手を槍の形にし、麗華達の腹を貫き、焔達の腹部にも、もう片方の槍で貫いた。四人は口から血を吐き出しながら、そのまま真っ逆さまに地面に落ちた。

 

 

「麗華!龍二!」

 

「まずは二人と二匹!」

 

「に、逃げましょう先生!」

 

「いや……逃げ切れるものではない。麗華達を連れて、すぐに逃げろ!」

 

「そんな……先生も一緒に!」

 

「早くしろ!生徒達を連れて逃げろ!」

 

 

絶鬼が自分の方に向いた瞬間、雪女を突き飛ばした。その瞬間、絶鬼は容赦なくぬ~べ~を殴り飛ばした。飛ばされた彼の背後に絶鬼は回り、背中を肘打ちし口から大量の血を吐いたぬ~べ~の頭を鷲掴み、そのまま地面に叩き付けた。地面に倒れた彼に向かって、絶鬼は容赦なく妖力波を放った。

 

それを見た雪女は、怒りに任せ霊気を溜め絶鬼に攻撃した。だが絶鬼は彼女を掴み口から妖力波を放った。

 

 

「雪女(ユキメ)さん!!」

 

「いやああ!!」

 

 

絶鬼は血塗れに倒れる、ぬ~べ~の元へゆっくりと近寄った。

 

 

「ち……まだ生きている。人間のくせに、しぶとい奴だな。また霊気のバリアでダメージを防いだな。全く、君はゴキブリの様な奴だね。

 

だが、もう終わりだ。特大の妖力波で粉々にしてやるよ……無茶苦茶腹が立った」

 

「ぬ~べ~!!」

 

 

攻撃しようと手に妖力波を溜めていた時、彼の手に炎と雷の渦が当たり絶鬼の攻撃を防いだ。絶鬼はすぐに放たれた方に目を向けると、そこには雷光と氷鸞と、そして腹を抑える焔と渚、麗華と龍二が立っていた。

 

 

「まだ生きていたか……」

 

「し…死ぬわけ…ないでしょ」

 

「テメェを……地獄に還すまでは、死なねぇよ」

 

「雷光、風!」

「焔、火!」

 

 

二人の命に、焔は火を放ち雷光は刀から風を放ち、炎の渦を作り絶鬼を攻撃した。二人の攻撃に続いて、渚は水を氷鸞はその水を凍らせ、氷の刃で攻撃した。麗華と龍二は腹の血を指で拭き取り、その血を懐から出した紙に着け、剣と薙刀を出し傷の痛みを我慢して、駆け出し絶鬼に向かって同時に振り下ろした。絶鬼は難なくその攻撃を手で振り払い、二人に向かって攻撃した。

 

攻撃してきた手を、二人は同時に腕で受け止め、同時に足を上げ踵落としを喰らわせようとしたが、絶鬼はその足を握り二人を地面に叩き付けた。二人は口から血を吐き、意識を失い掛けた。そんな二人を助けようと、焔達は攻撃を放ち、絶鬼を二人から話そうとしたが、彼は二人から手を離し襲い掛かってきた焔達を、槍の形にした手で串刺しにし、そのまま振り投げ飛ばした。飛ばされた焔達は玩具や木に当たり血塗れの姿で倒れた。

その姿を見た龍二と麗華は、体の痛みをお構いなしに立ちあがり、絶鬼の顔に回し蹴りを喰らわせた。回し蹴りを喰らった絶鬼は、口から妖力波を放ち攻撃した。二人は妖力波をもろに喰らい、血塗れの姿のまま地面に倒れ、意識を失った。

 

 

意識を失った麗華達を見ると、絶鬼は再び手に妖力波を溜めぬ~べ~の方に向いた。

 

 

 

「麗華!!ぬ~べ~!!」

 

「玉藻先生!ぬ~べ~と麗華達を助けて!」

 

「奴と戦えるのは先生しかいないんだ!」

 

「力にはなれんな。私が出て戦ったところで、状況は何も変わらない……自殺行為だ。万に一つも勝ち目はない」

 

「そんな!ぬ~べ~達が死にかかっているのよ!」

 

「皆殺しにするの?!そんなの…そんなの」

 

「……玉藻、アンタの言う通りだよ」

 

「広!?」

 

「だってそうだろ……マンに一つの勝ち目も無くて、殺されるだけなんだから。

 

でもさ玉藻、万に一つじゃなくて、百に一つぐらいの勝ち目があれば……闘ってくれるか?」

 

「?」

 

「確か俺の頭蓋骨を使えば、人化の術が完成してパワーアップできる……って言ってたよな?」

 

「広君、それは」

 

「俺が死んだらすぐ、頭蓋骨ひっぺ替えしてパワーアップしてくれよ」」

 

「え」

 

「頼んだぜ!」

 

「広!」

 

 

茂みから出て行き、広は絶鬼に飛び掛かった。そんな彼を見た郷子達もつられ、次々に茂みからと飛び出し絶鬼に飛び掛かった。

 

 

「広に続け!!」

 

「ぬ~べ~達を助けるのよ!」

 

「よせ!無駄死にするだけだ!」

 

「そうじゃないのだ!ぬ~べ~先生も麗華ちゃんもいっつも、僕等を命がけで助けてくれたのだ!

 

皆……ぬ~べ~先生が好きなのだ!麗華ちゃんは、僕達にとって仲間なのだ!だから……だから、自分の命を捨てても助けたいのだ!

 

 

それが、人間なのだ」

 

 

まことはそう言うと、広達の元へと走って行った。駄目もとでも広たちは石を投げたり、枝で叩いたりと攻撃の邪魔をした。絶鬼はそんな彼らを無視の様にして攻撃支払ったが、広達は手を止めず攻撃し続けた。そのしつこさにキレた絶鬼は手から、妖力波を溜め彼等に向かって放った。攻撃が当たる寸前、玉藻は霊気でバリアを作り攻撃を防ぎ彼等を守った。

 

 

「玉藻……」

 

「君は……妖狐だね。狐は賢いから、一度戦えば僕の力が分かって、二度と戦わないと思っていたが……」

 

「牛鬼!安土!気が付いたなら、子供達を安全な場所へ避難させろ!」

 

 

起き上がり頭を振りながら立ち上がった牛鬼と安土は、すぐに郷子達の元へと駆け寄り玉藻から離した。

 

 

「お前等二人も妖怪なら、霊気バリアぐらい張れるだろう!?」

 

「当たり前だ!俺等二人を舐めんな!」

 

「行くぞ」

 

 

広達の背中を押し、二人は場所を移動した。広達が離れたのを確認すると、玉藻は手に持っていた首さすまたを分解し、空へと上げお経を唱え結界を作った。

 

 

「……ほう、結界か。何の真似だ」

 

「お前が逃げられないようにするためさ……これから放つ技は一度しか使えないのでね」

 

「何だと?

 

君……妖狐は人間界に災いをもたらす存在のはず。なぜ人間の味方を?気でもふれたかい」

 

「フ……そうかもな。

 

私は鵺野鳴介という男が持つ、他人を守ろうとする強い力…『愛』について研究してきた。だが……私には、未だその力は理解できない。その力が理解できれば……お前と言い勝負ができたかもしれないが、今となってはもう、敵わぬことだ。

 

 

しかし……私は今、ただこの子達を助けたい。ただそう思っている…理由は分からない。しかし命懸けで自分達の師を……そして仲間を守ろうとするこの子達を傷付けはさせん!!」

 

 

玉藻は意識を集中させ、霊気を高めて行った。それは倒れている雪女も瀕死で倒れている麗華達も感じ取ることができた。

 

 

「フ……そうか。

 

どうやら、人間界で長く暮らし過ぎて、すっかりに人間に毒されてしまったようだね。君……もう半分、人間の匂いがするよ……死ね!!」

 

 

手に溜めた妖力波で、絶鬼は玉藻を攻撃しようとしたが、その手は一瞬で凍り漬けになった。ハッとした絶鬼は下に目を向けると、自身の足にしがみ付く雪女がいた。

 

 

「また君か!この死にぞこないめ!」

 

「早く!こいつは私が押さえてるから……今のあなたの力なら、勝てる!!」

 

「雪女め、余計な事を……だが、おかげでやりやすくなった。

 

 

古来より、妖狐が禁じ手としてきた自らの命と引き換えに放つ大技……最大パワーでお見舞いする(アディオス、鵺野先生)

 

滅気怒!!」

 

 

玉藻は溜まっていた霊気を一気に放ち、公園を中心に大爆発を起こした。安土はすぐに郷子達をバリアで守り、牛鬼は瀕死の状態で倒れている麗華と龍二の傍へ駆け寄り、バリアを張り二人を守った。




しばらくして、爆発は収まり辺りに静けさが戻った。郷子達はすぐに顔を上げ辺りを見た。


「や、やったのか……」

「あ!」


その時、気を失っていたぬ~べ~が目を覚まし、瓦礫を退かしながら起き上った。


「痛……俺は…生きてるのか?


ん?……!!」


ぬ~べ~の目に映った光景……血塗れの姿で、絶鬼に頭を鷲掴みにされ瀕死の状態になっている玉藻と、彼の足元に体が溶け死に掛けている雪女が倒れていた。

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