地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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『牛鬼!

見てみて!花摘んできたよ!』

『牛鬼!

見てみて!全員殺したよ』


その言葉通り、牛鬼の目の前に無数の人の死体が転がっていた。その中には、変わり果てた麗華と龍二、そして安土の姿もあった。死体に降り立ち、体中に血を浴び自分を見詰める梓……


『これで……ずっと一緒よ。牛鬼』


蜘蛛女の襲撃

「!!」

 

 

飛び起きる牛鬼……息を切らしながら、自分が寝かされている部屋を見回した。何も無い部屋……置かれていたのは自分が今まで寝ていたベッドと、棚と椅子だけで他は何も無かった。

 

 

「……ここは。

 

?」

 

 

掛け布団に目を向けると、そこに顔を埋めて静かに眠る安土がいた。

 

 

(……安土)

 

 

「一晩中、アンタを看病してたんだ。感謝しな」

 

 

その声の方に目を向けると、ドアを開いて中へ麗華が入ってきた。

 

 

「麗華……」

 

 

ベッドから降りた牛鬼は、麗華の元へと行きそして彼女を抱き締めた。

 

 

「……牛鬼」

 

「間違ってたことぐらい、俺にも分かってた……」

 

「……」

 

「ただ傍にいて欲しかった……

 

離れたくなかった……もう、失いたくなかったんだ」

 

「……」

 

「なのに……

 

 

なのに、俺は……

 

 

お前等の母親を殺して……お前を殺そうと」

 

 

抱き締めながら、牛鬼は涙声で言った。そんな彼を麗華は、牛鬼の頭に手を回しソッと撫でた。

 

 

「……責めてない。

 

 

微かだけど……牛鬼、傍にいてくれたじゃん。ずっと」

 

 

牛鬼達と過ごした日々……自分の傍にはいつも牛鬼がいてくれた。決して傍から離れることなく、ずっと……

 

 

「それだけで充分……」

 

 

その言葉に、牛鬼は目から大量の涙を流し抱き締めていた麗華をより一層抱き締めた。麗華は彼が泣き止むのをただ静かに待った。

 

 

 

不気味なオーラを放つ繭……

 

その繭に、皹が入った。そして中から手が伸び何かが出て来た。

 

 

(牛鬼……すぐに迎えに行くから、待ってて)

 

 

 

輝三が眠る病室に、麗華は牛鬼と安土と共に入ってきた。部屋には龍二達がおり、茂がカルテを見ていた。

 

 

「刺し傷が数ヵ所あるけど、命に別状はない。

 

時期に目は覚めるよ。竃も同様で」

 

「そうですか……」

 

「悪い……

 

梓のせいで」

 

 

謝る牛鬼……そんな彼に、茂は頭目掛けて力強く殴った。

 

 

「し、茂さん……」

 

「ふぅ……

 

やっと気が晴れた」

 

「……」

 

「神崎院長を殺した罰だ」

 

(牛鬼にはやるけど……安土にはやんないんだ)

 

(俺、助かった?)

 

「輝三が目覚めるまでは、大人しくしてろ。

 

安土と牛鬼は俺等の家に来い。鎌鬼と氷鸞、渚は俺と一旦家に帰る。雷光はここで輝三達の部屋に。麗華は自分の病室で焔と一緒に大人しくしてろ」

 

「え~……

 

もう動けるから、寝たくないんだけど」

 

「駄目だ!麗華ちゃん、仮にも僕の入院患者だ。

 

治るまで大人しくしててもらうから」

 

「う……」

 

「龍様、私も麗様の傍に」

 

「お前は二人の見張り役だ。

 

命令無しに勝手に二人を凍らせた罰だ」

 

「っ……」

 

「いい気味だな!阿呆鳥」

 

「黙りなさい、馬鹿犬」

 

「誰が馬鹿犬だ!!」

 

「犬と言ったら、アナタしかいないじゃないですか」

 

「だったら姉者も、馬鹿って事か?!」

 

「!!

 

氷鸞!!アンタ!!」

 

「誤解です。渚は馬鹿ではありません。

 

焔が馬鹿なのです」

 

「このぉ……クソ阿呆鳥!!」

 

 

二人が喧嘩仕掛けた時、麗華は深く息を吐きそして二人の頭に向かって、思いっ切り殴った。二人はその場に倒れ伸びてしまった。

 

 

「相変わらず、容赦ねぇな……」

 

「氷鸞、兄貴の言う事聞け。いいね?」

 

「し、承知しました」

 

「ハイハイ。

 

そうと決まれば、とっとと戻った戻った。

 

 

二人のことは僕に任せて、龍二君達はやることやる」

 

「輝三と麗華のこと、お願いします」

 

「はいよ!」

 

 

窓を開け、先に出た渚に龍二は飛び乗り先を行った。彼に続いて安土と氷鸞が出て行き、牛鬼は行く前に一瞬だけ、麗華の方に振り向きそして彼等の後を追っていった。

 

 

龍二達を見送った麗華は、不安げな表情で空を眺めた。そんな彼女に、焔は狼姿へとなり擦り寄った。擦り寄ってきた焔を、麗華はしゃがみ撫でた。

 

 

「(そうだ……)

 

麗華、これを返すよ」

 

「?」

 

 

鎌鬼はポケットから何かを取り出し、それを麗華に差し出した。彼から受け取ったのは、あの日自分が捨てた優華の形見であるペンダントだった。

 

 

「……」

 

「あの日、君が捨てていった物だよ」

 

「……」

 

 

ペンダントを眺めていると、ふと優華の事を思い出した。

幼い頃、自分の首によく着けてくれた……

 

 

『お嫁に行く時、麗華それ貰ってね』

 

 

だが、そのペンダントは嫁に行く前に、自分の手元へと渡った。自分が母親を殺したせいで……その記憶を早く忘れたかった……

 

亡くなった翌日、その記憶は綺麗に無くなった。楽しかった日々の記憶は思い出せるが、亡くなった日の事だけは思い出すことができなかった。

 

 

自然に目から涙が溢れ落ちた。そんな彼女を茂はソッと抱き締めた。

 

 

「戻ってきてくれてよかったよ……

 

皆、心配してたんだよ」

 

「……」

 

 

流れてきた涙を隠すようにして、麗華は茂の肩に顔を埋め声を抑えて泣き出した。泣き出した彼女を、茂は何も言わず泣き止むまでずっと頭を優しく撫で続けた。

 

 

 

どこかの廃墟に、数匹の巨大蜘蛛が降りてきた。そして蜘蛛達は、一斉に糸を吐き崩れた建物を巻き付けた。

 

吐き出す蜘蛛達の元へ、空から人が降り立った。赤み掛かった茶色い髪を腰下まで伸ばした少女……それは人の姿をした梓だった。閉じていた目をゆっくりと開き、糸だらけになった建物を見上げた。

 

 

「ここを新たな住処にして、全てを殺し……

 

そして、永遠に牛鬼と一緒に……

 

 

けどその前に、あの女をここへ連れて来ないと……」

 

 

 

泣き疲れた麗華は、病室に置かれているベッドの上で眠っていた。彼女に寄り添うようにして、焔はずっと傍にいた。その時、病室の扉が開き外から竈が入ってきた。

 

 

「竃……」

 

「心配掛けたな。もう大丈夫だ」

 

「……輝三は?」

 

「まだ寝てる。

 

麗華はまだ……」

 

「いや……

 

 

さっき目覚めたんだ。けど、ちょっと色々あって……

 

今は疲れて寝てる」

 

「そうか……」

 

 

安心した表情を浮かべる焔に、竃はソッと彼の頭に手を乗せた。

 

 

「よく頑張ったな……焔」

 

「……」

 

 

縛っていた紐が緩んだかのように、焔の目から涙がポロポロと流れ落ちた。

 

 

 

「妖怪でも、涙を流すのねぇ……」

 

「?!」

 

 

窓の方に顔を向けると、そこには梓が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

 

「お前……生きてたのか?」

 

「そう簡単に死ぬわけないでしょ?

 

私は牛鬼と一緒にいたいのよ……」

 

「……」

 

「でもね……

 

牛鬼を呼び出すには、そこにいるの女が必要なの」

 

 

その声に反応するかのように、眠っていた麗華は目を覚まし、起き上がり梓の方に顔を向けた。

 

 

「……?」

 

「初めまして。私は梓」

 

「梓?」

 

「焔、麗華を早く」

 

「分かった。

 

麗、来い……!!」

 

 

焔の手を借り、ベッドから降りた時だった。突然焔は険しい顔をして、彼女に凭り掛かる様にして倒れた。

 

 

「焔!!」

 

「逃がさないわよ?」

 

 

倒れた焔の背に、毒槍が刺さっていた。竃は手から炎の塊を作り、そして梓目掛けて投げた。梓はその攻撃を難なく避けた。病室の窓から火の玉が出て来たのを、見舞いに来たぬ~べ~は見た。何かを察したぬ~べ~は、急いで病院へ入った。

 

 

竃の肩に毒槍が刺さり、投げられた勢いで壁に激突し槍は壁に刺さり身動きを取れなくした。

 

 

「竃!!」

 

 

竃の元へ行こうと立ち上がり駆け寄ろうとした時、麗華の足下に数本の毒矢が刺さった。

 

 

「これで邪魔者は動けなくなった。

 

さて、一緒に来て貰うわよ?麗華」

 

「……

 

 

(起きたばかりだから、力が入らない……

 

それに、技を使いたくても……体力が戻ってないから、使えない……雷光も氷鸞もいない……

 

どうしよう……)」

 

 

近付いてきた梓の体に、白衣観音経が絡んだ。ハッとし麗華はゆっくりと後ろを振り向いた。

 

 

「……鵺野」

 

「麗華、無事か?!」

 

「邪魔者がぁ!!」

 

 

白衣観音経を破り、梓は麗華目掛けて突進してきた。突進してきた彼女を、ぬ~べ~は鬼の手を出し攻撃した。

 

 

「鵺野!!」

 

「俺の生徒に、一体何の用だ!!」

 

「退きなさい!!

 

そこにいる女が必要なのよ!!」

 

 

互いに距離を取るために、一歩後ろへと下がった。ぬ~べ~は立ち尽くしていた麗華を自分に引き寄せ後ろへ隠した。

 

 

「その女を渡しなさい!!」

 

「お前のような強力な霊気を持った奴に、麗華を渡せるか!!」

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

 

梓は口から大量の毒煙を吐き出した。麗華はすぐ鼻と口を手で覆い、ぬ~べ~に息を止めろと言い放った。ぬ~べ~は彼女の言う通りに、息を止めそして鼻と口を手で覆った。

目を瞑り、部屋から出ようと煙の中を麗華は彷徨い歩き回った。すると何かに当たり、薄らと目を開けた。そこにいたのは、不敵な笑みを浮かべた梓だった。

 

 

「!!」

 

「大人しく寝てて貰うわよ?」

 

 

麗華の額に軽く指で触れると、彼女は意識を無くし力無く倒れた。倒れた麗華を梓は受け止め、手から糸を出し彼女の手足を巻き、抱えて窓から飛び降り部屋を出て行った。

 

 

騒ぎに気付いたのか、外から茂が駆け付けドアを開けた。そこには倒れる焔と竃、そして手を離し空気を吸うぬ~べがいた。

 

 

「……一体……何が。

 

 

?!麗華ちゃん!!」

 

 

麗華の姿が見えないのに気付いた茂は、彼女の名を呼び叫びながら中へ入り部屋を見回した。だが、そこには彼女の姿は無かった。

 

 

「やられたか……」

 

「?」

 

「強力な霊気を持った妖怪が、麗華を襲って」

 

「強力な霊気?

 

先生、詳しい話は龍二君が来たら話してください。

 

僕は二人の治療に当たります」

 

「……分かりました」


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