地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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目覚める牛鬼……頭痛がするのか、頭を押さえながら立ち上がり、蹌踉けながら洞窟の外へ出た。


「……?」


外に出ると、そこに丁度着いたのか空から二つの影が降り立ってきた。牛鬼は頭を押さえながら、顔を上げ影を見た。


「……お前等」

「やっと見つけたぞ……牛鬼」


降り立ったのは、氷鸞と雷光だった。


目覚めた桜巫女

不敵な笑みを浮かべた梓は、倒れている輝三と竃を見下ろしながら口を開いた。

 

 

「中々の手応えだった……

 

この槍を、心の臓に突き刺せば終わり」

 

「させるか!!

 

渚、鎌鬼!二人を頼む!」

 

「了解」

「承知」

 

 

龍二は腰に着けていたポーチから一枚の紙を取り出し、指を噛み血を出した。血が出た指で龍二は持っている紙に触れた。

 

紙は彼の血に反応し、煙を出しその中から剣が出てきて、龍二はそれを手で掴み梓に攻撃した。

彼の攻撃を梓は、手から糸を出し盾を作り防いだ。

 

 

「普通じゃないのね。アナタも」

 

「うるせぇ……殺人鬼が」

 

「酷い言い方ね。

 

私は、牛鬼とずっと一緒にいたいのよ。だから……

 

 

この世にいる、全ての生き物が邪魔なの」

 

「一緒にいたきゃ、いればいいだろ!!

 

俺等はいたくても、もういないんだ……もう」

 

 

束を強く握る龍二の脳裏に、輝二と優華の姿、そして死んだ真白と輝二の式神であった暗鬼の姿が映った。

 

 

「私だけを見て欲しいの……

 

牛鬼には、私だけを見て欲しいの……

 

 

傍にいても、あの人はいつも私を見てくれない……だから、全ての生き物が邪魔なの。

 

 

私を見て欲しいの……私だけを」

 

 

手から黒いオーラを放ち、そして渚達にその手を向けた。二人は倒れている竃と輝三を支え立ち上がっている最中だった。

 

 

「まずは四人……消去しまーす!」

 

 

嬉しそうに言いながら、梓は黒いオーラから無数の毒針を放った。龍二は足を踏み出し彼等の元へと急いだ。渚は支えていた竃を守るように抱き、鎌鬼は輝三を下ろし三人の前に立った。

 

 

梓の攻撃が間近に迫っていた時だった……駆け寄ってくる龍二の頭上を、火玉が通り彼女の攻撃を消し去った。そしてそれと共に四人の前に、何者かが立ち梓の喉仏に何かを突き当てた。

 

 

「……!?」

 

「……嘘」

 

 

目の前に立つ人物……紺色の髪を肩まで伸ばし、入院服を身に纏いそして意識の無い目を開きその場に立つ麗華だった。

 

 

「れ、麗華」

 

「……」

 

「姉者!龍!」

 

 

火を放った焔が、渚達に駆け寄った。彼と共に安土も駆け寄り、麗華の目の前に立つ梓を見た。

 

 

「……何で」

 

「……」

 

「何でアンタが目覚めてんのよ!!

 

私が奪ったのに、何で!!」

 

「……」

 

 

何も答えない麗華……手に持っていた薙刀を振り上げ、梓目掛けて振り下ろした。その攻撃を梓は、手から糸を出し盾を作り防いだ。防ぐと梓は、空いているもう片方の手から毒槍を出し、ガラ空きになっている麗華の頭目掛けて振り下ろした。

 

 

“キーン”

 

 

「!?」

 

 

振り下ろしてきた槍を、龍二が間一髪剣で防いだ。

 

 

「己ぇ!!」

 

「氷術氷槍牙!」

 

 

突如氷の刃が空から降ってきた。龍二は麗華を抱えその場を離れ、梓は降ってきた槍を持っていた毒槍を振り回し、氷の刃を砕き空へと飛んだ。

 

 

「次から次へと……!!」

 

 

氷の刃が放たれた方に顔を向けると、そこには凍り漬けになった牛鬼を抱えた氷鸞と雷光だった。

 

 

「牛鬼!!

 

己、よくも牛鬼を!!」

 

「悪いが、貴様の男は預からせて貰った」

 

「返して欲しければ、ここから立ち去りなさい」

 

「この!!」

 

 

二人に突っ込もうとした時、下から鎌が伸び刃は梓の腹を貫いた。

 

 

「悪いけど、攻撃させないよ」

 

「お、己……

 

覚えておけ……これで終わりではない」

 

 

口から毒煙を出しそれに紛れて、梓は姿を消した。雷光は充満した毒煙を風で吹き飛ばした。

 

 

「致命傷を与えた。戻るのは不可能だと思うけど……」

 

「……」

 

「ひとまず、輝三と竃を中に入れて茂に頼もう。

 

渚、手伝ってくれ」

 

「はい」

 

「安土……君は、氷鸞からそのカチコチに凍ってる牛鬼を貰って、中に」

 

「あ、あぁ」

 

 

指示を終えた鎌鬼は、その場に座り込み抱えている麗華をずっと抱き締めている龍二に寄った。

 

 

「龍二」

 

「……

 

鎌鬼、悪い。

 

 

しばらくの間、ここにいさせてくれ」

 

「……」

 

「分かんねぇけど、もしかしたら……

 

 

もしかしたら、麗華の奴覚ますかもしれないんだ……だから」

 

「……大丈夫だよ。

 

焔達を置いていく。先に中に入っているよ」

 

「うん……」

 

 

鎌鬼は焔達に目線を送り、渚が支えている輝三を貰い、中へと入った。

 

 

残った龍二は、力無く自分の服を握る麗華を抱き締め続けた。三人は遠くから、その様子を見守るように眺めた。

 

 

 

暗闇の中、麗華は一筋の光を頼りに彷徨っていた。そしてその光に手が届き触れた。その瞬間、辺りが明るくなり暗闇か、真っ白な世界へなった。

 

 

「……」

 

 

その真っ白な世界を、麗華は見回した。そしてその世界に人影が見えた。見覚えのある人影……

 

人影はスッと手を差し伸べてきた。麗華はその手をソッと握った。次の瞬間、その影は人の姿へと変わり、自分を強く抱き締めた。

 

 

(……

 

 

あぁ……

 

 

懐かしい温もり……

 

 

いつも傍にいてくれた温もり……)

 

 

 

「?」

 

 

力無く龍二の服を握っていた麗華の手が一瞬動いた。それに気付いた龍二はハッと顔を上げ、彼女を見た。

 

 

ゆっくりと開く目……

 

 

「……麗華」

 

「……

 

 

兄貴」

 

 

龍二の顔が目に映った瞬間、麗華は堪らず彼に抱き着いた。龍二は抱き着いてきた彼女を抱き締めた。

 

 

「……

 

 

兄貴……

 

 

ごめん」

 

「謝らなくていい……

 

悪いのは俺だ。

 

 

辛い思いさせて、悪かった……」

 

「ううん……

 

 

辛かったのは確かだけど……

 

 

兄貴がいたから、私……私」

 

 

涙声で言う麗華……その目からは、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。彼女と同じように、龍二の目からも大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。

 

 

二人の様子に、ホッとした三人は顔を見合わせ微笑んだ。




洞窟へと帰ってきた梓……


傷口に糸を絡ませ、繭の中で横になっていた。


(己……小賢しい人間が。


全てを消すまで、私は死なない!!全てを消し、そして……


牛鬼とずっと一緒に!!)


その思いに反応するかのように、繭は不気味なオーラを放ち、そして中にいた梓を包み込んだ。包み込まれた梓の姿は、次第に変わった。胴体から黒い足が生え、頭には黒い二本の角が伸び、体は巨体化し、人間の歯から牙だらけの歯へと変わった。

姿が変わった梓は、開いていた目を閉じ体を丸め眠りに入った。

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