地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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『お前は人からいじめられ、そしてゴミのように捨てられた』


牛鬼達と会う前の記憶は何も無い……ただ、人間と一緒にいたという記憶は、少しはある。だからかな……時々すれ違う人間を見ると、懐かしさを感じた……でも、不安と恐怖も感じていた。


記憶を無くした巫女

病室へと入ってきた牛鬼に、龍二の傍にいた渚は狼の姿へと変わり、威嚇の声を上げながら攻撃態勢に入り、鎌鬼は大鎌を構えた。

 

 

「おいおい、俺にそんなことしていいのか?

 

巫女さんの居場所どころか、彼女の命は無いよ」

 

「……渚、鎌鬼」

 

 

震える龍二の声に、二人は体勢を崩した。それを見た牛鬼は手を叩きながら、不敵に笑みを溢した。

 

 

「さすが、聞き分けがいい」

 

「何が目的で来た……麗華を奪っときながら、人を襲って」

 

「……欲しいものは手に入った。

 

けど、もし記憶が蘇ったときのことを考えて、巫女さんの故郷とも言えるこの町を、壊そうかなぁって」

 

「……」

 

「クッククク……

 

まぁここで別れるのも何だし、桜巫女に会わせてやるよ」

 

「……!!」

 

 

その時、牛鬼の隣に安土が到着した。龍二達は安土が抱えている者を見て絶句した。元の姿となり、その容姿は袖無しで膝まである裾の着物を身に纏い、肘下まである手袋を着け、素足で下駄を履いた麗華だった。

 

 

「どうだ?俺の梓は」

 

「……」

 

 

安土は抱えていた麗華を、牛鬼に渡した。牛鬼に抱えられた麗華は、嬉しそうな顔で彼に抱き着いた。

 

 

「……麗華」

 

「……

 

牛鬼、この人達誰?」

 

「俺の知り合い」

 

「ふ~ん……」

 

 

次の瞬間、鎌鬼は鎌を構え窓の縁を蹴り飛んだ。安土と牛鬼は、その行為に驚きすぐに身構えた。

 

 

「襲う気はない……ましてや、取り戻そうなんて事も考えていない。

 

ただ、その子に見せたい物があるんだ」

 

「見せたい物?」

 

「麗華」

 

「?」

 

「これを見てくれ」

 

 

鎌鬼は懐からある物を取り出し、それを麗華に見せた。麗華は見せてきた物に興味を持ちながら、牛鬼に支えられ彼に近寄った。

 

鎌鬼が手に持っていた物……それは十日前、麗華が捨てた勾玉のペンダントだった。麗華はそれを興味本位で手で触れてみた。

 

 

「!!」

 

 

触れた瞬間、頭が真っ白になった。辺りは暗く見回すと境界線とも言えるその向こう側は、真っ白な世界になっていた。そこには焔に氷鸞、雷光、雛菊、丙、渚が立っており、その後ろには数多くの妖怪達の姿……

彼等の前には、ぬ~べ~達と出会ってきた人々、そして死んだはずの優華と輝二が立っており、二人の間に龍二が立ち、彼は麗華に向かって手を差し伸べてきた。

 

 

その光景が見えた瞬間、麗華は怯えだし顔を反らして牛鬼に抱き着いた。

 

 

「梓?」

 

「麗華……これを見て怯えるという事は、君は」

「違う!!」

 

「?!」

 

「違う……違う……

 

私は……私は」

 

 

怯える麗華を見た安土は、口から毒霧を吐き出した。全員口と鼻を塞ぎ、目を瞑った。その隙を狙い二人はその場から立ち去った。

 

 

しばらくして、毒霧は晴れ鎌鬼は病室へと入った。

 

 

「鎌鬼、アイツに何見せたんだ?」

 

「君達の母親、優華のペンダントだよ。

 

輝三から聞いていたんだ……これには特殊な力があると。これを見せれば、麗華は元に戻るんじゃないかと思ったんだよ」

 

「……じゃあ」

 

「心配ないよ。

 

 

これを見て怯えたという事は、あの子の心は完全に牛鬼のものになったわけじゃない。

 

きっと、僕等の元に帰ってくるよ」

 

 

龍二の肩に手を乗せながら、鎌鬼は説明した。龍二は無理矢理笑顔を作り見せたが、すぐに不安な顔へと変わってしまった。

 

 

住処へ向かう牛鬼達……

 

 

牛鬼に抱かれた麗華は、ずっと震え彼に抱き着き泣いていた。牛鬼はそんな彼女を宥めるようにして、ずっと頭を撫でていた。

 

 

「大丈夫か?麗華」

 

「さっきよりは落ち着いてる……

 

しばらくの間は眠ってて貰う」

 

「……」

 

 

住処へ帰ってきた牛鬼達は、別の洞窟内へと入った。中には不気味な光を放った繭が作られていた。抱えていた麗華をその繭の中に、牛鬼は座らせた。

 

 

「もう寝ろ。今日は疲れただろ?

 

寝るまで傍にいてやるから」

 

 

座っていた麗華は、隣に座った牛鬼にしがみつき震えていた。そんな彼女を牛鬼は、優しく頭を撫でた。しばらく撫でていると、安心してきたのか麗華は重くなっていた瞼を閉じそのまま眠りに入った。

眠った彼女を自分から離した牛鬼は、繭から出た。彼が出たのを合図に、繭は出入り口を塞ぎそして、麗華の手足に糸を絡ませ不気味な光を強く放った。

 

 

「うへぇ、不気味な光」

 

「俺もしばらく寝る。

 

何かあったら起こしてくれ」

 

「ヘーイ……」

 

 

繭に凭り掛かる様にして、牛鬼は座り目を閉じ眠った。眠った彼を見た安土は、顔を曇らせ今まで起きたことを思い出した。

 

 

(……本当に、これでいいのか。

 

 

確かに、兄貴が幸せならそれでいい。けど……

 

麗華は……麗華は、それを望んでなかった。皆の記憶を消して、俺等だけの記憶を作って兄貴の傍にいる……

 

 

やっぱり、何か違う!)

 

 

洞窟を飛び出し、安土はもう一つの洞窟へと向かった。洞窟内へ入ると、そこはあの麗華が出て来た繭の殻があった。安土は繭の中へ入り、中で眠っているもう一人の麗華を持ち上げ、洞窟を飛び出し童守町へ向かった。

 

 

息を切らし、童守町へ着いた頃には辺りは暗くなっていた。

 

 

(やべぇ……

 

兄貴が起きる前に、早くコイツをあの神主の所に)

「氷術氷棺!!」

 

 

突然脚が凍り漬けにされ、背後から何者かに殴られ、安土は力が抜けそれと共に、彼に抱えられていた麗華は落ちていった。落ちてきた彼女を、もう一つの影が受け取ったのを最後に安土は意識を失った。

 

 

 

「ったく、いきなり凍り漬けにするやつがあるか?!」

 

「凍り漬けにしなければ、また逃げられます。逃げる前に捉える……その方がよいのでは?」

 

「あのなぁ……」

 

「そもそも、凍り漬けにしたのは私ですが、気を失わせたのは雷光です」

 

「某は、反抗すると思い気を失わせただけです」

 

「その前に、麗の安全を確保しろ!!

 

危うくあの世に逝っちまうところだったんだぞ!!」

 

「あなたがキャッチしたので、それでよいのでは?馬鹿犬」

 

「誰が馬鹿犬だぁ?!」

 

「二人共、止さぬか!」

 

「黙れ!!この阿呆鳥に」

「お前等三人、うるせぇ!!」

 

 

意識を取り戻した安土が目を開くと、喧嘩する三人の頭を龍二が思いっ切り叩き、三人は頭を押さえてその場に座り込んだ。

近くには、ぬ~べ~が数珠を構えて龍二達を見て苦笑いをしていた。

 

 

「ったく、麗華がいねぇとすぐこれだ……?」

 

 

安土が目を覚ましたのに気付いた龍二は、安土の方に振り向いた。安土はすぐに逃げようと体を動かしたが、体は凍り漬けにされており、身動きが取れなかった。

 

 

「悪いが、大人しくしてて貰う」

 

「……」

 

「どういう風の吹き回しか知らねぇが……何で麗華を返しに来た」

 

「……」

 

「答える気がねぇなら、ここで監禁する」

 

「……

 

 

間違ってると思ったから」

 

「?」

 

「……兄貴がやってること、間違ってると思ったから……

 

思ったから、麗華を返しに来た」

 

「……」

 

「けど、夕方会った麗とは違うような……」

 

「当たり前だ。

 

夕方連れて来たのは、お前等の記憶を消して、代わりに俺等二人の記憶を入れた麗華……いや梓なんだから」

 

「……じゃあ、あの麗華は」

 

「……お前等の記憶がある……本物」

 

「……」

 

「しかし、それなら何故麗様は、目を覚まさないのです?」

 

「覚まさなくて当然さ。

 

 

記憶があっても……アイツの心は、梓の中にあんだから」




不気味な光を放つ繭に皹が入った。その音に寝ていた牛鬼は目を覚まし皹の入った繭を開け中へ入った。

起き上がる麗華……いや、もうその姿は麗華では無かった。赤み掛かった茶色の髪を長く伸ばし、赤い目を開き牛鬼を見た。


「……梓」

「牛鬼……」


差し伸ばしてきた牛鬼の手を梓は掴み、彼に抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、牛鬼は抱き締め優しく頭を撫でた。




「その梓って誰なんだ?」


安土の話を聞く焔達……ぬ~べ~は彼が放った“梓”という名を疑問に思い、質問した。安土は口を結び下を向き、何も話さなくなった。


「?

安土?」

「……」

「馬鹿教師が、余計なことを言うから」

「う……」


「兄貴の女……」

「?」

「この地に来る前……

一緒にいた……兄貴の女だ」

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