地獄先生と陰陽師少女   作:花札

109 / 174
暗い洞窟……


目を覚ます麗華……ボーッとしながら、辺りを見回しながら立ち上がり外に出た。外は暗く、肌寒い風が吹いていた。


(……牛鬼、どこ?)


怯えながら、ふら付く足で麗華は歩き出した。肌寒い風が吹き麗華は、露出した二の腕を手で擦りながら森を見回した。


(牛鬼……どこ?

怖いよ……それに、寒いよ……牛鬼)


風が吹き荒れ、下ろした髪が風に揺れ乱れた。その時、背後から誰かに肩を掴まれ、麗華は体をビクらせて恐る恐る振り返った。

肩を掴んできたのは牛鬼だった。彼と一緒にどこからか走ってきたのか息を切らし膝を付く安土がいた。


「牛鬼……」

「こんな所にいたのか……捜したぞ」

(捜したの……俺だ)


震える麗華を牛鬼は抱き上げた。抱かれた麗華は、牛鬼にしがみ付くと泣き出した。泣き出した彼女の頭を牛鬼は宥めるように撫で、安土と共に住処へ戻った。


一筋の光
替えられた心


麗華が牛鬼の元へ行ってから、十日が過ぎた。

 

病院側では、主治医の茂以外病室へ入ることを禁じられた。輝三は、休みを取ったらまた来るとの言い残し故郷へ帰った。龍二は学校を休み、鎌鬼と共に牛鬼と安土について調べた。

焔達は、住処を探しつつ牛鬼と安土について龍二同様に調べていた。

 

 

そんなある日、事件は起きた……

 

ある夜、女子大生が帰宅途中突然襲われ、そして翌日ミイラ化した遺体で発見された。

 

 

その事件の新聞記事を、ぬ~べ~は龍二の家で読んでいた。龍二は鎌鬼が持ってきた、遺体の写真を見ながら牛鬼と安土の事を書いたノートを読み調べていた。

 

 

「遺体はミイラ化か……」

 

「二人の殺り方は、まず安土の方だと、獲物を自分の住処へと誘導してから殺す……遺体はそのまま奴の餌に。逆に牛鬼は、その場で殺し血を吸い遺体は放置。

 

俺が調べた二人の襲い方だと、この事件の犯人は牛鬼だな」

 

「牛鬼……」

 

「遺体なら未だしも、ここ最近だとニュースになってはないけど、現場に血を残してその場から姿を消した者が、五日前から続出してる」

 

「狙っていた麗華を手に入れながら、奴等はいったい何が目的なんだ?」

 

「知るかよ、そんなこと……」

 

 

場所は変わり、ここは牛鬼達の住処。

 

 

河原で水面に映る自分の顔を見る麗華。彼女を眺める様にして、牛鬼は離れた岩に腰掛けていた。すると麗華は履いていた下駄を脱ぎ、河原に足を入れようとした。だが、水が怖いのか麗華は爪先で水に触るも、すぐに水から離れ水を見ていた。

 

まるで、初めて水を目にする子供のように……

そんな彼女の姿を見た牛鬼は、岩から降り先に水に入り麗華の前に立ち手を差し伸べた。

 

 

「ほら、入ってみろ……平気だから」

 

「……」

 

 

差し伸べてきた牛鬼の手を掴み、麗華は恐る恐る水へ入った。冷たさに驚き、麗華は牛鬼の腕にしがみつき目を瞑って怯えた。

 

 

「大丈夫だ。目を開けてみろ」

 

 

牛鬼の言葉に麗華は恐る恐る目を開いた。水は彼女の足に当たりながら流れていた。

 

 

「……」

 

「な?平気だろ」

 

 

麗華は頷き、そして興味を持ったのか牛鬼の腕を掴みながら、川の水に手を入れた。水は冷たくそれが気持ち良かったのか、麗華は掴んでいた牛鬼の腕を放し水の中を歩こうと足を一歩前へ踏み込んだ。その瞬間足を踏み外したのか、麗華は転び水に顔を浸けた。

 

彼女はすぐに顔を上げ、水を拭くようにして頭を激しく振った。

 

 

「そこは滑りやすいから、気を付けろ。

 

それと、このままだと風邪を引く。一旦上がるぞ」

 

 

麗華の手を引き、牛鬼は川から上がった。木の枝に掛かっていたタオルを手に取り、濡れた麗華の体を拭いた。

 

 

「……ねぇ、牛鬼」

 

「?」

 

「私って……牛鬼に会う前、どこにいたの?」

 

「……」

 

「最近、夢見るの……

 

白い影が、ずっと私を見てるの……悲しい顔で」

 

「……」

 

「ねぇ、私……?」

 

 

不安な顔を浮かべる麗華の頭に、牛鬼は手を置きそして撫でた。

 

 

「牛鬼?」

 

「お前は俺達と、ずっと一緒だ。そんなこと、気にするな」

 

「……うん!」

 

「それより麗華、今日は少し出掛ける。お前も来い」

 

「どこ行くの?」

 

「童守町だ」

 

 

 

教室の花を変える郷子……

 

 

「今日で二週間かぁ……

 

麗華、元気にしてるかな?」

 

 

ぬ~べ~は、郷子達にまだ入院していると伝えていた。しっかり治したら、面会が可能と言う事を説明し、郷子達は納得していた。

 

 

「見舞いにも行けねぇし……俺等、謝りてぇのに」

 

「だよな」

 

「そういえば、私病院付近で変な噂聞いたわよ」

 

「?どんな」

 

「十日前……だったかな。

 

病院の屋上で、誰かが飛んでたって。その翌日から、急にある入院患者の部屋に主治医以外入っちゃ行けなくなったんだって」

 

「え?何で」

 

「話だと、その患者さん行方不明になってそれを主治医が隠そうとしてるんじゃないかって、噂してたのよ!」

 

 

童守町の空に浮かぶ、牛鬼と安土。二人と一緒に、牛鬼に抱かれて麗華もいた。

 

 

「ここが童守町だ」

 

「何か、ゴチャゴチャしてる」

 

「人が住むとこうなる。

 

麗華、一つ約束してくれないか?」

 

「?何?」

 

「この町にいる間は、梓と言う名で呼ぶ……町の中をお前が歩いていてもし、麗華と呼ばれても決して振り返ったら駄目だ」

 

「ここにいる間は、梓が私の名前?」

 

「そうだ」

 

「分かった。牛鬼の言う通りにする」

 

「ありがとう。安土、そういうことだ。いいな?」

 

「りょーかい!」

 

「俺は用事がある。しばらくは安土と一緒にいろ」

 

「ハーイ」

 

 

安土に麗華を渡すと、牛鬼はその場から姿を消した。安土は抱いた麗華と共に、地面へ降り彼女を下ろした。二人は共に術で姿を変え道を歩いた。

 

 

「安土、何でこんなに人が多いの?」

 

「え?う~ん……そうだなぁ。

 

人間だからじゃねぇの」

 

「にんげん?」

 

「お前もその人間だけどな」

 

「それくらい知ってる……

 

捨てられてた私を、牛鬼が拾ってくれたんでしょ。その辺の記憶、全然無いけど」

 

 

歩く二人の前方から、下校中の郷子達が歩いてきた。楽しげに話す郷子がふと顔を上げると麗華と目が合い、そして驚いた顔をした。

 

 

「麗華?」

 

「……」

 

「ねぇ、麗華よね?麗華でしょ」

 

「麗華!お前、どうしたんだよ!?それにその格好」

 

「病院抜け出して、何やってんのよ!?」

 

「……」

 

「お前等、梓に何か用か?」

 

「え?梓?」

 

「ひ、人違い」

 

「嘘よ!

 

 

確かに着てる服は違うかも知れないけど、雰囲気からして明らかに麗華よ!」

 

「しつこいぞ!!

 

こいつは俺の兄貴の女だ!!梓に手を出すなら、俺が容赦しねぇからな!!」

 

 

強く言う安土に郷子達は身を引いた。安土は麗華の手を引きさっさと歩いて行った。

 

 

「ねぇ安土、あいつ等誰?何で私の名前を」

 

「この町には、お前と瓜二つの人間が住んでたんだ。多分あいつ等はその人間の知り合いだよ」

 

「……」

 

「気にするな。お前は俺達と一緒だ……心配ねぇよ」

 

「……うん」

 

 

場所は変わり、茂の病院。

 

麗華が入院していた病室で、龍二は茂から手の治療を受けていた。十日前に刺した手の甲の傷を、治療して貰っていた。

 

 

「だいぶ傷口も塞がってきたし……もう少ししたら包帯も取れるよ」

 

「……」

 

「……

 

 

まだ、見つからないのか?」

 

「……はい」

 

「……」

 

 

「そりゃあ、見つかるわけねぇよなぁ」

 

「!!?」

 

 

窓の方に振り返ると、窓の縁に手を掛けた牛鬼がにやけた顔で立っていた。

 

 

「牛鬼……」

 

「よぉ神主……十日振りだな?

 

どうだ?桜巫女がいない気分は」

 

「……」

 

「クックック……

 

まぁ、もう桜巫女はお前等の所には帰らねぇけどな」

 

「どういう意味だ……」

 

「……心を替えたと言おう。

 

お前等の記憶は無い……アイツの中にあるのは、俺と安土の記憶そして人の記憶……それしか残っていない」

 

 

 

公園のベンチに座り、用があるといいどこかへ行ってしまった安土の帰りを麗華は待っていた。

 

 

すると彼女の前に、三つの影が降りてきた。その影に気付いた麗華は、顔を上げそれを見た。

 

 

「……誰?」

 

 

自分の前に立つ三人……それは焔と雷光、そして氷鸞だった。

 

麗華は怯えながら立ち上がり、三人を見つめた。

 

 

「麗……」

「麗殿……」

「麗様……」

 

「……麗って。

 

私の名前は、梓だよ……三人共、誰かと間違えてんじゃ……!?」

 

 

焔は彼女の頭に手を置いた。その瞬間、麗華の脳裏にある記憶が蘇った。

自分の頭に手を置き、笑顔で褒める焔の姿……

 

ハッと我に返った麗華は、焔を見上げそして首を振り彼の手を振り払い、後ろへ下がった。

 

 

「……麗」

 

「私は……麗じゃない。

 

私は……梓よ」

 

「……?」

 

 

その時、麗華の前に何者かが飛び降りてきた。それは妖怪の姿をした安土だった。

 

 

「テメェ……」

 

「梓に何の用だ?」

 

「……そいつは麗だ。

 

俺達三人の、主だ」

 

「……安土、私」

 

「(やべぇな……

 

さっさと、牛鬼のとこに連れて行かねぇと……)

 

 

梓、息止めろ!一先ず……退散!!」

 

 

口から毒霧を吐き出した。三人はすぐに息を止め目を瞑った。その隙に、安土は手で口と鼻を塞ぎ息を止めている麗華を抱き上げその場から立ち去った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。