地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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氷の地に倒れる男……近くには粉々になったハープが落ちていた。


ハープが壊れたおかげか、村に住む者達を凍らせていた氷は溶け、皆外へと出た。外は雲一つ無い空になっており、村の雪が溶け始めていた。


氷華の舞

しばらくして近くに、朝木が降りそして麗華達が降り立った。麗華と輝三は白水と雷光を戻し、彼の元へ行った。

 

 

「……朝木。

 

俺はずっと、お前がこの村の者達を恨んでいるんではないかと思っていた。お前は幼いときから、優しい上に人を殺すことが出来なかった……」

 

「……」

 

「輝三……

 

白水の力で、アイツを治せないの?」

 

「無理だ……

 

こいつは寿命を迎えてる……もうどうすることも」

 

「……そんな。

 

 

朝木、琵琶弾いて」

 

「?」

 

「アンタが望んでた舞、見せてあげる」

 

 

麗華は氷の中央に立った。朝木は琵琶を持ち弾きだした。輝三は男の傍へ行き、体を起こし彼女の舞を見せた。

 

麗華は下駄を鳴らし、朝木の琵琶の音色に合わせて舞った。その舞はまるで、ちらつく小雪の様だった。

 

 

「……雪みたいだ。

 

空から降ってくる小雪の様だ」

 

「兄上」

 

「俺は……こんな綺麗な舞を見たのは、初めてだ。

 

朝木」

 

「……はい」

 

「……俺はもうすぐ死ぬ。

 

せっかく会えたのに、また別れてしまう……もう決して会うことの無い別れだ」

 

「……兄上」

 

「……お前さん、別の形で生きてぇとは思わねぇか?」

 

「?」

 

「お前等二人は兄弟だ……お前が死ぬ前に、朝木の体と融合すれば、お前は生きられる」

 

「……」

 

「私はいいですよ。兄上」

 

「……よろしく頼む」

 

 

琵琶の音色が止み、朝木は男の前に座り手を握り意識を集中させた。すると彼の身体から吹雪が起き、二人を包み込んだ。

 

強風が吹き荒れ、輝三は飛ばされそうになった麗華を抱き寄せ、麗華は彼にしがみついた。

 

 

やがて 風は止み吹雪は収まり、中から一人の男が現れた。麗華は輝三から離れ、彼に近寄り声を掛けた。

 

 

「……朝木?」

 

 

声に気付いた男は、ゆっくりと振り返った。

外見は朝木の姿だった。水色の髪を長く伸ばし僧侶の格好をし、笠を脱いだ朝木……手には先程まで持っていた琵琶の代わりに錫杖は握られていた。

 

 

「今の私は、朝木でも何でもありません……」

 

「……朝木、琵琶」

 

「無くなりました……もう弾くなと言う意味でしょう」

 

「……」

 

「断ち切ってくれたんじゃねぇのか?

 

兄貴がお前の心を縛っていた何かを取り除いた……その証であった琵琶を消し、錫杖を持たせた……多分その中に、兄貴の魂が眠ってると思うぜ。

 

お前が持っている氷と兄貴が持っていた水と氷……」

 

「……」

 

「やったじゃん!朝木、氷の技が最強になって新たに水の技が出来るんじゃん!」

 

 

笑顔で言った麗華だったが、そのままで仰向けに倒れた。

 

 

「麗!」

 

「疲れが出たんだ……この寒さでこの格好だ」

 

 

持っていたコートを掛け、輝三は麗華を抱き竃に乗り村へと戻った。彼等の後を焔は追い駆けていき、朝木は彼等とは反対の方向へと飛んでいった。

 

 

村に戻った輝三は、村長の家へと入り、自分達が泊まっていた部屋に入り、熱で眠っている麗華を布団に寝かせた。電話を借り、事件は解決したと報告し部屋で付きっ切り麗華の看病をした。

 

その様子を、朝木は離れた場所から見ていた。

 

 

「もっと近くで見りゃいいじゃねぇか?

 

気になるなら」

 

 

声が聞こえ振り向くと、焔がそこにいた。

 

 

「……」

 

「麗なら、心配ねぇよ。

 

熱が引いたら、すぐに元通りだ」

 

「……」

 

「お前、これからどうすんだ?」

 

「……」

 

「この山に住み続けるのか?それとも、この山を出て旅を」

 

「……以前に言いましたよね。

 

私は人を好きになったことはあると……」

 

「あぁ」

 

「そして、その方は年老いて亡くなったと……

 

同じ悲しみを味わいたくないんです……同じ悲しみを」

 

「……人はいつかは死ぬ。

 

けど人って、俺等妖と違ってあるものを残せる」

 

「あるもの?」

 

「主の血を引いたガキだ。

 

 

いつかはガキが出来る。そして俺等白狼一族にも……

 

お前と雷光は死なないだったら残った麗のガキと俺のガキを守ってくれ。ずっと……この先。

 

自分達が死ぬまで」

 

「……

 

馬鹿に言われたくありません」

 

「んだと!!」

 

「しかし、いいアドバイスをどうも。

 

もう少し考え、答えを出したらまた会いに来ます」

 

 

笠のツバを持ち、朝木はどこかへ飛んでいった。

 

 

熱で眠る麗華。意識が無く、顔を赤くして眠っていた。額に置かれているタオルを取り替えながら、輝三はため息を付いてた。

 

 

やがて外は陽が沈み、夜を迎えた。

麗華の熱は上がり、彼女の顔は一層赤くなり苦しそうに咳を仕始めた。

 

 

「やべぇな……

 

こりゃあ、コイツが治るまでここに泊まらねぇと……」

 

「けど、二日後には帰るんじゃ……」

 

「俺が怪我してるから、一日延ばして貰った。

 

けど、麗華のこの熱じゃ後四、五日は必要だ」

 

「……」

 

「熱さえ引けば、何とかなるんだけどなぁ」

 

 

しばらくして、輝三は怪我と疲れで麗華が眠る隣の部屋で寝入ってしまった。

 

 

「ゲホゲホゲホゲホ!」

 

 

咳をしながら、麗華は息を切らし目を開けた。

 

 

(あれ?ここは……

 

身体が熱い……それに重い。

 

焔……どこ?輝三……竃)

 

 

名前を呼ぼうとしたが、咳のせいで麗華の声は出ずにいた。その時、硝子戸が風に当たり音を立てた。そして窓に影が映った。

 

 

(……誰だろ)

 

 

窓を開けその影は、中へ入ってきた。麗華は逃げようとしたが身体が動かせず、さらにまた眠気が襲い目が重くなった。

 

ぼやける視界の中、影は自分の傍に座りソッと手を額に置いた。するとその手から冷気が放たれ、麗華の熱を冷やしていった。

 

 

(冷たくて気持ちいい……)

 

 

意識が朦朧とする中、麗華は何とか目を開けその影の正体を見ようとしたが、視界がぼやけて見えず、そのまま目を瞑り眠りに入った。

 

 

翌日……

 

麗華はゆっくりと目を開けた。隣の部屋を見ようと顔を向けた。襖の隙間から見えたのは、新聞を読む輝三の背中だった。

 

寝返りを打ちながら起き上がると、傍で鼬姿をした焔が麗華の肩へと登り、頬擦りした。彼女が起きたのに気付いたのか、襖に手を掛け輝三は開けた。

 

 

「起きたか」

 

「輝三……」

 

「熱は引いたみてぇだな。

 

これなら、明日には帰れるか」

 

「今日でもいいのに……」

 

「駄目だ、寝とけ」

 

 

話し合う二人の姿を、朝木は外から眺めていた。笑う麗華の姿を見た朝木は、ホッとしたかのように息を吐き、その場から姿を消した。


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