地獄先生と陰陽師少女   作:花札

103 / 174
吹雪の中、ハープを奏でる男。その音色は怒りに満ちていた。


「どんな怨みあるか知らねぇが、この村の奴等をさっさと解放しろ」

「……知ったことか。

散々妖をいじめていたくせに……」

「その代償で、今この村は大雪だ」

「大雪だけでは足らん。もっとこの者達を苦しめるくらいの罰を与えないと……」

「……それじゃあ、邪魔させて貰う。テメェの行為を」

「受けて立とう。僕に勝つことは出来るかな?」


氷の刃

広場に着いた麗華達。周りは森で覆い尽くされ広場の中心には平べったい岩があった。

 

 

「……ねぇ、どうしてここだけ、雪が降ってないの?」

 

「ここは私の食糧倉庫とでも言っておきましょう。

 

ここだけに太陽を照らし、雪を降らせていないのです」

 

「へぇ……」

 

「さぁ、弾きますから準備してください」

 

「ハーイ」

 

 

背負っていた琵琶を手に取り、朝木は弦を調整した。麗華は平べったい岩の上に立ち、深呼吸をした。

 

朝木は、弦の上に指を置きそして一本一本動かしていった。琵琶からは、言葉に出来ない音色が奏でられ、それに釣られて麗華は下駄をならし舞を始めた。

その舞はまるで、水面で踊っているように静かだった。

 

 

(……この音色。

 

 

夢で聞いた音色と一緒……そうか。朝木はずっと一人で琵琶を弾いて、そして誰かが来るのを待ってたんだ……

この音色で舞ってくれる者を、ずっと……)

 

 

琵琶を弾く朝木は目を瞑り、昔を思い出していた。麗華が立っている岩はかつて自分が座り、琵琶を弾き聞きに来た村人達の疲れた心を癒やした。

村人達は、聞いた後まるで疲れが取れたかのように笑い合い、そして自分に感謝してくれた。そして、自分の琵琶に合わせて舞をしてくれた……

 

弾く手に何滴もの水が落ちてきた。それは朝木の目から流れ出ていた涙だった。

 

 

(……美しい舞だ。

 

こんな……こんな安らかな気持ちになれたのは、いつ以来だろう……)

 

 

「いい舞だねぇ……」

 

「?」

 

 

その声が聞こえ、朝木は手を止め後ろを振り返った。焔は岩の上にいる麗華の隠すように、腕を掴み自分に寄せた。

 

茂みの中から出て来たのは、血塗れになったハープを持った男だった。

 

 

「何故ここに……

 

ここは、私以外の者は入れないはずなのに……」

 

「琵琶の音色に導かれ、ここへ来たまで。

 

舞子さん、今度は俺のハープで舞してくれねぇか?」

 

 

焔の後ろに隠れていた麗華は、顔を出して首を横に振った。

 

 

「琵琶法師の願いは聞いたのに、俺の願いは聞いてくれないのか?」

 

「……私は好きでやっただけ。朝木に命令されてやったんじゃない」

 

「この子に手を出すのではあれば、容赦はしませんよ」

 

 

背中から水色の翼を出し、朝木は只ならぬ妖気を発した。そんな彼に、男は口笛を吹きながら笑みを溢した。

 

 

「そんな殺気立たなくても……その子には何もしませんよ」

 

「ならば、早くここから立ち去りなさい」

 

「嫌なこった。ここの村人、全員食べるまで立ち去らねぇよ。

 

さっきな、棍棒使いの男とデケェ狼と闘ってきたんだ」

 

「棍棒使いの男?

 

それって……」

 

「輝三……

 

デカい狼は、竃」

 

「いやぁ、手こずったよぉ。倒すのにあんな時間がかかるなんて」

 

「え?」

 

「まさか、ハープの血は」

 

「ビンゴ。

 

あの男と狼の血だよ。まぁ今頃は、真っ白な雪が真っ赤に染まってるかもな」

 

 

その言葉に怯えるかのように、麗華は焔の手を強く握りながら、彼に抱き着いた。

 

 

「あなたが欲してるのは、村人達なのでは?

 

なぜこの子の家族を殺すんです?」

 

「邪魔するからに決まってんだろ?それとも、そこにいるガキも邪魔する気か?」

 

「……焔」

 

「承知」

 

「雷光!アンタも」

 

 

振袖の中にしまっておいた札を取り出し投げた。札は煙を出し中から馬の姿をした雷光が現れた。

 

 

「……あなた、何者です?」

 

「陰陽師の家系、山桜神社の桜巫女を務める、アンタの贄」

 

「……」

 

「ヒヒ!何て、嘘。

 

さぁて、やりますか……焔、雷光」

 

「いつでも」

 

 

雷光は角に雷を溜め放った。放ってきた雷を男はハープの奏でる音で防いだ。ハープは雷を吸いそして、男が指を動かしハープを奏でると、弦から雷光が放った雷が放たれてきた。

 

 

「嘘?!反撃」

 

「攻撃を吸う武器か……厄介だ」

 

「ハープを壊さない限り、攻撃は不能です」

 

「……」

 

 

「水術、五月雨!」

 

 

男の頭上から、水の槍が無数に降ってきた。男はそれを全て琴で防いだ。

 

 

「俺に攻撃しようが殺そうが構わねぇ……

 

けどな、弟のガキには指一本触れさせねぇ」

 

 

額から血を流しているのか、巻いている布が赤く染まっており、ズタズタに切られたコートを肩に羽織り、口に煙草を銜えた輝三が木に手を掛け立っていた。

 

 

「こ……輝三!」

 

「おや、しぶとい……

 

けど、どんなに強くても、人質を取られては一巻の終わりでしょう」

 

 

男はハープを奏で吹雪を起こした。吹雪は麗華の周りを覆い始めた。覆った瞬間、朝木はすぐに彼女の手を掴み自分に寄せ、羽から氷の刃を出し飛ばした。男はすぐにハープの音を変え氷の刃を防いだ。

 

 

「人質を取るなど、恥たない……

 

この子に手を出した限り、もう……あなたを許しません」

 

「面白ぉ……じゃあ、やりましょう!」

 

 

ハープで防いだ氷の刃を、朝木に投げ付けた。朝木は麗華を焔に渡し、手から氷の礫を出し刃を防いだ。焔は麗華を連れ雷光と共に、輝三の元へと行った。

 

麗華はすぐに輝三に飛び付いた。輝三は抱き着いてきた彼女の頭に手を置き肩に掛けていたコートを掛けながらしゃがんだ。

 

 

「心配掛けちまったな」

 

「全く、幼い子供に心配掛けてどうする」

 

「ヘイヘイ……今回は俺が悪かった」

 

「白水に怒られてやんの」

 

 

その時、朝木が自分の方へ飛ばされてきた。ハープを奏でる男は、不敵な笑みを溢しながら自分達の方へ近付いてきた。

 

 

「朝木!」

 

「早くここから、逃げてください!あなた達までこの戦いに」

「既に巻き込んでんじゃん……」

 

「……」

 

「朝木……

 

私も……輝三も……焔も雷光も、竃も白水も……

 

 

皆、戦える」

 

「いいねぇ……仲間って」

 

「……」

 

「戦えるねぇ……

 

どこまで、戦えるかな?生身の人間が」

 

 

指を噛み血を出した麗華は、振袖から札を取り出し血を付け薙刀を出した。

 

 

それを見ると、男はハープを奏で氷の礫を飛ばしてきた。麗華は薙刀を使って高く飛び、それを合図に焔と竃は火を放った。




戦いを始めた頃、雪が積もった山が揺れ、そして積もった雪に亀裂が入った。


“ゴォォオオオ”


雪が流れ落ちる音が、山中に響き渡った。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。