地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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「……」


雀が窓のガラスを突きその音で麗華は目を覚ました。隣の布団では輝三が眠っており、麗華は起こさぬよう起き上がり隣の部屋へ行った。時計を見ると時刻は午前六時だった。


(……毎日、起きる時間だから体が覚えちゃったんだ……

どうしよう……暇だぁ)


しばらく考えていると、麗華は置き手紙をテーブルの上に置きいつの間にか起きていた焔と共に部屋を出て行った。外へ出ると雪はまだ降っており、外が本当の白い世界になっていた。


「まだ降ってる」

「雪の村だな……」

「……?」


雪の中……一つの影が見えた。佇む影……すると冷たい風が吹き麗華は目を閉じた。風が止みもう一度そこを見るが、そこにはもうあの影はなくなっていた。


「あれ?」

「?どうした?麗」

「今、何か居なかった?」

「いや……なんも」

(……気のせいかな)


村の秘密

数時間後、朝食を終えた輝三と麗華は村の中を歩き調べた。

 

 

「……ったく、ここは老人ばっかだな」

 

「村だからじゃないの?」

 

「……あり得るか」

 

「輝三、森行ってきていいか?」

 

「森?」

 

「妖怪達が居るから、そいつ等から情報集めた方が早いよ?」

 

「……まぁ、そうだけど」

 

「それに……気になるのも居るし」

 

「?気になるもの?」

 

「ううん、何でも無い」

 

 

一通り村人から話を聞くと、昼時と言う事もあり二人は村にあるうどん屋に行った。カウンター席に座ろうとした時、麗華の目にある物が映った。

 

 

「あ、鳳!」

 

「?鳳」

 

 

店の壁に飾っていた神棚の上にそれは飾られていた。一枚の墨絵……そこに描かれているのは、鳥の絵だった。

 

 

「これは……」

 

「朝木様ですよ」

 

「あさぎ様?」

 

「えぇ。古くからこの山の奥に住んでいる私達の守護神です。とても琵琶がお上手で、江戸時代にはあの琵琶法師と肩を並べる程だと言われています」

 

「その朝木様はいるの?」

 

「山の奥は、人が立ち入ってはならない区域があると聞きましたので、恐らく居るんじゃないんでしょうか」

 

 

うどんを食べ終え店を出ると、雪は少し小降りになっていた。

 

 

「小降りになってる」

 

「……早いとこ、森に行って調べるぞ」

 

「ハーイ」

 

 

森へ向かい麗華は先を歩き、その後を輝三はついて行った。そんな二人の後を、村の住民は畑の鍬や鎌を持って睨んでいた。

 

 

森を歩く麗華と輝三。森の中に入ったのを機に、鼬姿になっていた焔と竃は、人の姿になり森を歩いていた。すると竃は何かの気配に気付いたのか、輝三の耳元に口を持って行き何かを話した。輝三は険しい顔になり、前を歩く麗華の腕を掴み寄せた。

 

 

「輝三?」

 

「ちょい黙ってろ……それから、絶対に俺から離れるんじゃねぇぞ」

 

「……!」

 

 

茂みから出て来た村人達を見て、麗華は怯え輝三にしがみついた。焔と竃は村人達の背後に回り攻撃態勢に入った。

 

 

「どういう風の吹き回しだ?

 

他人に助け求めといて、消そうって根端か?」

 

「何でこの森に行く」

 

「?」

 

「ここの森は、朝木様の森だ。誰も入れるわけにはいかねぇ!」

 

「この大雪、アンタ達のせいじゃないの?」

 

「!!」

 

「私読んだよ……昔、朝木様を虐めてたんでしょ?

 

その怒りがずっと続いてる……違う?」

 

 

麗華の言葉に、村人の一人が持っていた斧を投げ付けた。麗華は輝三から素早く離れて斧を避け、焔と共に森の奥へ走って行った。

 

 

「麗華!!」

 

「ヤバい!!この奥は、朝木様の」

 

「急いであの子の後を追い駆けろ!!」

 

 

村人達は一斉に走り出し、麗華の後を追った。輝三は狼姿になった竃に乗り麗華を探しに行った。

 

森を駆ける麗華。息を切らし、森から抜け廃屋になった社に辿り着いた。

 

 

「ここまで……来れば、もう大丈夫だろ……」

 

「何だよ、あの爺……いきなり攻撃しやがって」

 

「事実を言ったまでなのに」

 

「……それにしても、ここスゲェ静かな場所だな」

 

「何か家の神社みたい」

 

 

辺りを見回しながら麗華は思った。ボロボロに崩れた社を見ながら境内を見た。

 

 

「……何を祀ってたんだろ」

 

「大きさからして、相当な持ち主だろうな」

 

「……?」

 

 

社の瓦礫の中に光る物を見つけ、それを手に取った。それは鈴が付いた小さな簪だった。

 

 

「簪?

 

ここって、昔は舞とかやってたのかな?」

 

「かもな。

 

何かを祀ってたんなら、それのために舞を見せる……」

 

「……?

 

ねぇ、私達の家って何祀ってるの?」

 

「っ……さ、さぁ」

 

「……」

 

 

“チリーン”

 

 

持っていた簪の鈴が鳴り、フッと顔を上げるとそこにいた。僧侶の格好をし水色の髪を下ろし笠を被った青年が……

 

 

「わぁ……綺麗な人」

 

「俺……ああいう美男子嫌いだ」

 

「自分よりイケメンだから?」

 

「違う!!」

 

「……あなたですか?」

 

 

青年は優しい声でそう言うと、麗華に寄った。

 

 

「あなたが……贄ですか?」

 

「……へ?」

 

「おい阿呆、俺の主に何の用だ?」

 

「……フッ。

 

馬鹿が……この私に一体何用ですか?」

 

「誰が馬鹿だ!!」

 

「下品な馬鹿だ。大声など出しおって」

 

「ンだと、この!!」

「あー!焔ぁ!喧嘩は駄目!

 

アンタも、喧嘩吹きかけるようなこと言わないの!」

 

「……」

 

 

今にも噛み付きそうな焔を宥める麗華の姿を、青年は見取れたかのように眺めていた。彼の視線に気付いた麗華は彼の方に顔を向けた。

 

 

「……どうしたの?私の顔に何か付いてる?」

 

「い、いえ……特に」

 

「……」

 

「麗華!!」

 

 

空から聞こえた声に、麗華は顔を上げた。空から竃が舞い降り彼の背中から輝三が飛び降り、麗華の元へと駆け寄ってきた。

 

 

「輝三」

 

「こんな所にいたのか」

 

「走ってたらここに辿り着いた。あいつ等は?」

 

「どっか行った……ほら、帰るぞ」

 

「うん……(あ!そうだ)

 

ねぇ、お前も……?」

 

 

後ろを振り返り、青年に声を掛けたがそこにいるはずの青年の姿はなくなっていた。

 

 

「あれ?」

 

「どうした?何か居たのか」

 

「凄い綺麗な人……どこ行っちゃったんだろ」

 

「自分の住処にでも帰ったんじゃねぇの」

 

「そうには見えなかったけど……」

 

「麗華、焔、行くぞ」

 

「ハーイ」

 

 

狼姿になった焔に乗り、麗華は先に行った竃達について行った。彼等の姿をあの青年は見届けていた。

 

 

「……珍しい人の子だ。

 

この私を見ても、怖がらないなんて」

 

 

青年は笠のツバを持ち、どこかへ飛んでいった。

 

 

村長の家に帰ってきた麗華は、自分達が泊まってる布団の部屋で、布団に凭り掛かりながら、簪を眺めていた。

 

 

“チリーン”

 

 

(綺麗な音……

 

最近……のじゃないな。もっと昔の……)

 

 

“ガタン”

 

 

「?

 

輝三」

 

 

隣の部屋から物音が聞こえた麗華は、簪をポケットにしまい立ち上がり輝三の名を呼びながら、襖を開けた。

 

だが、隣の部屋には誰も居なかった。

 

 

「……気のせいか」

 

 

鼬姿の焔の頭を撫でながら、麗華は部屋に戻ろうとした時だった。

 

 

「……!!?」

 

 

突然目の前が暗くなり、両手首を拘束され口と目を塞がれた。何かに担がれ麗華と焔は暗い寒空の外へと姿を消した。

 

 

その頃、輝三は市役所の図書室へ行き、麗華が読んだという本を読んでいた。

 

 

「暴行を加えたか……?

 

続きがあるのか。

 

 

傷付けられた妖は、その後山へ逃げ込み二度と村へ降りることはなかった。そして妖は復讐のために、空に雲を広げ雪を降らせた……決して止むことの無い雪を。

 

村人達は、雪に困り果て森に社を建て年に一度、女の舞を見せてやった。だが時が過ぎていく内に、舞は誰もやらなくなり、妖は更に大雪を降らせた。

次に村人達が行ったのは、生贄を与えた。歳は七つから九つの少女の生贄……すると雪は、嘘のようにして半年の間雪が止み太陽が拝められた……そして毎年、少女を贄に出すことにした。

 

 

ところが、その贄を嫌がり子供が出来た村の者達は次々に村を出て行き、残ったのは年寄りだけとなった……

 

 

?待てよ……確か天気の資料だと、雪はここ三十年降りっぱなし……てことは、もう何十年も贄を出していない……

 

そういや、麗華は確か今年の七月で十歳だろ?てことは……今は……!!」

 

 

輝三は資料を戻し、急いで部屋へ戻った。

 

 

部屋に戻り襖を勢い良く開けたが、中は既に物家の空になっていた。

 

 

「ち!!やられた」

 

「焔の霊気を辿れば、何とかなるぞ」

 

「そうだな……」

 

 

「それは、お許しできません」

 

 

出入り口の方に振り返ると、そこには村長率いる老人達が入り口を塞ぐようにして立っていた。

 

 

「……何の真似だ」

 

「ようやく、雪から解放されるんです。

 

姪っ子さんのことは、諦めてください」

 

「諦められっか。アイツは死んだ弟の形見なんだ。ここで死なれちゃ、あの世に逝けねぇ」

 

「なら大人しくしててください。

 

この部屋からは一歩たりとも、出しません」

 

 

襖の前にいた村人達は一斉に猟銃を構えた。輝三は窓から飛び降りようとしたが、下にも村人達がおり逃げようにも逃げられなかった。

 

 

「輝三、俺が行くか?」

 

「止めとけ。下手したらこいつ等、お前のこと見えてる可能がある」

 

「……」

 

「麗華には焔が付いてる……何とかなるだろ(持ってくれよ……麗華)」




どこかの蔵に閉じ込められていた麗華は、焔に紐と目と口を塞がれていた布を取って貰い深く息を吐いた。


「ったく、いきなりなんだよ……誘拐しやがって。どうかしてるよ、ここの老人」

「さらわれて、怖がらないお前もどうかしてる」

「っ……

それにしても、ここどこだ?」

「どっかの蔵じゃねぇの?何か色々あるし」

「……ねぇ、焔」

「?」

「少し気になってたんだけど……ゲホゲホ。

この村って、子供居ないのかな?」

「……言われてみれば。

子供、見てねぇな」

「居ても……不思議じゃない……のに」

「……?

麗華、どうした?」


息を切らし、麗華は力無く倒れた。焔は彼女に駆け寄り大声で麗華の名を呼び叫んだ……だが、麗華は頬を赤くして倒れたまま返事をしなかった。

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