デート・ア・DRIVE リメイク   作:鎧武 極

6 / 9
デートとはこういう物であっただろうか

天宮市の大通り。人が多く行きかうそこを、同じ学校の制服を着た男女が歩いていた。男の方は特徴的な紫と黒の髪のハネ毛の少年――五河進介。女の方は、神に愛されたといっても過言ではない美しさを持った少女――十香。その手には大量のきな粉パンが入った袋が抱えられており、彼女とすれ違う人は皆その美貌に目を奪われるか大量のきな粉パンに目を奪われるかのどちらかだった。

 

「なあ十香、お前そんなに食ってお腹は大丈夫なのか?」

 

「む? このぐらい何ともないぞ? むしろまだ腹がすいて仕方ない」

 

「マジかよ・・・」

 

もう10個もきな粉パンを食べ続けているのに、まだ腹が減っているとは。やはり人間と精霊とでは体の構造が違うから食べる量にも差があるのかもしれない。ちなみに十香が制服を着ているのは、たまたま通りかかった来禅高校の女生徒の服を十香がコピーをしているだけである。

 

「どうかしたかシンスケ?」

 

「いや、それよりも十香、食べるんなら別の物も食えよ。さすがにきな粉パンだけじゃ体に毒だからな」

 

「むぅ~この味と離れるのは少々悲しいが、シンスケがそういうならば仕方がない」

 

十香はきな粉パンをしばらく見つめると、袋に入っていたきな粉パンすべてを一瞬で口の中に入れると、一気に平らげてしまった。さすがの光景に、周りの人たちも信じられないという顔で立ち止まっている。

 

「ぷはっではシンスケ、次はあそこに行くぞ!」

 

「え!? ちょっ、引っ張るなよ十香!」

 

次の獲物(食べ物)を見つけた十香に腕を引っ張られて連れていかれる進介。はたから見れば、仲がいいカップルにしか見えないかもしれない。

 

「あれは、精霊?」

 

その様子を建物の陰から見ていた折紙には、そうは見えなかった。

 

 

 

「それにしても、ロイミュードね~・・・・まさか精霊以上に厄介な奴らがいたとは、世の中何が起こるか分からないわね」

 

とあるレストランの窓際の一席、口にチュッパチャップスを含んだ黒リボンの琴里が呟いた。一緒にいるのは、軍服ではなく普通の私服を着ている令音だった。相も変わらず不気味なクマのぬいぐるみと目の下の隈が目立つが、それ以上にその美しさが際立っていた。

 

「確かに、ロイミュードの事も謎ではあるが、それ以上にショウのことだ」

 

「やっぱり令音も気付いていたのね」

 

「ああ、神無月に集めさせたグローバルフリーズの時の監視カメラの映像を調べてみたが、どうやら意図的に報道しなかった映像があるようだね」

 

隣の椅子の上に置いてあったバッグの中からタブレットを取り出すと、神無月から渡された監視カメラの映像を再生した。

 

「これは?」

 

「その報道されていなかった映像だよ。と言ってもほんの十秒程度の映像で画質は荒いが、確認できないことはない」

 

令音が説明をすると、琴里はタブレットの映像に視線を向けた。暗くてよく見えないが、そこに映っていたのは蝙蝠の姿をした怪物だった。どんよりの性で動けなくなっている人間に向かって指から銃弾を放ち、飛び散る血を見て笑っているようにも見える。

 

「・・ちっ」

 

「すまない琴里。だが、問題はここからなんだ」

 

たちの悪さに琴里が舌打ちをする。令音に言われて息を吐いて落ち着くと、改めて映像に目を向ける。

暴れる怪物の後ろから、映像ではとらえられないスピードで何かがやってくると、怪物を突き飛ばした。怪物は数度地面を転がると、辺りを見回す。刹那、怪物の上空から何かが飛んでくると、そのまま怪物へとぶつかり爆散した。燃え上がるその場から出てきたのは、黒い体をした仮面を被った戦士だった。その戦士は監視カメラへ顔を向けると、その背後から燃え上がるミニカーがこちらに飛んできて、そこで映像は砂嵐に変わった。

 

「これって・・・」

 

「この仮面の人物が何者かはわからないが、()()に似てないと思わないか?」

 

「え?」

 

琴里は疑問に思った。少なくとも、自分にこんな真っ黒な知り合いはいない。こんな子供が喜びそうな姿をした知り合いなど・・・

 

「っ! まさか、進介?」

 

「正解だ」

 

令音が肯定をすると、琴里は再び舌打ちをした。よく見れば、この仮面の戦士が腰につけているのはベルトさんだ。それに、数日前に進介を〈フラクシナス〉に回収した時、彼もこれによく似た姿をしていたのを思い出した。一瞬しか見ていなかったため分からなかったとはいえ、これは明らかに痛手だ。

 

「あの時に何が何でも聞いておくべきだったわ。まさかこんなことに首を突っ込んでいるだなんて」

 

「ショウもそうだが、私は彼の持っているベルトと車の方が気になるね」

 

「ベルトさんとトライドロンがどうかしたの?」

 

「少し気になってあのベルトの表面の金属を少しだけ削って調べてみたが、あのベルトの金属は世界中どこを探しても存在しない未知の金属だということが分かった。おそらく、そのトライドロンという車にも同じ金属が使われているはずだ」

 

「まあベルトさんみたいなAIが搭載されているからもしやと思ったけど、やっぱり何か隠してるわね」

 

「・・・・・」

 

「令音?」

 

「ああすまない。少し考え事をしていた」

 

珍しく考え事をしていた令音。長い付き合いの琴里なら分かることだが、こうして令音が人の話を聞かずに物事を考えるのは珍しい。基本令音は何があっても他人を優先し、自分の事は後回しにするタイプなのだ。だからこそ、こんな風に他人の話を聞かないなんて事は逆に新鮮に感じられた。

 

「とりあえず、この件は上に報告しておくわ。ウッドマン卿は、確か総理大臣との交流があるって言ってたし、何か聞き出せるかもしれないわ」

 

「分かった。では、私は他の映像にも同じような者が映っていないか確認してみよう」

 

タブレットをバッグの中にしまい込むと、琴里は注文していたメロンソーダが入った容器のストローに口を付けると、そのまま吸い込み飲み込んでいった。子供っぽいと思われるかもしれないが、琴里はまだ14歳の女の子なのだ。むしろ、これぐらいの子供らしさがないと可愛くない。

 

(はぁ~結局そんなに大したことは分からなかったわね。精霊の事もあるし、なんだか予想以上に疲れる任務ね。士織の事もあるし、今日はこの辺りで帰ろうかしら?)

 

そんなことを考えていた琴里は、ふと窓の外に視線を向けた。

 

「ぶうううううう!!」

 

瞬間、琴里は驚きのあまり口の中のメロンソーダを令音に向けて噴き出してしまう。そこにいたのは、精霊であるはず(なぜか霊装ではなく来禅高校の制服を着ている)の〈プリンセス〉通称十香と、義兄の進介だったのだ。

 

「な、なんで進介が十香と一緒にいるのよ・・・っ!? 空間震警報はなってないはずでしょ!?」

 

「そのはずだが・・・どうやら、精霊には空間震を発生させずにこちらに来る事ができるみたいだね」

 

「そんな話聞いてないんですけどぉ!?」

 

スカートと令音の顏がジュースで濡れていることすら考えられないほどにパニックになっている琴里に、周りの客はただ冷たい視線を送るだけだった。

 

 

 

 

「はぁ・・・せっかく溜めてた財布の中の諭吉さんたちが、たった数時間で・・・」

 

天宮市内にあるとあるゲームセンター。UFOキャッチャーで景品を取ろうと奮闘している十香の横で、進介は別の意味で軽くなった財布の中身を見ながら嘆いていた。歩けば食事、話せば食事、食べれば食事、この数時間で何十件もの飲食店を回ったが、その全ての店で十香はとりあえずおいしそうな物ばかりを食べていったため、コツコツと溜めてきた進介の財布の中のお札はそのほとんどが十香の腹の中の食べ物へと消えていった。

 

「むぅ~おいシンスケ! この機械は私に意地悪をしてくるぞ! 先ほどから何度もやっても全然景品が取れない!」

 

「あぁ~はいはい。十香、それは機械のせいじゃなくてお店の人がそう設定してるからだよ。俺が代わりにやるから、十香は横で見ててくれ」

 

流石にこれ以上景品のきな粉パンのクッションのためにお金を使うわけにもいかないので、十香と交代をする進介。

 

「しかしシンスケよ、この機械はきな粉パンを掴んでもすぐに落としてしまうぞ?」

 

「こういうのはタグの穴に通すのがベストなんだよ。これでも俺、昔ゲームセンターの景品1000円で10個ぐらいゲットしまくってたから出禁になったぐらいなんだぜ?」

 

無論前世の事なのだが、ここで言うのは野暮だろう。言葉の意味がよく分かっていない十香は「なにか分からないが凄いぞ!」と目をキラキラさせている。これほどまでに期待されては、余計に失敗できない。進介は息を整えると、100円玉を投下し、アームを動かし始めた。

 

数分後

 

 

「いや~大量大量! 久しぶりだから腕がなまってるかと思ったら結構いけるもんだな!」

 

1発目で見事目当てのクッションを手に入れた進介は、調子にのってその後も景品を取りまくっていた。3つ同時に景品をゲットすることもあるため、今や進介と十香の持っている景品は巨大な袋3つ分になっていた。その横では、きな粉パンのクッションを抱えて「すごいぞシンスケ!」と目をキラキラさせている十香と、あまりのテクニックに顔を青ざめているゲームセンターの店員と野次馬が集まっていた。

 

「いやはや、まさか500円でここまで取れるとは~さすがにお店の人に悪いからこれで最後にしますか~よっ!」

 

台の中にあった最後の景品をゲットすると、周りから拍手と歓声が飛び交うと同時に、この店の店長であろう男性が腰から崩れ落ちる。すこし悪い気がしないこともないが、別に進介はズルをしているわけではないのだ。心の中で男性に謝ると、進介は先ほど取った巨大なぬいぐるみを袋に入れると、野次馬たちの拍手を浴びながら十香と共に店の外へと出て行った。

 

「多分俺この店もう出禁だな」

 

「ん? 何か言ったかシンスケ?」

 

「いや、別に何でもないよ。それより、次はどこに行く十香?」

 

「むぅ・・・・・おっ! 次はあそこに行ってみたいぞ!」

 

十香が指をさした方向に視線を移す進介。その先にあったのは、見慣れない商店街だった。しかもご丁寧に「ラタトスク商店街」と大きな看板まで立ててある。

進介はもしやと思い、ポケットの中に入れておいたインカムを耳に付け電源を入れる。

 

『お、やっと繋がった』

 

「令音さん・・・あの商店街、〈ラタトスク〉が用意したものでしょ」

 

インカム越しに聞こえてくる令音の眠たそうな声を聴きながら進介は返す。

 

『そうよ。街中で見かけたけど、貴方ベルトさん置いて十香と二人だけでデートしてたでしょ? 国道を派手な車が走ってるって友達から連絡が来たわよ』

 

次に聞こえてきたのは、指令官モードの琴里の声だった。黙っていたことに怒りを感じているのか、若干声が低い。

 

『とにかく、今あなたたちの目の前に商店街があると思うけど、そこでしばらく時間を潰したらとある場所へ二人で行きなさい。言っておくけど、十香に変な事したら殺すからね』

 

「えっ!? ちょっ、待てよ琴・・・・・切れちゃった」

 

琴里の言葉に少しの不安を抱きつつも、目をキラキラさせて商店街の方を見ている十香の顔を見た進介は、十香の手を引っ張り商店街の方へと走っていく。

 

 

 

『全く、進介も酷いものだな。いくら私がいると不自然だからと言って、まさか二人だけでデートに行ってしまうとは』

 

とある駐車場に停めたトライドロンの車内で、ベルトさんはそんな愚痴をこぼしていた。ベルトである自分を付けて回るのは確かに不自然であり目立つことだが、コンビニで買い物があると言いだしたので駐車場で二人が戻ってくるのを待っていたら、まさか置いていかれるとは予想もしていなかったらしい。

 

『確かに私は少々口を出してしまうこともあるが、何も置いていかなくったって・・・』

 

ベルトだからそんなことはないのだが、ディスプレイから涙が出てきそうなベルトさん。

刹那、車内に車のクラクションが大きく鳴り響いた。

 

『うおっ! な、なんだね君たち!』

 

ベルトさんの前に出てきたのは、いろいろな形をしたミニカー――シフトカーと呼ばれるドライブの仲間たちだった。

ベルトさんが驚いていると、何か話すようにクラクションを鳴らしたのは、炎のような形をしたシフトカー――シフトマックスフレアだった。

 

『なに? それは本当なのか?』

 

フレアからの話を聞いたベルトさんは一瞬考え込むと、何かを決断したようにシフトカーたちに命令を出した。

 

『よし、皆は市内の探索をしてくれ。まだどこかに隠れているかもわからないからな。私も進介を見つけ次第すぐに捜索に向かう』

 

ベルトさんの指示を聞いたシフトカーたちは、次々とトライドロンの車内から出ていき街へと走り出していった。ベルトさんもまた、停めていたトライドロンのエンジンを掛け、進介がいそうな場所へと走り出していった。

 




遅れてほんっっっっっっとうに申し訳ありませんでした!
4月に投稿しようと思いつつも、新しい環境になれずに家に帰るとすごい疲れてて書く気になれず、別の作品でちょっとトラブルが起って書くのを自粛していたので気付いたらこんなに遅れました。
まあ遊戯王を何度も見に行ってたのもあるんですが・・・・・来週もいろいろと学校の行事があるので恐らく今月は出来てあと1回ぐらいが限界です。
あと2回で十香編は終了なので、なにとぞ温かい目で見てください。
ではまた今度

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。