デート・ア・DRIVE リメイク   作:鎧武 極

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実戦訓練で彼は何を得たのか

〈ラタトスク〉と接触をしてから2日ほど経った。あれから進介は琴里たちの監視下のもと、〈ラタトスク〉特製のギャルゲー『恋してマイ・リトル・シンスケ』なる物をプレイさせられてしまった。最初はただのギャルゲーだと侮っていた進介だが、実際にプレイをしてみると予想以上に難しく、何度『BAD END』の文字を見たかことやら。そんな苦労を続けた甲斐があったのか、ようやくすべてのエンディングをコンプリートしたのだった。

 

「つ、疲れた~!」

 

パソコンの画面に映ったスタッフロールを全て見終えた瞬間、進介は嬉しさと疲れが入り混じった声を上げて机に倒れこんだ。目の下には隈が出来上がっており、髪の毛はいつも以上にハネ上がっている。手元にある時計はすでに6時を示しているが、今までの疲れが一気に来たため、進介はゆっくりと目を閉じてそのまま夢の世界へと旅立とうとしていた。

 

「お兄ちゃーん! あっさだよー! 早くしないと、学校に遅れるぞー!」

 

愛しの義妹(悪魔)によって目が覚めた進介は、琴里を殴りたい衝動を抑えながらかつてないほどまでに重くなったその体を起こして学校に行く準備を始めた。

 

 

 

 

 

「で、学校の放送まで使って呼び出しておいて何事かと思ったら、なに学校の教室改造してんだよお前ら!」

 

地獄のギャルゲー攻略完了から約6時間。午前の授業も終えて眠りに就こうとした進介に来客の放送が入ったため、少々不機嫌な気分になりつつも物理準備室に来た進介は、今日一番の大声を上げた。

なにせ、ドアを開けた瞬間、目の前の光景が自分の知っている教室を合致しないのだ。何百万円もするであろう機械類に、6台ほどおかれたパソコンとディスプレイ。そして、機械類の一部にはつい2日ほど前に見たマークが入っていた。〈ラタトスク〉のマークだった。

 

「令音には今日から進介のクラスの副担任としてこの学校にいてもらうことになったわ。そのために、ここの教室を〈ラタトスク〉が改造したのよ。そこら辺の探知機じゃ分からないようにね」

 

そう答えたのは、黒いリボンで髪をくくった中学の制服を着ている琴里だった。朝はあんなにかわいかったのに、なぜこんなにも性格が豹変してしまうのだろうか。

 

「なによ? 何か言いたそうな顔ね?」

 

「いえ、なにもございません」

 

これ以上考えるのはやめようと思った進介だった。このままでは何の冗談もなしに琴里にボコボコにされてしまうと思ったからだ。

すると、進介はとあることに疑問を持ってしまった。

 

「あれ?そういえばここにいた先生は? 担当教科が変わったなんて話聞いてないんだけど」

 

「あぁあ」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「では本題に入ろう」

 

「何か言って! お願いだから!」

 

〈ラタトスク〉の黒い部分を垣間見えた気がした進介だった。そんな進介をスルーして、令音はポケットから小さな機械を取り出し、進介に差し出してきた。

 

「〈ラタトスク〉の開発した小型のインカムだ。精霊との会話はこちらでサポートするから、君はこのインカムを通して我々の指示通りに動いてくれ」

 

「分かりました。あと、「君」っていうのやめてくれませんか?俺も令音さんって言いますから」

 

「おっと、すまない。たしか君の名前は・・・・・しょういちだったかな?」

 

「なんか「し」しか合ってない!? あとその名前どこかで聞いたことあるからなし!」

 

「そうか。ならばショウ、君にはこれから実戦訓練に入ってもらう」

 

「いや、間違った名前で愛称つけないで!」

 

令音によって謎の愛称を付けられてご立腹な進介だが、既に令音はその愛称で覚えてしまったのか「まあショウ、落ち着きたまえ。ショウの名前を間違えたことは謝る」と、ショウとしか言ってないため、訂正させることを早急に諦めた。

気を取り直して令音からインカムを受け取ると、進介はそれを耳に付ける。

 

「そういえば、具体的な精霊を救う方法を聞いてなかったけど、一体どうすればいいんだ?」

 

「ようやく本題に入れるわね。貴方が変な事で話を脱線させるから時間が少なくなっちゃったじゃない」

 

「いやそれ俺じゃなくて令音さんが悪いんだからな!?」

 

「ショウ、人の性にするとはあまり感心しないね」

 

「いや、事実だから! なにあたかも俺が悪いみたいな言い方してるの!? ちょっと二人とも、なにあからさまに俺に変な視線向けてくるの!?」

 

「まあ冗談はここまでにしておいてあげましょう」

 

「ここまでのやり取り全部冗談!? ただでさえ寝不足なのに無駄な労力使わせるな!」

 

はぁはぁと肩を上下させて声を上げる進介。思えば、今日の6時までギャルゲーを全クリするために夜更かしをし、授業中は寝るたびに教師から叩き起こされ、士織に弁当を食べさせてもらった後に寝る予定だったのだが、それも琴里が学校に来たためすべてなし。つまり今の進介の体は、人間の限界を軽く超え掛けなのだ。このままだと2度目の死を迎えそうである。

 

「あ、あのぉ~・・・」

 

小さくも透き通るような声が準備室に響き渡る。扉の方に視線を向けると、そこに立っていたのは両手に弁当箱を持った士織だった。

 

「あら士織、どうしたの?」

 

「し、進君のお弁当・・・も、持ってきた・・・」

 

「あっ・・・」

 

士織に何も言わずに教室を出てきたことを思い出した進介は、顔から少しずつ汗が吹き出し始めた。

刹那、進介は後ろに殺気を感じて後ろを振り返ると防御の姿勢を取った。

 

「このドアホオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ぼげっ!」

 

防御していてある程度の威力は抑えられたが、それでも琴里の全力のキックを全て受け止めることはできず、進介は勢いよく後ろに吹き飛ばされ、教室の壁に激突した。

 

「このバカ進介! なに士織を一人にしてるのよ!」

 

「す、すまんこっちも寝ぼけてて・・・」

 

「寝ぼけててじゃないわよ! 士織を一人にするなんて、アンタ本当にバカなの!?」

 

「こ、琴里ちゃんもういいよ・・・! べ、別に何ともないから・・・」

 

怒り狂う琴里を鎮めようと、琴里の振り上げた腕にしがみつく士織。その行動に我に返ったのか、琴里は「ふんっ」と言うと、振り上げた腕を下して、ポケットの中からチュッパチャップスを取り出すとそれを口に含んだ。

琴里がここまで怒る理由を進介はよく知っている。士織がグローバルフリーズによって受けた心の大きな傷を・・・

 

「それじゃあ本題に入るわよ。士織、そこに座って一緒にお弁当を食べましょう」

 

「う、うん。でも琴里ちゃんの分が・・・」

 

「ああいいのよ。私は進介の分を食べるから」

 

「ちょっ! それだと俺は腹ペコのまま授業を受けることになるんだが・・・」

 

「はぁ? あんた、士織を一人ぼっちにさせて食事する権利があると思ってるの? 無知で無能であんぽんたんの進介には昼食ぐらいなくても平気でしょ?」

 

「な、何も言えません・・・」

 

「よろしい。それじゃあさっさと教室から出て実戦訓練開始!」

 

「はい!」

 

琴里に言われるがままに、準備室から出て廊下に出て適当に歩いていくと、準備室からある程度離れたところでインカムに通信が入る。

 

『あーあー。ショウ、私の声が聞こえるかね?』

 

「令音さんですか? よく聞こえてますよ」

 

『よし、とりあえず通信はできるみたいだね。君の動向は〈ラタトスク〉の開発したステルス機能付きの小型カメラで監視している。これである程度君の今の状態を見ながらこちらから指示することができる』

 

「へぇ~便利ですね」

 

ステルス機能がついてるとは、やはり〈ラタトスク〉という組織は相当技術が進んでいるらしい。そもそも、精霊という未確認生命体を保護しようという時点である程度の技術がなければできないことなのだが。

 

――ま、こっちにも科学技術の結晶体ともいえるベルトさんがいるんだが

 

ディスプレイが笑顔になっているベルトさんを思い浮かべながら廊下を歩いていると、目の前から一人の少女が歩いてきた。間違いない、入学式当日に進介に話しかけてきた少女、鳶一折紙だった。

 

『あら、丁度いいタイミングで実験台1号が来たじゃない。〈プリンセス〉は見た目は進介たちと同じ高校2年生ぐらいよ、性格まではわからないけど、相手として不足はないわ。それに、彼女はASTの隊員。上手くいけば、情報を聞き出せるかもしれないから一石二鳥だわ。進介、鳶一折紙に話しかけなさい! セリフは私たちが考えるから、貴方は言われたとおりの事を言って!』

 

「ちょっ! いきなりそんなこと言われてもだな・・・」

 

琴里からも無理難題に反論しようとする進介。心なしか、インカムの向こうから何かを食べる音が聞こえてくる。疲れ切った体に、食べ物の音はあまりにも拷問すぎると思った進介だった。先ほどから腹の虫が飢えたように食べ物を欲しているため、早急にこの訓練を終わらせないと本気で死んでしまう。

進介は意を決して、折紙に話しかけた。

 

「よ、よう鳶一!」

 

「五河進介? 一体なに」

 

まるで機械に話しかけたかのように抑揚のない声で返された。だが、これで諦めてはいけないと、進介は言葉をつづけた。

 

「にゅ、入学式の日だけどよ! 俺、お前に会った事ないみたいなこと言ったよな?」

 

「それがどうかした?」

 

「じ、実はあれ嘘でよ! 久しぶりにお前に会って緊張しちまってさ!」

 

「そう」

 

「実は俺、お前の事ずっと目で追いかけてるんだ! 席が隣同士だからよ、先生の話も聞かずにお前の事ばっかり見てるよ!」

 

「私も」

 

「お願いがあるんだけどさ! お前の持ってる体操服俺にくれないか! 無論下着なんか付けずに、生まれた姿のままで着た、お前の匂いが染みついてるやつをよ!」

 

「了解した」

 

「あと、お前が持ってる下着も全部くれ!」

 

「了解した」

 

「じゃあ最後にお願いなんだけどよ、俺と恋人になってくれないか! 無論、肉体関係だけでもいいぜ!・・・・・って、ここまでの話要約したら、俺ただの変態のクズ野郎じゃないかよ!」

 

『まさか本当に言ったままのこと言うなんて・・・進介、貴方もしかして変態?』

 

「言われたとおりに言えって言ったのはお前だろうが!」

 

後ろを振り返って小声でインカムの向こうにいる琴里と令音に叫び声をあげる。今の発言だけを聞いたのなら、100%ただの犯罪者のセリフにしか聞こえない。折紙から反撃の一撃が来なかったのが幸いと言えば幸いだが、恐らく明日の朝には先ほど言ったことがすべて学校中に広まっているだろう。その可能性を少しでも下げるべく、進介は再び折紙の方を振り返ると、言い訳を言おうとした。

 

「いや、鳶一。実は今のは・・・」

 

「別に構わない」

 

「へ?」

 

折紙からの予想の斜め左上の返答に、進介は一瞬思考回路が停止してしまった。

 

「えっと・・・それって、お付き合いの事?」

 

「そう。それとも、肉体関係だけの方が良かった?」

 

「いや、その・・・そういう関係の方が良いの?」

 

「出来ることならば恋人関係の方が好ましい。でも、貴方が私を自分の性欲を処理するための道具としか思っていなくても構わない」

 

「あ、あのぉー・・・」

 

「体操着と下着は明日持って来る。教室では人の目が多いので、屋上にて渡す」

 

「すみません、体操着も下着もいらないからそれ以上言わないで!」

 

無表情で次々と話を進める折紙に恐怖以上の感情を覚えた進介は、咄嗟に彼女に向かって土下座をした。これ以上話を進められると、本気で何かを失う気がしてならない。

折紙は土下座をしている進介の目の前に腰を落とすと、顔を除いてきた。わざとなのかは知らないが、正面を向くと彼女のスカートの中身が見えてしまうのでなるべく首を反らして彼女の顔だけを見るようにしている。

 

「ならば、私たちは今日から恋人という認識でいいの?」

 

「へ? あ、ああ多分・・・」

 

「そう」

 

折紙はそれだけ答えると、腰を上げて立ち上がる。進介もそれに合わせて立ち上がり、服についたほこりをポンポンと落とす。

 

「ならば進介、恋人ならば秘密事はお互いにあってはならない。だから、今から言う私の質問に答えてほしい」

 

「お、おう。俺に答えられることだったら」

 

「ならば一つ聞きたい。2日前、貴方はなぜあの場所にいたの? 空間震警報も発令されていたにも関わらず」

 

「そ、それは・・・い、妹がファミレスの前でバカみたいに待っててよ! それで迎えに行ってたんだよ!」

 

『ちょっと! なに勝手に人を嘘の材料にしてるのよ! あなたが勝手に来たんじゃない!』

 

琴里が異議を唱えているが、「機械生命体を探しに行ったのさ!」なんてことを言って信じてもらえるはずもなければ、言ってはいけないことだからこの際仕方がない。進介は額に汗を垂らしながら、折紙にウソがばれないかドキドキしていた。

 

「そう。妹さんは無事だった?」

 

「あ、ああ! 特に何のケガもなかったぞ」

 

「それはよかった。あと、一つお願いがある」

 

「ん? なんだ?」

 

「昨日あなたが見た光景はすべて忘れた方が良い。あなたは、こちら(・・・)に来てはいけない」

 

折紙はそれだけ言い残すと、来た道を通って何処かへと消えてしまった。折紙の言った『こちら』とは、恐らく精霊やASTの事なのだろう。だが、折紙はまだ知らない。進介がすでに、折紙達すら知りえない世界に足を踏み入れていることを。

その直後、空間震警報が鳴り響き、進介は〈フラクシナス〉に回収された。

 

 

 

 

 

『酷いありさまだな』

 

「全く、学校に来るとかありかよ」

 

『そういっても、精霊が現界する場所は彼女たちにだって決められないわ。それこそ深海や空中に現れることもあるし、最悪宇宙に現れる可能性だってあるわ』

 

「う、宇宙・・・」

 

頭の中で「宇宙キター!」と宇宙で叫ぶ白い仮面ライダーが頭に思い浮かんだが、すぐにその考えを捨て去る。

腰につけたベルトさんとともに、空間震によって半壊した来禅高校の校舎内を歩いている。腕には念のためにシフトブレスをつけており、首からは宝石部分が翼で包まれたペンデュラムを下げている。

 

『そういえばそのペンデュラム、なぜ毎日持ち歩いているのだ?』

 

「ああぁ、これ? ちょっとばかし大切なものだからさ・・・」

 

ベルトさんに聞かれ、進介は静かにその理由について話し始めた。

このペンデュラムは、進介が五河家に引き取られる前からずっと身に着けていたものだ。進介の本当の親が、進介を捨てる際に幸せになれることを願って渡したものなのかはわからないが、オーダーメイドであることは間違いないらしく、昔ネットでこれと同じ型のものを探してみても一切ヒットしなかった事がある。宝石部分も特別なものらしく、宝石店に行って調べてもらったのだが、少なくとも日本には存在しない種類の物らしく、下手をしたら数億以上の価値があるかもしれないと言われた事もある。

進介がこれを毎日持ち歩いている理由としては、いつか本当の親に会った時に自分だと気付いてもらうためだ。捨てられたとしても、やはり親に対して未練は少なからずある。進介の場合は前世で両親が二人とも急死してしまったために余計にそう感じているのかもしれない。さすがに入学式の日などにはつけてはいないが、それ以外の学校生活や私生活では一日中つけている。

 

『そんな理由があったのか・・・』

 

『お人好しすぎるわよ、自分を捨てた親に感謝を言うなんて』

 

「親は何よりも大切だろ? ま、俺はその記憶がないから本当の両親がどんな顔してるのか全然分からないけど」

 

当の本人は笑っているが、〈フラクシナス〉の艦橋は重い空気に満ち溢れていることを知らない。親に捨てられ、その親のことを覚えていなくとも、感謝をするために見つけてくれることを信じて待つ少年に、クルーの何名かはうっすらと涙すら浮かべている者までいる。

 

「それにしても本当に任せていいんだろうな?」

 

『何を言っているのよ。〈フラクシナス〉のクルーはみんな優秀だし、あなたをサポートする人たちだってみんな恋愛マスターなのよ?』

 

「恋愛マスターって・・・」

 

進介は先ほど琴里から紹介されたクルーたちの説明を思い返していた。5回の結婚と離婚をした男に、金の力で夜のお店の女子に騒がれている男に、呪術で恋敵に不幸をもたらす女に、2次元だけに嫁を100人もつ男に、法律で恋人に近づけなくなった女と、不安要素しかない者たちが今後の進介のサポートをする者の簡単な紹介だった。

そうこうしている内に、進介は〈プリンセス〉のいる2年4組の教室の前まで来ていた。

 

『さあ、私たちの戦争(デート)を始めるわよ』

 

 

 




Q実戦訓練で彼は何を得たのか?

A変態な彼女を手に入れました


なんとか書けたー!描写を結構削ったので原作より進行度が早かったけど、大丈夫かな~?
仮面ライダー1号見てきました!昔から仮面ライダーを知っている大人の人用の映画という感じでしたので、小さい子供にはお勧めしない作品ですね。僕も初日に見に行きましたが、子供より大人の人が多かった気がします。
笑いがありつつも、昭和のライダーらしくシリアスもちゃんとあり、まさに「仮面ライダー1号」を体現した作品でした。気になる方はぜひ劇場に!

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