デート・ア・DRIVE リメイク   作:鎧武 極

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ラタトスクとはなにか

進介は今、前世も含めて生まれて初めて女性に目を奪われている。まるで高級人形のように繊細に整えられた顔に体。彼女が着ている鎧のようなドレスも、今の技術では作り出すことが出来そうにない光の繊維が練りこまれており、『今見ているのは現実ではない』と言われた方が納得がいくほどの現実離れした美しさ。手に握っている巨大な剣も、その容姿と相まってか攻撃的な雰囲気と共に芸術品のような雰囲気を醸し出している。まさに、神に愛された存在と言っても過言ではない。その悲しげな眼を除いて

 

「貴様、その腰につけているのはなんだ」

 

少女から発せられた声。透き通るような声は、進介の耳を通って頭の中に入ってきた。恐らく、少女はベルトさんの事を聞いているのだろ。ここで素直に答えるべきか、それともいったん引くか。相手が何者か分からないのにこちらの事を話すのはリスクが大きすぎるが、この空間震が彼女が起こしたのだと考えるのなら、後者を選んだ場合命の保証はない。進介は、ゆっくりと口を開いた。

 

「これは俺の相棒の『ベルトさん』だ」

 

『どうも、私がベルトさんだ』

 

「っ! 鉄の塊が喋っただと!? 貴様、やはり『メカメカ団』の仲間だな!」

 

ベルトさんが喋ったことに驚く少女。それが初見の人の反応なのだが、『鉄の塊』呼ばわりされた本人は少し癪に障ったのか、ディスプレイに怒りの顔が浮かんでいる。

 

「まあ気にせず普通にしてくれ。あと、これは鉄の塊じゃなくて現代より遥かに優れた最先端の科学技術の塊の『ドライブドライバー』だぞ」

 

「ドライブドライバァ?」

 

なんだか最後が変な感じもするが、一応攻撃的な性格ではないということが分かった。現に、手に持っている剣を下して少し警戒しながらもベルトさんに興味を示している。

 

「それよりも君、さっき『メカメカ団』とか『私を殺しに来た』とか言ってたけど、一体何のことだ?」

 

「はっ! そうだった! 貴様、その喋るドライブドライバァとかいう物を付けているということは、『メカメカ団』の一員なんだろ!」

 

「いや、俺はそもそも『メカメカ団』なんてものは知らないし、それに俺は()()()()()()()()()()()()()

 

「嘘を言うな! 奴らは、皆私を殺そうとしていたぞ!」

 

「は? いや、どこの頭狂った奴の集団だよその『メカメカ団』って奴ら」

 

聞けば聞くほど、その『メカメカ団』という集団の事が分からなくなってしまう。もし彼女が空間震の原因だとしても、彼女の反応を見る限りそれには理由があるはずだと初めて会った進介にも分かる。彼女の口ぶりから察するに、『メカメカ団』は少なくとも数度彼女と接触しているのだ。ならば、なぜ彼女を殺そうとしているのか。そもそも、なぜ『メカメカ団』の事を進介は何一つ知らないのか。予想されることはただ一つ、国家間によって秘匿された武装組織(・・・・・・・・・・・・・・・・)。それが、彼女の言う『メカメカ団』の正体だ。

 

『ッ! 進介、後ろに避けろ!』

 

「っ!」

 

ベルトさんに言われて、咄嗟に少女の剣を握っていない方の手を握って後ろに避ける進介。次の瞬間、つい先ほどまで進介たちがいた場所で爆発が起きる。ガスなどによる爆発などではなく、明らかに武器による爆発だ。

空を見上げると、そこにいたのは空に浮かんでいる女性たちだった。軍などでは見たことがない武装をしているうえに、全員が空に浮かんでいるというあり得ない状況。おそらく、彼女たちが『メカメカ団』だろう。たしかに、全体的にメカメカしい格好をしている。

 

「奴ら、また来たか」

 

「またって事は、やっぱりあいつらが『メカメカ団』か?」

 

「ああ、貴様は早く逃げたらどうだ? 先ほどの動きは見事だったが、こんな場所にいたら同族に殺されるぞ」

 

少女はそれだけ言うと、下していた剣を両手で握りしめ、地面を蹴って『メカメカ団』へと向かっていった。女性に戦いをさせるのは気が引けるが、あくまで『変身』はロイミュードとの戦闘のために使うものだ。人間相手には使えない。ここは少女に任せて一時退却をしようとしたとき、少女と戦っていた『メカメカ団』の一人が進介の目の前に落ちてきた。土煙でよく見えないが、年齢的には進介と同じぐらいだろうか。体の大きさからそれほど年の差を感じさせない。土煙が晴れてきて、気になった進介は少女?の顔を覗き込んだ。

 

「う、嘘だろ・・・?」

 

進介は、目の前に落ちてきた少女の顔を見て驚きを隠せなかった。肩まである白い髪に、先程の少女と同じように整えられた顔立ち。水着のような露出の多いスーツと、ロボットアニメに出てきそうなリアクターを背中に背負っているが、間違いない。今朝会った少女、鳶一折紙だった。

 

「と、鳶一・・・なんでお前、そんな」

 

「っ! 五河進介? あなたこそなんで・・・」

 

なぜこんな場所にいるのかが理解できない。鳶一の表情からそんな事を思っているのだろうと考えるのは簡単だった。だが、今はそんな考えを捨てて一刻も早くこの場から逃げなければならない。ロイミュードを逃すのは惜しいが、状況が状況なので仕方がない。進介は鳶一をその場に残してトライドロンに向かって帰ろうとしていた時、聞きなれた声が耳に入ってきた。

 

「進くーん! どこにいるのー!」

 

「姉ちゃん!?」

 

学校のシェルターにいる筈の姉、五河士織の声が聞こえてきた。まさか、いなくなった進介を探しに空間震警報が解除されていない町に来るとは思わなかった。

急いで声のする方に上がってみると、やはりそこにいたのは士織だった。

 

「姉ちゃん! なんでこんなところに!?」

 

「だ、だって・・・進君が心配だったから・・・」

 

「だからって、空間震警報が解除されてないのに探しに来るなんて無茶なことを!」

 

「し、進君だって琴里ちゃん探しに勝手に・・・」

 

「それはあとでちゃんと説明するから、早くここから逃げ・・・」

 

『進介! 上からミサイルが飛んできてるぞ!』

 

一緒に避難しようと、士織の方に寄りかかろうとして瞬間、ベルトさんに言われて上を見上げる進介。先ほどの少女と戦っていた『メカメカ団』の撃ったミサイルが、軌道を外れてこちらに向かってきていたのだ。しかもその進行方向の先にいたのは

 

「まずい! このままじゃ姉ちゃんに! 姉ちゃん、早くそこから逃げろ!」

 

「えっ?」

 

進介に言われて少し上を見る士織。ミサイルは、もうすぐそこまで来ていた。士織はその場から動くことができず、咄嗟に目を瞑ってしまう。

士織にミサイルが直撃しようとした瞬間、士織は風と共に何かに抱き上げられその場から消え去り、目を開けた次の瞬間には、先程いた場所から少し離れた場所にいた。

 

「えっ・・・」

 

自分に何が起こったのか分からない士織。だが、自分は誰かに抱き上げられている。人間の肌の温かさではなく、機械のような冷たい感触。その正体を知ろうと、士織は自分を抱き上げているであろうその人物に視線を向けた。

 

「な、なによあれは・・・」

 

『メカメカ団』の内の一人が、攻撃をする手を止めてそれ(・・)に視線を向けた。

赤い装甲に黒いスーツ、そして片からタスキを掛けているかのように装着された黒いタイヤ。まるで、車を擬人化したかのようなその容貌に、『メカメカ団』や少女を含めた全員の視線が集まっていた。

 

「仮面、ライダー・・・」

 

士織が呟いたその言葉とともに、仮面ライダーと士織はその場から姿を消した。

 

 

 

 

「・・・んぁ? うぉっ!」

 

「あ、目が覚めたか・・・」

 

医薬品の漂う一室で目を覚ました進介は、叫び声をあげた。軍服を着ている眼に隈の出来た見知らぬ女性が、自分の目の前にいたからだ。それよりも、先ほどまで自分は破壊された街中にいたはずだ。士織を助けるために咄嗟に変身をして、その後は・・・

 

「ね、姉ちゃんは!?」

 

「落ち着きたまえ。君の姉は無事だ」

 

「無事って・・・そもそも、あんた誰だ?」

 

「ああ自己紹介が遅れたね、私はここで解析官をしている村雨令音という者だ。医師の免許は持ってはいないが、簡単な治療はできるので君の治療を担当させてもらった」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・ここ?」

 

ふと進介の頭に疑問が走る。今しがた令音は、『ここ』と言った。時計を見ても、時間はあの少女と会った時から1時間も経っていない。シェルターの中にある医務室だと一瞬思いもしたが、それにしては人の気配が全くしない。進介は気を失う前の状況を頭の中で整理していく。士織をミサイルから助け出した後、たしか目の前が一瞬で街中から見たこともない場所に代わって・・・

 

「そうだ! 俺、たしか変な場所に移動したと思ったら足を滑らせて頭打って・・・」

 

「そうそう、あの時はこちらも焦ったよ。頑丈なはずの〈フラクシナス〉の内部装甲が大きくへこんだかね」

 

「す、すみません・・・って、〈フラクシナス〉?」

 

「ああ、詳しい話は君に会わせたい人もいるからその人から聞いてくれ。私が案内する」

 

令音はベッド横の椅子から腰を上げると、カーテンを開け、ふらふらと危なっかしい足取りで医務室の扉に向かう。扉の手前に来た瞬間、令音は足を滑らせるとそのまま扉と衝突し、床へと崩れ落ちた。

案の定というか、想定内の事態が起きた進介は令音に駆け寄ると、冷静に令音に聞いた。

 

「俺がおんぶしますから、道案内だけしてくれませんか?」

 

「すまない、頼むよ・・・」

 

 

 

令音をおぶって歩くこと数十分、電子パネルの付いた扉の前まで来た進介は、令音をパネルの近くに近づけてロックを解除してもらっている。解除をしている間に、進介は周りにある見慣れない機械に視線を移していた。ベルトさんやトライドロン達と比べると技術的には劣っているように見えるが、それでも現代の数世代先の科学で作られたとしか思えない機械類の数々。それに、先程から感じている違和感。体が妙に軽いというか、飛行機に乗った時の同じように足元が浮いているというかなんというか。令音を連れてくるときにも思ったが、この場所は異常なぐらいに広すぎる。どこかの建物というより、戦艦(・・)にいるかのような広さを感じる。

そう考えているうちに令音がロックを解除し終わったのか、扉が開く音が聞こえてきた。進介は令音をおぶったまま扉の中に入っていく。

 

「連れてきたよ」

 

「ご苦労様です、村雨解析官。あと、その状態は『連れてきた』ではなく『連れてこられてきた』と言った方が良いのでは?」

 

金色の長髪をした高身長の男性に話しかける令音。着ている白い服は、アニメなどで見る軍服のような装飾が施されており、どことなく位が高い人なのだろうと分かる。

 

「神無月、無駄話は良いからはやく彼に説明をするわよ」

 

「はっ、指令」

 

金髪の男性――神無月と言われた男性は、すぐ横の椅子に座っている幼い声に答えると、一歩足を引いてその場から動かなくなる。

代わりに、その椅子に座っている人物が椅子を回してこちらに顔を向けてくる。赤い軍服に黒いリボンで結んだツインテール。声のトーンは少し違うが、間違いない、進介の義妹の琴里だった。

 

「こ、琴里?」

 

「ようこそ進介、ようこそ〈ラタトスク〉へ」

 

『し、進介~助けてくれー!』

 

「ベルトさああああああん!」

 

琴里の態度の変化よりも、数人の男女によって解体寸前のベルトさんに驚く進介だった。

 

 

 

 

 

「以上が、彼女たち精霊についての説明よ。って、聞いてるの?」

 

「つ、疲れて内容があまり入ってきていません・・・」

 

『あ、危うくスクラップになるところだった・・・』

 

ベルトさんを解体しようとした男女と格闘をすること数分、なんとかベルトさんを救出した進介は、肩を落として弱弱しい声で返事を返す。右手には、ディスプレイに悲しみの表情を映したベルトさんが握られている。

 

「つ、つまり要約すると、あの女の子は精霊っていう空間震の原因にもなってる生命体。それで、あの『メカメカ団』はASTっていう精霊を殺すための特殊武装集団。対して琴里たち〈ラタトスク〉は、精霊を救うために存在する組織で、俺は精霊を救う人に選ばれたっていうことだろ?」

 

「あら、その微生物並みの脳みそしかない貴方にしては要点を抑えて説明できてるじゃない」

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

普段の言動からは想像できないほどに口が悪くなっている琴里に、進介とベルトさんは言葉を失った。目の前にいる琴里は、クローンか人間に限りなく近い容姿のロボットだと言われた方がまだ納得がいく。それほどまでに、目の前にいる琴里の性格は豹変していた。

 

「で、ここからが本題だけど」

 

琴里のトーンが低くなった声に背筋を震わせる進介。

 

「なんであんな場所にいたのかしら? しかも、私がまだ外にいるなんて嘘までついて」

 

「うっ、痛いところを付いてきますな・・・」

 

ゆっくりと琴里から視線を外していく進介。おそらく、士織から事情を聞いたのだろう。

 

「話しなさい進介。そのために士織を外しているのよ」

 

この場に士織の姿はない。おそらく、これから進介の話す事を理解しているからの配慮なのだろう。いや、士織だけではなく、恐らくこの場にいるほとんどの人が聞きたくないことを、進介は話さなければならない。

 

「・・・グローバルフリーズ、覚えてるだろ?」

 

「覚えてないわけないでしょ。あんな事件・・・」

 

グローバルフリーズ。その単語が飛び出た瞬間、琴里の表情が一気に暗くなった。琴里だけでなく、その場にいたほとんどの人の表情が暗くなっているのが嫌でもわかる。

グローバルフリーズとは、今から2年ほど前に全世界で同時に起きた、「人類史上最悪の災害」と言われた事件だ。突如として時間が止まり、その際に起きた爆発などで出た死者行方不明者は全世界を合わせて約10億人。人類の7分の1の人間が亡くなり、場合によっては国家そのものが消滅した国まである。被害はそこまでで抑えられはしたが、未だに多くの人の心に傷を残し、その時に起こった時が止まる現象は『重加速』、通称どんよりとして人々から恐れられている。

 

「まあ一般的に知られているのがここまでだ」

 

『だが、これには真実がある』

 

「真実?」

 

『重加速の発生原因でもあり、私たちが倒すべき存在』

 

「人間が作り出した機械生命体、通称――ロイミュード」

 

「ロイミュード?」

 

琴里が首を少し捻って聞いてくる。

 

「ああ。それを倒すのが俺の役目だ」

 

「役目って・・・あなた、やっぱり私や士織に隠してることがあるわね」

 

「やっぱり薄々は気付いてたか」

 

「当たり前でしょ。ベルトさんみたいなAIが搭載されたベルトにトライドロンみたいな超高性能マシンが来たら誰だっておかしいとは思うでしょ」

 

そりゃあそうですよね。進介は心の中でつぶやくと、さすがに無理がある設定でベルトさんとトライドロンを送り付けてきた神様に文句を言いたい気分だった。

 

――いや、さすがに雑誌の抽選で当たるなんて無理があり過ぎるよ神様

 

たまたま送った雑誌の景品に応募してみたら、超特別枠という意味の分からない物に当選したと思ったらそれがベルトさんとトライドロンで、家族一同相当驚いたという今となっては懐かしい記憶になったあの日の事を思い出す進介。

 

「まあ俺とベルトさんがやってることについては後で話す。そういえば姉ちゃんは?」

 

「士織ならとっくに家に帰してるわよ」

 

「そうか。じゃあ俺もここらへんで・・・」

 

士織が帰ったことを知るなり、進介もベルトさんと一緒に家へ帰ろうと扉の方に体を向け、指令室から出ようとした瞬間、その行先を黒服を着た体の大きな二人の男性に阻まれた。

 

「なにを言っているのかしら進介?これから貴方には、精霊攻略のための訓練(・・)をしてもらうわよ?」

 

琴里の言葉に、進介はただただ肩を落とすだけであった。




デート・ア・ライブ14巻、六喰プラネット読みました!
うん、やっぱり今回も面白かったし六喰が可愛かった!ただ、5月にアンコール5発売で、恐らく7月か8月はクオリディア・コードを発売すると思うから次の15巻は9月か10月ぐらいになると思うんですよね~(やばい今から待ち遠しい)

恐らく今月中に十香編は終わると思います。いや、終わらせないといけない!
ではまた今度

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