慎二くん転生する 強くてニューゲーム   作:茶ゴス

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差異

 桜を救出してから早いもので9年がたった

 

 学校に行ったことのなかった僕は周囲のレベルの低さには心底驚いた。勉強面に関しても運動面に関してもレベルが低すぎるのだ。高校生になった今でもそれは思う。

 入学時には競おうとする相手もいたものだが、大抵の奴が暫くすると僕とのレベルの差を実感し諦めていく。そんな僕を見て何を思ったのか大勢の女が群がってきていた。

 

 夢での僕は少し優越感に浸っていたようだが僕は違った。こんな奴らを相手にするくらいなら更に僕を高めたいと思う。聖杯戦争での記憶のせいかはわからないけど、周りが幼稚に見えたのも要因の一つだろう。あいつなら一緒にいても目障りじゃあなかったな

 

 

 そんな僕にも敵わない奴はいた。衛宮士郎…弓道ではいくらやってもそいつには勝てなかった。だから僕は部活は弓道部に入り、弓の腕を鍛えつつ競っていたが、あろうことか衛宮は弓道部を退部。対する僕は副部長となった。

 夢ではそれに鼻をかけよく衛宮を挑発していたけど、結局のところ。夢での僕の唯一の友達だったのだろう。どんだけ言っても許してくれる衛宮に甘えていた夢の僕は、幼稚だとは思うけどね。

 

 

 いつか衛宮を弓道で負かすという事は決定事項として、次に気になる奴はいた。遠坂凛だ

 はっきりとは覚えていないが、外見的に見れば月の聖杯戦争との違いは胸だろう。もしかして自分のアバターのバストをあげていたんじゃないか?もしそうだとすれば哀れな奴だな

 夢の僕はこの遠坂に告白して振られたような関係だけど、僕と遠坂は違う。間桐家当主と遠坂家当主のライバルのような物と言ったらいいのだろうか。魔術面では互角だが、あいつは少しうっかりをやらかしたりする事を考えれば、勝ってるとも言えるのかもしれない。勉強面、運動面は僕のほうが上だ。これなら月の遠坂の方が頭がいいんじゃないか?と何度思った事だろうか。

 

 

 桜は最初の数年は感情の変化も乏しく、笑ったり泣いたりすらしなかったが、ある日桜と買い物に出かけた時に、バイクに乗った英雄王が颯爽と現れ僕達を拉致。

 教会の愉悦部と書かれたプレートを貼った部屋に連れて行かれた。そこには、【愉悦部部長】と書かれたプラカードを首にかけ、見ているだけで痛みを覚えそうな真っ赤な麻坊豆腐を食べる神父の姿が。

 それに唖然としている僕と、何を考えているのかがわからない桜に【愉悦部平団員】【愉悦部ますこっと】と書かれたプラカードをそれぞれ僕達に渡してくる英雄王。

 僕達がプラカードを受け取ると首にかけた【愉悦部顧問】と書かれたプラカードを揺らして高笑いをする英雄王は本当に英霊なのかと考えさせられた。

 だが、その時に何故かはわからないが桜は笑った。初めて見た桜の笑顔に何故か照れくさくなってそっぽを向いた記憶がある。

 

 

 それ以降桜はゆっくりとだが感情を表すようになり、今では衛宮の家に通い料理を習ってるそうだ。

 

 衛宮はいいやつだが、あの自己犠牲の塊に恋をするのはやめておいた方がいい、と口走りそうになったが、よくよく考えてみるとあいつも中々に自分を省みない奴だった事を思い出し、結局のところ桜が恋をするのはそういう奴なんだと自己完結し、見守ることにした。

 

 

 それからもちょくちょく英雄王に拉致され、望んでもいない部活動に励んでいる僕はある日愉悦部部長からこう告げられた。

 

 

「聖杯戦争が始まる。間桐家として出場するのならばサーヴァントを召喚するのだな」

 

 

 それを聞いて僕は少し狼狽した。また聖杯戦争が起こる…8歳で経験した聖杯戦争とは違うがそれでも僕にはある記憶が蘇る……僕の身体が"消えていく"感覚

 

 もう乗り越えた筈だった。忘れてはないが克服した筈だった。

 それでも、僕の身体が震える。またあの"殺し合い"をしなければならないのか…そう頭で理解し、身体は正直に怯える。

 なんて情けないんだろうか。そう自虐し、こみ上げてくる恐怖に薄ら笑いを浮かべた

 

 そんな僕に気付いたんだろう、一緒に拉致されてきていた桜はこう告げた

 

 

「私が、聖杯戦争にでます」

 

 

 驚愕した。幼少時の事を考えれば魔術に関わりたくもない筈なのに、桜は参加を表明した。

 確かに魔力の量は僕よりも多いがこれまで魔術から離れて暮らしてきた桜に、果たして聖杯戦争を生き残る事が出来るのか……否。できるわけがない。

 

 少し桜の手が震えているのがわかる。やはり桜も怖いのだろう。

 

 

 そして思考した……

 

 ははっ、本当にばかみたいだ。桜を護るためだと考えれば途端に参加しないという選択肢が僕の中から消え去った。本当にどうしちゃったんだろうか、僕は。

 他人に自分勝手にあたりちらしてるのが僕らしいのに、こんな義妹の為に何かをする人間なんて僕らしくない。

 

 

 本当に、馬鹿みたいだ

 

 

 震える手を抑えて部長に告げる

 

 

「聖杯戦争、間桐家から2人出ることは可能か?」

 

 

 質問。普通ならありえない質問だが、それでも聞く。

 

 聖杯戦争ともなれば周囲の人間にも被害が及ぶかもしれない。その時桜を護ることが出来るサーヴァントは多いに越したことはない。僕も多少なら自衛も出来るが桜は自衛なんて出来ない。それなら少しでも桜が危険にならないためには

 

 2人で参加するのが一番良いのだ

 

 

「ふむ、それはこちらからは答えられぬな。だが一つ言えることとして、聖杯に選ばれた者だけしかサーヴァントを召喚出来ぬ。即ちその資格があるのならば2人共参加することは可能だろう」

 

 

 そう告げ、麻婆豆腐を食し始める部長を横目に思考を巡らす。

 

 今の話が本当ならば召喚は試したほうがいいな。もし早い者勝ちだった場合を考えて急いだ方がいいのかもしれない。

 

 

 僕は桜を連れて部屋を出る。その際に見えた英雄王の笑みに少し不安を覚えつつ教会をあとにした


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