慎二くん転生する 強くてニューゲーム   作:茶ゴス

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葛藤

幸いにも現実の僕のように家に縛り付けられていると言う事もなく、普通に家を出ることが出来た。一人で外を歩くのは実を言うと初めてのことである。どうやら、遠巻きに蟲が監視しているが、それを踏まえても今の僕は少し晴れ晴れとしていた。

 

電脳世界では味わえなかった空気を感じる。いくらリアリティに出来ていたといっても、あの身体はポリゴンの塊だ。確かに、痛覚や触覚、そのほかの感覚は存在したが、現実と電脳世界の違いははっきりとわかった。

 

照りつける太陽は鬱陶しいながらも自己主張をし、気温を引き上げる。外へ出て10分程度で汗が流れてくる。

金を持たずに外出したのは失敗だったな。あっちでは携帯端末に入っていたから、金を持ち歩くという事を忘れていた。

 

無いものは仕方ないと割り切り、道を歩く。

 

祖父の蟲は不気味な形状をしていた筈だ。ならば、人通りが多い所では、その動きを止めるとまでは言えなくても、抑制する事は出来るだろう。溝の中に入っている事も考慮し、住宅街でなく商店街へ向かう。まずは、蟲からある程度距離を離すことが重要だ。そして、故意的だと悟られないように教会へ向かうしかない。

 

商店街へ向かうにつれて周囲の活気が増えるのがわかる。それとともに、少しだけ。ほんの少しだけ離れる気持ちの悪さ。

 

 

「ふふん、やっぱり天才の僕の作戦が失敗することはないな。」

 

 

改めて僕の優秀さを実感する。だけどここで油断しちゃいけない。慢心して失敗するなんて、3流ゲーマーのやることだ。1流ゲーマーの僕はここから更に追い込みをかける。

 

ここでしてはいけないこと、一つ目として教会へまっすぐ向かわない。二つ目は人の少ない所にはいかない。

 

問題があるとすれば2つだ。僕の体力が持つこと、教会についてからどう行動するか。

 

 

本当は一つ一つ作戦を考えてから行動するのが僕なんだけど、急いだ方が良さそうな気がして実行している。恐らくはまだこの事態に混乱しているのだろう。もう少し時間が欲しいところだけどそんな事も言ってられないと思う。まあ、天才の僕に出来ない事は早々無いだろう。それが例え極悪難易度でも臨機応変にするしかない。

 

商店街の中を通り、駅前通りへ。どうやら今日は休日だったようで、学生の姿は見えない。まあ、通勤途中のサラリーマンとかはいるから、人通りは多い。

 

こんな状態を保ちつつ、折を見て教会へ向かうとしよう

 

 

 

 

 

 

教会の入り口に立つ、蟲は教会に近付く直前に一度接近してきたようだけど、すぐに距離を取ったようだ。少し不審に思われたかもしれないけど、8歳の孫が街を散策して教会にきたと思ってくれるだろう。まあ、それが失敗していても、この教会で失敗しなければいいだけだ。後は覚悟をきめるしかない

 

 

——教会の扉を開いた

 

 

いくつもの長椅子がならび、奥には祭壇がある。

幸いにもあの神父はここにはいないようで、ガランとしていた。

 

 

「無人なのに鍵が開いているなんて不用心すぎるね。」

 

 

あの不気味な顔を思い浮かべ、やれやれと頭をふり、奥へ進む。

何処にいるかはわからないが、ここにギルガメッシュがいる事は間違いがない。祭壇の横にある小さな扉を開き、歩を進める

 

若干、先程の僕の家の廊下に似たような感覚を覚える洋風の廊下を進み、ある扉の前で足を止める

 

 

「……テレビの音が聞こえる?」

 

 

わずかに盛れる音、他の部屋はまったく感じなかった気配がこの中からする。

絶対的な強者の気配。そのことからも、この中にいることがわかる。

 

 

——足が竦む

 

 

メルトリリスと対峙する前のような心境だ

いや、あの時とはだいぶ違うのだけど、それでも足が竦む。

 

今の僕にはサーヴァントはいない

ギルガメッシュと対峙して果たして無事に帰ることは出来るのか……

 

 

 

「やめだやめだ。やっぱりこんなの僕のキャラじゃない」

 

 

逃げる。逃避する

いつかあの引きこもり女に言ったように、怖くて逃げることは臆病ではあっても、情けないなんて事はない。

 

 

——情けない

 

 

自分でもわかっている。僕がどんなに頑張っても出来ない事がある事を

 

 

「おとなしく、家に戻ってゲームする方が有意義に決まってるし」

 

 

そう言い聞かせる。

自分の逃避を正当化させるための体のいい言い訳。

 

でも

 

 

 

どうやら僕は本当に頭がおかしくなったようだ

 

 

——両手でドアノブを握る

 

 

「まったく、それもこれも。全部あの時におかしくなったからだ」

 

 

一度死んだというのは随分と僕の性格を歪めたようだ。本当にさ

 

 

「ムカつくよ。こんちくしょう」

 

 

僕は、ドアを開いた。

 


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