穴の上、キリトとリズが穴を覗く。だが、そこからエイトマンは見えない。そんな状況でもドラゴンは攻撃をやめない。突進して来た。
「リズ!転移結晶を使え!」
「で、でも!」
「早く!俺一人じゃ君を守りながら戦えない!」
言われて渋々頷くリズ。リズが転移したのを確認すると、剣を出して構えるキリト。
「はあああぁぁぁぁぁっっっ‼︎‼︎‼︎」
そして、そのまま一人で突っ込んだ。
________________
穴の中、俺は目を覚ます。
「生き、てたな…」
思わずそんな声が出る。まさか人を庇って自分が落ちるなんてな…とりあえずここから出ないとどうしようもない。とりあえず、転移結晶を取り出した。だが、やはり作動しない。
ステージトラップ、それも転移無効か。こいつは困ったな。それに、リズやキリト達も心配だ。ドラゴンは倒せただろうか。とりあえず、さっさと出てキリトの援護に行かないと、次はリズかキリトがここに落ちてくるかもしれない。
……壁を走る。
ふと、そんなことを思い付いた。やって見る価値はあるな。
「よっと!」
ダダダダダッ!と壁を駆け上がる。だが、途中で足を滑らせてしまった。そりゃそうだよね。知ってました。
ダメか…。転移は無理、壁も上がれない。
……詰んでね?これ、終わったな俺。しかも一番嫌なすぐに消えるパターンじゃなくてじわじわと消えていくタイプ。うわあ、面倒臭ぇ…。いっそ、切腹でもしようか。そう思ったがキリトなら助けにくるかもしれない。
それまで待つか。
だが、それまでジッと待つつもりもない。なにかしらヒントがどこかにあるかもしれない。いつからこのゲームは脱出ゲームになった。とりあえず、その辺を漁ってみる。すると、なにかダイヤモンドみたいなものを見つけた。
「これは…」
アイテム名、クリスタルインゴット。つまり、俺達の目的である金属だ。なぜこれがここに?確かドラゴンの体内で生成されるとか言ってたな。それが何故ここに…いや、生成されるということは体内で作られるという意味か。
つまり、元々体内あったわけではなく、生きているうちにいつの間にか出来ていたということになる。
体内で生成され、それが外に出るもの…排泄物しか思い羽化ばねぇ…。つまり、クリスタルインゴットとはドラゴンのう○こということか。こんなもののために…俺は。
いや待て。それがなぜここにある?その答えは簡単だ。ここがドラゴンの巣と考えるのが妥当だろう。
てことはさ、
ドラゴンが帰ってきたらそれに乗って帰れんじゃね?
そこまで思考が回った時、俺は穴から大声を出した。
「キリトォォォォッッ‼︎‼︎‼︎そいつ殺すなぁぁぁぁぁっっ‼︎‼︎‼︎マジでやめてぇぇぇぇっっっ‼︎‼︎‼︎」
だが、その瞬間グオオオォォォォォッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎とドラゴンの声とパキィィィィンッとどっかで聞いたことあるエフェクト音が聞こえた。
「てめぇぇぇっ‼︎‼︎覚えてやがれぇぇぇっっ‼︎‼︎‼︎」
なにあいつ、俺に恨みでもあんのかよ。その幻想をぶち壊されたよ。
……疲れたな。とりあえず、今日は休もう。これ以上は疲れるだけだ。ドラゴンは夜行性だ、夜の間は帰ってこないからゆっくり眠れる。さて、とりあえず明日に向けて寝るか。
______________
目を覚ますと、天井があった。えっと…確か昨日はリズとキリトと金属取りに行って…穴から落ちて、ドラゴンの巣へ…あれ?ドラゴンの巣に天井なんてあったっけ?なにそれドラゴンからアットホーム感が感じられるよ。
と、思って二度寝しようとしたら、ヌッと俺の目の前にリズの顔が出て来た。
「みんなー起きたわよー」
そして、バタバタと俺の周りに集まってくるキリト、アスナ、シリカ、エギルさん、バンダナの人…てかなんでお前らいんだよ。あと最後の、誰だお前。
「ふわぁぁ…おはよ」
「おはよじゃなくて!大丈夫なのエイトくん!?」
アスナに聞かれる。や、なにが?至って健康体ですけどなにか。
「や、なにが?あとエイトくんってなに?」
「エイトマンじゃ長いからエイトって呼ぶことにしたの。それよりも大丈夫?あなた穴の中で気絶してたんだよ?」
「いや気絶なんt…」
「だ、大丈夫なの!?ほ、ホントに痛いところない?」
「ねぇって…つーかなんで俺ここにいんの?確かドラゴンの巣で…」
「あぁ、それなんだけどな」
キリトの説明を要約すると、リズが片っ端から剣を作り、それを壁にぶっ刺して逆フリークライミングのようにして降りてきたという。
「よくそんなの思い付いたなお前ら。壁走ろうとかドラゴンに捕まって出ようとか考えてた俺がバカみたいじゃねぇか」
「ま、助かればいいじゃねぇかよ!」
バンダナの人が偉そうに言う。だから誰ですかあんた。
「あの、エイト…」
そこで、リズがおずおずと出てくる。
「ごめんね、私のせいで…」
「べつにお前のためにやったわけじゃねぇよ。全員落ちるっていう最悪の事態だけは避けたかっただけだ」
「捻くれ者め」
「殺すぞキリト」
とうとう仮想世界でも言われてしまったか…。今度はアスナがさっきとは違ったいたずらっぽい口調でいう。
「ま、確かにエイトくんは捻くれてるよね」
「悪かったな。父親のクズを育てる英才教育の賜物だ」
「エイトさん」
なぜかご立腹のシリカさん。
「な、なんでしょう」
「私はすごく怒っています」
その小町みたいな言い回しやめろ。千葉には連れてかねぇぞ。
「は、はい」
「なんでだか分かりますか?」
と、言われてもまるで覚えがない。なに?なんかあんの?俺がなにしたの?
「さ、さぁ…」
「まさか、分からないんですか?」
「さ、サーイエッサーと言おうとしたんです!」
「なら、答えて下さい」
な、ホントになんだよ…。キリトに助けを求める、ニヤニヤしてる。ぶっ殺すぞ。
アスナに求める、苦笑い。え、その一番困る反応やめて?
リズに求める、ジト目。なんだよその目。
エギルに求める、なぜか親指立てられた。
バンダナの人には聞いてないのになぜなコクコクと頷いてる。ホント誰ですか。
「あの、やっぱ分か」
「約束したじゃないですか!自分を犠牲にしたような解決はダメだって!」
あーそーだったか。だが、これには反論の余地がある。
「いやいや、今回はどうしようもなかったっつーか…俺の中の最善の手札を切っただけなんだよ。あの時、リズを助けられるのは俺だけだったから。それに、」
言いながらアイテムストレージからクリスタルインゴットを出す。
「結果オーライだったしな」
「エイト、これって…」
リズが聞いてくる。あぁ、その通りだ。
「クリスタルインゴットだ。あーでも触らない方g」
「へぇー!すごいわね!あんたこれどこで見付けたの!?」
言いながら持ち上げるリズ。
「あの穴、ドラゴンの巣だったんだよ。クリスタルインゴットはドラゴンの体内で生成される。つまりそれはドラゴンの排泄物だ」
はしゃいでたリズの手が止まる。そして、クリスタルインゴットをゴトリと落とした。おい落とすな、耐久値減るだろ。
「そーいうことは早く言いなさいよ!ど、ドラゴンのう…うん……は、排泄物触っちゃったじゃない!」
「いや言ったのに聞かなかったのそっちじゃん」
話を聞かない奴は社会で使われないぞ。
「なるほどな、体内で生成されるってのはそーいう意味だったのか」
エギルさんが納得したように言う。
「あぁ、ぼっちは思考力洞察力に長けているからな。一人で出来る遊び、読書やなぞなぞ、勉強してたらあたまよくなったぜ!」
「こ、これからは俺達がなるべくいい思い出作れるようにしてやるからな…」
全員が悲しげに目を伏せる。あれれー?おかしいよー?今の尊敬するところだよー?
「それよりリズ、早く武器作ってくれ。うん…クリスタルインゴットはあるだけ持ってきたから」
「あ、うん、任せて!どんな剣がいいとかある?」
「この剣になるべく近い性能で」
「軽くて会心の高い奴」
「はいはーい」
リズは仕事場へ消えて行った。
「そーいえばキリトくん、どうして剣が必要なの?まだその黒いのがあるのに」
「えっ!?ま、まぁいいじゃん。ほら、万が一のためのストックが欲しいっていうか…」
「ふぅーん…エイトくんは?」
「折れた」
「あぁ、そう…」