俺がタイタンズハンドを壊滅させた二日前。つまり、シリカと出会った帰り道のことだ。
キリトにシリカを押し付けて、とりあえず折れた剣をどうするななやんでいた俺は、アイテムの店を見付けた。いや、普通アイテム屋なんてどこにでもあるが、その店はNPCではなくプレイヤーがやっているそうだ。
なんとなく興味が出たのでとりあえず中を覗いてみることにした。
「いらっしゃい」
…1層攻略の時のでっかい黒人さん。
「ん?お前、どっかで見たことあるな」
ごめんなさい!あの件は悪たれついてごめんなさい!だから殺さないで!そして思い出さないで!
だが、俺の願いが届くことはなかった。
「1層の時のLA取った奴じゃないか」
しかも最悪の思い出され方、生きててごめんなさい。
だが、黒人の人は怒ってるようには見えなかった。
「あん時はサンキューな。お前さんがディアベルの仇を取ろうと立ってくれたから、全員が動けたんだ」
「い、いえ…こちらこそあの時は失礼なこと言ってすいませんでした」
「はははっ、気にすんな。あんなん演技だって誰でも分かるわ」
バレテたのか…なんか急に恥ずかしくなってきた。
「まぁ、俺の名はエギルだ。よろしくな」
「は、はぁ。エイトマンです」
「それで、今日はなにを買いに来たんだ?それと敬語使わなくてもいいからな」
「じゃあエギルさん。片手剣ってあるか?なるべく、軽くて扱いやすい奴」
「なんだ、折れちまったのか?」
「まぁ、そうですね。まさか特攻の直前で魔物が倒されると思ってなくて。木に特攻しちまって…」
「そりゃ不運だったな。まぁ、安いのでいいならうちにもあるが、もっといい剣売ってる所を紹介してやろうか?」
「あ、でもすぐに必要なんだよね。あまり大きい声じゃ言えないけど…」
俺は耳打ちするようにエギルさんに近付く。
「近いうちにタイタンズハンドを潰す」
「…本気か?」
「あぁ、ちょっととあるギルドの奴に頼まれてな」
「ははっ、お人好しだなお前さんも」
「いや、俺はどっちかっつーと人嫌いだ。あと『も』ってなんだよ」
「いや、なんでもない。まぁそういうことならうちでの用意出来る最高の物を出すよ」
「さんきゅ、あとその武器屋ってのも教えてくれタイタンズハンドと蹴りが着いたら行くから」
「おう」
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で、48層。
エギルさんに紹介してもらったのが確かこの辺りだったはずだ。リズベット武具店だったか。
しばらくキョロキョロしてると、なんだかすごい悲鳴が聞こえた。聞こえた方を振り向くと、あっ…リズベット武具店だ。
恐る恐る中を開けてみると、キリトがピンク色の髪の毛の女の子に胸ぐらを掴まれていた。つーかなんであいつここにいんの?俺のストーカーなの?
「なんてことしてくれるのよ!」
「悪かった!まさか当てた方が折れると思わなくて!」
「それは私の剣が思ったより弱っちかったってこと!?」
「んー、まぁそうかな」
お客様が来たってのにイチャイチャとけしからん。それとも俺の隠蔽スキルが関係あんのかな。俺、現実世界でも隠蔽だけは500くらいあるし。
すると、ピンク色の髪の子が俺に気付いた。
「あ…り、リズベット武具店へようこそ!」
完璧な営業スマイルで挨拶してくれる女の子。だが、キリトになにかされたのか、それが相当頭にきてるらしく頬がヒクヒクしてる。
「なにかお探しですか?」
「や、えっと…あれなんで、エギルさんの紹介で…ちょっとあれでして…」
「なに言ってんの?よくわかんないんだけど」
あーなるほど。この言い草あれか。スクールカースト上位派の奴ね。つまり俺の敵だ。ならこちらの対応も「店員に向ける対応」にしよう。
「キリト、お前ここでなにしてんだ?」
「なんだ、どっかで聞いたことある声だと思ったらエイトマンだったのか」
「おう。俺はこの前折れた片手剣買いに来たんだけど」
「あ、片手剣ですね。少々お待ちください」
完璧だ。これぞ俺が編み出した「さりげなく注文するスキル」だ。ちなみにリアルで考えた。まぁリアルには知り合いがほとんどいないから使えるかわからんけど。
「これが、今うちで出せる最高の片手剣です。一本折られたけど」
で、ジト目でキリトを睨む。
その片手剣を受け取り、素振りしてみる。
「ちと、重いな…それに、会心率もイマイチかも…キリト、武具屋って試し切り出来んの?」
「さ、さぁ…」
「じゃ、俺の剣で試すか」
俺は自分の剣に女の子から借りた剣を重ねる。
「やめとけエイトマン!分かる!俺にはわかるぞ!」
「ちょっと待って!お願いそれだけはやめて!」
「ほわたぁっ!」
ガキィィィィィンッッ‼︎‼︎‼︎っという音が響き、刀身が宙を舞った。黒い方の。
「だからやめてって言ったのにぃ!」
女の子は俺の胸ぐらを掴んでくる。
「ご、ごめんなさい!まさか斬ったほうが折れると思わなかったんです!」
「あんたまでそれを言うかぁっ!」
「ていうかエイトマン、お前これエギルの店のだろ。よくこっちが折れなかったな」
「あぁ、フル強化したしタイタンズハンド戦のために会心とかもがん上げしたからな」
「なに呑気に話してんのよ!」
で、俺とキリトは正座させられる。
「あんたら揃いも揃ってなにしてくれてるのよ!」
「「すいません」」
自然と声が出た。まぁそりゃそうだ、彼女の最高の剣が二本も折られたのだ。
「もうとんだ赤字よ!あんたらのおかげで!」
まぁぶっちゃけすぐに折れるような武具店なら赤字で当たり前だろう。なんて折った側の人間は言えない。思っていても。
「そこの目の死んでる方、なんか失礼なこと考えなかった?」
「うぃ、いや?全然かんがえてましぇんよ?」
「噛みまくりじゃない!バレバレよ!」
バレテたか。顔に出ていたかもしれない。
「私だって素材があれば強い剣くらい作れるわ!でも素材がないのよ!」
「素材のせいにするなよ(小声)」
「はぁ!?」
「イエ、ナンデモゴザイマセン」
この人も怖いな…しかも耳いいし。
「信じてないでしょ!ならそれを証明してあげるわ!あんたら私について来なさい!」
「「は?」」
「あんたらの剣を作ってあげるって言ってるの!その素材集めを手伝いなさい!拒否したら作ってあげないから!いい!?」
「「はい」」
あぁ、なんでこんな目に…しかもキリトと一緒に…。
と、いうわけで俺達はまだ名前も知らない子の実力証明に付き合わされることになった。