あれ?いないの?俺は爆風が晴れて死銃がいると思っていた方を見たが誰もいなかった。いや、奴は光学迷彩があった。もしかしたら俺を狙っているかもしれない。そう思って、油断しないように辺りを見回す。だが、死銃どころか他のプレイヤーの気配すらない。
……ここから離れるか。そう思って振り返った時だ。目の前に銃口があった。
「イッツショウタイム」
マジ、かよ…。
__________________
その頃、砂漠のどっかの洞窟。キリトとシノンが隠れている。
「ここなら見つからないんだっけ?」
「マップには写らないわ」
とりあえず逃げ切ったという安堵からか、二人はホッとした表情だ。だが、すぐにキリトは曇った表情になる。
「ごめん、シノン」
「なにが?」
「俺は、今回のことを甘く見過ぎてた。エイトマンに言われた通り、君にこのことを言うべきではなかった」
「…そういえば、あなたとエイトはどんな関係なの?」
「試合前に言ったとおり、俺もあいつもSAO生還者だ」
「でも、それだけであんなに仲良くならないでしょ?」
「仲良くなんてない。あんまり気が合うわけでもないし、むしろ出会った当初は俺もあいつもお互い嫌悪してたかもな」
「……」
「あいつは『なにかを解決させるには誰かが傷を負わなきゃ解決しない』って言って、自分がその傷を負う役目をしていた。そんなあいつを俺は見ていられなかったんだ。だから、正面からお前のやり方は間違ってるって言ってやった。いつか、お前のやり方を正してやるって」
キリトは懐かしむように言う。
「それから俺とあいつはなんだかんだで一緒に物事を解決してた。ヒースクリフを倒した時も、ALOでアスナを助けた時も、常に一緒だった。俺もいつの間にか『こいつと一緒ならなんでも出来る』って錯覚していたかもしれない。でも忘れてたんだ。どんな時でもあいつの犠牲が前提となってることに」
それをシノンは黙って聞いていた。
「小さな犠牲だったこともあったかもしれない。でも、俺はそれに馴れてしまった。でも、今回で分かった。あいつと別のやり方で挑んで、結果的に君を危険な目に合わせてしまった…俺は、一人じゃなにも出来ないんだ…」
そう、俯きながら言うキリト。
「悪い、忘れてくれ。俺は行くから」
「え?行くって…死銃の所?」
「あぁ、エイトマン一人じゃ厳しいだろうからな。それに、君をこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかない」
「で、でも私だってそれなりに…」
「さっき生まれたての子鹿みたいにガクガクだっただろ?そんな奴が行った所で…」
「でも、私逃げたくない!」
「ダメだ!次あの銃で撃たれたらホントに死ぬんだ!」
「死ぬのなんて怖くない!」
「死が怖くない奴なんているもんか!」
「あなたやエイトマンだって死ぬのが怖くないから戦えるんでしょ!?」
「俺だって怖いさ!」
その声にシノンはビクッとする。
「俺も、エイトマンも死ぬのは怖い。でも、それ以上に守るべき物があるから、俺もエイトマンも戦えるんだ。君は違う」
「でも…ここでジッとしてるなんて、嫌だよ…」
「…それでもダメだ。俺もエイトマンも、君を死なせたくない」
「……」
そこで、ザッと音がした。洞窟の入り口の方から。二人で振り返り、銃と剣を構える。だが、そこにいたのは、
「…なんだ、先客がいたのか…」
「エイトマン!」
_________________
数分前、俺は死銃に銃口を向けられた。だが、そんな俺と死銃に複数の予測線が出た。横を見ると、なんかグフカスタムの三連装35mmガトリング砲みたいなのを向けている奴がいた。
俺と死銃はそこから逃げて、スタングレネードを使ってここまで逃げて来た。
「て、わけだ」
「あなた、運がいいのか悪いのか…」
「あの光学迷彩は厄介だ。俺の索敵にも反応がないんじゃ話にならん」
言うと、三人とも俯く。キリトがチラッとこっちを見た。
「エイトマン」
「なんだよ」
「俺達二人なら、やれるか?」
「そんなの分からん。ただ、俺達は二回もゲームマスターを倒してる。それに引き換え、奴は所詮プレイヤーだ」
「…だよな」
俺が言うとキリトは立ち上がる。
「ま、待ってよ!行っちゃうの!?」
シノンが俺の裾を引っ張る。
「このままにも出来ないだろ。元々、俺達は奴の調査のために来たんだから」
「で、でも!私だって戦える!」
あー喧しい。仕方ないから黙らせるか。
「お前さ、人殺し野郎と正面から殴り合えるの?」
言うと、シノンはピタッと止まる。目から涙を流し、下を向く。ま、結論が出たようなもんだ。
「だろ?だからお前はそこで…」
「私だって!人を殺したことくらいある!」
……え?今なんつったこの子?
「わ、私だって…」
その瞬間、目を見開いてトラウマを思い出したように膝を着いた。
「おい、どうした?」
「シノン!」
そして、嘔吐する直前のように手を口に当てる。やべ、また地雷踏んだか?俺はそんなシノンの背中に手を当てて、落ち着かせるように言った。
「落ち着け、ここはゲームの世界だ。人は殺せやしない」
「……」
「大丈夫、お前のことは絶対守ってやる。キリトが」
「えっ?」
そこまで言うと、ようやく呼吸が整うシノン。
「お前、過去になんかあったのか?」
言うと、シノンはコクッと頷く。
「別に聞き出すつもりはないが、辛いなら言えよ。力になるぞキリトが」
「また俺?」
そこまで言うと、シノンは口を開く。その内容は、シノンが小学生の時に銀行強盗が来て、なんやかんやでシノンが拳銃奪ってぶっ殺したということだ。それから銃を見るとトラウマが蘇るらしい。
「…誰か、助けてよ」
そう呟くシノンは、試合前とは違い酷く弱々しく見えた。そんなシノンに俺は優しく言った。
「お前は誰かを助けるためにそいつを殺したんだろ?だったらお前は助けたやつのことも思い出して、自分を助けてやってもいいと思うぞ」
「エイトマン、丸パクリはどうかと思うぞ…」
「うるせぇ、言うな」
「あ、そういえば思い出した。お前、写真消せよ」
「あっやべ」
なんて会話してると、クスッと笑う声がした。シノンだ。
「あなた達、なんだかんだ仲良いのね」
「よくねぇよ」
「よくないよ」
「ほら」
シノンがいたずらっぽく笑う。それに俺もキリトも苦笑する。
「私も行くわ。なんか力が抜けちゃった。あんたのその死んだ目みたら尚更」
「なぁ、俺の目ってそんなにひどいのか?」
「あぁ、酷い」
キリトにハッキリ言われ、俺はさらに目が腐ってたかもしれない。じゃ、作戦会議でも始めるか。
「まず、キリト。お前、死銃の犯行手口は分かったか?」
「え?いや、まだだけど…」
「これはあくまで俺の推測だ。ボッチによる素晴らしい思考力で思いついたんだが…」
で、死銃犯行手口を説明。二人とも驚いている。
「なるほどな、それなら確かに現実で人を殺せるわけだ」
「でも、どうして住所がわかるの?」
「大会に参加する時に住所入力するだろ?それを光学迷彩かなんか使って見てたんじゃないか?」
「……」
そこで、俺は真剣な顔になる。
「問題はここからだ。さっに都市でシノンが狙われたな?つまり、シノンを殺す準備はもう出来てる」
その瞬間、シノンが声にならない悲鳴を上げるが、キリトが落ち着ける。
「安心しろ。あいつらはあいつらでプライドがある。絶対にあの拳銃以外でお前を殺しはしない。つまり、俺達がシノンを殺される前にやつを殺せば、シノンの部屋にいるもう一人も退散するはずだ」
「……」
「シノン、お前家はどこだ?」
「えっと……だけど」
「ならちょうどいい、俺達もその近くの病院にいる。ログアウトしたら警察を呼べ。俺達か警察が来るまで絶対にドアを開けるな。知り合いでもだ」
「え?どうして?」
「この世界、誰がどんな感情を持ってるかなんて分かったもんじゃない。そんな簡単に人を信用するな」
「…分かった」
「今、この事件が落ち着くまでお前が信用していいのはキリトだけだ」
「うぅん」
「は?」
「あなたも、信用したげる」
……うーわ、バカだこの子。俺みたいなやつ信用したっていいことないぞ。
「二人とも、接近して来てる奴が二人いる」
キリトの声に俺とシノンは反応する。
「状況は?」
「生き残ってるのは俺達三人とスティーブン、そして闇風の五人だ」
「…つまり、全プレイヤーがこの砂漠に集まってるのか」
「ちなみにシノン?闇風って強いの?」
「ランガンの達人とか言われてるわ。ランガンていうのは走りながら撃つことね」
考えろ、闇風も殺されず、シノンも殺されずに死銃を始末する方法を。あ、簡単じゃん。と、思った矢先、シノンが言った。
「闇風は私が相手をする」
「勝てるのか?シノン」
キリトが聞く。
「分からない。でもあなた達が死銃を倒すくらいの時間なら稼げる」
そう、それなら最悪シノンが負けたとしてもシノンが殺されることはない。
「ならキリト、闇風はシノンに任せよう。対死銃の考えがある」
さぁ、ショーの始まりだ。