目の腐ったSAO   作:ウルトラマンイザーク

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喧嘩

 

 

次の日、俺は起きて歯磨きして家出て電車に乗った。うわあ、超適当。ていうかなんで交通費出ないわけ?バカにならないくらい金が飛んでるんだけど。

それにしても、だ。死銃が元ラフコフだとすると、もしかしたら本当にデスガンが存在するのかもしれない。なにかしらタネはあるにせよ、仮想世界で撃ったら現実で死ぬのは脅威過ぎる。そんでもって、死因は心不全。やっぱり偶然か…。

だが、ラフコフがPKをする以上、やっぱただのゲーム内だけの殺人で満足するとは思えない。それに、キリトに自分から接触して来た以上、喧嘩売る気満々なんだろう。

ラフコフの連中がキリトに恨みがないわけがない。つまり、なんらかの形でキリトに仕返しをしてくる可能性もある。最悪、殺しに来るかもしれない。なんせ、顔だけはSAOで晒してしまっている。

そういえば、大会に登録する時に住所も入力したっけな…。

……いや、もしかしたら…。なんて考えてるうちに秋葉原に着いて乗り換えになってしまった。まぁ、奴の犯行手口は分かったので良しとしよう。まだ確実とはいえないが、大体分かった。この仮説がどこまで合ってるかってとこか。

 

 

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病室に着いてドアを開けようとした手が止まる。桐ヶ谷と看護婦さんの声が聞こえた。

 

「……俺は、SAOの中でプレイヤーを二人殺してるんです」

 

なーんでこのタイミングでこんな重い話してるのかなー?入りづらいこと山のごとし。

 

「彼らは全員レッド、殺人者だったけど殺さず無力化する選択肢だってあったんだ。でも、怒りや憎しみ、復讐心だけで斬り殺した。そして俺はこの一年間、彼らのことを綺麗に忘れていたんです。こうして話してる間も思い出せない、この手で殺してしまった相手のことすら忘れてしまえる人間なんです」

 

……あぁ、思い出した。確かラフコフ討伐戦の時だったな。俺は隠蔽が高過ぎて誰にも気付かれずに武器破壊と麻痺を繰り返してたな。

 

「ごめんね桐ヶ谷くん。カウンセリングするなんて偉そうなこと言ったけど、私はあなたの重荷を軽くしてあげられそうにない」

 

そりゃそうだ。命を奪った奴の重さがそんな簡単に消えてたまるか。俺だってク…クラ、クラディール?そうクラディール!クラディールを殺したときは辛かったし、今もあの時のことは覚えてる。てか桐ヶ谷、お前なに看護婦さんに抱かれてんだ。変われ。

 

「でもね、君がそうしたのは誰かを助けるためなんでしょう?」

 

…確かに、あの時の連中は武器や防具を壊しても特攻かましてくる連中ばかりだった。「一人でも多く、道連れにぃっ!」とか自爆覚悟のガンダムキャラかよ。

 

「誰かを犠牲にして、その結果助かった命のことを考える権利は、関わった人間みんなにある。君にもね。だから、自分が助けた人のことを思い浮かべることで、自分を助ける権利もあるんだよ」

 

……詭弁だな。結局の所、誰かを助けるには誰かの犠牲が必要だし、その犠牲者よりも助かった奴のことを考えて自分の傷口を舐めろと言ってるようなもんだ。

 

「でも、俺は殺したやつのことを忘れてしまったんだ…。だから、助けられる権利なんか…」

 

「本当に忘れてしまってたなら、そんなに苦しんだりしないよ」

 

看護婦さんは桐ヶ谷の頬に手を添えると、自分の方を向かせた。そして、桐ヶ谷の涙を親指で拭う。

 

「君はちゃんと覚えてる。思い出すべき時が来たらきっと思い出す。だからね、その時は一緒に思い出さなきゃダメだよ。君が守り、助けた人を」

 

助けた人…ねぇ、正直俺がクラディールを殺した時は誰かを守るというより、クラディールの思惑通りにしたくないってのがデカかったからなぁ。つまり、自分のためにクラディールを殺しただけだ。結果的にアスナとゴドフリーを助けただけで。

 

「で、そろそろ入ってきたら?」

 

げっバレてる。桐ヶ谷はなんのこと?って感じで看護婦さんを見上げる。俺の隠蔽に気付くなんて索敵5000くらいあるんじゃねぇの?

 

「し、失礼しまぁす…」

 

「ひ、比企谷!」

 

で、桐ヶ谷は自分が抱かれている状況に気づく。誰がどう見ても母親に甘える高校生にしか見えない。慌てて離れる桐ヶ谷。

 

「い、いつから気付いてたんですか?」

 

「君が来た時からだよ?」

 

はははそんなバカなははは。見ると桐ヶ谷は顔を真っ赤にしている。

 

「ひぃきぃがやぁーっ!」

 

襲い掛かって来るが、看護婦さんが桐ヶ谷を離さなかったので攻撃出来ない。その様子を携帯に収めると、俺はベッドに座った。

 

「おまっ!なに撮って…」

 

「じゃあ、10時頃に戻って来ますから」

 

「はいはーい」

 

「待て!お前責めてデータ消してけ…」

 

「がんばってね、比企谷くん。あとでその写真、ちょうだいね」

 

「うっす」

 

「待て!まてぇーっ!」

 

桐ヶ谷の叫びを無視して俺は言った。

 

「リンクスタート」

 

 

________________

 

 

大会のロビー。そこで俺はシノンを探す。探してたら、後ろから声をかけられた。

 

「ちょっとあんた、キリトはどこ?」

 

名前覚えられてないんですねー俺。

 

「シノンか。なんだ?あいつになんかようか?」

 

「昨日、準決勝であいつに負けたのよ…今日はボコボコにしてやるんだから…!」

 

そうですか…まぁいいや。

 

「なぁ、少しいいか?」

 

「なによ」

 

「シノンはこの大会何度か出てるんだろ?」

 

「そうよ」

 

「この30人の中で知らない名前はいくつある?」

 

「え?知らない名前?どうして?」

 

「言えない。すまん、答えてくれ」

 

「……。むかつく光剣使いと目の腐った刀使いを除けば三人よ」

 

「三人、誰だ?」

 

「銃士X、ペイルライダー、とこれは、スティーブンかな?」

 

なるほど…この三人、か。ここまで絞れれば充分だな。

 

「あのね、いったいなんなのよ?さっきから…」

 

「や、なんでもない。さんきゅ」

 

「はぁ?そんな言い方されたら気になるじゃない」

 

「そう、世の中気になることばかりだ。たまには気にしない術も覚えるべきだ」

 

「分かったわ。あなたはどうあっても私をおちょくりたいのね?」

 

「や、そういうわけじゃ…」

 

なんて言い訳しようか考えてたら、俺の頭に赤い予測線が出る。遅れて銃弾が飛んで来たがなんとかかわす。お?喧嘩のバーゲンセールか?と、思って見るとキリトがカンッカンの様子で銃を持っていた。

 

「よぉ、エイトマン…」

 

「お、おぉキリト」

 

「許さん殺す」

 

「待って!大丈夫!アスナにもリーファにも言わないから!」

 

「知るか」

 

ちっ、止まるつもり無しか…なら。

 

「それよりキリト、死銃の正体が三人に絞れたぞ」

 

「なんだって?」

 

ふっ、チョロい。

 

「たった今、シノンから聞いた三人。銃士X、ペイルライダー、スティーブンの三人の中の誰かだ」

 

「なんでそう思ったんだ?」

 

「死銃は俺達と同じSAO生還者だろ?なら今回からじゃないとこの大会には入れない」

 

「なるほど…」

 

「それと、これはあくまで推測でしかないが…」

 

「ねぇ!」

 

突然の大きな声に俺とキリトは振り返る。

 

「ちょっとさっきからなんなの?シジュウだのなんだの…」

 

「げっ」

 

やっべ、キリトから助かるのに必死で忘れてた。

 

「ん、まぁあれだ。40歳越えたら人からジジイへ転職するからお互い気を付けようってことで…」

 

「誤魔化さないで」

 

「アッハイ」

 

俺はキリトにアイコンタクトでどうするか聞いた。キリトはキリトで「や、俺に聞かれても」みたいな顔してる。

 

チラッ

 

だってこれ総務省とかその辺が顔出すほどのことだぜ?言っていいわけないよな?

 

チラッ

 

でも言わなきゃ許してくれなさそうだぞ?ていうか隠し通せるのか?

 

おい、なんで通じ合ってんだよ。しかも男同士でチラチラチラチラ両想いなのに伝わらない男女か。そこで、シノンがダンッと床を踏み付ける。

 

「あぁもうっ!さっきからなんなの!?ぶっ殺されたいわけ!?」

 

ぶっ殺すって言っちゃったよこの子…。すると、キリトが頭をガシガシ掻いて深くため息を付いた。あ、これあかん。

 

「いいかシノン、これから言うことは国家機密並のこぽぉっ」

 

言いかけたキリトの口を俺が塞ぐ。おかげでキリトから変な声が出た。

 

「〜!」

 

「国家…?」

 

「なんでもないぞシノン。こいつ中二病だから国家機密とかそういうの大好きなんだよねうん」

 

キリトは俺の手を振り払う。

 

「な、なにすんだよ!」

 

「シノンに言うわけにはいかない。これは菊岡さんがSAO事件を解決した俺達に金まで払って頼んで来たんだ。それだけの重いことだと知ってるだろ」

 

「でもシノンに俺達は色々教わってるんだ。責めて最低限のことくらい教えてやっても…」

 

「ダメだ。それに俺達以外に一般人を巻き込むと菊岡さんのクビだって危ないだろ」

 

「でもシノンの力だって必要になるかもしれないし、逆にシノンが狙われるかもしれないんだぞ!?」

 

「だったらこの大会を中止にするべきだ。でもそしたら俺達は死銃に接近出来なくなるぞ」

 

「お前…!」

 

「俺は間違ったこと言ってない」

 

まさに一触即発。シノンはいつの間にかオロオロしている。

 

「ならいい!俺は俺のやり方でやる。シノンこっちに来い、話がある」

 

キリトは言うと、シノンの手を引っ張る。

 

「いいんだな?下手したら知ったことによってシノンが狙われるかもしれないんだぞ?巻き込むってのはそういうことだ」

 

言うと、キリトはピタッと止まる。だが、こう言われた。

 

「だったらその時は俺がシノンを守ってやる」

 

「……勝手にしろ」

 

そのままキリトはどっか行くが、それを俺は最後まで見ずに支度をする。元々、俺はボッチだ。誰かと協力してなにかが出来るわけがない。この事件だって、俺が一人で解決してやる。

 

 


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