夏になった。俺はクーラーガンガンの部屋でアイスを片手に勉強していた。大学の講義のまとめノートを流し読みしている。腹減ったな…そう思った時、携帯が鳴った。あーこれ絶対桐ヶ谷だよ。最近、こいつ以外から携帯に連絡来た覚えねぇし…。
『私の学校で勉強教えてくれない?結城明日奈』
おい俺の個人情報流出し過ぎだろ。桐ヶ谷以外に連絡先教えた覚えねぇんだけど。とりあえず、電源を切っ…いや、このパターンは前に味わったな。訓練されたぼっちは同じ過ちを繰り返さない。
『なんでも人に教わる前に自分で考えなさい。そういう人材を社会は欲しがっています』
こう返信し、また勉強に戻る。お前らに呼び出されて何回東京まで行ったと思ってんだ。結城の一件後も何度もそっち行かされて金がないんだよ。
すると、またメールが来た。
『分かったーまた今度ね』
なんかヤケに引きがいいな。ま、引いてくれたならそれでいい。勉強に戻ろう。
「お兄ちゃん!」
おい、俺に勉強させる気ないのかこの世界は。
「どうした?」
「小町と遊びに行かない?」
「いきなりだなおい。ていうか俺今、勉強してんの。分かる?で、どこ行く?」
「そこは、小町にお任せだよ!ほら行こう!」
「わーったよ」
渋々、財布だけ持って家を出る。小町はヤケにウキウキした様子で千葉駅へ。そして、総武線に乗って秋葉原で乗り換えて山手線に乗…おいこれなんか経験あるぞ。
結局、連れて来られたのはどっかの高校。そこには桐ヶ谷兄妹、結城、篠崎、綾野がいた…。しかも、俺を見付けるとなぜか直葉は結城の後ろに隠れるし…。
「な、なんで八幡くんがここにいるの!?」
騙されて来たんですよ…。
「小町…これはどういうことだ」
「私が小町ちゃんに頼んだの」
結城が小町の頭を撫でる。はぁ…また嵌められたか。まぁ平塚先生みたいに拳で語る奴がいないだけマシか。
「で、なんの教科教えて欲しいんだ?言っとくが俺は文系だからな。高校時代、国語は学年三位だが数学は九点で最下位だった」
「九点って…あんたよく大学入れたわね…」
篠崎に思いっきり呆れられた…。綾野が口を開いた。
「実は、そういう教科じゃないんです」
「え、じゃあ強化?筋トレでもすんの?俺いらなくね?」
「や、そっちでもなくて…」
「強いて言うなら保健体育よね」
篠崎がチラッと直葉を見る。直葉はうっ…とした顔で俯く。え、なに保健体育って実習とかすんの?どんな実習するの?
「比企谷」
桐ヶ谷にジト目で睨まれ、速攻思考を止める。
「じゃ、俺は行くわ。スグも明日奈も比企谷になにかされたら言えよ」
「はーい」
どんだけ信用ねぇんだ俺。そのまま桐ヶ谷は校舎の中へ消えていく。
「なぁ、あいつなんかやらかしたの?」
「違うわよ。なんか面談あるんだって」
「なに、あいつバカなの?頭良さそうな顔して成績ゴミなの?」
「うーん、悪くはないと思うんだけど…良くもないかなぁ」
それはバカを庇う時に使われる言葉だ。
「じゃ、小町はこの辺で失礼します」
「はぁ?お前は帰るのかよ」
「え?だって雪乃さんと結衣さんとプールだもん」
そうですか…なんか小町が便利屋みたいだな。小町は帰ってしまった。
「じゃ、私達も行こっか」
結城がそう言うと、それに女子三人は続く。
「あ、だから俺はどうすればいいわけ?」
「直葉ちゃんに泳ぎを教えるの。だから保健体育」
「は……?」
つまり、今年の夏はこの女の子達の水着姿と戯れられるのか!?あ、いや待てよ。
「俺、水着ねぇんだけど」
「あんたは監視員よ」
マジで帰ろっかな。
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てなわけで、俺はプールサイドの日陰で女子を待つ。暑ぃ…汗やべぇ…帰りたい…。切実にそう思った。もう帰ろっかな…ホントマジで。うん帰ろう。そう思って俺は出口へ向かうとバッタり結城と会った。
「どこ行くの?八幡くん」
息を飲んだ。今更思うのだが結城はかなり美人だ。その美人のビキニ姿と鉢合わせとかもうね…っとあぶねぇ。理性を保て。
「や、あの…お腹痛いので帰ろっかなって…」
「だーめ!直葉ちゃんのためなんだから」
「そいつのためと思ってるなら自立を促せるのが一番なんだけどな」
「いいからそこの日陰で待ってて!」
「へーへー」
おとなしくプールサイドに引っ込む。その俺の前に結城がもじもじしながら聞いてくる。
「あ、あの…どうかな…」
「なにが?」
「ご、ごめん…なんでもない」
「あー!明日奈さん抜け駆けはズルイですよ!」
綾野が騒がしくこっちに走ってきた。
「どうですか比企谷さん!私の水着!」
あーどうってそういうことか。
「あーそうだな。世界一可愛いよ」
「うーわテキトー…」
ゲンナリする綾野。それを捨て置いて俺は携帯をいじる。一応言っとくけど盗撮のためじゃない。断じて。ちょっと面談中の桐ヶ谷に送るだけ。
「ほらリーファ!早く行きなよ!」
「ちょっと里香さ…きゃあっ!」
声が聞こえて振り返ると、直葉を篠崎が押し出していた。押し出されたので、直葉は俺の前に飛び出てくる。ていうかこいつ胸ヤバイな…で、なんでスク水なの?潜水艦なの?イクって呼んでもいいの!
「その、どう…?」
「え?あーそうだな。歩く18き…じゃねぇや。うん、世界一可愛い」
で、ゲンナリする直葉。
「あ、あたしだって…八幡くんが来るって分かってれば、スク水でなんて持って来なかったよ…」
なんか小声でブツブツ言っててよく聞こえない。もっとハッキリしゃべれハッキリ。
「じゃ、始めよっか」
結城の号令で、「いっちばーん!」と、飛び込む篠崎。それに続いて綾野もプールに特攻。
「二人とも!ちゃんと準備体操しないと危ないよ!」
言いながら軽く運動して飛び込む結城。いや飛び込みも充分危ないと思いますよ…。ちなみに俺はプールということを知らなかったので水着がない。寝てよう。
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「………のどこが好きなの?」
「……………そ、その…なんというか…」
誰かの話し声で目が覚めた。あーそっか、今日はプールに来てたんだっけ。体を起こし、軽く伸びをする。
「あ、起きた」
「ひゃあぁぁぁぁっっ‼︎‼︎」
「えっちょっなに?」
そんな目が覚めただけで悲鳴上げなくてもいいじゃないですか…。俺はゾンビかなにかですか…。
「おはよ、八幡くん」
「おっす…」
結城に挨拶され、軽く会釈する。
「今ね、キリト派かエイトマン派かって話で盛り上がってたんだけど…」
「わぁーわぁーわぁーっ!な、なんでもないよ八幡くん!」
篠崎が言うと全力で邪魔する直葉。なんだよキリト派かエイトマン派かって…俺たちはキノコかタケノコかよ…。
「てかお前らここでなにしてるわけ?練習しないとすぐに夕方になっちまうぞ。人生ってのはそういうもんだぞ」
「大袈裟ですよ…」
「お腹空いちゃったからお昼にしようと思って」
なるほどね、だから弁当が並んでんのか。
「てかお前らの中で料理作れるやついたの?」
『それ、どーいう意味?』
ちょっ、そんな全員が全員殺意の波動を放たなくてもいいじゃないですか…。ちゃんとそう思った理由があるんですから…。
「いや、高校の時の部活の奴にクッキーの材料で木炭を生成する奴がいたからな…」
「そ、それはそれですごいわね…」
ついでに言うならハンバーグを作ろうとして火山を作ったこともある。
「てか、そういう比企谷さんはどうなんですか?」
綾野が問い詰めるように聞いてくるが残念だな。
「俺は料理出来る」
「そうなんだよ。SAOの時にハンバーガー作って来て驚いたの」
俺と結城の台詞に全員が箸を落とす。おい、そこまで意外か。てかその箸洗わないと使えないからな。
「ねぇこれ泣いていいの?てか泣けばいいの?それとも死ねばいいの?お前らが死んでくれよ…」
「い、いや〜比企谷さんが料理って想像出来なくて…」
「ねぇ?」
「あ、あたしも少し意外だったかな…」
みんなひどいです…まぁ分からなくもないが。
「てか、この前お前らがうちに押し掛けて来た時の料理、俺と小町で作ったんだぞ」
「え…?」
「あ、あれそうだったの…」
気付いてなかったのかよ…こいつらなんなの?
「でもあの時の料理、美味しかったですよね!」
「そりゃな、伊達に専業主婦志望じゃないからな」
「うわあ、将来の夢まで腐ってる…」
おい、お前らゴミを見る目で見るな。これはいうだけ言ってやらねばならないな。
「いいかお前ら、将来働いたら…」
「さ、じゃあ練習再開しよっか」
「そだね、ちょっと休み過ぎたかもだし」
「やりますか!」
そのまま四人はプールに飛び込む。俺ってもしかして嫌われてるのかな…。
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結局、プール教室は夕方まで続いた。様子を見に行くと、まさにテストといった感じで直葉が三人のいる方向に泳いでいた。へぇ、一日そこらで泳げるようになるなんてホント人間頑張ればなんでも出来るのな。
そして、泳ぎ切って四人が抱き合う百合百合しい雰囲気の中、俺は一人フェードアウトする。俺はぶっちゃけなにもしてないから、あそこに混ざるべきじゃない。プールから出ると、桐ヶ谷が立っていた。
「今日はお疲れ」
「ずっと寝てたけどな」
「スグ、泳げるようになってたか?」
「あぁ、今四人で喜んでたよ」
「……そっか。比企谷は行かないのかよ」
「なにもしてない奴が行くべきじゃないだろ。俺は帰る、おめでとうって言っといてくれ」
「捻デレめ」
「うるせぇ」
それだけ言って帰ろうとした時、また後ろから声が掛かる。
「今日、時間あるか?」
「ない」
「なら、ALOに来てくれ。そこで今日、みんなで集まってクエストやるんだ」
「あの、聞いてる?ないって言わなかった?」
「七時な。詳細はあとで連絡する」
「や、だから…」
「じゃあな」
そのままプールの中へ消えていく桐ヶ谷。なんだこいつ、話聞かないのがお仕事なの?
今日の七時か…ま、考えとくか。