なんとか洞窟から出た。
「会談場はどこだ?」
「あっち!」
リーファの指差す先へ向かう。
「気を付けてよ…多分、サラマンダーはガッチリした眼鏡のプレイヤーが出てくるはずだから。その人は名前は忘れたけど全プレイヤーで最強と言われてるの」
「マジかよ…」
「そろそろ着くよ!」
索敵を使うと驚くべき人数だった。
「ろ、68人…」
「そんな、大部隊なの…?」
まぁ、会談ってことは互いの領主が出るってことだ。それくらいになっても仕方ないだろう。
「リーファ、先に行ってるぞ」
「え?」
出来る限り最大限まで飛ばす。そして、ケットシー&シルフの領主とサラマンダーの間に落ちる。全員が隕石が落ちてきたみたいな反応をする。俺は冷静な口調で言った。
「双方、軍を引け」
俺の登場に全員が戸惑う。そして、遅れてリーファがシルフの領主っぽい人の横に着地する。
「リーファ!?どうしてこんな所に…そして、あいつは誰だ?」
「ホントに誰だろうね。でも、敵じゃないことだけは確かだよ」
俺はサラマンダーの前にゆっくりと浮上。
「ボスはどいつだ?」
言うと、ゆっくりとボスっぽい奴が部下を横切って現れる。名前はkengo shogun。おいこれって…。
「ふむん、我がサラマンダー部隊隊長の剣豪将ぐ…」
「なにやってんだ材木座」
「へ?」
その瞬間、場が静まり返る。材木座は俺の名前を読み上げた。
「エイト、マン…これって…八幡?」
「……」
仮想世界で一番会いたくない奴と会ってしまった…。しかもこいつが最強のプレイヤー…大丈夫かALO。
「久しいな八幡!見事あの世界から帰還したのか!」
「あの、あんま大きい声で言わないでくんない?それよりさ、軍引いてくれない?」
「しかし、貴様なぜ髪が青い?二年前と全然違うではないか」
「お前に言われたくねぇんだよ。なんで雪だるまみてぇな体格してた奴がそんなマッチョに…てかいいから軍を引い…」
「ふん、ゲームでくらい夢はみたいものだ」
「ドヤ顔で悲しいこと言うな。てかお前会話する気あるか?」
突然降って来た謎のウンディーネと全プレイヤー最強のサラマンダーの会話は余りにも緊張感のないものだった。
「して八幡、なぜこんな所にいるのだ?」
「だから、軍を引いてくれって言ってんの。また今度、小説読んでやるから、な?」
「ふむん、それは魅力的な提案だな。よかろう!軍を引こうではないか」
こいつがバカで助かった…。流石に材木座といえど全プレイヤー最強の奴とは戦いたくない。
「ねぇあんた!知り合いなの?」
リーファが俺の横に来た。それが、引き金を引いた。
「ん?あぁ、ちょっとな」
「八幡…」
急に材木座に名前を呼ばれた。なぜか迫力がある。
「なんだよ」
「その女子はなんだ…」
「知り合いの妹だ。わけあってちょっと手伝ってもらってる」
「前言撤回だ。やっぱ八幡殺す」
「はぁ!?なんでだよ…」
あ、そういえば初めて戸塚をこいつに見せた時、ヤケに拗ねてたな…。
「はぁぁぁぁっっ‼︎‼︎‼︎」
俺の問いにも答えずに材木座は斬りかかってくる。
「リーファ、下がってろ」
俺は受けようとするが、剣がすり抜けてきた。で、ぶっ飛ばされる俺。
「ちょっとどういうこと!?」
リーファが反応すると、シルフの領主が冷静に解説した。
「あれは魔剣グラム。剣や盾で受けても非実体化してすり抜ける能力があるんだ!」
「そんな無茶苦茶な!」
確かに無茶苦茶だ。だからと言って負けるわけにはいかない。ていうか個人的に材木座に負けるのはなんか嫌だ。
すぐに復帰して斬りかかる。
「ほう、今のを耐えるか八幡」
「うるせぇ…!ていうか今の俺はエイトマン、だっ!」
材木座を蹴って更にそこから斬りかかる。だが、すぐにいなされて反撃されるが、空中で回転してかわし、反撃。そのまましばらく攻防戦が続くが、ジワジワと攻撃が擦り、俺のHPが減っていく。
「くっそ…!」
俺は一旦間合を取った。
「厳しいな、両者の腕はほぼ互角だが、武器の性能が違い過ぎる」
「そんな…」
下でそんな声が聞こえたが、俺にもプライドというものがある。そんな簡単に材木座相手に諦めたくない。かと言ってこのまま続けるのも厳しい。仕方ないな、あまり使いたくなかったが切り札だ。
「悪いな材木座、俺は人のために戦ってんだ。どんな手を使っても負けるわけには行かない」
「はっ、この状況で貴様に勝ち目などない。すぐにらくにしてくれよう!」
俺は目を閉じて、言った。
「エクストラスキルー予知ー」
材木座の一撃をかわすと、そのまま反撃する。負けじと材木座は反撃してくるが無駄だ。俺にはお前の未来が見えている。
「ぬぅっ!なぜだ!なぜ当たらん!」
材木座は唸るが、俺は黙ってボコボコにする。だがこれにはタイムリミットがある。それまでに決着をつけなければならない。
「ぅうああああああっっっ‼︎‼︎‼︎」
自分でも見えないほどのスピードで材木座を切り刻む。そして、残り1秒になった時、思いっきり下に叩き潰した。そして、視界が消えた。流石に今ので死んでてくれないと困る。俺は息を整え、気配をすませる。だが、
「やるな八幡…流石だ…」
マジかよ…生きてやがった。
「だが、ここで攻撃をやめたということは、今貴様の体になんらかの不備が生じているということだ」
しかもヤケに鋭いし。材木座に負けるとはな…いや、まだ諦めるのは早いかもしれない。
「さらばだ。今楽にしてやる」
幸い、奴は油断しきっている。あとは自分の索敵と耳を信じろ。俺は集中した。ヤケに心臓の音が大きく聞こえる。空気の匂いがする。無臭のはずなのに、なぜか甘く感じる。そんな甘い空気を乱すのを感じた。左斜め下から、だがここで動いてしまっては奴に勘付かれる。ギリギリまで惹きつけなければならない。そして、人の息が聞こえた。
「我の勝ちだ、八幡っ!」
「そこっ!」
材木座の声が聞こえた瞬間、剣を振った。そして、剣が当たった感触。ビンゴだ。
「な、なにぃっ!?」
「ァァァアアアアアッッ‼︎‼︎‼︎」
そのまま、剣を振り抜き、材木座をぶった切った。恐らく見事に真っ二つになっているだろう。
「俺の勝ちだ。材木座」
その瞬間、なぜか爆発音がする。その爆発音とは裏腹に周りは静かだ。だが、右下からそれを壊す声がした。
「見事!見事!」
「すごーい!ナイスファイトだよ!」
それを機に、ケットシーやシルフの方から歓声が湧き上がる。そして、サラマンダーの方からも「やるじゃねぇか!」「あの中2…剣豪さんを倒すなんて!」する。ふぅ、初めてこんな歓声もらったな。
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ようやく目が戻り、俺はシルフとケットシーの元へ降りた。よく見たら、周りにサラマンダーもいるが険悪な空気は流れていない。
目の前では材木座が燃えてる。
「なぁ、これ踏んでいい?」
「ダメだ!中二病でも俺達の隊長なんだから!」
こいつ、部下にも中二って呼ばれてんのかよ…。
「でもよ、こいつ多分復活したらまた暴れるぞ?」
「その時は俺達が止めるよ。さっきの戦いは見事と言うほどにあんたの勝ちだ。それを俺達は汚したくない」
で、材木座を蘇生させる。炎から出てくるマッチョ材木座。
「ぬぅ…」
首をコキコキ鳴らし、肩を回す材木座。
「やるな八幡…いやエイトマン。流石は我の相棒」
「相棒じゃねぇ。ただ体育でペア組まされてただけだ」
「これでは我々も手は出せまい。今回は引かせてもらおう」
おおっ!材木座が大人になってる!しばらく会わない内に変わったもんだ。
「ま、別に我本気じゃなかったしぃ?ここは空気的にエイトマンに花を持たせたって言うか?」
「あーやっぱお前全然変わってねぇよ」
「とにかく!また戦おう八幡!」
「なるべくなら会いたくないんだけどな」
で、サラマンダーは帰って行った。
「あー疲れた。リーファ、もう行こうぜ」
「え、うん…」
「あー待ってくれ!」
シルフの領主に呼び止められ、俺は仕方なく振り向く。
「…なんすか?」
「すまない、助かったよ。もう少しでサラマンダーに全滅させられる所だった」
「いや、リーファがいないと俺達の目的が遠くなるんでちょっと寄り道しただけですよ。つまり、自分のためです」
「それでも結果的に我々も助けてくれただろう」
「まぁ…そっすね」
俺は早く帰りたいオーラ全開で話す。なんで気付かないのこの人達。すると、反対側からケットシーの領主が腕にしがみ付いて来る。
「ねぇ君ぃ、ケットシー領に来ない?色々とお礼したいしぃ」
ちょっ!近い近い近いっつーの!当たってる!小さいけど柔らかいなにかが当たってるから!
「いや、あの…人を待たせてるのでご気持ちだけいただきます…」
と、言ったそばから反対側を抱き付かれる。
「私、サクヤって言うんだけど…私と一緒にシルフ領まで来ない?」
こっちはある!マウント富士が当たってまふから!ていうかなんでシルフまで戻らなきゃならんのだ、
「いえ、ですから…人を待たせてるので…」
そこまで言い掛けた時、後ろからゲシッと蹴られた。んだよ、誰だよヒットアンドアウェイを楽しんでる時にと思ったらリーファがジト目で俺を睨んでいた。
「なにデレデレしてんのよ」
「はぁ?なにがだよ。主語述語目的語使って話せっつーの」
「べっつにぃー?」
腕を組んでふぃっとそっぽを向くリーファ。それを見たサクヤさんとケットシーの領主が「ルー、これは」「だねだね〜」とか言ってる。ルーってなに?大柴?だねだね〜ってなに?フシギダネ?
で、二人はリーファの横でなにやら耳打ちする。その瞬間、リーファの顔が真っ赤になった。
「そ、そんなんじゃないからぁ!」
「素直になれよリーファ」
「応援してるヨ〜」
で、さらに真っ赤になるリーファ。
「どうしたリーファ?」
「な、なんでもないわよ!ほら行くよエイトくん!」
「?お、おう…」
なんか初めてこいつに名前呼ばれた気がする…。俺は飛ぶリーファを追い掛けた。
「ほら!急がないとキリトくんに追い付けないよ!」
「わーってるよ。ったく…」
その時のリーファはいつもより楽しそうに見えた。