ゲーム開始一ヶ月で二千人が死んだ。
始まった時は、ほとんどのプレイヤーが恐怖したようだが、俺に限ってそんなことはなかった。
何故なら、要は現実と変わらないからだ。死んだら終わりというのも、自分のやった数だけ成果が出るというのも、友達がいないというのもなにも変わらない。
むしろ、安全圏内が確保されていたり、全員が職に就いていたり、税金を払わなくて済むだけマシだ。金がなくなれば外に出て死なないように慎重に狩る。で、それで防具や食料を確保し、平穏に暮らす。完璧である。
そんな流れを今のところ延々と繰り返している。まぁ、ちゃんと攻略はするんだけどね、小町に早く会いたいし。
いつの間にかレベルも15くらいに上がっていた。
そんな時、
「ハチ!」
俺をハチと呼ぶのはこのゲームで一人しかいない。ちなみにホントの名前はエイトマン。別に弾より早くは走れないけど。
「なんだよ。今、オレ仕事中だろ。人の仕事の邪魔する暇があるなら自分の仕事をしなさい」
「だからしてきたんだヨ。いい情報が入ったゾ」
「どんな?」
「攻略情報」
「いくらだ?」
「別に今回は買わなくてもいいゾ。強いて言うなら成功報酬としてこの情報をやるヨ」
て、ことはボスでも見つかったのかね。
「ボスが見つかった」
「……マジかよ」
すげぇな俺、予言スキルでもあんのかね。
「明日、攻略会議が行われるそうダ」
「…場所は?」
「1000コル」
「てめぇ……」
なにが成功報酬だ、足元見る気満々じゃねぇか。
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「わりといるもんだな…」
会議には結構な人が来ていて、どいつもこいつもいかつい防具を装備している。
…なんかみんな強そうだな。俺みたいなホノボノ野郎がここにいていいのだろうか。迷惑にならないように帰るべきか話だけ聞くべきか迷っていたら、青髪(ピアスじゃない)の奴が中央に立った。
「今日は俺の呼び掛けに応じてくれてありがとう!」
「……材木座?」
声似すぎだろ。おかげでなんか嫌なこと思い出したぞ。原稿読まされたり、プリクラ撮ったり、遊戯部にカチコミ掛けたり…。
……懐かしいな。
「俺の名はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」
その一言で笑が起こる。マジかよこいつ、一発目でここにいる奴の大半の注目を集めやがった。これでイケメンだったら完全に葉山だな。ていうか葉山なんじゃない?と、思ったが声が材木座なので葉山ではない。
……葉山+材木座とか海老名さんでも許容出来なさそうだな。
「実は、俺達のパーティがあの塔の最上階でボスの部屋を
発見した!」
おいおいスペックまで葉山かよ。なんで仮想世界の中でまで嫌な奴のこと思い出させちゃうかなー。まぁ、いい奴なんだけどね。
……そういえば、葉山とももうしばらく会ってないんだな。あんな奴でも懐かしく思える。もしかして、これが失って初めて気付くと言ったものなのだろうか。
なんて入り浸ってると、体育の授業みたいなセリフが聞こえた。
「まずは六人のパーティを組んでくれ!」
はい、詰んだー。詰みましたよー私の攻略会議。
誰とも組めずに一人で残ってたら周りから「あいつ一人wwwマジぼっちwww」っていう視線を向けられる。
授業じゃないから調子悪い作戦も使えないしな…仕方ない、フェードアウトしよう。
そう思って、その場から消えようと思った時だ。
「誰かまだ組めていない人はいるかー?一人溢れちゃってるんだ!」
「葉山……」
「ディアベルだ」
ディアベルが優しく肩に手を乗せて周りの人に声を掛けてくれた。だが、ここで甘えてしまってはいけない。余り物には福なんてない、いつでも外ればかりなのだ。
「あの、大丈夫です。帰りますんで」
ここは撤退がベストだろう。だが、
「いや、ここに来てくれたってことは君にもみんなを救う気持ちがあるんだろ?なら俺はその気持ちを蔑ろにしたくない」
「葉山ぁ……」
「だからディアベルだって…」
マジかよこいつ葉山よりいい奴なんじゃねぇの?材木座要素皆無だわ。すると、奥の方から手が上がった。黒い髪のやつとフードを被った二人組だ。
「よし」
「あの、ありがとうございます」
「いいって。それに、一人一人が大切な戦力だからな」
そう言って、ディアベルは中央に戻って行った。
「俺はキリト、よろしくな」
「お、おう。エイトマンだ」
「よし、じゃあ攻略会議を始めよう!」
ディアベルの号令で、俺達に取って大きな一歩となる会議が始まった。