「うっうっ、ひどいよリーファ…飛行恐怖症になるよ…」
「ひどいのはお前だろ…すこしくらいスピード落とそうとしろよ。俺が助けなかったらどうなってたか」
「ていうか、間に挟まれて生きてるあんたの方がどうなってんのよ」
三人してどんよりと歩く。俺の目なんていつもの3倍くらい腐ってると思う。が、そんな俺の前にユイが出てきて行った。
「でも、ありがとうございます!パパを助けてくれて」
「お、おう」
ちょっと、今の俺史における最高の感謝の言葉なんじゃないの?そんな俺をリーファがジト目で見てくる。
「なに小さい子にデレデレしてんのよ」
「してねぇよ。お礼なんて言われるの久し振りだから耐性がないんだよ」
「どうだか」
で、リーファはふいっとそっぽを向く。なんなのこいつマジで。
「それはそうとあんた!絶対いつか勝負してもらうからね!あんたが私より上なんて認めないんだから!」
「ねぇ、お前剣一本でどれだけ恨み持ってるの?それとも俺のこと好きなの?」
「は、はぁっ!?なに言ってんのよ!バカじゃないの!?ていうかバカねあんた!もう殺すわ!」
「じ、冗談です!ごめんなさい!」
キリトに視線で助けを求めるが、「今のはお前が悪い」と視線で返してきた。この野郎…。そこに
「リーファちゃーん!」
と、しずかちゃんを呼ぶのび太みたいな声がした。その声に四人で振り返ると、廃校寸前の学校にいそうな男の子が走ってきた。
「リーファちゃん!無事だったの!?」
「あ、まぁね。この人に助けられて」
「へぇ…って、スプリガンじゃないか!どうしてここに!?」
おっと、ここにもウンディーネがいますよ?それとも分かってて無視してるのかな?
「こ、こいつスパイとかじゃないの!?」
「大丈夫、スパイにしては間抜けすぎるから」
「ひどい!」
で、またまた自己紹介タイム。
「こいつはレコン」
「レンコン?」
「エイトマン静かに」
「ってウンディーネまで!?いつからそこに!?」
え、マジで気づいてなかったの?流石に少しショックだよ。
「で、レコンなんかよう?」
「あ、シグルド達が水仙館で分配やろうって」
「あーあたしの分はパスでいいや。今日はこの人とちょっと約束あるから」
だから責めて「この人達」って言おう?じゃないと俺ホントに居場所が…。
「じゃ、またね」
リーファは強引に話を切ると、そのままキリトを引きずって行った。それで、どっかの店に入る。が、俺は外で待つハメになった。リーファに「あんたには奢るつもりないんだけど?」と、言われて「じゃあキリト、終わったら呼んでくれ」と、返事を待たずに外に来たのだ。
……暇だな。そう思ってると、俺の肩になんか乗ってきた。ユイだ。
「お前はキリトのとこにいなくていいのか?」
「はい!少しエイトマンさんとお話ししたいです」
「と、言っても俺は話すことなんてねぇよ。むしろ小さいうちから俺なんかと話してると碌な大人にならないぞ」
「いえ、私は所詮AIですから大人になんてならないです」
と、ショボンとするユイ。まぁ、確かにそうか。だがショボくれてる女の子を見るのは趣味じゃない。少し励ましてやるか。
「大人にはなるよ。例えAIでも」
「え?」
「いいか?人間ってのは20年生きたら強制的に大人になるんだ。どんなに嫌がっても社会という理念によって強制的に大人にされちまう。だが、AIにはそれがないだろ?つまり、AIは自分が大人だと思えばその日から大人になれるんだ。だから、お前だって大人になれる」
あれ?自分で言っててなに言ってるんだから分からなくなってきた。だが、ユイは俺の話をクスクスと笑ってくれる。
「やっぱり、エイトマンさんって面白い人ですね」
「は?」
「決めました!エイトマンさんは私のパパ二号です!」
「や、ちょっ」
「決定です!いいですね!?」
「は、はぁ」
なんかよくわからんうちに承諾しちまった。てかパパ二号ってなに?まるで不倫して分かれて再婚したみたいじゃねぇか。すると、後ろの店のドアが開く音がする。
「終わったのか?」
「あぁ。とりあえずあの世界樹ってとこを目指すことにした」
「今日から出発すんのか?」
「いや、明日の午後3時からまたここに集まることになった」
あの、待ち合わせって普通俺の意見も汲んで決めることだよね?もしかして俺のこと暇人って思ってる?まぁその通りなんですけどね。で、俺がログアウトしようとした時、後ろから声が掛かる。
「ちょっとあんた!」
…あんた、か。俺のことじゃないな。他人に呼ばれても名前じゃない限りはスルー。それが俺、とこ思ってたら肩を掴まれて引っ張られる。
「あんたよあんた!聞いてるの!?」
「なんですか…」
「あんたは明日2時半にこっちに来なさい」
「いや、明日はちょっとアレだから」
「30分くらいかわらないでしょ!?いいから返事!」
「…はい」
なんか嫌な予感がします。そういう時だけ敏感なんです俺は。で、リーファは自分だけさっさとログアウトする。残されたのは俺とキリトだけ。
「とりあえず、宿でも探すか」
「そうだな」
で、宿に行く。部屋の前でキリトに挨拶をした。
「じゃ、また明日な」
「あぁ」
すると、キリトのポケットからユイが出てくる。
「さよならです!パパ二号!」
「…エイトマン。この子になにを吹き込んだ」
「なんも言ってねぇよ。勝手にそっちがそう呼ぶって宣言しただけで…待って待って剣を抜こうとしないで俺が悪かった!」
言うと、キリトは剣をしまう。
「じゃあな」
で、部屋に入ってしまった。さて、俺もさっさと帰ろう。
_________________
で、次の日。2時半に来いと言われたのでその時間通りに来る。すでにリーファはそこにいた。
「遅いよ」
「ピッタリだ」
「5分前行動って習わなかったの?」
「無駄な時間は過ごさないタイプなんだよ。で、何の用だ?」
「勝負よ!」
「……は?」
で、俺はリーファにシルフ領の外に連れて行かれる。
「本当にやるの?」
「じゃないと私の気が収まらないわ!」
「アッハイ」
で、リーファは剣を構えて、俺は仕方なく剣を抜く。ていうかこれ、バリバリ初期装備じゃん…。こんなんで自称古参の奴に勝てんのかよ。
「いつでも来なさい」
「いいのかよ俺から仕掛けて」
「ハンデよ」
「お前、それで負けたら相当恥ずかしいぞ」
「だ、誰も周りにいないんだから大丈夫よ!」
はぁ…テキトーにさっさと終わらすか。よく見たらあいつの剣、昨日のと変わってる。多分買い換えたんだろうなー。で、正面から近付く。普通、正面から近付くなんてしないだろう。が、俺みたいな隠蔽ガンあげ野郎なら話は別だ。あっという間にリーファの懐まで入ってやった。
「早っ!」
下から斬り上げるが、リーファはそれに反応してガードする。そのまま空を飛び、間合を取った気でいる。が、俺も飛んで間合いを詰める。それを待っていたようにリーファは俺を蹴り飛ばした。地上に落下する。それに追い討ち掛けるように空中から迫ってくる。
……タイミングはここだな。剣を重心移動だけでかわし、武器破壊した。つーか学べよこいつ。
「なっ…!」
「はい終わり」
信じられない、と言った表情のリーファ。そこで、拍手が聞こえた。
「いやぁ、いいものを見せてもらったよ」
キリトが歩いてきた。
「なんか気配すると思ったらお前か」
「2人で30分も早く集まるなんて聞いたら気になるだろ」
「だからって物陰で覗き見かよ」
「わ、悪かったよ」
と、そこでリーファが俺に剣を向けてくる。あれ?さっき壊さなかったっけ?
「ま、まだよ!まだ勝負はついちゃいないわ!」
「え〜もう俺勝ったじゃん…」
心底嫌そうな目でリーファを見るが、リーファは気にした様子はない。
「あんな飛び方も録に知らなかった奴に私が負けるわけないでしょ!?」
「リーファ」
キリトがいつもより真面目な顔で口を挟む。
「今回は君の負けだ」
「……っ!わ、私はリアルでも全中ベスト8なのよ!?それなのに…それなのに…!」
ちょっ、そんな泣きそうにならなくてもいいじゃないですか…そんなに俺に負けるのが悔しいですか…。ふと横を見ると、キリトが少し驚いたような顔をしている。
「もしかして、スグ?」
は?なに言ってんのこの人。スグってなんだよ。てかなにを直ぐにやればいいんだよ。と、思ってたらリーファはキリトにこう言った。
「和人、お兄ちゃん…?」
え、なにこいつら兄妹?俺だけ理解が追いつかない。見ると、キリトが俺を超睨んでる。
「エイトマン…」
「な、なんでしょう」
「スグが泣き止むまで俺はお前を許さないぞ」
うわーこの人も大概シスコンだなー。まぁキリトに勝負挑むくらいなら泣き止ませた方がいいかもしれないが、生憎そんなスキルは持ってない。いや待て、逆に考えろ。負けたのが悔しくて泣いているのなら…。
「リーファ、ちょっと手を失礼」
俺はリーファの手をつかむ。で、その手で自分の頭を殴った。
「ギャアァァァァァッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」
俺は悲鳴を上げて倒れる。兄妹は二人してなにをしてるんだこいつはと言った目で見ている。
「ま、参りましたー…」
これで、許してくれるかな…?薄目で様子を確認。リーファはぷるぷると肩が震えている。嬉しさの余り泣いたのか!?と、思ったが違った。
「ふざけるなぁぁぁっっ‼︎‼︎」
新しい剣を出して、ソードスキルみたいなので俺を突き刺そうとするリーファ。間一髪避ける。
「っぶね!」
「あんたはあたしをおちょくってんのかぁっ!」
「ちょっ!まっ!ごめん悪かった!悪かったって!スグ落ち着いて!」
「お前がスグって呼ぶなぁっ!」
「二人ともまてよ!」
「ふあぁ…パパおはようございます」
で、こんな感じで俺達のアスナ奪還作戦は始まった。大丈夫なのかよこれ。