あの後、桐ヶ谷とALOを買いに行って別れた。で、夜の六時にスプリガン領とかいう所で待ち合わせした。で、種族を選択。と、いってもイマイチなにがいいのか分からない。サラマンダー、ノーム、シルフ、ウンディーネ、ケットシー、レプラコーン、スプリガンから選ぶらしいので、俺はウンディーネにした。だって泳げるんだもん。
そして、アルヴヘイムオンラインが始まった。
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まずは、自分の領から始まるようだ。で、なんで俺は落ちてんの?いやいやいや!死ぬ死ぬ死ぬから助けてぇー!と、思った瞬間、いきなり全ての映像がフリーズした。あちこちでポリゴンが欠け、真下にブラックホールのような暗闇が出る。
「え、なにこれデジャヴ?」
よくわからないことを言いながら俺は闇の中に落ちて行った。
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目が覚めると、よく分からない森。え、ここどこですか?早くしないとキリトに怒られるんだけど…。とりあえず自分のステータスを確認、え、SAOのまんまなんですけど。最初からこれってチートじゃね?まぁ、今回はアスナの救出と言った目的があるから、スタートレベルは高いに越したことはない。
すると、すぐそこで人の声が聞こえた。
「やった!帰れる!家ないけど!」
とか言いながらそっちへ近付く。だが、おっさん三人が女の子を囲んでいた。
…うわー絡みたくねぇー。まぁ、このゲームは死んでもいいんだし、ほっといてもいいかなー。すると、今度は頭の悪い悲鳴が聞こえた。その悲鳴は女の子と男三人のあいだにどさっと落ちてきた。
「うう、いてて…着陸がミソだなこれは…」
どっかで聞いたことある声…ていうかキリトだろあれ。なんでこんなとこにいるわけ?そしてなんでリオレウスみたいな髪型してんの?
「なにしてるの!早く逃げて!」
女の子の方が声を張り上げる。だが、キリトはのほほんとした声で言った。
「重戦士三人で女の子一人を襲うのはちょっとかっこよくないなぁ」
え、襲うってどういう意味の襲うなんですかね。
「なんだとテメェ‼︎」
やめとけやめとけ。お前ら雑魚プレイヤーが集まってもキリトには勝てないから。だが、三人のなんか変なのはやる気満々らしい。キリトは後ろの女の子に訪ねる。
「あの人たち、斬っていいかな?」
「そりゃいいんじゃないかしら。少なくとも先方はそのつもりだと思うけど…」
「それもそうか、それじゃあ失礼して…」
で、キリトはあっという間に二人倒す。女の子は唖然としているが、キリトを知っている俺からしたらむしろやられた方を同情してしまう。
「どうする?あんたも戦う?」
「いや、やめておこう。もうちょっとで魔法スキルが900なんだ」
「正直な人だな。そちらのお姉さんは?」
「あたしもいいわ」
で、その男は帰った。で、流れる安堵の雰囲気。だが、キリトの胸ポケットから変な妖精みたいなのが出てきた。
「待ってくださいパパ!もう一人プレイヤーがいます!」
げっ!なにあれ!?そしてなんでパパ!?あとなんで気付くの!?とか思う所は色々あるが、あんな言い方されたら俺が敵みたいだ。キリトに勝てるわけもないし逃げよう。
もしホントにステータスがSAOまんまならまず俺は見つからない。…はずなのだが。
「パパ!あの木のうえです!」
「パパ!あっちに逃げました!」
「パパ!あの木の向こうです!」
なんで分かるんだよ!なにあの子エスパー?とうとう壁まで追い詰められてしまった。
「追い詰めたぞ。なんなんだお前は…」
キリトが声を掛ける前に女の子が斬り掛かってきた。マジか。だが、この程度の腕なら問題ない。俺は重心移動だけでかわして女の子の武器を破壊した。
俺は武器をしまうと、キリトに話し掛けた。
「ちょっと待てキリト!俺だエイトマンだ!」
「え?エイトマン?」
「外見で分からないほど変化してんの俺?ウンディーネを選んだんだけど…」
「や、確かにエイトマンかも、目とか特に…いやあ、髪の毛青いから気付かなかったわ。てかそれならなんで逃げたんだよ」
「いや、その子がまるで敵を発見したオスカーみたいに俺のこと言うからつい…」
「パパ、お知り合いですか?」
「あ、あぁ。SAO時代でな」
「ふーん…です」
と、まぁこのままSAO時代の思い出話に洒落込みそうな雰囲気の中、俺は後ろから胸ぐらを掴まれた。後ろにはさっきの女の子が涙目で俺を睨んでいる。
「なんてことしてくれるのよ!私の武器!」
「いや、お前が斬り掛かってくるからつい…」
「ついじゃないわよ!そもそもあんたが逃げなければ私は敵だなんて思わなかったわよ!」
「あのな。そーやってなんでも人のせいしてると碌な大人になれないぞ」
「んなっ…!」
「ちょっ、二人とも落ち着けって…」
キリトが止めにはいる。それでようやく落ち着いたのか、女の子は冷静に質問する。
「で、君たちはなんでこんな所にいるの?スプリガンもウンディーネも領はずっと向こうよ」
「なぁ、まず領ったなんだ?」
俺が聞いた。そう、俺はキリトに碌な説明も受けてないのでこのゲームの概要を知らなかった。だが、リーファは不機嫌に言う。
「人の武器をへし折るような人に教えることはありません!」
まだ、怒ってんのかよ…。で、女の子はキリトに向き直る。
「私はリーファ。さっきは助けてくれてありがとね」
「俺はキリト。で、こっちがユイ」
で、ちっこい妖精はキリトの肩に立ってお辞儀する。キリトは俺に耳打ちするように言った。
「この子、SAOのシステムの幹部だった子なんだ。俺とアスナが22層でひろった」
「はぁ?」
「まぁ詳しいことはまた話すからそれだけ頭に入れといてくれ」
それだけ言われてすぐにキリトは元の顔に戻る。おっと、自己紹介が済んでないのは俺だけか。
「俺はエイトm」
「ねぇ、君このあとどうするの?」
無視ですかそうですか…。リーファに問われてキリトは答える。
「や、特に予定はないんだけど…」
「そう、なら、その…お礼に一杯奢るわ」
「オッさんみてぇな言い方…」
「うっさい」
どうやら俺は完全に嫌われてしまったらしい。まぁ馴れてるからいいけどね。そして、キリトはその誘いに乗った。
「それは嬉しいな。じつは色々教えてくれる人を探してたんだ」
「色々って?」
「ALOについてだよ。とくに、あの樹のことをね」
「世界樹?いいよ。こう見えて私は古参だしね。じゃあちょっと遠いけど中立の村が北にあるから、そこまで行きましょ」
「あれ?スイルベーンってとこのが近いんじゃ…」
「ホントになにも知らないのね。この世界で他所の種族が領に入ってくると色々と不利なんだよ。例えば、シルフだと、シルフは君に攻撃出来ても君は攻撃出来なかったりね」
おいおいなんだよそれ。いつの時代の日本だよ。ホントにいつまでも歴史は繰り返すね。
「でもすぐに襲い掛かってくるわけじゃないんだろ?ならそこでいいよ。リーファもいるし」
と、キリトは平然と言う。
「じゃ、スイルベーンまで飛ぶよ」
と、リーファは言いながら飛んだ。俺はキリトの肩を叩く。
「なぁ、俺も行っていいのかな」
「は?来ちゃいけない理由なんてないだろ」
お前はさっきまでのリーファの態度になんも感じなかったのか。
「それよりリーファ、なんでコントローラーなしで飛べるんだ?」
「あ、まぁね。やりたいなら教えるけど」
「是非ともお願いします」
まずそのコントローラっての知らねぇんだけど俺。
「あの、俺にも教えてくれないですか?」
「…ていうかまだいたの?」
そんなにあの武器大事だったのかよ…。
「ま、まぁまぁリーファ。こいつ、一応俺の相棒だから教えてやってくれよ。剣のお金は俺が払うからさ」
キリトが助け舟を出してくれる。
「剣のことじゃないわ!こいつが私の剣を見切ったのが許せないの!」
えーなにそれ、完全に言い掛かりじゃないですか。てか弱い自分を悪めよ。
「…まぁ、いいわ。コントローラ出さずに後ろ向いて」
俺とキリトは従う。すると、肩甲骨の間を触れて来た。
「うひゃっ」
「えっ、ちょっと気持ち悪いんだけど」
「…悪い、くすぐったかった」
「……、ここから仮想の骨と筋肉が伸びてるも想定して、それを動かすの」
「むむむ…」
キリトは唸るが俺には理解出来ない。なんだよ仮想の骨と筋肉って…んなもんわかんねぇよ…。と、思ってたが、案外想像出来て俺はすぐに飛べたがキリトは中々飛べない。
すると、まどろっこしくなったのか、リーファはキリトをドンッと押した。
「うわあぁぉぁぁぉぁっ!」
そのまま、月に向かうアポロのように真上に飛ぶキリト。しばらく、俺とリーファとユイはその様子を見ていた。
「あれ、やばくね?」
「パパー!」
ユイがそれを追い掛け、その後にリーファも続く。仕方ないから俺もあとを追った。だが、空中に出てみると、キリトはトランザムのようにその辺を回っていた。それを見てリーファもユイも爆笑。
こいつら酷いな…悪魔かよ…。だが、キリトも段々と馴れてきて、数分後にはすぐに飛べるようになった。
「おぉ!これはいいな!」
「でしょ?じゃ、早く行こう!」
で、しばらく俺達はスイルベーンに向かう。だが、キリトが挑発するように言った。
「もっとスピード上げてもいいぜ」
「へぇ?言ったね?」
こいつら子供か?で、リーファは加速するが、キリトもユイも余裕でついていく。で、さらにこいつらは加速して行った。
「やるじゃんキリトくん!私に追い付くなんて!」
「このくらいまだまだ!でも後ろにいるエイトマンはもっと早いぞ!」
「え?」
「いやもう赤い彗星」
「ちっ」
あの二人がなんの会話してるか分かんないけど、リーファが俺のこと怒ってるのは分かる。なんで俺はこんな敏感なんだろう悪意に対して。
「はう〜私もうダメです〜」
そこで、ユイが脱力した。おっと、こんな所で落ちたらまずいだろ。飛ぶ速度を落としたユイを俺が拾った。
「大丈夫か?悪いなあのバカ共大人気なくて」
「いえ、ありがとうございます」
なんてやってる間に、塔が見えてきた。
「ほら!あれがスイルベーンだよ!塔の根元に着地するよ!って…」
そこでリーファはなにかを思い出したように詰まる。
「キリトくん、ライディングのやり方分かる?」
「ライティング?英語の授業?」
「ごめん、幸運を祈るよ」
「えっ!?ちょっと待っ…気になる…って!」
そこで塔が視界に入ったキリト。どうやら自分の運命を見つけたか。俺の予定ではほっとく予定だった。でも、
「パパぁーっ!」
なんて小さい子の声聞いたら助けない訳に行かないでしょ。俺はタイムスリップ出来そうなほどのスピードを出し、リーファの横を去った。
「…嘘」
「キリトぉぉぉぉっっ‼︎‼︎‼︎」
結果的に言えば、俺はキリトの前に立ち塞がり、塔との間に挟まれてクソでかいダメージを負った。