活動報告に書きましたが、病気にかかっていました。
ようやく完治しましたので連載を再開していきます。
これからもよろしくお願いします。
「まじかっ……! 一度ならず二度までも、盟和ディフェンスを中央突破した!」
(なんだあの小さいやつ。ビデオで見た白瀧のドライブの方がキレは鋭かった。けど、こいつのドライブは捉えにくい……!)
最初は細谷と金澤のダブルチームを。そして今度は細谷と古谷をかわしてレイアップシュートを決めた。
トップからの侵入を防ぐためにと練習を積んできたというのに。事実あの小林でさえも攻めあぐねていた。
それなのに西村が二度も連続で中央からの攻撃を成功させてきた。この衝撃は盟和にとって決して小さいものではなかった。
「細谷先輩!」
「……おう、なんだ?」
「次、もう一度マッチアップ2-3ゾーンで当たりませんか?
さすがにマンツーマンだけではあの突破力は止め切れません」
これ以上好き勝手させるわけにはいかない。金澤が細谷に声をかける。
たしかに彼の言う通り、ただのマンツーマンで西村を起点としたオフェンスを止めきれる自信はなかった。
「そうだな。たしかにパスコースも封鎖しきれてないし、その方がいいだろう」
「それじゃあやっぱり俺も!」
「だけど金澤、お前は次に
「え? でも……」
「そうしないと小林へのパスコースが空いちまう。それだけは駄目だ」
細谷も彼の意見に同意を示すものの、しかし彼の即座のヘルプを禁じた。
ダブルチームでは先ほどのように西村にかき回されてディナイが疎かになってしまう危険性を伴う。
ゆえに細谷は意見しようとする金澤を制して言った。
「
確信はない。しかし必ずややり遂げて見せると。
これ以上ルーキーに好き勝手させるわけにはいかない。三年生としての意地が細谷を沸き立たせた。
「……勇作」
「なんだ?」
ボールを運びながら、細谷は前を走る勇作へと声をかける。
「俺が何としても
本来ならば自分も積極的にオフェンスに参加すべきであろうが、今は少しでもディフェンスに集中したい。
だからこそ細谷はエースとチームメイトに託すことにした。きっと彼らならば太刀打ちできるであろうと、そう信じて。
「……ああ、任せとけ。とにかくボールを俺に集めろ。そうすれば後は俺が決めてやる」
考えが通じたのか、勇作もいつものようなおふざけはせずに淡々と述べた。
(ああ。頼んだぞ)
走り去る背中に声をかけることなく心の中で声援を送る。
気持ちを改め、細谷は思考をクリアにした。
マッチアップしている西村が迫る。やはりマークにつくのが早い。
ボールを取られないようにと細谷は慌てずに外の金澤へ。さらに勇作へパスをさばいた。
「ッ! まさかこれは……」
最初に小林が異変に気づく。金澤がパスをさばくや否やすぐに駆け出し、逆サイドへと移ったのだ。
右サイドにはミドルで勇作がボールを保持しているだけ。残りの選手はスペースを空けるように移動した。
「アイソレーション! 盟和はあくまでも勇作で得点を決めるつもりか!」
すなわち勇作の
(来るか……!)
松平も相手の動きを察知し、腰を落とす。
そして、先に動いたのはやはり勇作だった。
(来た!)
変速のチェンジオブペースからのクロスオーバー。
突然の切り替えし。だが松平もこれに反応した。
「甘ぇよ!」
「なっ!?」
すると勇作はボールを膝下から通し、逆の腕に収めてその場で急停止。
ドライブと見せかけてミドルレンジからのジャンプシュートを撃つ。
松平はブロックに跳ぶこともできない。
「撃ってきた!?」
「リバウンド! 黒木!」
勇作のシュート範囲はそこまで広いとは思えず、すかさずスクリーンアウトへ。
ポジションは譲らないと黒木や小林が体を張るが――ボールはリングを射抜いた。
「入った!?」
「決めた!」
「よっしゃあ! 勇作、ナイッシュ!」
(大仁多)18対31(盟和)。点差を埋めることができない。
「あそこからも決めてくるのか」
「ビデオで見ていたよりもシュートレンジが広いな。たいした得点力だよ」
「……とにかく。決められた以上、こっちも決めないといけません。立て直しましょう」
やはり攻撃力が高いチームだと再認識させる動きだった。
点差を縮めたい大仁多にとって勇作を止めることは最重要事項となりつつある。
「来るぞ! 大仁多のオフェンスだ! 絶対止めるぞ!」
盟和は再びマンツーマン2-3ゾーンを展開する。
ボールを持つ西村に対し、細谷はしっかりと腰を落とし、鋭い視線で彼を見る。
(またマッチアップからゾーンに戻したか。……というか、ひょっとして状況を判断して変えていくつもりか?)
「でも……無駄ですよ!」
今度は西村が自分から切り込んでいく。
トップから一気に急加速。わずかに体がぶつかるような、ギリギリのコースを見切って突っ込んだ。
「ッちい!」
彼の速さを前に細谷の反応は遅れ、突破を許してしまう。
神戸がヘルプに出ると西村は黒木へバウンドパス。フリーの黒木が確実にシュートを沈めた。
(大仁多)20対31(盟和)。点差を縮められないが、大仁多もそう簡単には離されない。
「まだ遅いか……」
「大丈夫ですか、細谷さん」
「ああ。大丈夫だ。次だ。次こそは」
今のドライブを含め三回西村のプレイを見ることができた。
少しずつ彼の速さに、そして動きに慣れているはずだと、細谷は自分を奮い立たせる。
(しっかりしろ! このまま一年に好き勝手やられるわけにはいかねえだろ! これが最後のチャンスなんだぞ!)
苛立ちは己の中で力に変えて思考は冷静に。次こそはといきこんで細谷はゲームを組み立てる。
ボールの供給先は、やはりエースの勇作である。ボールが勇作に渡ると、彼が動きやすいようにと他の四人はコートの逆サイドへ集中する。
「よっしゃあ! もう一本!」
「こんのっ!」
必死に食らいつく松平には目もくれず、勇作がコートで躍動する。
レッグスルーからのチェンジオブペース。鋭くゴール下へ切り込み、そしてすぐに停止。松平がバランスを崩している間に、確実にシュートを沈める。
(大仁多)20対33(盟和)。勇作の連続得点により、再び盟和のリズムが戻ってきた。
「また勇作だ! エース絶好調!」
(……これ以上はまずいな。松平さんが得意のゴール下から引きずり出されてしまっている)
声援が大きくなる観客。それに比例し、藤代の表情は暗くなっていく。
松平は生粋のパワープレイヤーである。ゴール下でこそ強さを発揮するが、スピードはお世辞にも速いとは言えない。
そして今、予想以上のシュートレンジの広さと突破力を持つ勇作により、松平が必然的に不利な状況となっていた。
「まずはディフェンス。エースを止めなければならない」
これ以上相手に流れを渡すわけにはいかず、藤代はベンチのある選手に声をかけた。
「一本! 確実に取り返していきましょう!」
コートでは西村が組み立てる。
盟和のディフェンスは変わりなく堅固なものであったが、一つだけ変化があった。
「ッ!?」
西村と対峙している細谷が先ほどよりも半歩下がり、今まで以上の集中力を醸し出していた。
(この人、俺を止める気か!)
明らかに西村のドライブを止めようとしている。姿を見ただけでわかった。
逆に外からスリーを撃ちやすい状況でもあるのだが、しかし西村はそれはしない。
「……じゃあ、その誘いに乗りましょうか」
体の前でボールを左右につく。徐々にドリブルのスピードにも緩急をつけていく。
しかし細谷から仕掛けるつもりはないのか、まったく動こうとしない。
「ちっ!」
痺れを切らした西村が仕掛ける。急加速し細谷の右横を貫くように直進した。
(……やっぱり来たな!)
「なっ!?」
しかし細谷はその動きを捉えていた。はっきりと目で追い、突破を許さない。
(距離を空ければ懐に入られることもないし、お前の動きを捉えやすい。
何よりも単独突破の際は動きが直線的。それならどのコースを通るか読むことさえ出来れば……!)
それが出来れば防ぐことは出来る。
この勝負は細谷が読み勝った。ボールを弾き、西村の手からボールが離れた。
「しまった!」
「ナイスディフェンス、細谷センパーイ!」
こぼれたボールを古谷が拾い上げる。
「というわけで、反撃ゴー!」
そしてすぐさまボールを山形に放り投げた。軌道が高いために、小林の手も届かない。ボールは勇作へと渡った。
「よっしゃあ! よくやった!」
「速攻! 行け!」
勇作が先行し、金澤が遅れて続く。
マークである松平はそのスピードに追いつくことが出来ず、勇作は楽々ゴールへと向かう。
(あいつ、運動量も半端じゃねえ!)
「もらった!」
前方には誰もいない。勇作はドリブルのスピードを維持してレイアップシュートを放つ。
「いつまでも調子に――」
「ッ!」
成功を確信した瞬間、背後より覆いかぶさるような陰とプレッシャーがかかった。
「――乗るな!」
山本のブロックショットが炸裂する。
「なに!?」
「……うそーん」
シュートは防がれ、ボールがラインを割る。
「アウトオブバウンズ!
「ふぅ……」
「と、止めた! 山本さんナイスブロック!」
それほど高さが出ていなかったとはいえ、10cmほど差がある相手をブロックした。
歓喜し、大仁多ベンチが盛り上がりを見せる。
「……す、すげえ。勇作さんの速攻止められるなんて、滅多に見れないっすよ!」
「ああ。さすが大仁多のレギュラー。三年生ともなれば質が違う」
思わず岡田も冷や汗を覚えた。目の前であのような動きを見せられて、動じない者は少ないだろう。
「だが、それでもうちの勇作は止められない」
唯一動じないものは、エースへの信頼。
リスタート後、再びボールが勇作へと集まった。今度は急停止はなく、完全に松平を置き去りにする。
「――勇作!」
「やはりお前か、小林!」
小林がヘルプに出る。攻撃が集中していることはわかっていた。
当然来るだろうと思っていた。勇作はニヤリと口角を挙げる。
(だけどな!)
だが勇作は止まらない。ドライブの勢いをそのままに跳躍し、腕を振り上げた。
(直接ぶち込む気か!)
「させるか!」
ダンクシュートを狙っている動き。
そう判断すると小林もすぐに対応する。跳躍し、空中で二人がぶつかり合った。ボールを挟んで両雄が激突する。
「なっ!?」
「終わりだ!」
これを止めて流れを引き起こす。小林が完全にシュートを止めていた。
「さすが。……けど、まだ終わりじゃねえ!」
「ヘイ!」
「ッ……?」
横から声がかかる。勇作はその声の方向へとボールを放った。
その先にいたのは――古谷だった。
「ナイスパス!」
「――またお前か!」
「また俺でした!」
松平がすぐにヘルプに出る。
しかし彼では古谷のステップバックシュートをとめる事は出来ない。
一瞬でブロックを不可能とする距離が空いてしまう。
「ッ!」
「残念!」
余裕の笑みさえ浮かべる古谷。そのままジャンプシュートを放つ。
しかしそれゆえに気づけなかった。すぐ近くから忍び寄る相手に。
「うらぁっ!」
山本の指先がボールに触れた。その衝撃でシュートの軌道が高くなる。
「なっ!?」
「山本さん!」
咄嗟に反応したのは松平だけではなかった。山本もシュートに対応すべく動いていた。
シュートはリングに跳ねて、外へと落ちてくる。
「リバウンド!」
後はゴール下の選手達の務め。
黒木がスクリーンアウトで神戸を外側へと追いやった。
「うおおおお!」
「ぬああああ!」
後は確保するのみ。黒木が両手を伸ばし、神戸も必死に体を入れて手を伸ばす。ボールを手にしたのは、黒木だった。
(取った!)
「よっしゃ!」
「黒木! よくやった!」
これで攻撃は防いだ。そう皆が思った瞬間、勇作が黒木からボールを奪う。
「なっ!?」
「まだ終わってねえ!」
「こいつ――!」
ボールを奪うと勇作は止まらなかった。着地と殆ど同時に再び跳躍。
ジャンプシュートを確実に決めた。
(大仁多)20対35(盟和)。幾度も攻撃を止めて見せたが、盟和の勢いは止まらず。
「決まった! 勇作強い!」
「これで15点差だ! まだまだ続くぞ!」
この試合が始まって最大の点差がついた。
敵エースの活躍によりじりじりと点差が開いていく試合展開。戦況は中々覆らない。
(……まずい。今は山本が上手く対応してくれたが、これ以上勇作にミドルで暴れられると収拾がつかなくなる。
俺が古谷のマークを外れてしまえば今のようにシュートを撃たれる。だが松平だけでは不利。どうする……!)
小林も打開策を講じるが、案はそう簡単には思い浮かばない。それだけ今の盟和は攻撃力が高かった。
とにかくなんとしてもオフェンスだけでも成功させようと、考えを後にして走り始めた。
大仁多の反撃。盟和はマッチアップ2-3ゾーンを続行する。細谷のマークの厳しさは先ほどと同様、あるいはそれ以上だった。
「へえ。あくまであなたは俺を止めるつもりですか」
「それが俺の役割だ。お前を止める! 絶対に!」
「……そうですか!」
相手がそのつもりだとしても、好き勝手させるわけにもいかない。
西村はすぐに左ウイングの山本へパスをさばき、そして駆け出した。
(今度は味方を使うか!)
「大丈夫ですよ、細谷センパーイ!」
(よしっ!)
古谷が松平を抑えていることがわかると、躊躇いは必要ない。
今度も確実に西村の動きを捉え、反応することができた。
「……つられたか。いいのですか、それで?」
「なに?」
「UCLAカットは、トップの選手が止められたとしても、問題はないんですよ」
「は?」
それはどういう意味だと、聞く必要はなかった。
「小林!」
「任せておけ!」
山本がトップへとボールを戻す。右サイドの小林が駆け込んでいたのだ。
ディフェンスの金澤の動きを予測し、逆方向へと切り返す。金澤を突破し、ミドルへと侵入した。
「うわ、あっ!」
「俺の仕事は、あなたを誘き寄せることでもあるんですよ」
(小林の中央突破か――!)
ディフェンスが上手い細谷をトップから移動させ、そして小林が本来のポジションから攻める。
これでマッチアップ2-3ゾーンを攻略することを可能とした。
古谷がヘルプに出るが、小林にとっては障害にならなかった。古谷のブロックをものともせず、ジャンプシュートを決めた。
「ちいっ!」
(跳んだのに、止められない!)
「悪いが、お前に止められるわけにはいかない」
(大仁多)22対35(盟和)。大仁多も一歩も譲らない。
「小林のシュート力は変わらないな。プレッシャーを受けようとも、ブロックされない限りは殆ど確実に決めてくる」
「あの人は安定感ありますよね。ピンチであろうとチャンスであろうと毎回出てきますし」
「ああ。それに加えて、今の攻撃の組み立て方……」
「UCLAカットはトップの選手が入れ替わる形で何度でも仕掛けることができます。
しかも今回の両サイドは小林と山本、二人ともぺネトレイトが得意な選手。そう簡単には止められないでしょう」
相手の猛攻に怯む事無く、負けじと攻める姿勢を見せる大仁多。
秀徳の選手達も彼らのプレイに関心を払いながら、戦況を行く末を見ていた。
「そうなると問題はやはりこの後。盟和のオフェンスをどう止めるか、だ」
しかし攻撃力が高いのはお互い様である。
またしても盟和は勇作にボールを預け、勝負を仕掛けてきた。
勇作がゴール下に切り込む。ドライブのキレは鋭く、松平の反応が一瞬遅れる。
「……くそ!」
松平も必死で勇作を追いブロックを狙う。
だが勇作がドライブからシュートモーションに入った時、松平の体が勇作を押してしまった。
(ちっ……!)
「ディフェンスファウル! プッシング、白
ファウルでシュートこそ止めたものの、勇作にフリースロー二本の権利が与えられる。
「ここで動かないと、いけないか」
そして藤代がベンチから立ち上がった。