黒子のバスケ 銀色の疾風   作:星月

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第十六話 影との再会

 いくつか電車を乗り換えて、目的地である東京を目指す。

 窓から視線を向ければ久しぶりに大都会の町並みが移りだされる。……やはり東京は大都会なんだな。これほどまでに高層ビルが立ち並んでいる場所は他にないだろう。

 

「……なんだか懐かしいっすね。つい最近までここに住んでいたって、わかっているんですけど」

「俺もそう思っているよ。あいつにこれから再開するってことを考えると、なおさらな」

 

 隣の席で俺と同じように外の景色を眺めていた西村が囁いた。

 ……本当だよ。本来なら東京の高校に通う予定だったという事情もあるから複雑だけどな。だが、それも含めて懐かしい。

 

「こんなに早くにここに戻ってくるとは、あいつと再会しようとは考えてもいなかったけどな。

 だけど、西村。別についてこなくてもよかったんだぞ? 俺の行動は決して褒められるものじゃないからな」

「そんな冷たいこと言わないで下さいよ。俺だってこの目で確かめたいし……白瀧さんが無理をしてしまったときに、すぐに助けたいっすから」

「……そっか。悪いな。余計な心配をかけてしまっているようで」

「だから気にしないでくださいって。俺が好きでやっているんですから」

 

 笑ってそう言ってくれるのはきっとこいつくらいだろう。本当に、感謝してもしきれない。

 午後の授業を抜け出して、敵の高校を見に行くという真面目とは言いがたいことをしているのに。

 ……今日は月曜日。試合明けで部活がオフという理由で、午後の授業を仮病を使って早退し誠凛高校――黒子が進学した高校を目指している。

 目的は当然情報の確認、そして黒子の光をこの目で見極めるためだ。

 対戦するまでは会わなくてもよいと思ったが……そうもいかない。相手が青峰や緑間だったならよかったんだけどな。黄瀬が負けたとあっては、黙っていられなかった。

 

「ま、ありがとな西村。お前がいるというのは本当に心強いよ。

 しかしお前は別に構わないんだけどさ。……なんでお前らまでここにいるの?」

「お前ら? 一体誰のことだ?」

「さあ? 誰のことだろ?」

「お前らのことだよ!!」

 

 わざと呆けた反応を示す勇と橙乃。思わず公共の場ということを忘れて声を出してしまった。

 いや冗談抜きでなんでこの二人までいるんだよ? 西村には誠凛を見に行くと伝えたが、この二人には何も言っていないぞ。後は明に先生に仮病の理由を伝えるように頼んだくらいだ。

 

「いや、西村が『白瀧さんと二人で東京に行くー』って言ってたからさ、なんか面白そうだから付いてきた」

「私もそれを聞いてただ事ではないと思って……」

「お前か、西村!?」

「あー、すみません。ちょっと早退するとき見つかっちゃって」

 

 二人に情報を与えた犯人は思いっきり身近にいた。

 このバカ! あれだけ他のやつには言うなと念を押したのに! 俺だってできるだけ怪しまれないよう、全速力で片付けて勢いそのままに校舎を出たというのに台無しだよ。

 

「ちなみに要。お前がやけに急いでたから不審に思ったんだぜ。西村だけを責めるなよ」

「え!? 俺かよ!?」

「でも、本当に体調不良なのかと疑うくらいてきぱきとした動きだったよね」

「……しくじったか」

 

 勇はともかく橙乃にまでそう言われるのなら、そういうことだろう。

 そう言えば教室を出るときやけにクラスメートに不審な目で見られたような。……てっきり「体が頑丈なのに、珍しいな」くらいに考えていた。

 

「まあ、来てしまった以上はしょうがないけど。お前達は授業大丈夫なのかよ?」

「それはお前も同じだろ?」

「俺は大丈夫だ。幸い月曜の午後は数学の二コマ。丁度新しい単元に入るところで、公式の理解と例題さえやっておけば問題ない。問題のほうはもう問いたから、後で明にノートさえ見せてもらえば万事OK」

 

 授業を抜け出すのだから、当然それなりの準備は済ませてある。

 明には後でノートを見せてもらうよう頼んであるし。

 

「俺も白瀧さんに教えてもらうんで大丈夫!」

「西村のそれは大丈夫とは言わない!」

「……まあ、俺も多分なんとか……」

「やけに曖昧だな」

「私は数学は得意だし……」

「確かに橙乃は大丈夫そうだな。こいつらと違って勉強も出来そうだし」

「あ、ありがとう」

「「ちょっと待て(待ってください)! 何この男女差別!!」」

「うるさい! 日ごろの行いの差だ!!」

 

 三者三様のツッコミを入れれば返ってくるのは橙乃の呟きと男二人からのバッシング。

 冗談抜きで本心なんだけどな。西村は勉強苦手ということ知っているし、勇も頭良いとは……まあ、うん。橙乃は普段から真面目そうだ。

 

「まあ、一応授業はそれで各々大丈夫だとして。……じゃあ早退の件は皆大丈夫か? 俺と西村はお腹の調子が悪いってことで早退したけど……」

「「お腹が痛いので帰りますって言ってきた」」

「おかしいだろバスケ部! 何この集団! 何で皆揃ってお腹の調子崩すんだよ!?」

 

 変なところで意気投合するなよ!

 集団食中毒じゃないんだからさ、本当に疑われるだろ。……駄目だ、これ絶対明日何か言われる。

 

「……ちなみに勇。お前は一体誰にそれを伝えた?」

「明に。なんか『なんだ勇もか』って心配されたよ」

「すまねえ明! お前に全て押し付けてしまったみたいで本当にすまない!!」

 

 嫌な予感がしたので勇にたずねてみれば……はい、予想通り。

 俺の件も含めて明にやけに重責だよ。むしろなんでバスケ部の中であいつだけ無事なんだよって話だよ。

 ……上手く先生を言いくるめてくれれば良いんだけどな。明、今度何かおごるよ。

 

「大丈夫だって。心配しなくたって、あいつならなんとかしてくれるさ」

「何すかその他力本願」

「いや絶対おかしいだろ。バスケ部はどれだけ体弱いんだよって話になる……」

 

 勇は楽観視しているが、俺はとてもそんなことできない。

 俺と西村は違うクラスだからまだ大丈夫だと思っていたのに……全て台無しだよ!

 

「まあまあ。過ぎたことは気にするな。それよりもせっかく抜け出したんだから楽しもうぜ。俺一回サボりとかやってみたかったんだ」

「お前は今から何しに行くか本当にわかってんの!? 観光じゃないんだけど!? ってかまさか最後が本音!?」

 

 駄目だこいつ。早くなんとかしないと……!

 頭を抱えて黙り込む俺を、気遣うように肩をポンッと触る西村と橙乃の優しさがなんだかとても嬉しく感じる。

 ……まあ、元々は俺が言い出したこと。後でこのことは考えよう。

 それよりも今は目的のことだけを意識するとしよう。誠凛の光、火神大我のことを。

 

 

――――

 

 

 一方、今日の大仁多高校の午後の授業。

 当然のことながら授業の開始時に生徒の出席確認を行っているのだが……

 

「……うん? 何だ、神崎はいないのか? 午前中はたしかにいたようだが……」

 

 案の定、神崎の不在は当たり前のように先生が気づいていた。

 午前中の授業には参加していたというのに午後になっていないのだから不思議に思うのは仕方がない。

 

「先生。神崎君はお腹の調子が悪く、早退すると言っていました」

「何だ、神崎もか。先ほど別のクラスの西村と橙乃も早退と聞いたが……体調管理には気をつけろよ。お前達はこの学校の期待の星なんだから」

「わかっています」

 

 光月の話で納得したのか、注意を促して先生は視線を周囲へと移していく。

 どうやらそれほど怪しまれずにすんだようだ。そう一安心したところだったが……まだ終わらない。

 

「む、白瀧もいないのか? 誰か、知っている者はいるか?」

「先生、白瀧君はお腹の調子が悪く、早退すると言っていました」

「……おいバスケ部。お前達はいったい何をしているんだ!?」

 

 もう一度光月が理由を話すが、さすがに許容範囲を超えたのか先生が呆れ半分怒り半分で光月をにらみつける。

 ……まあ同じクラスから二人、他のクラスからも二人の生徒が同じ理由で、同じ部活動に所属している人間が早退ともなればむしろ当然の反応だろう。

 

「全員が同じ理由だと!? 一体何を食べたらそんなことになるんだ!?」

「……多分、練習試合の後の食事が原因かと」

「練習試合の後?」

「はい。藤代監督に連れて行ってもらった、3キロ超のダイナマイト丼。

 二十分以内に完食で無料。食べられなくても先生が支払いますが、その代わり数字にちなんで練習量が三倍になるという出来事がありました」

「……あ、そうなんだ」

「何とか全員食べ終わったので良かったですよ」

 

 懐かしむようにアハハという笑い声が教室に響く。

 目を丸くして「ああそういえば去年もそんな話聞いたなあ」と呟くのは先生。どうやら納得したようだ。

 光月も今度こそ大丈夫だろうと安心して笑みを浮かべている。

 思い返されるのはまさにその食事のことだ。

 藤代が今回ベンチ入りしたメンバー十二人を率いて入った店の事件。

 テーブルに置かれたのは自分の顔並の大きさのどんぶりに、これでもかと言わんばかりに乗せられた肉とご飯の山。

 食べ切れなくても予算の心配がないとは言え、練習三倍は死ぬ。死ねる。

 それを理解したメンバーは力の限り食べ続けた。

 

『ダイナマイト丼? ……笑わせるな。この程度の食事、食べ尽くせなくて何が選手だ! 俺を満腹にさせたければこの三倍は持ってこい!』

 

 特に印象的だったのは白瀧だった。

 まるでどこかの王のように高らかに述べた彼は、次々と肉とご飯を平らげていく。その速さはまさに彼が『神速』と謳われていることが納得できるほど。

 ……いや、食べるスピードは一切関係ないんだけど。というかあまり急いで食べると体に悪いんだけど。

 

 その速さには誰もついていけなかった。

 白瀧はペースを緩める事無く箸を動かし続け、そして三分の二ほどを平らげたところで……

 

『……無理、でし……た……』

『白瀧が【神速】の勢いで死んだ――!!』

 

 ……そこで彼は箸を置き、机に倒れこんだ。食べるのも早かったが、その分リタイアも一番早かった。

 気絶した白瀧は一緒について来た橙乃に介抱され(彼女が頼んだメニューは別)、皆が店を出るまで横になっていた。このとき彼女に膝枕をしてもらっていたとかいないとか。……真実は食べることに精一杯だったバスケ部員にはわからない……。が、食事中橙乃は終始笑顔であったと同じテーブルにいた東雲は後に語っている。

 

『……だが、さすがにこれはキツイな……』

『悪い、俺も一足先に行くわ……』

『しっかりしろ山本!!』

『……甘く、ない……』

『肉だから甘いわけねえだろ!!』

『マダだ。まだ気合で逝ける……』

『松平さん、ニュアンスが違いません!?』

 

 そして白瀧が倒れたことを境に、次々と犠牲者が出ていく。

 レギュラーや三年生までもが屈していき、もはや誰も完食できずに終わるものかと思っていた。

 

『いやー、ここの店中々良い肉使ってますね。これなら何杯でもいけますよ!』

『『……え?』』

 

 そんな絶望的な状況下で、とても周囲の環境とはミスマッチの明るい声が聞こえてきた。

 皆がその発生元へと目を向ければそこにいるのは光月。いつの間にか自分の分はおろか、すでに倒れてしまった白瀧の分まで食べ始めていた。

 

『……あ、スミマセン。要が無理そうだったんで勝手に食べちゃいましたけど……ひょっとして先輩達もおかわり欲しかったですか?』

『……いや、それは構わないんだが……』

『光月。お前そんなに食べれるの?』

『全然いけますよ! ……ひょっとして先輩達、厳しいですか?』

『……頼んでも、いいか?』

『モチロン! じゃあ、厳しい人もってきてください。全部食べちゃいますので』

 

 その声に応じ、全員が揃って光月の前へとどんぶりを差し出す。

 ……そこからはもう光月の独擅場であった。

 二十分、その間に彼はどんどん肉やご飯を口に入れては次々と消化していき……気が付けば、全てのどんぶりが空になっていた。

 

『ふー。ごちそう様でした! 満腹満腹!』

((光月、お前がいて本当によかったよ……!!))

 

 心底嬉しそうな表情の光月を見て、メンバー全員が彼に向かって感謝した。

 こうしてバスケ部一堂はなんとか全員がダイナマイト丼を平らげ、練習三倍は防いだのであった。

 

「しかし光月、お前は平気なのか?」

「体が丈夫ですから」

「なんとも説得力のある言葉!」

 

 その一言で、質問した先生は納得せざるを得なかった。

 

 

――――

 

 

 そしてしばし時間が過ぎて……東京都内にある新設校・誠凛高校。

 建設されて二年目ということだけあって、校舎はまだまだ新築そのもの。

 その校舎の一階、下駄箱付近には今二人の生徒が向かっていた。

 

「ふぁーあ。あー眠い。ったく、どうも最近寝ても足りねえ」

 

 一人は赤い髪と長身が特徴の一年生、火神大我。

 あくびをして、眠気を覚ますために体を伸ばしているが、それがより彼の体の大きさを表していている。

 

「またですか。授業中だってあれだけ寝ていたというのに」

「うるせーよ! ってか、なんでお前も寝てたのに素通りなんだよ!」

「それは僕に言われても困ります」

 

 火神は並んで歩いている少年に文句を言い放つが、八つ当たりでしかない。彼が寝ていたというのは事実なのだから。

 困った顔で少年――黒子テツヤは新しい相棒を見つめるが、火に油を注ぐことにしかならないようで。

 どうして自分の光はこうもバスケの時以外はあまり気が合わないのだろうかとため息をこぼした。

 

「……あれ? これは……」

「あ? どうしたよ黒子? 何か入っていたのか?」

 

 突如下駄箱を開けた黒子がその場で硬直する。

 不審に思った火神が声をかけても何も反応を示さない。

 

「すみません火神君。はずせない用件ができました。先に部活に行ってください。僕もすぐに向かいますので」

「はっ? なんのことだよ用件って。……っておい、黒子!?」

 

 火神の疑問も呼び止める声も無視して黒子は外へと駆け出した。

 普段は滅多なことでもない限りは真面目に部活に送れることなく参加しているということもあり(他人に気づいてもらえるかは別の問題として)、この彼の行動は異色であった。

 

「まあ別に構わねえか。俺が考えても仕方がねえ」

 

 そもそもそこまで気にかけてやるほど仲良くねえからな、と呟いて火神は一人体育館へと向かう。

 ……このときの火神はまだ気づいていなかった。黒子が新たな強敵を呼び寄せてくるということに。

 

 

―――

 

 

 そのころ、誠凛高校のすぐ近くにあるファストフードショップ・マジバーガー、通称マジバ。

 そろそろ学生がそれぞれの授業を終えて、部活動や仕事がない生徒が友達と立ち寄って他愛もない時間を過ごす時間であろうが、その一角に神崎達の姿があった。

 四人テーブルにすわり、それぞれの注文を味わっているが肝心の白瀧の姿はない。

 

「おーい! 悪い、遅くなった」

「おお戻ってきたか要」

「一体どこに行ってたんですか? 『先に店に入ってて』だなんて」

「本当よ。いきなり行き先も告げずに走っていっちゃうんだから」

「悪かったって。旧友に会うために、少し仕込んできただけだよ」

 

 白瀧が戻ってくるや否や、三人からは苦情が寄せられた。

 と言うのも白瀧が突如彼らをおいて、どこかへ走り去ってしまったことが原因だった。

 謝りながらもきちんとやることはやってきたと言って腰掛ける白瀧。バニラシェイクを堪能しながら、彼はマジバの入り口に視線を向けていた。注意深く、少しの変化も見逃さないのだとその視線は厳しく、鋭い。

 

「……あの、白瀧さんは何をそんな真剣に見つめているんですか?」

「ああ、ひょっとしてあの女子高生? 確かに結構可愛いよな」

「……え!? そうなの……?」

「違うわ! ……とにかく、お前達もできるだけ入り口を見張っていてくれ。水色の髪の男子高校生が見えたら、すぐに教えてくれ」

「何で? 誰かと待ち合わせか?」

「ああ、旧友を呼び出した」

 

 茶化す神崎を一蹴し、三人に指示を出す白瀧。

 彼が待っているのはただ一人の少年だった。かつて彼が共に戦ったバスケ選手、黒子テツヤ。

 必ずここに来るはず。だからこそ一瞬も油断はしないのだと、白瀧はひたすら入り口を見張る。

 

「……ねえ白瀧君。たしか水色の髪の男子高校生って言ったよね?」

「ああそうだ。わかったらとにかく見逃さないように入り口を見ていてくれ」

 

 入り口から視線をはずし、なぜか違う方向を見ながら橙乃は尋ねてきた。白瀧は淡々と受け答えを済ませるとすぐに入り口を見る様に伝えるが、橙乃の視線は動かない。

 

「……ひょっとして、今レジに並んでいる人、じゃないかな?」

「そうか。それなら好都合……って、え!? 嘘、いつの間に!?」

 

 思わず白瀧は声に出して驚いた。

 言われるがままにレジに目を向ければ、たしかに彼が見慣れた存在、黒子テツヤの姿があるではないか。

 たしかに入り口を見張り続けていたはずだというのに、一体どうしたことか。中学以上に影を薄め空気に溶け込んでいる黒子に白瀧は驚愕を隠せなかった。

 

「……あ、黒子さんですね」

「黒子? 誰だそいつ?」

「俺達のかつてのチームメイトだよ。……ちょっと会ってくる」

 

 西村も彼の姿を認識して名前を呼ぶが、どうやら神崎は知らないようで聞き返した。

 まあそれも無理もない話だと思いつつ白瀧は簡単な説明だけをしてレジへと歩いていく。

 丁度黒子がレジで注文を済ませたところだった。品物が出来るまで待っていようと、レジのすぐ側に立っている黒子の肩に手を置く。

 

「よっ。久しぶりだな黒子」

「……白瀧君? どうしてここに……」

 

 突然のことで驚いたのか、勢いよく振り返った黒子を安心させるように気さくに声をかけた白瀧。

 それでも黒子はここにいるはずのない存在に驚いていて、言葉に詰まっているようだが。

 

「ちょっと聞きたいことがあってな。……話をしたい、付き合ってくれ」

 

 

――――

 

 

 ――今日はきっと何か良い事があるだろう。

 そう考えながら黒子はマジバへと向かっていた。

 放課後、相棒である火神と一緒に体育館へ向かおうとしたら、下駄箱の中に入っていた一枚のクーポンを発見。

 それはマジバのバニラジェイク無料券であった。しかも有効期限は今日の17:00まで。部活に参加してはまず間に合わない。善は急げ、黒子はこのクーポンをくれた誰かに感謝を述べてすぐさまマジバへ直行した。

 バニラシェイクは黒子にとって大がつくほどの好物である。それが無料で味わえるというのにその機会を逃す理由があるだろうか、いやない!(反語)

 

 レジでは彼持ち前の影の薄さのせいか、危うく順番を抜かされそうになったが、この後の幸せを考えればなんてことはない。未だ遅しと感じつつも、はやる心を抑えていると突如何者かに肩を叩かれた。

 自分の存在に気づき、こうして話しかけるなんてこの場にはいないはず。驚きながらも振り返ると……

 

「よっ。久しぶりだな黒子」

「……白瀧君? どうしてここに……」

 

 ……そこにいたのは、かつて黒子が共にコートに立ち、再会を誓った旧友・白瀧だった。


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