Who reached Infinite-Stratos ? 作:卯月ゆう
再び学校行事で騒ぎが起こり、中止となってしまったため、IS学園は外部からの攻撃に対する脆弱性をIS委員会で指摘されることとなった。
外部からの攻撃というが、物理的攻撃だけでなく、ネットワークを通じた攻撃に対する弱さも年度初めに露呈してしまったため、早急な対策が望まれていた。
IS学園理事は委員会での追及に淡々と事務的に返していたとか
そして、先日の学年別トーナメントでVTシステムを起動させてしまったラウラ・ボーデヴィッヒの処遇は実に残酷なものだった
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IS学園の1年寮の一室に、ディスプレイに映る2人の女性に苛立たしげに話す女子生徒がいた
『この結末は酷いなぁ』
「でしょ? 本人は知らなかったままかもしれないのに、機体を作ったアホのせいでコレだよ?」
『それで、櫻はこの娘をどうしたいの?』
「私達で助けてあげたい。使い捨ての命なんて認めない。だから、私達が彼女の存在理由を見出してあげたい」
『で、具体的には?』
「彼女を雇う。コアはすでにウチのものだしね」
『だよねぇ、フランスの娘と言い、やっぱりさくちんは甘いよ。甘々だよ』
「束お姉ちゃんだってまずいほどのビターからだいぶ改善されたんじゃない?」
『さくちんほど甘くないからいいんだよ』
『でもね、櫻』
そう言って切り出した紫苑はこう続けた
『この娘はそれを望むかしら? 自分が使い捨てだと理解していたらおとなしく運命に従うと思うの。誰も手を伸ばしてくれないのがあたりまえだったら、手の取り方を知らないかもしれない。そんな場合はどうするの?』
「100%諦めていたならそんな人間はいらない。でも、すこしでもISに乗りたい、まだ自分らしく生きたいという気持ちがあるなら、私はそれを育てたい。手の取り方を知らないなら無理矢理にでも掴んで引き起こす、運命なんてねじ曲げてやる」
『そう、やっぱり私の娘ね……』
『さくちんがそう言うならそれが私達の結論だよ。確かに、アドバンスドが来てくれるならちょっとピーキーな機体も作れるし、束さんは異論ないかな。くーちゃんが心配だけど』
「クロエは利口だから心配ないと思うけどなぁ」
『目標が決まったなら今はその娘を口説き落としなさい? 暴力はダメよ?』
「わかってるよ。じゃ、そろそろ本人のところに行くよ」
『グッドラックだよ、さくちん』
「多分すぐには答えが出ないと思うから、期待はしないでね」
『気長に待つわ。気をつけていってらっしゃい』
ラップトップの電源を落とすと、そのまま背もたれによりかかり、天井を見上げる。
そして携帯が震えるとホログラムディスプレイがポップアップし、クロエからの短いメッセージを表す
「片付け完了」と10文字ちょっとの短い文から行いが察せられた
おそらく、束は千冬の動きを模倣するようなシステムが許せなかったのだろう。それに、ISが操縦者を飲み込もうとしたことが、許せなかったのだろう。
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目が覚めた時には知らない天井と斜陽に照らされたよく知った顔
白と相対する黒が視界に入る
「目が覚めたか、ボーデヴィッヒ」
「教官……?」
「ああ、私だ。この前はお疲れのようだったな」
「アレは、私の……」
「ああ、言いたいことはわかる。だが、アレを起動させてしまった責任は半分お前にある」
「私が願ったから、ですか?」
「その通りだ。お前の望みはなんだ?
「私の望み……」
自分の願い、望み。
今まで考えたこともなかった。ただ与えられた任務をこなし、それ以外は自分を高めるために時間を費やした。それが私を形作る全てであり、私の存在理由だと思っていた。
ひたすらに強さを求めるなかで、それを体現する
だが、その彼女が唯一隙を見せる瞬間、それが弟である織斑一夏の話をする場面であった。その隙さえなければ、彼女は完璧な人間であろうに。そう私は思っていた。だから彼女に巣食う織斑一夏が許せなかった。
「お前は一夏が居なければ私がまたブリュンヒルデになれたと思っているのだろうが、それは間違いだ。私はアイツが居なければそもそもISに乗っていないだろう」
私は黙って教官の話を聞いた。私が今まで聞いてきたどんな教義よりも大事な何かがあるような気がして
「私は小さいころ、と言っても10は超えてたか。その頃に親がいなくなってな。私が家を支えなければ、一夏を守らなければ、そう思っていた。だからひたすらに力を付けた、お前のようにな。その力の一つがISだった。初めてISで空を飛んだ時に思った、私は翼を手に入れた、夢を叶える翼を。とね」
語る教官の姿は織斑一夏の事を語る時とはまた違った、でもなにか気持ちが満ちた表情をしていた
「それでまた私は考えたんだ、力を手に入れたならばその使い方を誤ってはならないからな。だからまたISの訓練に励んだ、誰も何も失わないようにな。その守る力こそが私の原動力なんだ。失いたくないが為に力を付け、その結果としてモンド・グロッソに出ることになり、一夏を失いかけた。だから私はさらに力を付けなければならないんだ」
教官はさらに続けた。ただ、力というのは他人を組み敷くのが力ではない、と。誰かとのつながり、友情。知識や信念。すべてが力であり、それは人それぞれであると。だから自分の力というのを見つけるきっかけがあれば、人はどんな立場であろうと強くなれるのだと。
そして、最後に私の心を見透かしたかのように言った
「それとな、隙のない人間など居るわけがない。それはもはや心なき機械と同然だ。お前はどうなりたい?」
私の最大の問、と言っても過言ではないだろう。
このまま冷たい刃であり続けるのか
「私は――」
「失礼します」
声のした方を見れば見覚えのある長身――あまり好きになれないやつだ――名前はなんと言ったか、まぁいい。なぜここに来たのだろうか
「ボーデヴィッヒさん、大丈夫?」
「ああ、何とかな」
「あなたの処遇と機体に関しての話をしようとおもったのだけど、時間を改めたほうがいいかな?」
「構わない、今頼む」
どうしてコイツが。という疑問もありつつ、これからどうなってしまうのか、私が、シュヴァルツェア・レーゲンが。
もし除隊なんてことになれば、私はわたしでなくなってしまう。そんな不安に、ラウラは駆られた
「ラウラ・ボーデヴィッヒ少尉を除隊、専用機は没収の後、しかるべき機関で解体、コアのリセットを行う。なお、専用機のコアはドイツ軍より没収、研究用とする。だそうよ。それで1つ提案があるのだけど」
「聞こう」
自身の中でなんかが崩れた。だが、精一杯の虚勢を張っていつもどおりの冷めたトーンで答える
「あなたを雇いたいの。ISのパイロットとして」
「私を何処で雇うというのだ?」
「ローゼンタールよ。此処から先は独り言ね?」
そう言って話しだす、しかるべき機関というのはローゼンタールのことで、そのコアはそのまま研究用としてローゼンタールの管理下に置かれるそうだ。第3世代が軍から外れるだけで軍事力のバランスが傾くだけに、国の外に出すことはしないということか。
それで、軍を除隊され身寄りのない私を雇い、コアをそのまま使いまわすという腹づもりのようだ
「なるほど。断るのは惜しい話だな」
「でしょ? それに籍をドイツに置いたままに出来るってのがいいと思うのだけど」
「少し考えさせてくれ。悩みが多くてな」
「もちろん。良い返事を待ってるわ」
それで、デュノアのことですが。と話を続ける長身。
デュノア、確か第1回戦で当たったオレンジの 第2世代アンティークの男だ。やつのパイルバンカーの痛みはまだ残っている。
ヤツが何かしでかしたのだろうか
「ここでいいのか?」
「ボーデヴィッヒさんは口は固いでしょうから」
「念の為に言っておくが、ここで聞いたことは他言無用だ」
「分かりました」
「で、彼女をデュノア社より買い取りました。それからこっそりと国籍をイギリスに。これは非嫡出子だったので思ったよりスムーズに済みましたよ。今はシャーロット・D・ウォルコットです」
この女、いきなり物騒な事を言う。それに"彼女"と言ったか、奴は男ではないのか?
それに国籍を変えるなんてそう簡単にできることではないはずだ
私が不思議そうな顔をしているのに気づいたのか、長身が私に説明してくれた
「えーっと、デュノア君はデュノアさんでした。ってことね。あとは話の通り」
なるほど、わからん。
この女は何者なのだろうか。私を雇いたいと言ったり、人の国籍まで操作できるというのか
「分かった、こっちも書類の準備はできている。あとは本人と保護者、この際はウォルコットさんのサインが必要だ」
「後で書類を取りに伺います。そうだ、まだ部屋割りが決まってないならボーデヴィッヒさんと一緒にしてはどうでしょう?」
「確かにまだ考えてないが、いきなりどうした?」
「同じ企業連の人間同士くっつけたほうが管理しやすいって言うのが本音ですけど、シャルロッテがボーデヴィッヒさんの人間形成に役に立ってくれると思うんですよ」
「なるほどな、一理ある。その際は考慮しよう」
「私が貴様に雇われることは決定なのか!?」
思わず声を上げてしまった、それに人間形成とは失礼な話だ
「え? 違うの?」
「違う……わけではないが、まだ決めたわけではない」
「一応契約書も持ってきたんだけど」
「まだ必要ない」
「あら、残念」
まぁいいや、ゆっくり考えてね。と言ってまた話を続ける
口の減らない女だな
「書類はこっちで送るので3日ほどで返ってくるかと。制服はどうしましょう?」
「安心しろ、本人の希望のデザインで発注済みだ。数日で届く」
「手が早いですね、助かります」
「教員だしな、必要な物くらい手配しておくさ」
その後も2人は事務的な会話を続け、最後にもう一度私に同じ質問を投げかけた
「やっぱりローゼンタールで働く気はない?」
私に手を差し伸べてくれたのは2人目だ。私はこの手をとるべきだろうか
もはや自分を構成するパーツを失った今、私はどうあるべきなんだろうか
何もわからない。ただひとつ言えるのは、今はただ考えるべきだということだ
教官も「悩めよ、小娘」と残して出て行った。悩むべきだ、これからどうするのか、何を手にしたいのか。
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「櫻、お前はボーデヴィッヒがどうなると思う?」
「多分彼女なりに悩んだ末に自分の答えを出すでしょうね」
「私はドイツで彼女達にISの操縦は教えてやれた、だが、私が説くべきだったのはもっと別のことだったのかもしれないと、ボーデヴィッヒを見て思ったんだ」
「千冬さんは与えられた仕事をしたんですからいいんじゃないですか? 人としてどう生きるか考えることは彼女達に必要なかった。だから教えられていないんでしょう」
「だが、人として生まれた以上はその権利があってしかるべきだろう。それが侵害されていたのだとわかった今は、恐ろしくてならないよ」
「だから私達はもうそんな娘達が生まれないように"母体"を潰しました。VTシステムをレーゲンに載せたアホどももこの世には居ません」
「相変わらず束は……」
口ではそういうが、口端が上がっている
真似られた本人も内心穏やかでなかったのだろう
「では、私は部屋に戻るので」
「ああ、また明日」
別れた後に、千冬は一人、誰もいなくなった廊下で目を伏せた
涙が一筋、頬を伝った
「すまなかった、――」