「あにしゃま。父上と母上は?」
少年の妹がそう言う。
「父上と母上は、遠い遠いところへ旅立ったんだよ千」
少年が妹にそう言う。
そう、この少年とその妹の父親と母親は亡くなったのだ。戦ではなく、流行病で・・・。
「遠い場所?それは、何処なのあにしゃま?」
「千が大きくなればわかるよ」
少年が妹の問いにそう答えた。
「それより、あにしゃま。どうするの?」
妹が少年にそう言う。
少年だけならなんとかなりそうだが、妹もいる。自分1人だけならともかく、妹も一緒にひもじい思いをさせるわけにはいかない。
「よし、千。一緒に千寿の家へ行こうか」
「あねしゃまのむところに?」
妹の問いに頷く少年。少年はある決断をする。妹にひもじい思いをさせないためにも・・・。
こうして、少年は、少女の家へ向かったのであった。
■
颯馬「ん~」
俺は、目を覚ました。
颯馬「また、あの夢か。前世でも今の人生でも、決断したことないしたあのこと夢で見るなんて・・・」
俺は、そう言うと目から涙がこぼれていた。俺は、慌てて涙をふく。
俺は、外を見ると日はもう登っていた。
颯馬「そうだ。今日は、出陣する日だ。早く支度しないと」
そう言うと俺は出陣の支度をする。今宵は、都城に攻める日。軍師たる俺が遅れては、兵士に示しがつかない。布団をたたみ、押入れにしまうと鎧を着て、刀を差し込み、そして、軍配を手にする。軍配は、元々商人から買ったもの。俺は、この軍配でいろいろな戦に立って勝利してきた。
今回も勝ちに行く、そんな気持ちでさきほどの夢を忘れるのほどの勢いで出ていく。
■
城前につくと義久達がいた。
義久「颯馬くん、おはよう」
義弘「今日は遅かったけど時間には間に合っているわね」
歳久「まあ、当然です。軍師が遅刻など許されませんからね」
家久「としねえは、相変わらず厳しいね」
豊久「うん・・・」
俺を見てみんなそう言う。
貴久「さて、皆の衆。集まったな」
威厳のある顔で貴久様が兵達を見た。いつもこの顔なら俺も尊敬できるんだがな~。
貴久「よし。では、これより、都城を攻める!皆の者、出陣だ!」
兵士達「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!」
兵士達が大声でそう言うと、城門が開き兵士達は動き出した。
義弘「それじゃあ、行きますか」
歳久「今回の戦も油断なく敵を倒すのみです」
家久「うんうん」
弘ちゃんと歳ちゃん、家ちゃんがそう意気込む。
義久「颯馬くん」
颯馬「ん?なんだ、義久?」
義久「今日の戦も頑張ろうね」
颯馬「もちろんさ」
そう言うと兵士達の前へ進んでいった。
■
数刻後、戦が始まった。
歳ちゃんの言うとおり、独立勢はそんなに強くなく、島津が押していくが相手もかなり抵抗をしている。
このままじゃあ、こちらの被害も大きくなってしまう。だったら・・・。
颯馬「皆、某に続け!!!!!!!!!」
俺がそう叫ぶと馬を走らせて前へ出た。この付近にいる相手部隊はかなり手薄になっている。ここを叩けば崩れるそう判断した。
兵士1「軍師様が前へ出たぞ!」
兵士2「何をぼんやりしている!俺達もいくぞ!」
兵士3「軍師様に続け!」
兵士達も同調するように前へ出て行った。俺の判断は、正しかった。手薄になったところをつかれて相手部隊は崩れ、その隙に義弘隊、家久隊が続き部隊は完全に総崩れをして、都城を奪うことに成功した。
その後、無血開城した城で休むことになった。
その城のとある部屋で、俺と義久達がいた。
義弘「まったく、無茶ばかりして、軍師なんだから奥に引っ込んで指揮だけしてたって誰も文句なんていわないのよ。前に出てしなくてもいい怪我をして」
歳久「ひろねえの言うとおりです。導く人間が先頭に立つこと自体は間違いありませんけど毎回ケガをする行為は好ましくありません」
家久「そうだよ。ソウちゃんが毎回ケガをして来るのを見ると私・・・」
義久「家ちゃん、そんな顔しないで。お姉ちゃんも泣きたくなるわ」
弘ちゃんと歳ちゃんがぶつぶつとそう言いながら義久が包帯を巻きなおしてくれている。俺は、苦笑しながら言い訳をする。
颯馬「そうかもしれないけど。偉そうに兵士達に指示だけを出すのは性に合わないんだよ。それに兵だって、自分だけ安全なところにいるヤツに命じられるのいい気はしないだろう」
俺がそう言い訳をする。平成から戦国へ転生した俺だが、後ろに立つより前に出て兵士とともに戦うことがいいと思っている。その方が兵士たちの信頼も得られるしな。
俺の言い分を聞いていた義久が包帯の手を止める。
義久「なるほど。じゃあ、私も颯馬くんを見習って今度刀を持って、前へ出ようかしら?先頭に立って『私に続いて~』って」
颯馬「ちょっと、義久!義久は、弘ちゃんのような武を持っていないんだよ。そんなことしたら、怪我でもしたらどうするんだよ!?下手したら命を―――」
ベシッ
すると弘ちゃんと歳ちゃんが傷口のところを叩く。
颯馬「・・・っ痛!?」
義弘「もう・・・バカはどっちよ!」
歳久「そうです。『たら・べら』の話ならともかく天城は、実際にけがをしているのです」
家久「自分は私やよしねえ達に心配かけてもいいって言うの?!」
弘ちゃん達がそう言う。
颯馬「あ・・・。そうだな。悪かったよ」
弘ちゃん達は、俺の怪我よりも危険を案じてくれたようだ。そんなことを何回も繰り返したらいつか命を落とす危険性がある。こう見えても1回転生した身、長く生きるためにも、弘ちゃん達に心配されないためにも。でも、義久達は、島津家を背負う立場。俺とは異なる身、この姉妹達を守っていかないといけない。そんな使命もある。
颯馬「ごめん。これからは・・・少なくとも怪我をしないとように気を付けるよ」
歳久「わかればよろしいです」
義久「フフ」
義弘「ところで、よしねえ。本当に刀を持って前へ出るつもりはないでしょうね」
義久「もちろん、冗談に決まっているでしょう。私は、弘ちゃん達のような武はないからね」
義久が弘ちゃんにそう言う。
義久「さあ、颯馬くん。今度は上を脱いで。肩の包帯も変えてあげるから」
颯馬「え、でも・・・」
義久「・・・・・・」
颯馬「・・・わかったよ」
俺は、観念して服を脱いだ。
義弘「(颯馬って、意外と筋肉あるんだ)」
歳久「・・・・・・」
家久「(ソウちゃんの筋肉。もしかしたら、お父様よりもあるかも~)」
3人が俺のことをジーッと体を見ていた。なんだか、恥ずかしいな~。
義久「(弘ちゃんも歳ちゃんも家ちゃんも颯馬くんの筋肉質を眺めるなんて。まあ、こうして、颯馬くんの手当てしてあげれるのがお姉ちゃんの独占できる時間ね)」
義久が笑みを浮かべながら俺の視線を送る。かわいいな、思わずそう思ってしまう俺。
こうして、4人で俺のことを心配してくれるなんてなんて幸せだろうな。
義弘「ん?颯馬、顔が赤いわよ」
家久「本当だ」
歳久「まさか、傷口のせいで熱を出したんじゃあないでしょうね」
颯馬「そんなことないよ!」
きっぱりと否定する俺。
義弘「どれどれ」
弘ちゃんが俺のおでこに手を合わせる。
義弘「ん~、特に熱はないみたいね」
颯馬「(弘ちゃん、顔が近いよ!)」
心の名がそう叫ぶ俺。
義久「あらあら、弘ちゃんたら大胆ね」
義弘「え?」
義久が弘ちゃんにそう言った時だった。
「義久、義弘、歳久、家久。邪魔するよ~」
こののんきな声!まさか!?
颯馬「貴久様!?」
そう叫んだ瞬間、もう遅かった。すでに襖をあけた貴久様。
貴久「義久、義・・・はあ!?」
この光景を見た瞬間驚く貴久。そして、すぐに思いっきり俺を睨み付ける。
貴久「あ・ま・ぎ。これは、どういうつもりだ」
怖いよ怖いですよ貴久様。
貴久「娘達に、何をしようとしているんだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
貴久様がそう叫ぶとひるんでしまう俺。
義久「お父さん、何そんなに大きな声を出しているの」
義久が貴久様にそういう。
貴久「大きい声出して当然だよ。かわいい娘達がこの天城(オオカミ)と一緒からだ!」
義久「お父さん、颯馬くんは、さっきの戦で、怪我をしたから私が手当てをしているのよ」
貴久「怪我の手当てぐらい、自分でやればいいでしょう!義久にやらなくたっていいよ!」
義弘「お父さん、ちょっとそれはひどくない?」
歳久「そうです。お父さんの代わりはいますけど天城の代わりはいないのです」
貴久「歳久、それは、ちょっと酷くない!」
家久「ひどいのはお父様でしょう。ソウちゃんに何かあったら、島津家が崩壊しちゃうんだから」
でっかいことを言う家ちゃん。
貴久「そう簡単に崩壊なんてしないよ。それより、義弘、何天城とそんなに距離が近いんだよ!」
義弘「こ、これは。颯馬が熱がないかと手を当てただけだよ」
貴久「こんなやつに熱をはかる必要なんてない!」
歳久「お父さん。いい加減にしてくれますか?怪我人がいるんですから」
貴久「天城のケガなんかケガにはいらないよ!」
貴久様がそう言うと義久が口を開く。
義久「お父さん。今手当て中だからどっかいってくれない?邪魔だから」
貴久「はあ!」
それを聞いてショックを受けた貴久様。貴久様は、ノコノコと部屋を出て行った。
相変わらず義久達の言葉に打たれ弱いな貴久様は。
豊久「姉上達も容赦ないな」
貴久様と入れ違う形で豊久が入ってきた。
家久「豊ちゃん。どうしたの?」
豊久「実は、火急な知らせが今はいったんだ」
歳久「火急な知らせ?」
歳ちゃんがそういうと豊久が口を開く。
豊久「実は、大友義鑑と息子の塩市丸が討たれたんだ」
豊久が俺達にそう言う。
義弘「討たれた!?それって、謀反なの豊ちゃん!?」
弘ちゃんの問いに豊久は頷いた。
家久「としねえの言うとおりになっちゃったね」
歳久「ええ。けど、こんなに早くお家騒動が起こるなんて・・・」
豊久「うん。草の情報によると大友宗麟達が湯治に行っている間に宗麟を支持する重臣らが謀反を起こしたんだ。それで、その日のうちに大友義鑑と塩市丸が殺されたんだ」
豊久がそう説明する。
歳久「それで、宗麟達はどうしたのですか?」
豊久「宗麟達は、謀反を起こした人を静粛させるために兵をあげたんだ。もうかなり鎮圧されたと聞いているよ」
豊久がそう言う。史実とは少し異なるけど、二階崩れの変は起きてしまったか。それにしても、宗麟もいち早く兵をあげて謀反を沈めにかかるとは・・・。
義久「ということは、大友家は伊東家にかばう余裕はますますないというわけね」
豊久「うん。そうなるねよしねえちゃん」
豊久がそう答える。
家久「そうなると、伊東家は孤立化するね」
義弘「そうだね。その分、こっちは楽に日向か取れそうだね」
豊久「そうだね。ひろねえちゃん」
歳久「しかし、油断は禁物ですよひろねえ、豊久」
歳ちゃんがそう言う。確かに、油断すれば、痛い目を見ることは確かにある。
颯馬「・・・・・・・」
俺は、大友の情報を聞いていたが、少し安堵するが、不安なこともある。けど、話すわけにはいかない。俺は、そう思ったのであった。