翌朝、俺と歳ちゃんは城を後にして、宗麟のいる府内城へ向かった。そして、順調に進み数日後、府内城へ到着した。その後、宗麟のいる拝見の間に連れてこられた。
拝見の間には、宗麟を始め、鑑連殿、鎮理、鎮信殿、鑑盛様、千熊丸、他数名の家臣がいた。ただし、親貞の姿は何処にもいなかった。
颯馬「お久しぶりです宗麟様」
俺がそう挨拶をする。この場では、一応様付けをする。
宗麟「遠路はるばるよく来られましたね島津歳久殿、天城颯馬殿。私と会うのは会見以来かな?」
歳久「はい、そのように記憶をしております」
歳ちゃんが宗麟にそう言う。
宗麟「まあ、それはいいとして。府内まで、わざわざ島津の軍師と5姉弟の三女が来られるとはよほど重要なことだと身に受けるわ」
宗麟が俺たちの目的を察したかのようにそう言う。
歳久「流石、宗麟殿です。頭の回転が速いですね」
宗麟「どうやら、あっていたようね。それで、今度は何の用件かしら?」
宗麟がそう言うと歳ちゃんが口を開く。
歳久「では、単刀直入に言います。龍造寺家を倒すために兵を出してもらえないですか?」
家臣一同「っ!?」
歳ちゃんの言葉に鑑連殿、鎮理、鎮信殿、鑑盛様、千熊丸以下の家臣達が驚きの顔をする。
宗麟「つまり、島津は大友に軍事協力したいというのですね」
歳久「そうです」
宗麟「まあ、ようやく国内が立ち直り、同盟国として協力しても別にかまわないけどね。何しろ、私もいずれは龍造寺を攻めようとしていたからね」
家臣と違い宗麟は動揺を見せずに歳ちゃんにそう言う。
大友家家臣1「宗麟様、お待ちください。島津との軍事協力はけしてなりません!」
家臣の1人が宗麟に進言する。
宗麟「何故かしら?」
その宗麟は家臣に問いかける。
大友家家臣1「島津と一緒に龍造寺と戦いましても我々に1銭も得がありません!あるのは島津だけです!」
家臣がそう言う。
鎮理「まあ、確かにそなたの言うとおりですね」
向かい側に座っていた鎮理が家臣を後押しする。
確かにこの戦いで大友には1銭にも得にならない。前に島津との戦いで筑後を島津に譲ってしまい、国内は島津に対して弱腰だと批判する家臣も少なくない。
けど、なんとかしてでも大友と軍事協力せねばいけない。龍造寺に時間をかけすぎて北九州地区を支配する大内家が九国を攻められれば状況は今より悪化する。現状では大内は因縁の尼子に目を向けているが、同盟国である毛利家が尼子の勢力を潰している。尼子が弱体化すれば大内はこちらを目に向ける。その前に龍造寺を片付けなければいけない。
宗麟「まあ、確かに私達が戦っても得はないのは事実です。それとも歳久殿と天城殿は何か見返りでも用意してあるのかな?」
宗麟がそう言う。
見返りは、ここまで来る時に必死で考えたが何も思いついていない。見返りなんて用意は・・・。
歳久「あります」
え?
歳久「大友家に見返りの用意はしてあります」
歳ちゃんの発言に俺はもちろん家臣一同も驚く。
鑑連「見返りを用意しているとは、流石島津歳久殿ですね。それで、どのような見返りですか?」
鑑連殿がそう問いかける。俺すら見返りについて相談していない歳ちゃん。一体どんな見返りを用意しているんだ?
歳久「大友家が宿願しています立花山城の攻略に島津家が手を貸します」
歳ちゃんがそう言うと宗麟を始め家臣達がまたしても驚く。
立花山城、立花山の山頂から西側に築かれ、北西の松尾岳、白岳の山頂を含む大規模な山城である。城は主峰の立花山の山頂西側を本城とし、北西の松尾山、白岳等を含む立花山全体を要塞とした大規模な山城である。立花山城は、大友貞範によって築かれた。貞範は6代貞宗の子で、その後立花に入部して以後立花一族が支配をしていたが二階崩れの変で、大友家の重鎮・立花鑑載が高橋鑑種と一緒に離脱する。そして、現在は秋月家の傘下いる。
宗麟もこの地を奪還しようとしていた。
けど、秋月は勢力は小さいが、あの立花山城に籠城されたら、城を攻略するにはかなりの労力が必要である。さっきも言ったが、この城は松尾山、白岳等を含む立花山全体を要塞とした大規模な山城。攻め側が被害が大きく出るのは必須である。さらにその城の目と鼻の先には大内家が支配する最大の貿易港、博多が見える重要な城でもある。大内家もこの城を手にしたいと思っているのが本音である。
宗麟「見事な見返りを要しているわね歳久殿。確かに、あの城は今の大友家では落とすほどの力ない」
宗麟がそう言う。
歳久「確かにそうですね。しかし、島津家が助力すればあの城は確実に落とせます。その暁にはあの城は大友家のものにしてもかまいません。もし、足りないようでしたら秋月家の領地は全て大友家に差し上げます」
歳ちゃんの言葉に驚かないものは少なくない。破格と言ったら破格である。龍造寺を倒したら立花山城攻略どころか秋月の領地を全て大友に与える、まさに破格な条件である。
鑑盛「歳久殿」
すると今まで発言していなかった鑑盛が口を開いた。
鑑盛「そこまで、破格な条件を提示してまで大友家に軍事協力してほしい訳でもあるのでしょうか?5カ国の大大名の島津家なら龍造寺を倒せるはずですが?」
鑑盛が歳ちゃんにそう問いかけた。
歳久「ええ、確かにその通りです鑑盛殿。しかし、そのようなことでしたら軍事協力を依頼はしませんし、それに島津家は宗麟殿をいたく信頼して頼んでいるのです」
歳ちゃんがそう言う。その言葉を聞いて、宗麟派は笑い出す。
宗麟「ふふ、島津がそこまで私を信頼しているとは・・・。わかりました、その信頼を答えて兵を出しましょう」
大友家家臣2「そ、宗麟様!?そのようなことを簡単・・・」
鑑連「おだまりなさい!」
家臣が異議を唱えようとしたが鑑連殿が話を割る。
大友家家臣1「あ、鑑連殿!?」
鑑連「宗麟様が決めたのです。異議は認められません」
鎮理「私も、義姉上の意見に異議はありません」
千熊丸「私も同じく」
鎮信「異議がある方は、具体的に反対理由を述べてもらおうか」
鎮信殿がそう問いかけられるが、家臣らは黙ってしまう。
歳久「ありがとうごさいます。では、宗麟殿は筑後から龍造寺を攻めてください。島津は島原の方から攻め入ります。宗麟殿は、筑後から竜造寺の城を攻め行ってください」
宗麟「了解したわ。そちらに期待に答える働きをしてみせるわ」
宗麟がそう言う。
こうして、なんとか大友家が軍事協力をしてくれる約束をしてくれた。歳ちゃんに感謝しないとね。
それから府内城を後にした俺は帰り道見返りって聞いてみた。
颯馬「ところで、歳久。よくこんな見返りをいつ用意したんだ?」
歳久「立花山城の攻略と秋月の領地ですか?あれは、大友家に向かう前日の夜に出てきた案です。この案なら大友家が乗っかって来ると思って、用意したのです。まあ、天城がきっと見返りの用意できないと思っていましたから」
歳ちゃんの言葉に俺は胸をさされる。これを聞いて俺もまだまだだなと思ったのであった。
■
歳久殿と兄様が帰った後、拝見の間には私と義兄上、義姉上、鑑連様、鑑盛殿、宗麟様だけが残りました。
鎮理「さて、龍造寺家出兵を約束しましたけど、どのくらい兵が集まりそうですかね義姉様?」
鑑連「大体7千~8千ぐらいでしょうね」
鑑連様がそう言う。
鎮信「鑑連殿、勝てる見込みはあるのですか?」
義兄上が鑑連様にたずねる。
鑑連「まあ、龍造寺の今の状況では島津と大友の両軍に勝てる見込みはないでしょう。勝機は今のところこちらにありますが、戦は最後までやってみないとわかりませんわ」
鑑連様がそう答えた。
宗麟「まあ、とりあえず兵の支度をしないと」
宗麟様かそう言う。
鎮理「そうですね。島津に大友の戦振りを見せつけてやりますか」
義姉上がそう言う。
千熊丸「私も大友のためにがんばって働きます!」
鎮信「そうだな。颯馬のために手柄を取らないとな」
千熊丸「な、義兄上!なんで、そこで兄様が出てくるんですか!私は兄様のためでなく大友家のために働くのです!」
私は義兄上にそう言う。まったく、義姉上といい、義兄上といい、私が出ると聞くとすぐに兄様が出てくるんだから・・・。
鑑盛「まあまあ、鎮信殿。あまり千熊丸をからかわないでください」
宗麟「そうよ鎮信。あまりからかうとイタズラするわよ~」
鑑連「宗麟様。おいたはいけませんよ」
鑑連様がそう言う。
まあ、とにかく私は大友のために腕を振るわないと。
■
貴久「え!?大友にそんな約束したの!」
貴久様がびっくりする。
あのあと城に帰った俺と歳ちゃんは視察から帰って来た貴久様に報告したのだが・・・。
貴久「どうして、俺に相談なく大友に軍事協力を依頼したんだよ。しかも、そんな破格な約束までしちゃって!」
ご覧の通りのありさまである。自分に相談なく話を進められて、すごく不機嫌な状況である。
義久「しょうがないじゃない。重要事項だったんだし、それにお父さんが不在だったから」
貴久「だからと言って話を進めていい訳!」
貴久様がそう言う。
颯馬「貴久様、落ち着いてください」
貴久「うるさい!天城、貴様がこんな提案を勝手に進めて、しかもこんな約束までしやがって許さんぞ!」
貴久様が俺に向けてそう言う。
歳久「お父さん、大友宗麟にそう約束をしたのは私です」
歳ちゃんが俺をかばうかのようにそう言う。
貴久「へぇ、そうなの!?」
歳久「ええ」
歳ちゃんがそう言う。
歳久「ですから、天城を攻めるのはお門違いですお父さん」
貴久「けど、歳久・・・」
歳久「お父さん、しつこいですよ。これ以上抵抗するならお父さんには今後口は聞きませんよ」
家久「としねえの言うとおりだね。じゃあ、私もお父さんとは一切口も聞かないし、遊ばない~」
義久「そうだね。それがいいかもしれないわね」
家ちゃんや義久が歳ちゃんの意見に賛同する。
貴久「そんな~、嫌だよ~。義弘は、俺の味方してくれるよね~」
貴久様が弘ちゃんに向けてそう言うが・・・。
義弘「何言っているのよ、嫌に決まっているでしょう」
貴久「ウェェェェェェェェン」
泣き出す貴久様。はあ~、これが当主の威厳かな?威厳が全然見えない。
貴久「歳久、大友との約束を守るからさ口聞いてよ、遊んでよ~」
歳久「わかればいいのです」
貴久様がそう言うと歳ちゃんが許してくれた。歳ちゃんを嫁にした男はきっと大変だろうな~。でも、こんな歳ちゃんでもかわいいところはあるんだけどね。
歳久「さて、戦支度はどのくらい進んでいますか?」
家久「武器、弾薬はとしねえの言われたぐらいの量を用意したよ」
義弘「あとは、兵糧ぐらいかな?」
弘ちゃんがそう言う。
颯馬「兵糧はいつ届く予定なんだ?」
義弘「明日には届くわ。颯馬が前に言ったとおり米だけでなく麦も用意してあるわよ」
俺の問いに弘ちゃんがそう答えた。
これで、兵の健康面はなんとかなるだろう。戦傷ならともかく病気で倒れられて戦力を削られるのは出来るだけ避けないとね。
颯馬「それじゃあ、兵はどのくらい用意できたの?」
義久「兵は、1万を超えるぐらいは集められるわ。船も港に用意してあるわ」
義久がそう言う。
颯馬「これなら、明後日ぐらいに出陣かな歳久?」
歳久「ええ。天候が悪くなければその日に出陣出来るでしょう」
俺の問いかけにそう答える歳ちゃん。
義弘「それじゃあ、私は急いで出陣の支度をしないと」
家久「うん」
義久「龍造寺を倒して肥前を手に入れるわよ」
颯馬「そうだな」
歳久「ええ」
こうして、俺達は明後日の出陣に向けて戦支度をするためにその場を立ち去った。貴久様を置いて・・・。
■
その頃、肥前国・佐賀城
隆信「ついに島津家が動き出すのね」
直茂「そのようです義姉上」
拝見の間に隆信と直茂の他、2人の姫武将だけが話し合っていた。
隆信「島津め、こちらが戦力を整えないうちに攻める準備をするとは、本格的に九国制覇を成し遂げようとしているようだね」
「そうてすね隆信様。けど、この江里口常信が島津兵を蹴散らしてみます」
隆信にそう言うのは、龍造寺家四天王の1人、江里口常信である。
「蹴散らすだけじゃあ、つまらないですわ。やはり、島津兵を恐怖を味あわせるようなことをしてあげますわ」
そんな怖いことを言うのは、同じく龍造寺家四天王の1人、円城寺信胤である。
直茂「この肥前を奪えば同盟国である大友を除いて残るは大内と秋月だけでしょう義姉上」
直茂がそう言う。
隆信「ふむ。では、大内と同盟を結んで島津と対抗した方がいいかしら?」
隆信がそう言うが直茂は首を振る。
直茂「それは、無理でしょうね義姉上。いくら義姉上に名前の1文字を与えてくれたとはいえ今の大内は、尼子に目をめけているので、こちらに目を向ける余裕はないでしょう」
直茂がそう否定する。
今の大内家は、天敵である尼子に目を光らせている。毛利家が変わりに尼子を攻めて領地を広げているがそれでも油断できない。だからこそ、今は九国に目を向ける余裕がないのである。
隆信「じゃあ、どうする気だ?」
直茂「おそらく島津家は島原から攻めて来るでしょう。あそこは戦を終えたばかりで籠城が出来るほどの頑丈差がありません。しかし、この地域は大軍が通れるほどの広さはありません。そこで待ち受けて集中攻撃を続けて島津の戦力を削っていき、さらに筑後に兵を攻めさせて格段と士気を削っていきます」
隆信「なるほど。それは名案ね。ては、すぐにそうするようしてくれ。いつでも島津が倒せるように。私も出向いてじきじきに指揮をとる。その時は頼んだぞ直茂、常信、信胤」
直茂「わかりました義姉上!」
常信「この江里口常信、ご期待に応えて見せます」
信胤「心得ました♪」
直茂、常信、信胤がそう答えて、島津家を出迎える準備を進める。
しかし、まさか大友家が出てくるとは、この時龍造寺隆信、鍋島直茂、江里口常信、円城寺信胤は知るよしもなかったのである。
龍造寺家は、6をモデルにしています。3より6の方がとてもいいと感じたので。