島津家の天下取り物語   作:夢原光一

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第16話改

相良義陽が降伏し、島津に臣従に下ったことはすでに親友である甲斐宗運と阿蘇家当主・阿蘇惟将、他数名の家臣が軍議を行っていた。

阿蘇家家臣1「相良家が島津家に下ってしまったか」

阿蘇家家臣2「とうとう、我々は孤立してしまった」

家臣達がそう言う。阿蘇家は、南に島津家、そして、東北には島津の同盟国、大友家が控えている。どちらも九州の中で名門の大名家。阿蘇家がいくら頑張ろうと2家が同時に阿蘇家を攻められれば勝ち目などない。

阿蘇家家臣3「何を諦めている!阿蘇家を守るためにも島津と一戦やるのみだ!」

阿蘇家家臣4「バカかお前は。もし、島津と戦をするば、必ず大友が出て来る!そうなれば、どうあがこうが勝てるはずがない!」

阿蘇家家臣3「しかし、相良攻めの時、結局大友は出てこなかった。今回も大友は出てこない!」

阿蘇家家臣2「その確信は何処にある!大友の軍勢が国境付近に待機しているのは事実!我々が島津を攻めている隙に大友が攻めてくるかもしれないんだぞ!」

家臣達がそんなことを言い争う。

惟将「静かにせぬか。言い争ったって何も始まらないじゃないか!」

主君である惟将がそう言う。けど、惟将は、平和主義な面が戦自体嫌っているところもある。

けど、今はお家の存続がかかっているので、そんなことを言っていられない。

惟将「宗運、この状況。どう打開すべきか」

惟将は、家臣の中で一番信頼をしている宗運に聞く。

宗運「そうですね。確かに島津・大友が同時に攻められれば、勝ち目は薄いでしょう。しかしながら・・・」

宗運が話を続けようとした時、使い番がやって来る。

使い番「失礼します惟将様」

惟将「何かあったのか?」

惟将が使い番に聞く。

使い番「はい。ただいま、門の前に島津の使者がまえられました」

その言葉を聞いて家臣達はビックリする。

使い番「いかがいたしましょうか惟将様?」

惟将「使者が来たのか。ここまで来て、追い返すのもお家のためにならんからな。かまわん通せ」

そう言うと使い番が門へ向かう。そして、数十分後、島津の使者が惟将と宗運ら家臣達の前に現れる。

「お初にお目にかかります。私、島津家・軍師、天城颯馬と申します」

島津家の使者――颯馬がそう名乗る。

惟将「私が阿蘇家現当主、阿蘇惟将である」

そう名乗る惟将。

惟将「しかし、まさか島津家で、大友と島津の同盟を取り持った名が高い軍師が阿蘇家に使者を送るとは思いもしなかった」

颯馬「いえいえ、そんなことはありません。これも仕事ですから」

颯馬がそう言う。

惟将「それで、その島津家の軍師が何用に参った?」

颯馬「では、単刀直入で申し上げます。このまま島津へ下ってもらえないでしょうか?」

宗運「ありえないわ」

そう答えたのは当主の惟将でなく家臣の甲斐宗運であった。

颯馬「あなたは?」

宗運「申し遅れた。私は、阿蘇惟将様の家臣・甲斐宗運です」

颯馬「あなたが宗運殿ですか。噂は、聞いております。それで、宗運殿。ありえないとはどういう意味ですか?」

宗運「そのままの意味だ。私達は、あくまで阿蘇家の独立を保持するつもりです」

颯馬「あくまでも、阿蘇家を守りたいと?」

宗運「その通りよ」

宗運がそう答える。宗運は、常に冷静沈着で、裏切り者は例え血縁であっても斬り捨てるほど非情な一面もあるが、決して融通が効かなかったり気難しいという人間ではない。そんな人間だったからこそ阿蘇家を守り続けたのだろう。

颯馬「では、聞きますが、何故当主及び家臣一団は、どうして私などとお会いしようとしたでしょうか?阿蘇家を守りたければ他に手段があったはず」

宗運「例えば、あなたを討ち取ってしまう?それこそありえないわ。いくら私でも、そのような卑怯なまねはいたさないわ。それにそんなことすれば、島津が阿蘇家に攻められる口実を作るだけよ」

宗運がそう言う。

颯馬「それがわかっている上で独立を保持すると」

宗運「ええ」

宗運がそう言うと惟将も頷く。

颯馬「そうですか。では、我が島津家と大友家は本気で戦いを挑み、島津家を5カ国の大大名とさせましょう」

惟将「!?」

それを聞いて当主の惟将は驚く。驚くのも当然であった。5カ国、つまり薩摩、大隈、日向、筑後、そして、肥後のことである。筑後を大友から譲り受けたがそこからでは、飛び地当然。領国、つまり薩摩とつなげるためには、この肥後を組み込まなければならない。相良家が下った以上残るは阿蘇家のみ。降りるか滅ぼすかで筑後の行き来が出来るようになる。まさかに合理的である。

颯馬「どうやら、惟将殿は理解できたようですね。もちろん、我が島津家に下れば今までの阿蘇家が保持した領地を安堵しましょう。軍師である私が保証いたします。しかし、それでも、拒むなら島津・大友の両軍で潰しにかかります」

颯馬がそう言う。

相良家家臣1「島津・大友の両軍だと!?大友はこれまで動こうとしなかったんだ。そんなのただの脅しだ!」

家臣の1人がそう言う。

颯馬「果たして、どうでしょうか?」

相良家家臣1「何!?」

そう言うと1人の伝令兵が慌ててやってくる。

伝令兵「大変です惟将様!」

惟将「なんだ、今は会談中だぞ」

伝令兵「失礼ながら、火急報せです」

宗運「火急の報せ?言ってみなさい」

宗運がそう言うと伝令は、すぐに事の内容を伝えた。

伝令兵「はい。実は、国境付近にいた大友の兵士に動きがあり、大友家の家臣、吉弘千熊丸と蒲池鑑盛が派遣され、先陣体勢を整えています!」

惟将「な、なんだと!?」

それを聞いてビックリする惟将。もちろん、宗運ら家臣達も例外ではない。

颯馬「これで、脅しではないとわかりましたでしょうか」

颯馬がそう言う。そんな颯馬を見て、宗運は思った。どうやら、この男は、大友家が出陣することをわかっていて言ったと。

宗運「1つだけ聞いていいか天城颯馬」

みんなが動揺する中、宗運だけ冷静沈着しながら颯馬に問いかける。

颯馬「なんでしょうか宗運殿?」

宗運「島津と大友の両方の力なら、我ら阿蘇家は簡単に潰せるというのに、何故、危険をかえりみず阿蘇家に来たんだ?」

宗運がそう言う。阿蘇家は、相良家ほどではないが価値はないはず。

颯馬「孫子の兵法にこう書いてあります。「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり。察せざるべからず」と。戦は、被害をあまりにも出します。兵にも民にも。それを避けるためなら調略します。そうすれば戦の1つや2つ減りますから」

颯馬がそう答える。

宗運は、それを聞いて臆病者な軍師だと思っていたが、少し考えるとある理由が1つだけ見えてくる。戦は、ただでさえお金がかかる。それが長くなればなるほど。そんなことをしているうちに惟将は口を開いた。

惟将「アハハハハ。これは、おみそれいたした颯馬殿。このような武将を見たのは初めてだ」

惟将がそう言う。

惟将「それで、天城殿。先ほど貴公が言った条件、誠だろうな」

颯馬「はい。この刀に誓って!」

颯馬がそう言う。

惟将「わかった」

そう言うと颯馬は阿蘇家は落ちたと確信した。

その後、阿蘇家は島津に下り、その領地は安堵された。こうして、島津は薩摩、大隈、日向、筑後、そして、肥後を手に入れて5カ国の大大名となったのであった。


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