府内城を占拠したことは、臼杵城攻めの方にも報せが届いた。
貴久「なんと、それは真か?」
島津兵1「はい。軍師様の奇策により府内城は落城、大友宗麟を始め大友親貞、吉弘家の者を捕縛しました」
兵士さんがそう報告する。
貴久「そうか、ご苦労であった。天城達には、府内城にて、休むように伝えておいてくれ」
島津兵1「はは。では、失礼します!」
そう言うと兵さんは陣を出て行った。
義久「颯馬くん、すごいわね。まさか、岡城に続いて、府内城まで1日足らずで落とすなんて」
家久「私、尊敬しちゃう」
私と家ちゃんがそう言う。
豊久「ところで、お父様。これからどうします?」
貴久「ん?ああ、とりあえず、あの城に降伏するように通達しておいてくれ」
お父さんがそう指示を出すと豊ちゃんは、陣を出て行き城にこの事実を伝えに言った。
■
一方、臼杵城では・・・
鎮理「それは、本当ですか義姉様!?」
鎮理が鑑連にそう聞く。
鑑連「ええ、先ほど敵からそのような知らせを受けました」
鎮信「おかげで、城内の兵士達は動揺しています」
鎮信がそう愚痴を漏らす。
鑑盛「虚報と言うことはないでしょうか鑑連殿?」
鑑連「もちろん、そのように兵士達にも言わせていますが、事実かどうかは今のところ分かりません」
鎮理「もし、それが本当なら」
鎮信「思いたくはないが、もう俺に勝機はほぼないだろう鎮理」
鎮理にそう答える。
鑑連「ええ、そうですね鎮信殿。しかし、例え勝機がほとんどないであろうと私達は、強硬してでも宗麟様をお助けします」
鑑連がそう言うと鎮理、鎮信、鑑盛も頷いたのであった。
■
その頃、府内城では、兵達がゆっくり休んでいた。そして、俺はある場所へ向かっていた。
颯馬「お勤めご苦労様」
見張り兵「あ、天城殿」
見張り兵に俺は話しかけた。
颯馬「大人しくしているのか?」
見張り兵「ええ。不思議なほど」
颯馬「そうか。それじゃあ、少し外してくれないか?」
見張り兵「いいですけど、またどうしてです?」
颯馬「大友宗麟と交渉して、臼杵城に立てこもる戸次鑑連、吉弘鎮信・鎮理兄妹、池浦鑑盛を説得させるためにちょっと必要なんだ。これ以上の争いは、無意味すぎるからな」
俺が見張り兵にそう言う。
見張り兵「わかりました。では、少しだけ外しますので終わったらお願いします」
颯馬「ありがとう」
そう言って見張り兵がその場を去ると俺は階段を下りて行った。
牢座敷に着くと大友宗麟、親貞、千と3人別々に入っている牢が見えてきた。
宗麟・親貞・千熊丸「「「・・・・・・・」」」
3人は黙り込んでいるも俺は宗麟の方に向く。
颯馬「宗麟殿・・・いいや、宗麟」
俺がそう呼ぶと宗麟が反応する。
宗麟「颯馬・・・。生きていたのねやはり」
颯馬「ええ。この通り」
千熊丸「っ!?」
そう答えると千が反応する。やはり、千は・・・。
宗麟「それで、颯馬。一体私に何の用です?」
宗麟がそう言うと俺は用件を言う。
颯馬「単刀直入に言う宗麟。島津(ウチ)と同盟を結んでほしい」
俺がそう言う。
宗麟「同盟ですか。一介の軍師である颯馬がそれを持ちかけてもね」
颯馬「いえ、歳ち・・・歳久様や義弘様も了承をもらっています」
俺は、宗麟にそう答えた。
回想シーン
歳久「同盟ですか?」
颯馬「ええ」
義弘「でも、どうして降伏させる代わりに大友と同盟を結ぶの?」
弘ちゃんが俺に尋ねる。
颯馬「臼杵城には、まだ大物が残っています」
歳久「戸次鑑連、吉弘鎮信・鎮理兄妹、池浦鑑盛ですね」
颯馬「ああ。しかも、臼杵譲はなかなか固い城。今回のような運は期待しない方がいい」
歳久「そうですね」
俺の問いに歳ちゃんも頷く。守りが固い城は、そう簡単に落とすことは出来ない。
しかも、島津は、日向平定、大友遠征で、兵は疲弊している。このまま戦いを続けるのは、島津家としても得策じゃない。
義弘「それで、どうして同盟なの?」
颯馬「いくら、大友家当主、大友宗麟がこっちの手にあるとはいえ、向こうは、まだ負けたわけではない。それで、間を取って、同盟を結ぶんだ。それに弘ちゃん、大友と同盟を結ぶ理由は2つあるんだ」
義弘「2つの理由?」
颯馬「ああ。1つは、同盟を結ぶことで、臼杵城にいる兵士達の抵抗をやめさせる。もう1つは、九州には大友以外に勢力を伸ばしている大名も数多くある。大友だけに集中すればそれを狙って攻め込む勢力もある」
義弘「なるほど、それで同盟を結ぼうということね」
颯馬「ああ。それに大友と共に戦えば心強いじゃない」
義弘「まあ、確かにそうね」
弘ちゃんがそう言う。
歳久「わかりました。天城にこの件を任せます。お父さんにはあとで事後報告します」
颯馬「ありがとう歳ちゃん」
歳久「歳ちゃんと言わないでください!」
回想終了
俺は昨日の歳ちゃんと弘ちゃんの話を思い出した。この同盟なんとしてでも成功させないと。
宗麟「ずいぶんと信頼されているのですね颯馬」
颯馬「そんなことないよ。まあ、とにかく同盟を結んで島津とともに戦ってくれるとウチとしてありがたいんだが」
俺が宗麟にそう言う。これ以上戦わせないためにもここで同盟を結べば宗麟達を殺さなくて済む。宗麟も意地があるから、臣従は難しいだろう。同盟を結ぶのが、一番の最善策。それは、俺が一番の願いである。そんな時だった。
千熊丸「・・・・・・ぅしてです。どうしてです?どうしてなのです!?」
千が感情一杯でそう言うと鉄格子に手をかけた。
千熊丸「どうして、兄様が。島津にいるのです!宿敵である島津に!生きていたなら、なんで戻って来ないのですか!どうして!どうして!どうして、なんです兄上!」
声を荒らげながら泣く千。
親貞「落ち着いて千熊丸」
親貞が千熊丸を落ち着こうとさせる。
千熊丸「兄様、答えてください!」
しかし、それでも千熊丸は声を荒らげながら俺に問いかけた。
宗麟「千熊丸、少し包みなさい。こんなに大きな声を出したら見張りに聞かれて、颯馬の立場が危うくなるじゃない!」
宗麟の喝で千は平常心に戻る。
宗麟「颯馬、教えてもらえませんか?どうして、あなたが島津にいるのか?そして、あの日何故、追放されたのか?同盟については、話の聞きしだいです」
宗麟がそう言う。
千熊丸「え、兄様。大友家に仕えていたんですか!」
宗麟「ええ。少しの間だったけど。だからこそ聞きたいのよ颯馬。教えてくれるわよね」
宗麟に問いに俺は、ついに重い口を開いた。
颯馬「あの日、宗麟と鑑連殿が用事で出かけた時、義鑑様が、俺に身に覚えのない罪で、家から追放されたんだ。義鑑様は、俺のことをかなり嫌っていたし・・・。追い出す口実がほしかったようだけど、宗麟と鑑連殿がその都度かばっていたからな。だから、2人がいなくなった時を見計らって、追放したんだ。さらに、義鑑様は、俺を殺すように仕向けられた家臣に追われたんだ。何日も走り続けた」
宗麟「・・・・・・」
宗麟は、俺の話を黙って聞いていたが手を握り締めて震えていた。その震えは、恐怖ではなく怒りだろう。
颯馬「そして、必死に。そして、どこまで走ったか記憶になく俺は疲れ切って倒れた。もう千に会えないかと思っていたら、島津家の先代の当主・日新斎様がたまたま通りかかり俺を拾ったんだ。そして、俺のことを義久『様』達同様に育ててくれんだ。日新斎様は、俺に戦略、知略などを教えてくれた。島津家5姉弟とともにすくすくと育ったんだ。俺は日新斎様に返しきれない恩をもらい、それから貴久様や義久『様』達のために働いたんだ」
俺が今までの出来事を宗麟達に全て話した。
宗麟「そうだったんだ。それで、島津家の軍師になったのね颯馬は」
千熊丸「兄様にそんな過去があったんですね」
颯馬「ああ。けど、千がまさか立派な武将になっているとは思わなかったよ」
千熊丸「あの日、兄様によって、吉弘家に養子に出された私は、義姉上、義兄上に剣術を教えてもらいました。一人前の武将になるために。」
親貞「それで、先日のお家騒動で、初陣して、姉上様に千熊丸と言う名をつけてくれたのです」
千こと千熊丸と親貞がそう言う。
宗麟「申し訳ない颯馬。あなたを1人させたばかりに・・・」
颯馬「そ、そんなことないよ宗麟。お前が謝ることでない!」
俺がそう言う。
宗麟「颯馬は、昔から変わらず優しいのね。まあいいです。それで、話は元に戻して、同盟の件ですけど、その件飲みましょう」
颯馬「それじゃあ」
宗麟「ええ。これから、私達、大友家は島津と共に戦いましょう」
颯馬「ありがとう宗麟!」
宗麟「颯馬たら、大げさね~」
そう言うと俺は頷いた。
こうして、大友が島津と同盟を結ぶことを決意したのであった。
「・・・・・・・・」
颯馬以外誰もいないはずの場所に1人の人物が立ち聞きしていた。その人物は、颯馬はもちろん、宗麟らに気づかれないように立ち去ったのであった。