遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第09話 オークションの準備をしよう

 オークションを始め、その副産物としてとある友人ができた。【神様のオークション会場】を語るなら彼のことは外せない。ある意味、オークションサイトを今の形で維持出来たのは彼のおかげと言っても過言ではないからだ。

 元々彼は何度か大きな買い物をして頂いたお客さんであった。しかしどうやら彼は、立て続けにレアカードを出品する人物に興味を覚えたらしい。

 彼はRichard(リチャード)と名乗っていた。もちろんネット世界での出来事なので本名かどうかは分からない。何度かカードに関する質問のメールを頂き、それに関する返事を返した。リチャードはその後もオークションにほぼ毎回参加し、何度もカードを競り落としていった。そして交わすメールの内容にも雑談が混じり、徐々に数も増える事となる。いつからかリチャードとは、所謂メル友という関係となっていた。

 

 オークションを開始して2月(ふたつき)余り。いつの間にか貯金は3億を越えていた。宣伝のために初期放出したレアカードが、結構な額で売れたのが原因である。

 さすがにこのまま行けば税金が素敵な数値となることに気づき、リチャードに相談を持ちかけることにした。彼は高額カードを競り落とすくらいの金持ちであり、何かしら税金対策の経験があるのを見越してのことである。

 途中紆余曲折はあったが、結局彼の勧めで口座を某国の某銀行に移し、サイトも色々とゆるい他国に移転した。

 某銀行は顧客情報に対する守りが鉄壁であることを売りにしているとのこと。信用していいらしい。

 その後も彼から様々なアドバイスを頂き、多くのノウハウを教わることとなった。

 結局資金の流れもいくつかのボランティア団体を中継することとなり、よほどの事がない限り、税金問題は解決したと言える。

 ここまでの犯罪行為をやらかすとなると流石に枕を高くして寝れず、ガクブルの夜を過ごしていたが、彼によると金持ちにとってこのくらいは序ノ口であるらしく、むしろやっていない奴の方が少数派であるらしい。とは言えやはり心配なので、いざという時の為の高飛びの用意はしておいてある。主に自分の精神安定の為にである。

 

 今ではオークションも安定し、毎週何かしらのカードを2,3枚出品している。そして毎月に一度、かなりレア度の高いカードを出品する。サイトを引っ越してからまだ2月しか続いていないルーチンなのだが、当分はこのペースでやっていこうと思う。

 市場が壊れないよう、出すカードにも気を使わないといけない。

 何事もバランスは大切である。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 朝のざわめく教室。

 予鈴に耳を傾けながら、来週出す今月の目玉カードについて考える。

 

「う~ん……。

 出せば間違いなく喜んでもらえるカードという条件で考えてみると、

 ――――【ブラック・マジシャン・ガール】、かな……?」

 

 この世界に来てからそれなりに市場調査もしているし、社会情勢に関しても積極的に情報を集めるようにしている。その過程で得た情報によると、【ブラック・マジシャン・ガール】にはカルト集団と呼んでも差し支えないほどの熱烈なファン層がいるらしい。元々稀少なカードである上に、伝説のデュエルキングである武藤遊戯のメインデッキを飾る一枚でもある。そして何と言ってもかわいい女の子なのだ。むしろ人気が出ないほうがおかしいだろう。

 

 試しに、絵違いのブラマジガールを出して反応を見るのも面白いかもしれない。

 果たしてどんな値が付くのやら――。

 

 経験上、今この世界にないカードは喜ばれる事が多い。もちろんある程度高性能であることが前提なのだが……。

 

 ここでこの世界にないカードを出して大丈夫なのかと言う疑問はあると思う。

 それに対してはっきり「大丈夫だ」と答えよう。

 そもそもこの世界で新カード製作に手を出している企業は「大」はもちろんのこと、「中」、「小」を含めて数え切れないほどにある。会社が製作したカードが有名になれば、それに関連した様々な利権が会社に大きな利益をもたらすのだ。

 海馬コーポレーションがその好例である。【正義の味方カイバーマン】はアニメ化され、遊園地「海馬ランド」のメインマスコットキャラにもなっている。その宣伝効果やグッズ類がもたらした利益は計り知れない物となっただろう。

 

 さて、そんな多数の企業がカード製作に関わっているのならば、そこに所属しているカードデザイナーの数の多さも言わずもがなだ。一応新しく生まれたカードを審査し、正式に採用するかを決める機関はあるのだが、べつに一箇所で同じ人が審査しているわけではない。

 中には審査員がデザイナーと友人関係にある為あっさりと審査が通る事もあるし、審査に通ったカードの量産をデザイナーが拒否し、世界で一枚しかないカードが誕生する事もあったりする。

 

 結局のところ、全てのカードを把握している人など一人もいないのだ。

 「でもシンクロはダメだろう」だって?

 実際デュエルディスクはカードを認識している。審査にはなぜか通過していると見るのが妥当だろう。中盤から十代が使うコンタクト融合とか、万丈目が使うXYZの合体融合だって似たようなものだ。そういう種類の特殊融合だとしておけばいい。世に出せば俺がそうと言わなくとも皆そういう風に理解するだろう。

 

 話をオークションに戻そう。

 当たり前の話なのだが、カードがレアかレアでないかを決めているのはオークションに参加するお客様達だ。自信を持って出したカードに低価格しかつかないことだってあるし、逆に二束三文だと思ったカードに数千万の価値が付くこともある。そういう意味でもブラマジガールの絵違いカードにどれだけの値が付くのか、大いに興味が湧く。

 

「今日も楽しい楽しい授業を始めるノ~ネ。みんな席に着くノ~ネ」

 

 ――よし!

 そうと決まれば、お昼にでも掲示板に告知と写真を貼っておこう。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 4時間目が終わり、多くの同級生達が待ちに待ったお昼の時間である。

 皆が欠食児童のように食堂や購買に向かってダッシュして行く姿を横目に、モバイルパソコンの電源を入れる。

 そして教室に誰もいなくなったのを見計らうと、パソコンに二重のパスワードを入力し、画面ロックをはずす。さらにサイトの管理者画面を開き、そこにも同様にパスワードを打ち込んでいく。

 

 売りに出せそうなカードは入学前に出来るだけスキャナーで取り込んでおいた。

 さて、ブラマジガールの絵違いは3種類あるが、どれにするか――

 

 それぞれの画像を拡大し、見比べる。

 

 ふむ……。

 よし、決めた!

 魔方陣をバックに、師匠である【ブラックマジシャン】と同じポージングを取っているこれにしよう。

 さ、アップロードアップロード……え~と、説明欄入力っと。

 

 『世界中で最もファンが多く、最も手に入れることが困難なカードと言えば、多くの人は【ブラック・マジシャン・ガール】を思い浮かべることだろう。なんと今回、その全身を余すことなく一枚のカード内に収めた絵違いカードを放出する事となった。

 期間は20日・月曜から25日・どよう

 

「あっ……」

 

「ん?」

 

 背後から声が聞こえた。

 ――誰だ?

 振り向くと、翔がこちらを指差し、ブルブルと全身をふるわせている姿が見えた。

 画面を見られたか?

 

「ブ、ブ、ブ――」

 

 なぜか翔は今にも叫びだしそうである。

 確かにオークションのことはなるべく隠そうとしていたが、別段そこまで驚くようなことでもないだろう。腐る程あるカードオークションサイトの数から見ても、やってる奴は他にも沢山いるはずだ。

 

「待て、翔。大声を出すな。

 あとで説明はするから、まずは落ち着け」

 

 目と目を合わせながら、小さな声で諭す。

 教室には俺と翔の二人しかいないが、叫ばれたら誰かが興味を持ってやって来るかもしれない。

 

「いいか、翔。この事は秘密だ」

 

 ゆっくりと、一言一句はっきりと聴こえるように言う。

 

「ひみつ……」

 

「そうだ。十代にも言っちゃ駄目だ」

 

「アニキにも……ひみつ?」

 

 面倒事は少ない方がいい。

 バレ無いに越したことはないのである。

 

「とりあえずここじゃ誰かに聞かれるかもしれないし、放課後俺の部屋に来てくれ。

 そこで説明するよ」

 

 翔はゆっくりとうなずき、のそのそと去って行った。

 心ここにあらずっといった雰囲気だ。

 

 

 ――そういえば、俺に何の用事だったんだろう?


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