遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第04話 歓迎会に出よう

 やってしまった。

 新入生歓迎会、完璧に遅刻である。

 

 森からブルー寮に戻る途中、考え事していたのがいけなかったのだろう。いつの間にか正規の道をはずれ、草葉茂る獣道を歩いていた。

 そのまま素直に引き返せばまだ良かったものの、”きっとこっちだ!”などといらない勘を働かせ、結果さらなる迷宮へと突入したのである。

 そして今の時刻は夜の9時。結局3時間以上も森の中を彷徨ったことになる。やっとこさ参加出来た新入生歓迎会も間もなく終わるだろう。

 

 

 オベリスクブルーの新入生歓迎会は立食パーティ形式で行われていた。

 会場中央に口の字形に長テーブルが配置され、白いシンプルなテーブルクロスの上に様々な料理が並べられていた。

 料理片手に談笑する寮生達のグループを、あちらこちらに見ることができる。

 皆新たな環境で、新しい自身の居場所を作ろうとしているのだ――きっと。

 間も無く歓迎会が終わるこの時間では仕方がないかも知れないが、すでにそれぞれグループが出来上がっていて、溢れている人は見当たらない。

 今からその中のどれかに入っていくと言うのは、ハッキリ言って辛い。

 

「うむうむ。皆しっかりとそれぞれの派閥を作り、そして見事に馴染んでおる。

 これも青春。よきかなよきかな」

 

 料理を頬張りながら孫を見る(じじい)のようなセリフをもらす。

 意味のない戯言である。負け惜しみとも言う。……やばい、このままだとぽっち街道まっしぐらだ。

 

 ――はぁ……仕方ない……。

 今回は飯が食えるだけでも参加した意義はあったと思うしかないのか……。

 

「そういう君は混ざらなくていいのか?」

 

「うおぉっとぉ!」

 

 内心諦めモードに入ったところで、背後からの声に驚愕する。

 何奴!? 割とマジでびっくりした――と、これは! 皇帝さんじゃないですか!?

 

「いや~、今更混ざるのもこっぱずかしくて」

 

 驚きの感情を作り笑顔で覆い隠し、冗談じみた口調で返す。

 遅刻したらすでにそれぞれグループが出来上がってたでござる。混ざれないでござる。

 

「そうか」

 

「え~と……。先輩……ですよね?」

 

「丸藤亮だ」

 

「あ、はい。(じん)拓実(たくみ)っす」

 

「……今回の歓迎パーティは2、3年生が用意した。存分に楽しんでくれ」

 

 カイザーこと丸藤亮――彼はそう言うと、わずかに口元に微笑みを浮かべた。

 ひょっとしたら、俺が一人でいるのを見て心配してくれたのかもしれない。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 ありがたいことである。誠意を込めて、礼を言わせてもらう。

 その後、二、三言日常会話レベルの挨拶を交わした後、カイザーは軽く顎を下げた会釈とともに、背を向けて去っていった。

 

 ――そうだな……行動しよう。これは歓迎会と言う名の交流会だ。

 いつまでもここでボーとしていてもしようがない。

 覚悟を決めて、どっかのグループに混ぜてもらおう。

 さて――、ど・こ・に・し・よ・う・か・なっと。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 あちこちを物色して約5分。

 何の気なしに会場の中央付近を陣取っている一際大きなグループに近づくと、その輪が割れた。

 なぜか知らないが、中心にいた人物がこちらに向かって歩いて来たからである。

 彼はモーゼにように人々の海を割り、まっすぐ俺の元へと歩を進める。無駄に周りの注目を集めまくっているのだが……何と言うか、ずいぶんとオーラーのあるヤツである。

 

「君が入試試験を、筆記・実技ともに学年トップで通過した(じん)拓実(たくみ)だね。ようこそ、オベリスクブルーへ」

 

 そう俺に語りかける彼。

 それにしても、……ようこそ?

 まるで自分は以前からここに所属しているかのような言い草である。

 俺の知識が正しければ、彼も一年生のはずなんだが――。

 

 しかし……、まさか彼の方から話しかけてくれるとは。

 

「ああ……君は確か……」

 

 俺が彼と実際に会ったのは初めてのはずだ。

 だからここは、彼のことを知らないふりをしてみる。

 

「オレの名は万丈目準。栄ある万丈目グループデュエル部門の未来の総帥にして、世界最強のデュエリストになる事を約束された男だ」

 

 腕を組み、誇らしげに宣言する万丈目。

 

「……早速だが、君、オレの下につかないかい? いい目を見せてやるぞ」

 

 万丈目は少し(あご)を上げ、ニヤリと笑ってみせた。

 その表情と仕草の一つ一つから、溢れんばかりの自信が感じ取れる。

 なるほど、これがまだはっちゃけてない頃の傲慢万丈目か……。

 とは言え、俺に何か害をなそうとしている訳じゃなし。むしろ孤立している俺にこうして話しかけてくれた訳だ。なぜかは知らないが、とてもあり難い。

 下につかないかと言うのも、友達になろうという彼からの精一杯の誘いではないだろうか。

 きっとプライドが高くて、そんな言い方しかできないのだろう。

 

「なぜ私を?」

 

「君は今、色々な意味で注目株なのだよ。是非これを機会に、オレの派閥に加えたくてね」

 

 ふむ。

 注目株というのはまぁ――多分、入試試験の成績のことを言っているのだろう。と言うか、それ以外のことは思いつかない

 取り敢えず、この状況で向こうから誘ってくれるのは渡りに船である。断る理由はない。

 

「改めて、(じん)拓実(たくみ)だ。万丈目君、君さえよければ友人になろう」

 

 万丈目はふふんっと笑う。

 

「ああ、歓迎するよ」

 

 両手を広げ、歓迎のボディランゲージを示す。そして、神妙な顔で言葉を続ける万丈目。

 

「さて、君からすれば少々急だが、オレはこの後、愚かなレッド共に身の程を知らしめに行かねばならん。よければ君も一緒に来るといい。俺の力の一端を、君にも見せてやろう」

 

 愚かなレッド? 身の程をしらしめる?

 物騒なセリフが出てきたが、この世界のことだ。きっと喧嘩ではなく、デュエルのことなのだろう。

 

「ああ、それはデュエルをしにいくと理解していいのかな?」

 

 念のために確認を取る俺の言葉に対し、万丈目は無言で頷いた。

 

「そうだね――。

 なんだか面白そうだし、万丈目君さえよければ、私も付いていこう」

 

「もちろん歓迎するよ」

 

 言いながら、チラっとバーカウンターの後ろに立っている柱時計に目をやる万丈目。

 

「パーティもそろそろ終わることだ。もう出ようと思っている。構わないかな?」

 

 っと、結構急だな。

 

「それなら少し待ってくれないか?

 念のためにデュエルディスクとカードを取って来たいのだが……」

 

 寮に戻って直行でここに来たのだ。デュエルディスクは部屋に置きっぱのままである。

 

「ああ……ならなるべく早めに頼むよ。お前が戻り次第出発しよう」

 

 う~ん……。最初「君」って言ってたのに、もう「お前」に変わっている。

 キャラを考えるとこっちが本来の口調なんだろうけどね。と、そんなこと言ってる場合じゃないか。速くディスクとデッキを取ってこないと。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ブルー寮は無駄に広い。

 端から端まで歩くだけで、軽く5、6分は掛かってしまう。

 今回は往復しなければならないのだ。小走りで自室に向かうことにする。

 並ぶ豪奢な扉から自分の部屋を探し当て、鍵を回す。

 まだ荷物の整頓が終わっていない為、ダンボールの障害物が俺の行く手を阻む。

 途中何回かダンボールの端っこを蹴っ飛ばし、ようやくカード関連の荷物をばら撒いた寝室に辿り着いた。

 

 さて、目当ての品は――――

 あー……と。ディスクはベッドあった。

 後は、デッキは――。…………んー……。

 デスクにある、同色のデッキフォルダ多数。

 多すぎてどれがどれだか分からん。

 一つ一つ開けて中を確認したいが、生憎(あいにく)時間は押している。

 

 もうこの際、なんでもいっか。

 大量にある黒いデッキフォルダの中から、適当に一つ掴むことにする。

 さー、ここからもう一度ダッシュだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 丁度新入生歓迎パーティが終わったようで、寮生達は銘銘(めいめい)に自身の部屋へと向かっていくところだった。今やオベリスクブルー寮の廊下は、ちょっとした混雑に見舞われていた。

 そんな中、俺は人を避けながらようやくパーティ会場まで半分の距離――エントランスに辿り着いた。

 

「ここだ、おい!」

 

 どこからか、万丈目の声がエントランス内に響く。

 キョロキョロと辺りを見回すと、外へと続く正面玄関の近くに、万丈目とその取り巻きの一人を見つけた。

 

「ここで待ってくれてたのか」

 

 小ダッシュで彼らの方に足を進める。

 

「ようやく来たな。

 時間に遅れて臆したなどと思われるのも癪だ! 本校舎まで走るぞ!」

 

「了解だ。待たせて申し訳ない]

 

 万丈目の取り巻きと一緒に万丈目の後を付いて走り出す。

 あれ? もしかして俺のポジションって、万丈目の取り巻きその2?

 

 

◇◇◇◇

 

 

 肺に少々の痛みを感じながらも本校舎のデュエル場に辿り着く。

 まだ相手の方が来ていないようで、少し待つ事にする。

 

「何時の約束なのかな? 万丈目君」

 

「10時だ。あと17分程だな」

 

 ということは、だいぶ早く着いたのか。これならわざわざ走らなくてもよかったのでは?

 こんな所にも性格って出るよな~などと考えてしまう。

 

 

 そして、待つこと15分。

 無言で雁首を揃えている俺達の間に、気まずい空気が流れていた。

 万丈目の足がタッタッタッと地面を叩く。

 相手を待つことに慣れていないのか、どうやら苛々しているようだ。

 もう一人の取り巻きも、何故かブスッとした顔をして、一言も喋らない。

 

「――まだ来ないのか……」

 

 万丈目から呟き声が聞こえる。

 時間が……やけに長く感じられた。

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「……チッ」

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

「アニキ待ってよ~。アンティルールなんてやっぱりよくないっすよ~」

 

「大丈夫だって。勝てばいいんだよ勝てば」

 

 廊下から大きな声が響く。

 やっと来たかーー!

 それにしても、どっかで聞いた事のある声だな。具体的には夕方くらいに崖の方で。

 

「随分と待ったぞ! 尻尾を巻いて逃げたかと思ったがな!」

 

 万丈目は腕を組み足を大の字に広げる。

 これでもかって程に身体全体を使って偉そうなポーズをとり、デュエルリングの上から二人を見下ろす。

 

「へ、逃げるわけないだろっ! お前こそびびって来ないかと思ってたぜ!」

 

「減らず口を!」

 

 言葉の応酬が終わり、十代はようやく俺の存在に気づく。

 

「ってあれ? (じん)? こんなとこで何してんだ?」

 

「あ、(じん)君。こんばんはっす」

 

「ああ、こんばんは」

 

 片手を軽く上げて十代と翔に向かって会釈をする。

 十代がここに来るって事は、これってアニメイベントなのかな?

 大筋の流れは覚えてるけど、細かいデュエルは覚えてないんだよね~。

 アニメ見たのはもう十何年も前だし……。

 

「ん? あいつらを知ってるのか?」

 

「夕方、散歩に出かけた時に偶然会ってね。

 それより、アンティルールでデュエルするなんて聞いてないぞ」

 

 早速、翔と十代の会話にあった問題発言を取り上げる。

 

「ふっ。ちょっとしたお遊びさ」

 

「いやいや、遊びだろうと、ダメでしょそれ。校則を読んでないのか?

 アンティルールでデュエルをした生徒は、理由の如何に関わらず退学だぞ」

 

 個人的にはアンティルールについては『あり』だと思っている。もちろん、『双方それに了承した上で』という前提が必要だが。

 とは言え、学生をやっていくつもりなら、校則に逆らっちゃいけない。

 

「なぁに、バレなければなんの問題もないさ」

 

「だから、そう簡単な話じゃないって。

 ついでに言うと、傍観してて止めなかったヤツも連帯責任で謹慎処分だし」

 

「うっ」

 

 きっと知らなかったのだろう。さすがの万丈目も少しバツの悪そうな顔をする。

 

「いやしかし……。

 こちらから吹っかけた勝負だ! ここまで来た以上、やらないわけにもいかないだろ!?」

 

「そうだぞ! お前、万丈目さんに逆らうのか!?」

 

 万丈目の顔を見る。変わらずバツの悪そうな顔をしている。

 きっと内心、アンティルールを取り止めてもいいと思っているのだろう。

 しかし啖呵を切った十代の手前であり、子分に対する面子の問題もある。止めるに止められないのが現状だ。

 なので、取り巻きその1は黙っててくれると、説得がしやすくて助かるんだけど……。

 そして、よくよく考えたら、俺が子分その2なんだよね……。

 

 さて、この場をどう収めたものか。

 この学園は俺の憩いの場になる予定である。

 ここで問題を起こし、教師に目をつけられたくない。

 

 でもまぁ、そこまで悩むことでもないか。ここはデュエルの世界。

 なら、オーソドックスに――。

 

「それじゃあ、こうしようか。

 まず俺とデュエルをしよう。俺が勝ったらアンティルールでのデュエルはやめること。俺が負けたら、今夜の事は見なかったことにして、俺はこのまま帰る。これでいいかな?」

 

 おっと、いつの間にか一人称が私から俺になっている。

 これじゃあ、万丈目のことをとやかく言えたものじゃないな。

 

「あ、ああ、ならそれでいこう。オレに勝てると思うなよ!」

 

 汗を浮かべてニヤリと笑う万丈目は、少し助かったような顔をしている。

 これなら、勝っても負けても、とりあえず場はうまく収まるからだ。

 

「待ってください、万丈目さん!

 こんなヤツ、万丈目さんが出るまでもありません! おれ一人で十分です!」

 

「うっ。そ、そうか」

 

 何故か突然俺に食って掛かる取り巻きその1。そして、やる気になっていた所を、出鼻を挫かれた形となる万丈目。

 

「万丈目さんに逆らうとどうなるか、おれが教えてやるよ」

 

 にやにやと笑う取り巻きその1。

 何となく理解した。

 きっと彼は、うまく万丈目に取り入った俺が気に食わないのだろう。

 十代達を待っている間にも、彼からは敵意に似た視線を感じていた。これを機会に、実力の差をはっきりさせたいのかもしれない。

 

 ふぅ……。

 面倒くさいが仕方ない。ここはあきらめて、まずは彼とデュエルすることにしよう。

 これで一番いい結末を目指すためには、2回勝たなければならなくなった訳か……。

 

「はいよ……。じゃあ、速くかかって来るといい」

 

「ふん」

 

 鼻で返事を返しながら、取り巻きその1はデュエルディスクを構える。

 それを横目に、俺はカードケースからデッキを取り出し、デュエルディスクにセットした。

 

 ふっ……、その1よ、取り巻きその2であるこの俺の実力、存分に見せてやろう!

 

 ――そう言えば、何のデッキかな……? これ。

 

 

「あ、え~と……」

 

「アニキ、なんかどんどん勝手に話が進んじゃってるっす」

 

 

 置いてけぼりにされて、十代と翔は困惑している。

 今回彼ら二人には観客に徹していてもらおう。

 

 さて、それじゃあ――

 

「「デュエル!!」」


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