遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第35話 サンダーでブッ飛ばそう

「俺のターンだ。ドロー。と、また来たか……」

 

 とりあえずの危機は何とか免れた。しかし帝デッキならこの状況から脱するのも容易である。

 下手をすると、次のターンにはグラヴィティ・バインドを破壊されるかもしれない。

 

「魔法カード、【強欲で謙虚な壺】を発動。

 デッキからカードを3枚めくり、1枚を手札に入れ、残りを戻してシャッフルする」

 

 早速カードをめくる。

 【カエルスライム】【氷結界の術者】【強欲な壺】。

 

「む、【強欲な壺】か……」

 

 眉をひそめる三沢。

 

「【強欲な壺】を手札に入れる。そして発動! デッキから2枚カードをドローする」

 

 【強欲な壺】が出るとは、これは幸先がいい。

 

「モンスターを1枚セット。

 そして永続魔法、【スライム増殖炉】を発動する」

 

 銀色の機械が出現する。

 形は……魔法瓶の蓋を開けた時に出てくる飲み口みたいな感じだ。

 

「なっ?

 ……また珍しいカードを……」

 

 三沢は困惑の声を上げる。

 

『めずらしい?

 僕も持ってるよ、【スライム増殖炉】』

 

『オレも持っている。

 三沢選手が言っているのはデッキに入れることが珍しいと言う意味だろう。

 【スライム増殖炉】……。毎ターン【スライムモンスタートークン】を1体攻撃表示で特殊召喚する代わり、使用プレイヤーの召喚、反転召喚、特殊召喚全てを封じ込めてしまう。

 特殊召喚される【スライムモンスタートークン】の攻守はわずか500。そして攻撃表示でフィールドに出現する為、相手にとってはまさに恰好の的となる。

 メリットに比べ、デメリットがあまりにも大きすぎるカードだ』

 

『そのせいであまり使う人がいないんっすね』

 

『その通りだ。

 彼はどういうつもりで使用したのだろう? 先が楽しみだ』

 

 

 そこまで期待されでも……。そう大したことじゃないんで。

 

「これでターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

(【スライム増殖炉】とは……。

 あのカードの活用法は俺も以前考えたことがあったな……。結局実戦に耐えうるものは出来なかったが)

 

「俺のターン。ドロー」

 

(今欲しいカードは手札にはない。ここは――)

 

「スタンバイフェイズだが、俺はこのターン、【黄泉ガエル】を特殊召喚しない。

 そしてメインフェイズ。手札より魔法カード、【強欲で謙虚な壺】を発動」

 

 目を見開く拓実。

 

「何を驚く?

 俺達のようなドロー力の低い凡人には必須のカードじゃないか。

 デッキからカードを3枚めくり、1枚を選択して手札に入れる」

 

 【氷帝メビウス】【グリズリーマザー】【呪われた棺】。

 3枚のカードが三沢の頭上に現れる。

 

「俺は【氷帝メビウス】を手札に加え、残りをデッキに戻してシャッフルする」

 

(目当てのカードは来た。あせる必要は無い。攻勢に出るのは次のターンだ)

 

『これは一体どういうことでしょう?

 三沢選手、なぜか【黄泉ガエル】を特殊召喚しませんでした』

 

『彼は【強欲で謙虚な壺】を使いたかったのだろう。

 このカードは使用ターンに特殊召喚できず、特殊召喚したターンに使用できないデメリットを持っている』

 

『なるほど、そういうことだったんですね。

 三沢選手、【強欲で謙虚な壺】により新たな帝のカードを手札に入れました。

 これがお目当てのカードなのでしょうか?』

 

 

「手札から【見習い魔術師】を守備表示で召喚。そしてターンを終了する」

 

 紫のボディスーツを纏い、若き魔術師はフィールドに降り立つ。

 彼は杖を突き出してしゃがみ、守りの体制をとる。

 

 

◆◆◆◇

 

 【見習い魔術師】。戦闘により破壊されることで、デッキからレベル2以下の魔法使い族をフィールドにセットできるリクルーターモンスター。また厄介な。

 

「それじゃ、俺のターンだ。ドロー」

 

 しかも……ここで【氷帝メビウス】を引き当てるとは……。

 地帝を生贄にすれば召喚できたはずだが、次のターンに2体の帝を揃えることを選択したか。

 

「スタンバイフェイズ。【スライム増殖炉】により、【スライムトークン】が攻撃表示で特殊召喚される」

 

 【スライム増殖炉】から小さなスライムが一滴漏れ出す。

 レベルは1で水属性・水族。

 元々の攻撃力は500だが、【湿地草原】により1200アップ。攻撃力1700だ。

 

「手札から魔法カード、【封印の黄金櫃】を発動。

 デッキからカードを1枚除外し、自ターンで数えて2ターン後にそれを手札に入れる。

 俺は【アームズ・ホール】を除外」

 

 よし、今はこれだけでいい。

 このターンは攻めようが無い。今【見習い魔術師】を攻撃して、【執念深き老魔術師】を引っ張り出すのは下策だ。

 

「これでターンエンド」

 

◇◇

 

「俺のターンだ。ドロー。

 スタンバイフェイズ、俺は【黄泉ガエル】を墓地より特殊召喚する」

 

 黄泉返った白羽のカエルに目を向け、三沢はにやりと笑う。

 さあ、来るか――!?

 

「受けてみよ! 氷結の暴力を!

 【黄泉ガエル】を生贄に――!」

 

 突如、デュエル場に吹雪ゴーゴー吹き荒れる。そしてキーンッという音と共に、頂き高くそびえ立つ氷山が三沢のフィールドに出現した。

 

「【氷帝メビウス】を召喚!!」

 

 氷の山は中から強烈な力を加えられたかのように砕け散り、辺りにキラキラ光る結晶の粒を撒き散らす。

 現れたるは白の甲冑を身に纏いし魔人――。

 【氷帝メビウス】である。

 

「【氷帝メビウス】が生贄召喚に成功した時、フィールド上の魔法・トラップカードを2枚まで破壊することが出来る」

 

 顎に手を当て、考え込む仕草をする三沢。

 

「1枚目は【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】を選択。

 そして2枚目はフィールド魔法【湿地草原】……と、言いたいところだが、ここは安全に攻撃できるよう伏せカードを選択しよう」

 

「2枚あるが?」

 

「左側を選択する。

 さー! 氷帝の力を見よ! 瞬間凍結!」

 

 【氷帝メビウス】の目が妖しく光る。

 その双眼より放たれた冷凍光線は、【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】と三沢の選択した伏せカードを凍らせた。

 直後、2枚のカードはその周囲を覆う氷と共に粉々に砕け散る。

 

「伏せカードは【アヌビスの裁き】、か……。思っていたものとは違ったが、まぁいいだろう」

 

『【氷帝メビウス】……。

 召喚と同時に2枚のカードを破壊するとは……すさまじい効果だ。

 バックに頼るデッキにとって、天敵のモンスターと言えるだろう』

 

『神選手のグラヴィティ・バインドの守りが破られました!

 そして、ついに三沢選手のフィールドに攻撃力2400の上級モンスターが2体揃いました!

 これは、すごい威圧感です!』

 

「すげぇな……」

「三沢って……こんなにすごい奴だったのか?」

「どうしょうもねぇぜ……? さすがに、これはもう終わりなんじゃないか」

 

 

「さぁー! 【氷帝メビウス】で【スライムトークン】に攻撃だ! 氷・雪・圧・縮!」

 

「ここで永続トラップ、【スピリットバリア】を発動! 自分フィールド上にモンスターが存在する限り、俺は戦闘ダメージを受けない!」

 

 【スライムトークン】の周囲に無数の氷の(つぶて)が生まれ、それらは一気に中央のターゲットに殺到していく。その圧倒的な圧力により、握りつぶされる【スライムトークン】。

 だが俺は【スピリットバリア】の発動により、ダメージを受けない。

 

「あれ? 神のやつ、ライフが減ってないぞ」

「お前、神さんの話聞いてなかったのか?」

「おいおい、あまりレッドに無理難題を言うなよ」

 

 

「くっ、【スピリットバリア】とは……だがモンスターは破壊させてもらった!

 壁は残り一体! 【地帝グランマーグ】! 伏モンスターに攻撃! 地・爆・衝・撃!」

 

 重力の網より解き放たれた地帝は大きく拳を振り上げ、大地に叩き落す。

 無数の石礫(いしつぶて)が高速でセットされたモンスターカードに衝突する。

 堪らずカードより飛び出したのは【ペンギンソルジャー】。 剣を持つぽっちゃりとしたペンギンが石礫舞うフィールドに降り立つ。

 

『おっと! セットモンスターは【ペンギンソルジャー】だー!』

 

『フィールド上のモンスターを2枚手札に戻す能力を持っているリバースモンスターだな』

 

『これは! 三沢選手の上級モンスター2体を手札に戻して逆転か!?』

 

 

「【ペンギンソルジャー】の効果を発動!

 【地帝グランマーグ】と【見習い魔術師】を手札に戻す!」

 

 【ペンギンソルジャー】は飛び交う石礫に構うことなく敵モンスターとの間合いを詰める。そして、フリッパーで挟んだ剣の腹で地帝をアッパーカット気味に一撃。続けて振り返り、【見習い魔術師】も同様にブッ叩く!

 弧を描いて空を飛ぶ地帝と若き魔術師。2枚のカードは三沢の手札に戻る。

 最後の力を振り絞った【ペンギンソルジャー】は光の粒となって消えた。

 

「だが俺の優位はまだ変わらない。これでターンエンドだ」

 

◇◇

 

「俺のターン。ドロー!」

 

 これは……よし!

 

「スタンバイフェイズ、【スライムトークン】がフィールド上に攻撃表示で特殊召喚される」

 

 【スライム増殖炉】より漏れ出る一滴のスライム。

 

「手札より永続魔法、【一族の結束】を発動!

 自分の墓地に存在する種族が1種類の時、それと同じ種族の自分フィールド上モンスターは攻撃力が800ポイントアップする! 

 俺の墓地には水族の1種類しかない。同じ水族の【スライムトークン】はさらに攻撃力が800ポイントアップ!」

 

 取るに足らないはずだった一滴のスライム。その攻撃力は【湿地草原】の効果と合わさって2500となる。

 

「おいちょっと、あれって……」

「もしかして……」

「ああ……」

 

『ななななんとー! 【スライムモンスタートークン】の攻撃力が2500!

 【氷帝メビウス】を超えたー!』

 

『永続魔法とフィールド魔法による永久強化。

 先日オレも同じようなデッキとデュエルをした。今回はそれに加えて毎ターンモンスターが自動的に召喚される』

 

『そ、そうですね。

 このままだと、神選手のフィールドに、毎ターン攻撃力2500の【スライムモンスタートークン】が増えていくことになります!』

 

「おい、ちょっと、これすごくねぇか?」

「すごいなんてもんじゃねって」

「何をどうしたらこんなデッキが組めるんだ?」

「はは……、まぁ……神さんだからねぇ」

「そうそう。あの人と一緒にデュエル実習受けてみろよ。……そうすりゃあ分かる」

 

 

「バトルだ! 【スライムトークン】、【氷帝メビウス】に攻撃!」

 

 スライムは飛ぶ。矢のように。弾丸のように。氷帝を打ち貫く。

 胸に穴の開いた【氷帝メビウス】は粉々に砕け散る。

 

三沢LP 2300 → 2200

 

「これでターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

「くっ」

 

 三沢は驚きを隠せないでいた。

 

(【スライムトークン】を上級モンスターの生贄に利用する。弾丸として射出する。

 そういった中で何かやるだろうとは思っていたが……、まさか【スライムトークン】自体を強化してくるとはっ!)

 

「ドロー! スタンバイフェイズに【黄泉ガエル】を守備表示で特殊召喚する」

 

 しかし、彼は不適な笑みを顔に浮べた。

 

(これくらいのことがなければ手応えがない。このデッキの性能を試すには丁度いい)

 

 とは言え――。

 三沢は思考を続ける。

 

(このまま【地帝グランマーグ】を召喚してもやられるだけだ。

 今は他の帝が手札に来るのを待つしかないか……)

 

「再び【見習い魔術師】を守備表示で召喚。そしてカードを1枚セット。

 ターンエンドだ」

 

 

◆◆◆◇

 

「俺のターンだ。ドローカード。

 スタンバイフェイズ、【スライムトークン】は攻撃表示で特殊召喚される」

 

 【スライム増殖炉】より、さらに一滴。

 スライムは漏れ出す。

 

「そして、2ターン前に使用した【封印の黄金櫃】の効果が発動する。魔法カード、【アームズ・ホール】を手札に。そのまま【アームズ・ホール】を発動!

 デッキの一番上を墓地に送り、デッキ・墓地から装備カードを1枚手札に入れる。

 俺はデッキから【下克上の首飾り】を手札に!」

 

『神選手、【アームズ・ホール】により再び【下克上の首飾り】を手札に加えました。

 それにしても、便利なカードですね』

 

『そうでもない。

 【アームズ・ホール】は使用したターンに通常召喚権を失う。

 そのデメリット効果のせいで、このカードを採用する人は少ない』

 

『そっかな? 1ターンくらい通常召喚できなくても……』

 

『装備カードが必要な場面を考えてみるといい』

 

『装備カードが必要な場面?』

 

『相手の上級モンスターの反撃にあい、モンスターを失っている状況――。

 ……全てがとは言わないがな』

 

『……うん。確かにそういう時は装備カードで一発逆転を狙いたいね』

 

『相手フィールドには強力なモンスター。それを打ち倒すにはモンスターを召喚し、装備魔法を使用する必要がある。だがこんな時、【アームズ・ホール】は無用になってしまう。

 使ってしまったら最後、モンスターを召喚できず、次のターンに相手のダイレクトアタックを許してしまうからだ』

 

『ほ、本当だ!』

 

『それに通常召喚が出来ないというだけでも、翔が想像する以上のデメリットを被る。

 これらの理由から、そうやすやすとデッキに入れていいカードじゃないのは分かるだろう』

 

「なるほど、勉強になるな」

「さすがカイザーだぜ」

「ふふふ、翔がいいワトソン役になってるわね」

「なんだかんだ言っても兄弟だからな。相性がいいんだよきっと」

 

『でも、拓実君はその使い辛いカードを使ったんだよね?』

 

『翔、神選手のフィールドを見ろ』

 

『神選手の、フィールド? えっと…………、あ――、あーーーー!』

 

『気づいたか。彼は、最早通常召喚を必要としていない』

 

 

 さー、攻めるぞ!

 と、その前に――。

 

「今俺のフィールドには2体の【スライムトークン】がいるから、名前の後にアルファベットをつけて区別するぞ」

 

「ああ、確かにその方が分かりやすいな」

 

「それじゃ気を取り直して、バトル!

 【スライムトークンA】で【見習い魔術師】を攻撃!」

 

 スライムは弾丸と化し、若き魔術師を貫いた。

 

「【見習い魔術師】の効果発動! デッキから【見習い魔術師】をフィールド上にセットする」

 

「続けて第二射! 【スライムトークンB】でセットカードを攻撃!」

 

 再び放たれるスライムの弾丸。貫かれる【見習い魔術師】。

 

「再度【見習い魔術師】の効果発動!

 デッキより【見習い魔術師】をフィールド上にセットする」

 

 ま、こうなるよね。

 

「カードを1枚セット。ターンを終了する」

 

◇◇

 

「俺のターン。ドロー」

 

 引いたカードを一瞥(いちべつ)する三沢。そして、そのカードをデュエルディスクへと差し込む。

 

「【おろかな埋葬】を発動。

 デッキから【黄泉ガエル】を1枚墓地へ送る」

 

 2枚目の【黄泉ガエル】が墓地に送られた。一枚目は今現在絶賛黄泉返り中だ。

 

「【グリズリーマザー】を守備表示で召喚。これでターンエンドだ」

 

 巨大熊が息を荒げ、湿った泥の地面を踏みしめる。

 攻撃力は1400、守備力1000。

 戦闘破壊されることで攻撃力1500以下の水属性モンスターを攻撃表示でデッキから特殊召喚できる。皆さんお馴染みのリクルートモンスターだ。

 

◇◇

 

「ドロー。

 恒例のスタンバイフェイズだ。【スライムトークン】は攻撃表示で特殊召喚される」

 

 【スライム増殖炉】よりトークンが溢れ出す。

 これで俺のフィールドに攻撃力2500のスライムが3体存在することになる。

 

「す、すげぇな……」

「元が雑魚でも、今は攻撃力が2500もあるんだぜ」

「それがもう3体も……」

「いったいどれだけ増え続けるんだ?」

 

 

「【スライムトークンA】に【下克上の首飾り】を装備。

 バトルだ! 【スライムトークンB】で【グリズリーマザー】に攻撃!」

 

 スライムの弾丸は熊の怪物の胸に穴を開ける。

 

「俺は、【グリズリーマザー】の効果を発動させない」

 

 ちっ、流石にそこまで間抜けじゃないか。

 

『あれ? 三沢選手、【グリズリーマザー】の効果を発動させませんでした』

 

『【グリズリーマザー】は攻撃表示でしかモンスターを特殊召喚できない。

 今神選手のフィールドには【下克上の首飾り】を装備させた攻撃力2500の【スライムモンスタートークンA】がいる』

 

『つまり、効果を発動させることは危険なんですね?』

 

『危険ところの話ではない。

 例えば、同じレベル4、攻撃力1400の【グリズリーマザー】をリクルートしたとしよう。

 トークンとのレベル差は3。【スライムモンスタートークンA】で攻撃すれば、今の攻撃力2500に、さらにプラス1500。攻撃力4000の一撃を受けることになる』

 

『えっと……ダメージは2600。三沢君の残りライフは2300だから……』

 

『そうなったらデュエルは終了だ』

 

 

「【スライムトークンC】で【黄泉ガエル】に攻撃!」

 

 スライムの体当たりにより吹っ飛ぶ【黄泉ガエル】。

 罠か魔法かしらないけど、1枚伏せてあるから次のターンに復活は出来ないはず。

 

「【スライムトークンA】でセットカードに攻撃!」

 

 ま、【見習い魔術師】って分かってるけどね。

 射出される【スライムトークンA】。

 【下克上の首飾り】を装備した【スライムトークンA】のレベルは1。レベル2である【見習い魔術師】に攻撃した瞬間、その攻撃力は500ポイント上昇し、攻撃力2500から3000となる。

 なすすべも無く崩れ落ちる若き魔術師。

 

「【見習い魔術師】の効果発動!

 レベル2【執念深き老魔術師】をセットする!」

 

 やっぱり入れてたか。

 

「これでターンを終了する」

 

 気づけば俺のフィールドにある全ての魔法・トラップゾーンが使用されていた。

 もうこれ以上置けないな……。

 でもしばらくは必要ないだろう。大嵐対策含め、必要なカードは全てある。

 

◇◇

 

「俺のターン、ドロー! よし!」

 

 ん? 欲しいカードが来たのか?

 

「俺は【打ち出の小槌】を発動する。

 手札を任意の枚数デッキに戻してシャッフルし、戻した枚数分カードをドローする。

 俺は手札3枚を全て戻す。そして3枚ドロー!」

 

 手札交換か。これで三沢の運がよけりゃ……。

 

「【執念深き老魔術師】をリバース!

 効果発動! 相手フィールドのモンスターを1体破壊する! 

 俺は【下克上の首飾り】を装備した【スライムトークンA】を選択する!」

 

「三沢のヤロー、真っ先に【下克上の首飾り】を装備したのを狙ったな」

「実際あれは危険すぎるだろ」

「ああ、事実上戦闘で勝てるモンスターはいないんじゃないのか?」

 

 

 攻撃表示となった老人は手の平を【スライムトークンA】に向け、黒い何か――呪いの塊のような物を放つ。それを受け蒸発する【スライムトークンA】。

 

「墓地に送られた【下克上の首飾り】の効果発動!

 このカードが墓地に送られた時、デッキの一番上にセットすることが出来る!

 この効果を使い、【下克上の首飾り】をデッキの一番上にセット!」

 

「なにっ!? ……く」

 

『これは……?』

 

『こんな効果もあったとは……! これで次のターンには元の木阿弥か……!』

 

 

「ならば! 俺は【執念深き老魔術師】を生贄に、新たな帝を召喚する!

 荒ぶる風に身を晒せ!」

 

 【執念深き老魔術師】を中心に、大竜巻が巻き起こる。

 バンッ! 

 乾いた音と共に四散する竜巻。中から現れ出でるのは緑の甲冑を纏いし魔人。

 

「【風帝ライザー】召喚!!

 そして効果発動! 【風帝ライザー】の生贄召喚に成功した時、フィールド上のカードを1枚持ち主のデッキトップに戻す! フィールド魔法【湿地草原】を選択!

 巻き起これ! 竜巻生成!」

 

 ブォォォォォォォォンッ!!

 その言葉通り、風帝により発生した大竜巻が、フィールド魔法【湿地草原】を俺のデッキトップに飛ばす。

 フィールドは元の第一デュエル場に戻る。

 

『考えたな』

 

『え? え?』

 

『三沢選手は更に1枚カードをデッキトップに被せることで、神選手が次のターンに【下克上の首飾り】を手に入れることを防いだ』

 

『そんなことまで考えてたなんて……』

 

『それだけじゃない。これにより神選手は2ターンもドローを無駄にすることになる』

 

 

 うわぁ、やっかいな!

 

「さあ、風帝の怒りを受けてみよ!」

 

 【湿地草原】が消え、俺のフィールドに存在するスライム達の攻撃力は1300になっている。

 

「【スライムトークンB】に攻撃! 弧・風・閃!」

 

 風帝は腕を二回、三回と振り、風の刃を飛ばす。

 その攻撃力は2400!

 なます切りにされる【スライムトークンB】。

 

「だが俺の場には【スピリットバリア】がある。モンスターの戦闘によるダメージを俺は受けない」

 

「くっ、そうだったな……。これでターンを終了する」

 

◇◇

 

「俺のターン、ドロー!

 スタンバイフェイズに【スライムトークン】が特殊召喚される!」

 

 毎度おなじみ溢れ出すスライム。

 

「手札からフィールド魔法発動! 【湿地草原】!

 これでスライム達の攻撃力は全て2500に戻る!」

 

 再びフィールドは雨の降る、泥でぬかるんだ草原に戻る。

 

「バトル!」

 

 えっと……。AとBがやられたから、もう一度同じ名前を付けるのもなんだし。

 うん、ここは――

 

「【スライムトークンD】で【風帝ライザー】に攻撃!」

 

 弾丸のように射出されるスライム。

 

「トラップカード、【和睦の使者】を発動!

 このターン、俺の場は全てのモンスターの攻撃から守られる」

 

 青のベールと青のマントを身に付けた女性の集団が、フィールドにその姿を現出させる。彼女達は揃えたように手を横に振り、三沢のフィールドを守る透明な、輝く壁を作り出す。

 ぺちゃっと壁にぶつかる【スライムトークンD】。そのまま”ずずずー”とずり落ちる。

 

 なるほど、和睦だったのか。

 

『これもストラクチャーデッキ《初めてのデュエル》に入ってるカードですね』

 

『ああ。だが【和睦の使者】はかなり使えるカードだ。本デッキに入れるプロも多い』

 

『へぇ~』

 

『あれの特徴は何と言ってもフリーチェンであることだ。

 例え【サイクロン】に狙われても、チェーン発動してしまえば問題ない』

 

『え、えっと……と、とにかく有用なカードなんですね。解説ありがとうございました』

 

『翔』

 

『は、はい』

 

『帰ったら勉強だ』

 

『はい……』

 

 

「しようがない。ターンを終了する」

 

◇◇

 

「俺のターンだ。ドロー!

 スタンバイフェイズ、墓地より【黄泉ガエル】をフィールドに特殊召喚する!」

 

 また出たか、しつこいカエル。

 

「極上の紅焔を見せてやろう!

 【黄泉ガエル】を生贄に、出でよ! 【炎帝テスタロス】!」

 

 赤い赤い炎。それは【黄泉ガエル】を燃やしつくし、曇天のフィールドを真っ赤に染める。

 そして炎の中より生まれいずるは、朱色に光る白の甲冑を纏いし魔人。

 攻撃力はやはり2400。

 

「【炎帝テスタロス】は召喚に成功した時、相手に手札一枚をランダムに捨てさせる!

 燃やせ! 炎弾、生成!」

 

 炎帝は指先を俺に向けると、小さな炎の弾を発射する。

 それは俺のたった1枚の手札を燃やす。

 

「俺の手札はこれしかない。レベル2、【氷結界の術者】だ」

 

「その様子だと【炎帝テスタロス】の効果を知っていたか。

 炎帝により捨てられたカードがモンスターだった時、そのレベル×100のダメージを相手プレイヤーに与える。レベル2であるのは残念だが、200のダメージを受けてもらおう」

 

 手札の炎は俺に燃え移り、ライフを減少させる。

 

神LP 1600 → 1400

 

「そしてカードを1枚セット。これでターンエンドだ」

 

◇◇

 

「俺のターンだ。ドロー。

 スタンバイフェイズに【スライムトークン】が特殊召喚される。

 これで【スライムトークンE】になるか」

 

「む……」

 

 フィールドには再び3体の攻撃力2500の【スライムトークン】。

 そしてデッキに戻した【下克上の首飾り】も手札に入った。

 三沢の顔色はあまりよくない。

 

「【下克上の首飾り】を【スライムトークンC】に装備!」

 

「ここでトラップカード、【威嚇する咆哮】を発動!

 相手はこのターン、攻撃を宣言することができない!」

 

「そう来るとは……OK、ターンエンドだ」

 

◇◇

 

「ドロー。…………これなら」

 

 カードを引いた三沢の顔に色が戻る。

 何を引いた?

 

「まずはスタンバイフェイズだ。【黄泉ガエル】を復活させる。

 そして俺は魔法カード【強欲な壺】を発動! デッキよりカードを2枚ドローする!」

 

「ここに来て強欲か」

「三沢の奴、いつもドロー運がないない言ってるけど、そうでもないんじゃない?」

「言えてる。隣の芝生は、だよな~」

 

 

「……。通るか?」

 

 三沢は【強欲な壺】で引いたカードを睨みつけ、独りごちる。

 

「魔法カード【大嵐】を発動!

 フィールド上の魔法・トラップゾーンにある全てのカードを破壊する!」

 

「通すわけが無い! カウンタートラップ、【魔宮の賄賂】発動!

 魔法・トラップの発動を無効にし破壊する! その後相手はデッキから1枚カードをドローする」

 

「くっ、やはりだめか……。ドロー!

 ……こ、これは……!」

 

 真剣な顔で手札を見る三沢。何やら考え込んでいるようだ。

 

『――――――――。

 …………三沢選手、考え込んでますね』

 

『ああ。やはりネックは【下克上の首飾り】と【スライムモンスタートークン】のコンボだろう。首飾りを装備したスライムはバトルにおいて、ほぼ無敵となる。その上、首飾りは破壊されても墓地から蘇り、【スライムモンスタートークン】は毎ターン自動生成される。……厄介極まりないな』

 

『果たして、これを打ち崩せる方法はあるのでしょうか?』

 

 

「……よし……これなら。

 勝利の方程式が微かに見えてきた」

 

 カードを高く掲げる三沢。

 

「俺は、【クロス・ソウル】を発動! 

 このターンバトルを行えない代わり、相手モンスター1体を召喚の為の生贄に使用することが出来る! 俺は【下克上の首飾り】を装備した、【スライムトークンC】を選択する!」

 

 と、これはまずい!

 

「輝け! 邪悪を打ち消す光よ!

 【スライムトークンC】を生贄に、【光帝クライス】を召喚!!」

 

 光が……満ち溢れる……!

 眩しさに思わず手を顔の前にかざす。

 光の中から影が見えた。

 

「うお、まぶしい」

「なんだこれ?」

「新しい帝か!? 三沢も良くやるな」

 

『これは……!』

 

『三沢選手、新たな上位モンスターを召喚しました!』

 

『違う! 重要なのはそこじゃない!』

 

『え?』

 

 

 フィールドに光臨するのは金の甲冑を纏った魔人。

 

「【光帝クライス】の効果発動! 生贄召喚に成功した時、フィールド上のカードを2枚まで破壊できる。滅せよ! 破邪の光、生成!」

 

 再び光帝から光が溢れ出た。

 

「俺が選択するのは【湿地草原】【一族の結束】!」

 

 破邪の光に照らされ、三沢の選択した2枚のカードは塵と消える。

 

「光は相手に恩恵をももたらす。

 カードを破壊されたプレイヤーはその数だけデッキからカードをドローすることができる」

 

「分かった……。俺は2枚ドローする」

 

『拓っ、神選手のフィールドにある強化魔法、【湿地草原】【一族の結束】が同時に破壊されました!』

 

『ああ、2枚の強化カードを破壊されたことにより、【スライムモンスタートークン】はただの烏合の衆と化した。そして、【下克上の首飾り】はもうない』

 

『あれ!? そう言えば、デッキトップに戻ってない!! どうして!?』

 

『ああいった系列の装備魔法は、装備モンスターを生贄にされると発動タイミングを逃す。

 【悪魔のくちづけ】しかり、【デーモンの斧】しかりだ』

 

『そ、そうなんっすか?

 よく分からないけど、そういうことです! 神選手、【下克上の首飾り】をデッキトップに戻せませんでした!』

 

『…………』

 

 

 翔の奴、今夜折檻を受けそうだな……。

 

「【光帝クライス】は召喚したターンに攻撃することが出来ない。

 だが俺はすでに【クロス・ソウル】を使用した為、どの道このターンに攻撃するのは無理だ。

 これが俺の最後の帝! まさかここまで使わされるとは思わなかった。さすがとしか言い様がない」

 

 最後、なんだ……。帝6枚ほぼ全部の効果をまともに受けて、俺……よく生きてるな……。

 

「これでターンを終了する」

 

◇◇

 

「俺のターン、ドロー。

 スタンバイフェイズに【スライムトークンF】が攻撃表示で特殊召喚される」

 

 攻撃表示で湧き出るスライム。しかし、その攻撃力はたったの500。

 

「これは……」

「いくらなんでももう無理じゃ……」

「きばれー! 拓実ー!」

 

 

 俺のフィールドにある4体の【スライムトークン】達はただの最弱モンスターと化した。

 そして相手フィールドには3体の帝と守備表示のカエルが1体。

 

『神選手、苦しい展開です』

 

『……』

 

 

「俺は手札より魔法カード、【シールドクラッシュ】を発動する。

 守備モンスターを1体破壊する。【黄泉ガエル】を破壊!」

 

 羽の生えたカエルは粉々に砕け散る。

 本来は【マシュマロン】とか、戦闘破壊耐性持ちのモンスター用に用意した物だ。

 

「カエルなんか壊してどうするんだ?」

「最後の足掻きか?」

「どうせ次のターンには復活するんだぞ」

 

 

 呆れたような観衆の声が聞こえるが、対峙している三沢の表情から油断は見えない。真剣そのものだ。 

 

「確かに【光帝クライス】の効果は一見強力だ。実際俺の戦術が一気に崩されたしな。

 だが、欠点も大きい」

 

「…………くっ」

 

「その様子じゃ分かっているようだね。ま、単純明快だし」

 

『けってん?』

 

『相手にドローさせる効果だ。

 【シールドクラッシュ】を使用した今尚、神選手の手札は3枚もある』

 

 

「手札の数は可能性の数。誰が言ったか、いい言葉だ」

 

「だがどうする? この劣勢をひっくり返せると言うのか?」

 

 風帝、炎帝、光帝。

 3体の帝は上方から俺を見下ろす。

 

「確かに俺のフィールドには強いモンスターはいない。

 でも…………キミのフィールドにはいるだろう?」

 

「!」

 

「俺は魔法カード、【強制転移】を発動!

 プレイヤーはお互い自分フィールドに存在するモンスターを1体選択し、それを入れ替える!

 俺のフィールドには攻撃表示の【スライムトークン】しかない。

 【スライムトークンF】を選択」

 

「俺は……【風帝ライザー】を選択する」

 

 苦い顔で選択を宣言する三沢。

 【強制転移】により、【風帝ライザー】と【スライムトークンF】は入れ替わる。

 

「いらっしゃい、【風帝ライザー】。さっそくお仕事だ。

 バトルを開始。【風帝ライザー】で【スライムトークンF】に攻撃! 弧風閃!」

 

 風帝はいくつもの風の刃を飛ばし、【スライムトークンF】を微塵切りにする。

 

「うわぁ……くっ」

 

三沢LP 2200 → 300

 

「だが俺はまだ生きている! 風帝を失っても2体の帝を有する俺の方が優位だ!」

 

『そうっすね。

 次のターンにあっさりひっくり返りそうっす』

 

『このまま神選手が何もしなければな……』

 

 

「バトルを終了。メインフェイズ2に移行」

 

 三沢のフィールドには伏カードが無い。

 【黄泉ガエル】の復活を維持する為に、あえてなにも伏せていないのだ。

 だから…………彼に、俺のこの行動を止めることは出来ない!

 

「……悪いな、三沢。もう、キミのターンまで回さない」

 

 驚愕。そして、徐々に何かを悟ったような表情に変わる三沢。

 少し残念そうな顔で、彼は静かに口を開く。

 

「…………そうか……。

 最後にどうするのか、見せてもらおう」

 

「……ああ。

 手札より魔法カード、【サンダー・クラッシュ】を発動する!」

 

 黄色い閃光!

 そして轟音!

 雷撃の嵐が、フィールドに吹き荒れる!

 

「【サンダー・クラッシュ】の効果! 自分フィールド上のモンスターを全て破壊し、」

 

 スライム、スライム、スライム、そして【風帝ライザー】。

 稲妻は俺のフィールド上のモンスターを全て食い散らかし――

 

「その数×300のダメージを相手に与える!」

 

 その標的を三沢に移す。

 明確に標的を目掛け、空中をジグザグに走る雷撃。 

 

「くあああぁぁぁああああああ!!」

 

 三沢LP 300 → 0

 

 

 三沢のライフは、ゼロとなった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

『ライフポイント0……。

 神選手、勝ちました……。昇進試験デュエルは、神選手の勝利です!!』

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 一気に湧き上がる場内!

 誰もが席を立ち、拳を突き上げる。

 

『すごい……本当に、すごいデュエルでした!

 私は今、久方ぶりの感動を味わっています!!』

 

『本当に……大した奴だ』

 

 

「まったくだ」

 

 三沢は苦笑いを浮べながら俺に歩み寄ってきた。

 

「ある程度の予感はあったが、それでも後数ターンは持つと思っていた。

 まさか、【サンダー・クラッシュ】とは……」

 

「ははは。いいタイミングだったでしょ?」

 

「何よりもそのカードを採用したことに驚愕するよ。

 しかもしっかりと考えられ、使いこなしている。まったく、尊敬に値する」

 

「やめてくれ、くすぐったい」

 

「本気で言っている。

 よければ、また是非俺とデュエルをしてくれ」

 

 三沢は手を突き出す。

 

「ああ、俺なんかでよければいつでも」

 

 その手を、俺は握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 言えない!

 【サンダー・クラッシュ】はネタで入れたなんて、絶対言えない!!

 

 ――こうして、三沢とのオベリスク昇進試験デュエルは幕を閉じた。




三沢ェ……。
氷丸、岩丸、炎丸、影丸涙目。
あ、影丸は理事長だった。

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