遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第31話 メンバーズカードを受け取ろう

 丸藤翔は困惑していた。

 自分の敬愛し尊敬止まない兄が、なぜか今両手を大地につき、頭部をカーペットに擦り付けている。

 ――それも自身に向かって。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 その晩、アカデミアの皇帝たる丸藤亮は表面にこそ出さなかったものの、心に大きなダメージを負っていた。

 有ろうことか霊長類サル目にあたる動物、猿に負けてしまったのである。

 いや、正確にはあれはチンパンジーではなかったか?と一瞬思考が飛ぶが、いやいや、今そこはどうでもいいと思い直す亮。

 まぁ確かに弟との事情も色々とあったにしろ、それでも自分が猿に負けたことは事実である。

 正直、あの猿の強さは心から認めている。おそらくプロでもあの域に達する人物は世界を探してもめったに出てこないだろう。

 "だが"と、亮は続けて考える。

 だがそれはそれとして、自分は人間である。デュエルとは知的であり文化的でもあるゲームだ。将棋や囲碁などとは比べ物にならないほど大規模な人気を誇り、世界のあらゆる人に愛されている。それを獣たる猿に負けると言うのは――。

 理性とは違う部分で丸藤亮は葛藤を続ける。

 彼はまかりなりにもカイザーと呼ばれ続けてきた。別にその称号に対しうぬぼれるつもりは微塵もなかったと本人は信ずるが、どこか自身のアイデンティティの一部として思っていたことも真実であった。

 そのカイザーが猿に負けてしまった。

 彼の心にさらなる力を求める作用が強く、それは強く働いたことを一体誰が責められようか。

 そんな心のショックを誰にも――特に隣を歩く弟には絶対感づかれないよう無表情を貫き通し、ブルー寮への林道を歩く亮。彼にだって守るべき兄貴の威厳というものはあるのだ。

 横目で隣を歩く猿を見る。

 猿は翔の友人である、神拓実という名の後輩と手を繋ぎながら歩いている。

 

 ――あの強力なカード群を、この猿はどこで手に入れたのだろう。

 ――あの強引に力でねじ伏せるような戦術を、この猿はどこで習ったのだろう。

 亮の疑問は尽きず、ぐるぐると頭の中を回る。

 

「それじゃあ拓実くん、今日はありがとう。後、お猿さん、今日は本当にありがとう……」

 

「キキー、ウキキー!」

 

 いつの間にやらオベリスクブルー男子寮に着いたようである。考え事に没頭したせいか、ここまで歩いてきた記憶がすっぽりと抜けていることに気づく亮。

 

「さっき丸藤先輩にも言ったけど、気にすんな」

 

「うん! それじゃあ、また明日!」

 

 神 拓実が猿を連れて自分の部屋へと戻るのをポーカーフェイスで見送る。

 あの猿は彼が飼っていたものなのだろうか? さっさと聞いておけばよかったと後悔する。

後日改めて聞いてもいいのだが、それまではこのもやもやを胸に抱え続けることになる。

 

「あの猿はなぜあんな強力なカードを持っていたのだ? 翔は知っているか?」

 

 そうだ。弟なら何か知っているかもしれない。

 そう思い浮かぶと同時に、亮は言葉を発していた。

 

「お猿さんのデッキはね、きっと拓実君とももえさんが作ったんだよ」

 

 弟の翔は心なしか、嬉しそうにそう話す。

 

「そうか……あのデッキを構築したのは、人間か……」

 

 小さな安堵が亮の心に芽生える。

 亮は今まで崩れていた心のバランスを、ようやく少し取り戻せたような感覚を得た。デッキ構築に関わったのが人間であること。これが聞けただけでもよかったと無意識に思う。

 

 

「さぁ、入れ」

 

「うん!」

 

 三年近く住み慣れた自分の部屋に着き、弟に部屋へ入るよう促す。

 本来無断で他寮の人間を泊めるのはルール違反なのだが、血の繋がった兄弟ではあるし、そのルールには今夜目を(つむ)って貰おう。そう亮は寮則を一旦忘れることにした。

 

「はは、拓実君の部屋と一緒だ!」

 

 無遠慮に部屋の戸を開け、全ての部屋を物色する弟を見て、亮は微笑む。

 今までこの部屋へ入った他人は全てガチガチに緊張していたのだが、こういうところはやはり共に育った兄弟なのだなと、亮は何となく考えた。

 

「翔、結局今夜俺とデュエルが出来なかったが、今ここでやってみないか?」

 

「――え!?

 ……う、う~ん……、その……止めとくよ。

 いや、別にお兄さんとデュエルしたくないって訳じゃなくて――」

 

 そう言いながら頬を軽く人差し指で()く翔。

 

「今日のデュエルを見て色々と思うこともあったし、もう一度デッキを組み直してみたいんだ。

 ……それに、今度お兄さんとデュエルする時はお兄さんに勝ちたいし……」

 

 言葉の後半が尻すぼみとなってはいるが、これだけ兄に対して言えるのはかなりの進歩だろう。

 それを聴いた亮も嬉しそうに微笑む。弟は確かに前へ一歩踏み出したのだと。

 

「なら、今のデッキを見せてくれないか?

 どうせ組み直すのだろう? 一緒に問題点を探して、次のデッキに生かしてみよう」

 

「えっと……」

 

「いやか?」

 

「この間拓実君にデッキを見せたらボロクソ言われちゃって。ちょっとトラウマが……。

 ――でも、うん。お兄さんならいいよ。

 ちょっと待ってて、今デッキを分けるね」

 

 そう言って翔はデッキを取り出し、一枚一枚テーブルの上で分類をはじめた。

 魔法は魔法に、トラップはトラップに。モンスターは下級と上級、そして融合に分けて。

 

(小さい頃から使っていたビークロイドデッキの発展系か……。

 ん? ビークロイドとは関係のない光属性機械族のモンスターが何枚か混じっているな)

 

 ビークロイドは地属性機械族がもっとも多い。そこにわざわざ光属性機械族の非ビークロイドを混ぜることに亮は意味を見出せなかった。

 翔の手により、また一枚のカードが上級モンスターのカテゴリーに分類される。

 

(――! 【サイバー・ドラゴン】……!?

 かなり稀少なカードのはずだが…………翔も持っていたのか……) 

 

 そしてもう一枚、翔の手により今度は下級モンスターのカテゴリーに分類されるカード。

 そのカードを目にした亮は、驚愕という感情を味わうことになった。

 

(――!? なんだ!? これは!?

 【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】だと!? 俺の……俺の知らないサイバーシリーズ!?)

 

「すまない翔、このカードを見せてくれないか?」

 

「うん、いいよ」

 

 努めて冷静な表情を顔面に貼り付ける亮に対し、翔はニヤニヤと締りのない笑顔を浮べていた。

 彼としては、この展開は予想済みであった

 

(手札の魔法を見せることで、【サイバー・ドラゴン】と名を変えることの出来るモンスター。

 攻撃力も1500と、レベル4として一級とは言えないまでも、上級に分類される。

 【プロト・サイバー・ドラゴン】と比べてなんら遜色ない。いや、むしろその応用性は

【プロト・サイバー・ドラゴン】以上だ!)

 

 カイザーとしての本能とても言うのだろうか。亮は即座に【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】を()()()デッキに組み込んだ場合の、新たに実行できる戦術を考察する。

 そして、ハッとなった。

 

(俺は何を考えていた。これは翔の、弟のカードじゃないか)

 

 自省する亮。

 

 そんな亮の心の葛藤を知らずに、翔は更なる爆弾を落とす。それはもう、水爆レベルだ。半径13km四方が、灰燼と化すレベルである。

 にこにこと、それはもう嬉しそうにゆっくりと、兄に良く見えるように目標物を高レベルモンスターのカテゴリーに置く翔。

 

「――――!?」

 

 そこにあったのは星が10個あるモンスター。つまりレベル10だ。

 

「サイバー…………エルタニン!?」

 

 亮の手は無意識のうちに【サイバー・エルタニン】のカードへと伸びる。

 別に目は悪くないが、それでも目の前まで持ち上げてマジマジとその絵柄と効果を交互に見つめた。

 

(またしても俺の知らないサイバーシリーズ!

 今までになかった融合以外の超高レベルサイバーモンスター!

 しかも、なんだ!? この異常な召喚方法は! この強力なエフェクトは!)

 

 手が震える。心も震える。

 そして、何かの針が振りきれるような感覚。

 この瞬間、カイザー亮の強さへの渇望は、弟に対する守るべき兄の威厳を超えた。

 

「翔! 無理を承知で頼む!」

 

 この段階になって、翔はようやく兄の異変に気づく。

 翔としては兄の持っていないサイバーシリーズを見せびらかして、ちょっと優越な気分に浸りたいだけだったのだが……。

 

「この2枚のカードを、【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】と【サイバー・エルタニン】を、俺に譲ってくれ!」

 

 兄の顔に怯む翔。

 何しろその表情は猿とのデュエルで不利となったあの時――翔の心を動かしたあの時のものよりも、更に真剣で、迫力満載だったからだ。

 

「……だ、だめだよ。いくらお兄さんでも、これは…………」

 

「お願いだ! 頼む、翔!

 俺のメインデッキ以外からなら何枚でもいい。好きなだけカードを持っていってくれ! それで釣り合わないのも承知の上だ。――でも、頼む」

 

 とうとう亮はカーペットに頭をつき、土下座してしまった。

 それを見て「ううぅ……」と唸る翔。

 

 そして、翔の長い逡巡。

 その間もカイザーと呼ばれた男は頭を上げない。

 そのまま、一分ほど経っただろうか。

 そして――

 

「ひどいよ、お兄さん……。

 そんなことされたら僕、断れないじゃない……」

 

 実際目の前で大の男が土下座をする様はかなり迫力がある。何だかもう、これだけで全てを許さなければならない気分になってくる。

 

(土下座って……一種の暴力だよ……)

 

 奇しくも以前、翔が神拓実相手に土下座を実行したおり、その当時拓実が思ったことと同じ内容を、翔も脳裏に抱いた。

 当時拓実と翔の関係は知り合いにちょっと毛が生えた程度であったが、丸藤亮は実の兄である。

 ――これは、断れない。

 

「分かったよ……お兄さん」

 

 そう言って翔は未だ土下座の姿勢を崩さないままの兄を見つめる。

 ある意味において、この二人は(まこと)に兄弟であった。

 

「もう顔をあげて。

 この2枚はお兄さんに譲るから」

 

 言われた通り顔を上げ、翔を見る亮。

 

「本当か?」

 

「うん。その代わり、遠慮なくお兄さんのカードを持っていくからね。

 お兄さんも僕のデッキに合いそうなカードを探すの、ちゃんと協力して!」

 

「ああ、もちろんだ。今全てのカードを出す」

 

 亮は起き上がり、部屋の隅にあるレアカードを保管した金庫の元へと移動する。しゃがみ込み、直ぐ様金庫を開ける為の、ナンバーの合わせ作業に入った。

 そんな黙々と作業を続ける兄の背中を眺める翔。 

 

「……すまない。ありがとう」

 

 背を向けた兄から漏れ聴こえる声。

 

「ううん。いいよ」

 

「……ありがとう」

 

 ある意味、さらに絆を深めることとなった兄弟であった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 あの猿とカイザーのデュエルから四日。

 前田隼人は今、筋骨隆々の厳格な父、前田熊蔵と対峙していた。

 

 落ちこぼれのオシリスレッドに所属するだけでなく、留年までした息子。

 そんなの息子のプロデュエリストになると言う夢の未練を、すっぱりと断ち切るためにやって来た父親。

 どうやら実家は造り酒屋をしているらしい。安定した将来を考えるならば、アカデミアを辞めて家を継げと言う父親の勧告はまったく真っ当なものであった。

 

 しかし、それに対し隼人は涙を流す。

 たしかに遅すぎたのかもしれない。でも、やっと頑張ろうと、真面目にやっていこうと思ったのだ。その覚悟をしたばかりだったのだ。

 そんな隼人の為、十代と翔は一肌脱ぐこととなった。

 隼人の父親と校長に直談判したのである。

 これが思わぬ効力を発揮し、一つの妥協点を引き出す。

 それは隼人が父とデュエルをし、それに打ち勝つことで、この話をなかったことにすることが出来るというものだった。

 

 父には一度も勝ったことがないと落ち込む隼人。

 落ち込むくらいなら行動しようぜとばかりに十代は携帯電話を取り出し、最上と思われる札を切ることにした。

 

「お、出た出た。

 なぁ拓実。ちょっと急だけどさ、隼人をあるデュエルに勝たせたいんだ。

 手伝ってくれないか?」

 

 その晩、神拓実の部屋で緊急大勉強会が開かれることとなった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「うぅ」

 

 昨夜の拓実のスパルタっぷりを思い出し、思わず身震いする隼人。

 隼人にとって神拓実は不思議な人物である。

 自分より一つ年下であるはずなのに、遥か年上と錯覚するような貫禄を持つ。仲間内で集まるといつの間にかリーダー的な立ち位置にいたりする。デュエルになるとやたら強い遊城十代を、そのデュエルで打ち負かしたことさえあった。

 レッド寮のあの小さな部屋で十代は言っていた。拓実は自分が知る限り最強のデュエリストだと。プロデュエリストが跳梁跋扈する世の中でさすがにそれは言いすぎだろうと隼人は思うが、どこか完全に否定し切れない自分もいた。

 

「さらにマジックカード、【融合】を発動!

 【ビックコアラ】と手札の【デス・カンガルー】を融合して、

 【マスター・オブ・OZ(オージー)】を召喚!!」

 

『ンンンウオオォォォオ!!』

 

 左目に傷のある、全身これ即ち筋肉、な緑色巨大コアラが召喚される。

 よく見ると腹には【デス・カンガルー】が持つように袋があり、お尻にもカンガルーな尻尾が付いている。

 その攻撃力、なんと4200!!

 

(これは十代と翔に貰ったカード。友情のカードなんだな!)

 

「ふん! 確かに攻撃力4200は脅威じゃ!

 だが忘れたか。おいには永続魔法【ちゃぶ台返し】があることを!」

 

 前田熊蔵のフィールドには攻撃力1800の酔っ払った白タキシードの天使――【酔いどれエンジェル】が1枚。そして永続魔法【ちゃぶ台返し】があった。

 【ちゃぶ台返し】。自分のフィールド上の全てのカードを破壊し、その数だけ相手のフィールド上のカードを破壊する任意発動の永続魔法である。熊蔵は破壊されることで相手に効果ダメージを与える魔法カードと共に、この【ちゃぶ台返し】を使いこなしていた。

 そして今隼人のLPは残りたったの1200。

 次のターンに1200ダメージを超える墓地発動するバーン魔法をちゃぶ台返しされたら、

それだけで終わりである。

 

(父ちゃんのあの自信ありげな表情……)

 

 隼人は思う、万全を期す為なら父のターンまで回してはならない。

 

「父ちゃんのターンまで回さない! このターンで終わらせるんだな!」

 

 隼人は手札のカードを見る。

 

(拓実がくれた4枚のカード……)

 

(「本当は猿のデッキに入れようと思ってたんだが、どうにも入りきらなくてね。

  これをお前にやる……が、負けたら承知しないぞ! 今夜以上の地獄を味わせる!」)

 

(うぅ……負けたらと考えると悪寒がするんだな。ある意味、これは恐怖のカードなんだな)

 

 隈の出来た目をこすり、気を奮い立たせる。

 もうあんな鬼軍曹の元で折檻を受けながらの勉強はいやなんだなと思いながら、勝負を決める為のカードを繰り出す。

 

「おれは魔法カード、【おろかな埋葬】を発動。デッキからモンスターを1枚墓地に送るんだな」

 

 

(むっ! まだ何かやるつもりか!)

 

 熊蔵は期待を込めた眼差しで、自分をまっすぐ睨む息子を見る。

 

(いつの間にか男の目をするようになった。

 昨日会った時はまだふぬけだったと言うのに……。たった一晩で何があった?)

 

「おれはデッキから【森の番人グリーン・バブーン】を墓地に送る。

 そして、【おとぼけオポッサム】を通常召喚!」

 

 オポッサムとは、カンガルーのように腹に育児嚢(いくじのう)を持った有袋類のことである。外見はもろに巨大な鼠であり、死んだふりをするということで一躍有名になった動物でもある。

 隼人が召喚したのは茶色のオポッサム。攻撃力800。

 ゆらゆら尻尾を揺らしつつ、とぼけた顔で辺りを見回す。

 

「【おとぼけオポッサム】の効果発動!

 相手のフィールドに【おとぼけオポッサム】より攻撃力の高いモンスターが存在する時、【おとぼけオポッサム】は自分を破壊することが出来る!

 この効果で破壊されたターンの次の自分のスタンバイフェイズ、【おとぼけオポッサム】を自分フィールドに特殊召喚するんだな! 

 やれぇー【おとぼけオポッサム】! 死んだふりぃ!」

 

 【おとぼけオポッサム】はその場でひっくり返ると目を閉じ、光の粒となって消える。

 

「ほぉ、死んだふり。まさにお前を象徴しているカードだな!

 だがそれをすることにはどんな意味がある! いい加減目を覚ませ隼人!

 目を見開いて現実を見ろ! 死んだふりはいつまでも通用せんぞ!!」

 

 野太い声でそう隼人を怒鳴りつける父、熊蔵。

 それに(ひる)まず、隼人は答えを返す。

 

「確かにおれはこれまで死んだふりしてた……いや、おれは死んでたんだぁ。

 でもおれは生きるって決めた。目を覚まして、真面目にこの道を進もうって決めたんだ!」

 

「何を今更! 今出来るのならこれまで何もしてこなかったのはなぜだ!」

 

「それは……言い訳しようもない……。おれは駄目なやつだったんだ……。

 でも、そんな駄目なおれを友達が、仲間が引き上げてくれたんだぁ。

 だからおれは、その期待に応える!

 獣族の【おとぼけオポッサム】が破壊されたことで、森の番人が目覚める!」

 

 フィールドを霧が包む。そして時折聴こえる雄叫び。

 

「おれは1000のライフポイントを払って、墓地の【森の番人グリーン・バブーン】の効果を発動する!」

 

隼人LP 1200 → 200

 

「自分の獣族モンスターが破壊された時、このカードを墓地から特殊召喚する!!

 目覚めるんだな!!」

 

 霧の中から、巨大な棍棒を持つ緑色の猿人が姿を現す。

 

『ウオオオォォォォォォォ!!』

 

 鋼の甲冑を身につけ、棍棒を振り上げながら大きな咆哮を上げる。

 その攻撃力、2600!

 

「隼人……それがお前の答えか」

 

「ああ。おれの目はもう覚めてる! これからはこの道を極めるんだ!!

 これはおれを鍛え直してくれた人からのカード!

 【森の番人グリーン・バブーン】! 【酔いどれエンジェル】に攻撃!!」

 

 バブーンは棍棒を横薙ぎに振り回し、【酔いどれエンジェル】撲殺する。

 

「くっ、うぅ」

 

「続けておれを支えてくれた親友達からのカード! 【マスター・オブ・OZ(オージー)

父ちゃんにダイレクトアタックなんだな!!」

 

 そして、【マスター・オブ・OZ(オージー)】の超重量タックルが炸裂する!

 

「くわあーーーーーー!!!!」

 

「おれの……勝ちだ!」

 

 

熊蔵LP 3200 → 0

 

 

◇◇◇◇

 

 

 父を見送る為、隼人は父と共に船着場に来ていた。その後ろに十代と翔の姿も見える。

 

「隼人、最後にお前にこれを渡しておく」

 

 そう言って、前田熊蔵は隼人に一枚のカードを手渡す。

 

「我が家に伝わる家宝のカード、【暗黒のマンティコア】だ。これをお前に託す」

 

「これは……父ちゃん……」

 

「お前の進もうとする道は険しい道だ。だが挫けるな、止まるな。

 駄目だと思ったとき、おいとのデュエルを思い出せ。あの時の決意を思い出せ!」

 

 そう言って息子の肩をバンッバンッと叩く父。

 そして、視線を十代と翔に向ける。

 

「そして隼人の友人ら。あのいじけた隼人をここまで変えてくれたのは君らのおかげだ。

 これからも隼人を支えてやってくれ。そして何かあった時は、遠慮なく隼人を頼ってくれ。それが友というものだ! ははははは!」

 

 十代と翔の肩に手を一本ずつ乗せ、熊蔵は豪快に笑う。

 

「それじゃ、おいは行く。達者でな!」

 

 熊蔵は手漕ぎの小船に乗り込み、隼人たちに背中を向ける。

 船の漕手は(かい)を動かし、船を漕き出す。

 徐々に遠ざかっていく父の背中。

 

「父ちゃんーー! おれ、絶対に、絶対にもっと強くなる! だから見ててくれ!」

 

 手を振りながら叫ぶ隼人。

 そして父の背中は、水平線の彼方へと消えていった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「そう言えば拓実君来なかったね。何してるのかな?」

 

「ああ、何かオークションのメンバーズカードが出来上がったらしいぜ。

 それで朝からてんやわんやだとさ」


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