遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第25話 友人を励まそう

「うぅ……どうせ僕なんて……」

 

 ここは海岸。目の前には瞳に涙を貯め、うるうるとしている翔。

 彼が世を儚んで漂流自殺しようとしていたところを、俺、十代、ももえで止めたのだ。

 

 流れ的にはこうである。

 昨夜。十代が、もしかしたら退学かもしれねぇし翔とはまだちゃんとデュエルしたことがなかったから一丁やってみっかとばかりに勝てるはずないっすよ~と嫌がる翔にデュエルを強制。

 結果翔はボロ負けし、どうせ、どうせ僕なんて~とレッド寮を飛び出してそのまま行方不明。

 そして今日の放課後。一晩経っても戻ってこない翔探しを依頼されたいつものメンバーの中、俺とももえが粗末なイカダでいざ出港しようとしている翔を海岸にて発見したのである。

 それを十代に携帯で伝えたら、丁度近くに居るとのことで今さっき合流。

 以上、ダイジェストでした~。

 

 やれやれ……。

 こっちはお前らのためにクロノス先生と話を付けて来たってのに、変な問題を起こすなよ。

 

「オレ、翔見つけたってみんなに連絡してくる」

 

「ええ、お願いしますわ。きっと明日香さまは今でも探しているでしょうから……」

 

 十代はさっそく翔探しを手伝ってくれたメンバーに送るメールを作製し始める。

 手持無沙汰となったので、何の気なしに翔の製作したイカダを眺める。意外なことに、かなりしっかりとした作りだった。一晩でこれだけのものを作り上げるとは並大抵のことではない。ひょっとしたら、翔はこっちの才能がかなりあるんじゃないだろうか?

 てか、どうやって木とか切ったんだろ?

 ――まぁ、それでも。

 

「こんなぼろっちいイカダで海なんかに出たら、即効で藻屑だぞ~。

 何考えてんだ? お前は」

 

「だって……だって……、アニキにはいいとこなしで負けちゃうし、それに退学なんてことになったら、お母さんに何で言い訳すれば…………うぅ……」

 

 翔は崩れ落ち、さめさめと泣いている。

 

 まぁ、色々と不幸が重なったからね……。

 行き場のないストレスが大爆発、ってとこか?

 

「はぁ……。

 とりあえず、俺の部屋に移動しよう。ここじゃあ落ち着いて話もできないしね」

 

 ここからならブルー寮が一番近い。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「――オレが悪かったって。なっ、翔。だからもう泣くなよ」

 

 ブルー寮へと向かう林道の途中。

 もう間もなく着くというのに、涙枯れぬ翔は未だ十代に慰められていた。

 正直、さすがにちょっとうざくなってきた。"イラッ☆"ってな感じに。

 

 ――ん?

 もうこれ、一発ぶん殴っても許されるよね? ……なんて、割りとマジに考え始めた頃のこと。木の上からカサカサと葉っぱの擦り合う音が俺の耳に飛び込んできた。

 その音につられて視線を上に向けると、”ぴょん”、”ドスッ”と身軽に飛び降りてくる重そうな影。

 お! こいつって――

 

「キッ、ウキ!」

 

「ありゃ。この前の鎧猿じゃん。

 お前、まだこの辺うろうろしてたのか?」

 

「ウホ! ウホッウホッ」

 

 嬉しそうに駆け寄るフルアーマー装備の鎧猿。

 先日りんごをあげたのを覚えていたのだろう。

 

「なんだこれ? 猿……なのか?」

 

 猿、と言おうとして口ごもる十代。

 ぱっと見、猿に見えるかは正直微妙である。

 

「……あまり可愛くありませんわね」

 

 こちらは素直な感想を口にするももえ。

 まぁ、これが可愛く見えたなら、きっとそいつは感性が壊れている。

 

「……あれ? 昨日の猿さん?」

 

 いつの間にやら翔はヒックヒックと泣くのを止め、鎧猿に注目していた。

 意外なことに、こいつを知っている風な口ぶりである。

 

「翔は知ってるのか? こいつのこと」

 

「うん。

 昨日の夜、ビスケットあげたらイカダ作りを手伝ってくれたっす」

 

「ウキッ、ウホホホ」

 

 鎧猿は翔に駆け寄ると、その肩に飛び乗る。

 猿の重さに一瞬ガクッと肩が下がるが、顔を赤くして、あわててなんとか持ち直す翔。

 そしてなぜかそのまま、翔の頭をなでなでし始める鎧猿。

 

「後……その……、

 泣いてるぼくのこと、慰めてくれたり……」

 

 恥ずかしそうに指で頬を掻きながら踏ん張る翔。

 

 それにしても、不思議な縁もあったもんだ。……と言うか、猿に慰められるって人としてどうなの?

 

「サンキュー! 翔のことで迷惑かけたな」

 

「ウキキ。ウホウホッ、キキー!」

 

「そうか? それでもありがとな!」

 

 大真面目に猿に対して礼を述べる十代。

 そして、――なぜか会話が成立している!?

 

「ひょっとして、十代には猿が何を喋ってるか、分かったりするのか……?」

 

 なんとなく独りごちる。

 本当なら素直にすごいと思うぞ。

 

「それだけ猿に近いってことですわ~」

 

 さりげなくひどいこと言ってるし。

 

「――さぁ、皆。とりあえず部屋に入ろう。

 猿は…………まぁ、いっか。お前も上がっていいぞ」

 

「ウキ! ウキー!」

 

 顔色が赤から徐々に白に変わりつつある翔の肩の上で、うれしそうに鳴き声を上げる猿。

 猿よ……さすがにそろそろ降りてやれ……。

 そう思って猿の手を少し引っ張ると、意外と素直に地面に降りてきてくれた。

 

 

「ブルー寮は動物禁止だから、こっそりな」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ももえはよくここへ来るし、十代達はつい昨日一晩泊まった部屋だ。

 中へ入った皆は勝手知ったるなんとやらで、思い思いに(くつろ)ぎ始める。

 

「せっかく俺の部屋に来てもらってなんだけど、翔はもう立ち直ったみたいだな」

 

「あ、そう言えば。

 うぅ…………退学……どうしたら……」

 

 再びぶり返す翔。

 あんた、忘れてただけかい!

 

「また泣いてしまいましたわ~」

 

「ウ~キィ~」

 

「だから泣くなよ翔。きっと何とかなるって」

 

「何ともならないから泣いてるっすよ~……ううぅ……」

 

 十代が再び慰めに入るが、二進(にっち)三進(さっち)も行かないようである。

 はぁ~。もうこの際だから、バラしてもいっかな。

 

「大丈夫。退学の話、多分なくなったから。

 だからいいかげんシャキッとしろよ」

 

「え?」

 

 鳩が豆鉄砲くらったような顔で俺を見る翔。

 

「実は、校長があんたらの退学に反対しててね。でもクロノス先生と倫理委員会が大賛成でどうしようもなかったってさ。

 ――それで校長に頼まれて、昨晩俺がクロノス先生を説得してみたんだ」

 

「そ、それで、どうなったっすか?」

 

 翔は驚愕と期待が半々混じった目で、話の続きを促す。

 

「結果はさっき言ったじゃん。クロノス先生は快く意見を変えてくれたぞ。

 だから退学はなしだ。実際それを告げられるのは明日になるだろうけどね」

 

 最初渋っていたクロノス先生であったが、少し突っついたらあっさりとタイタンの依頼人が自分であることをバラしてしまった。嘘の付けないお人である……単純すぎて……。

 その後は説得半分に脅迫半分。前に撮ったクロノス先生がラバースーツで女子寮前の湖を泳いていた写真もチラつかせたりして……。

 ――とまぁ、最終的に十代達の退学を取り消すことを了承させたのである。

 

 十代が退学したら、タイタンのことや女子寮のことバラすって言っといたし――きっと大丈夫だろう。

 

「うおーー! マジで!? 拓実ありがとう!」

 

 感激満面で感謝の言葉を興奮気味に告げる十代。

 やはり彼も気が気じゃなかったのだろう。

 

「うぅ……こ、これで退学はなし……うわああぁぁあん! やったーーーー!!」

 

「結局泣いてますわね」

 

 さすがに高一で退学はキツイよね。

 親も怖いだろうし……。

 

「ウキャ、キィー」

 

 一部が感動と安堵の涙に濡れる中、鎧猿が俺の袖を引っ張っている。

 何だ何だ?

 

「またしてもお腹が空いている、とか?」

 

「ウキッ」

 

 はいってことかな?

 え~と、猿って確か雑食だったよね。

 

「もう果物はないけど……バターロール、食う?」

 

「ウキャ、ウキキ、ウキ!」

 

 袋に入った5個入りのバターロールを鎧猿に渡しながら翔に話しかける。

 

「そう言えばさ、翔。

 十代とのデュエル、負けたんだってね」

 

「そ、それは仕方ないよ~。

 アニキに勝てたら、そもそも弟分なんてやってないっす」

 

 それはまったくその通りで。

 でも話にはまだ続きがある。

 

「それも良いとこなしでって聞いたけど」

 

「うぅ……」

 

 頭を下げ、唸る翔。肯定ってことかな?

 

「良かったら、デッキ見せてくれない? 何かアドバイスができるかもしれない」

 

 少なくとも、俺の脳はこの世界特有のカードに対するマイナス補正を受けていない。

 十代も隣にいるし、翔が一人で思いつかなかったことも助言できるはずだ。

 

「でも……」

 

「翔、この際だから見せときなって。きっともっと強いデッキになるぜ」

 

「そうですわ。わたくしのデッキも拓実さまからアドバイスを頂きましたもの」

 

「……うん」

 

 頷き、翔はデッキを取り出す。

 

「お願い……」

 

 受け取った翔のデッキを机の上に広げる。

 

「なんか、目の前で採点されてるみたいで落ち着かないっす……」

 

「はは……わかる気がする。他人にデッキ見られるって妙に緊張するよな」

 

 さ~て、どれどれ? ……アニメと一緒で、ビークロイドデッキか。

 内容は……想像してたけど、これはちょっとひどいな……。

 

「なぁ翔。なんで【サイクロイド】が2枚も入ってるんだ? 他のカードともシナジーないし」

 

 攻撃力800、守備力1000のノーマルモンスターである。

 いくらなんでもこれを2枚積むのは……。

 

「僕、ビークロイドでデッキをまとめてるから、入れてれば強いかな~って……」

 

 それって兄が【サイバー】でまとめてて強いから? いや、シリーズでまとめてるのは十代だってそうか。

 

「この【パトロイド】だって、ステータスの割に効果がイマイチなんだけど」

 

 攻守が1200で、能力は相手の伏せカードを1枚見ること。正直この効果は使えないと思う。

 

「でも、アニキの【フェザーマン】を倒したし……」

 

「そりゃあ【フェザーマン】のステータスは低いけど、融合素材だからな。 【パトロイド】は違うじゃん?」

 

「うぅっ。でも、ビークロイドだから……」

 

「ファンデッキならそれでもいいけどさ、このアカデミアに入った以上プロを目指すわけだろ?

 やっぱり勝ってナンボじゃない?」

 

「お! 【パワーボンド】! 」

 

 こうして翔に話しかけている間、十代もデッキの観察をしていた。

 見覚えのあるカードを見つけたようで、声を上げる十代。

 

「このカード使われてたら、あのデュエルの勝敗もまだ分からなかったのにな~。

 あの時は翔が逃げて結局聞けなかったけど、なんで使わなかったんだ?」

 

 そう言えば、アニメでも翔が【パワーボンド】の使用に躊躇(ためら)いを見せるシーンがあったなと、今更ながらに思い出す。

 

「それは昔、お兄さんに使わないよう言われてて……」

 

「兄さんって?」

 

 十代はまだ知らないんだっけ?

 

「翔の実の兄の名前は丸藤亮と言ってな、ここの3年でアカデミア最強のデュエリストらしい。

 カイザーとも呼ばれてる」

 

「それに、とてもとてもと~ってもイケメンですわ~!」

 

「ってことは何か? 翔は兄貴に使うなって言われたから使わなかったのか?

 それにしても特定のカードを使っちゃダメって、なんだって翔の兄貴はそんなこと言ったんだろ?」

 

 何か理由があった筈なのだが……思い出せない。

 翔の顔を見ると、そのことにはあまり触れて欲しくなさそうな表情をしている。

 

「家族間のことに俺達がとやかく言う資格はないよ。

 ただまぁ、手札に来ても使えないカードをデッキに入れるな! この一言に尽きるよね」

 

「うぅ……」

 

「ともかく、このままだとこのデッキはかなりキツイ。

 高攻撃力モンスターが少ない上に、モンスターを破壊出来るカードもほぼない。これじゃあ、力で押されるだけで簡単に負けるぞ。

 正直、よほど運が良くなきゃこのデッキを使っても勝てないと思う」

 

 実際の話、一般的な視点から見るとそんなに悪いデッキでもない。

 カードの平均ステータスが900前後のこの世界では、このデッキは相当強い方に入るだろう。

 しかしこのデュエルアカデミアにおいては、どうしても能力不足に感じてしまう。

 ――いや、十代の仲間達の中においては……かな?

 

 さっきから色々とデッキの不備を突っ込まれ、翔はとうとういじけてしまった。

 こらこら、カーペット(むし)るのやめなさい。

 

「まぁ、そう落ち込むなよ、翔。

 今のうちにデッキの悪いとこ、全部直しとこうぜ」

 

 苦笑いしながら慰めに入る十代。何だか今日はすっかりそのポジションに留まっている。

 

「翔はまず、デッキに入れても入れなくてもいいカード……まぁ所謂入れる必然性のないカードを出すところからだな。

 その後またコンボを考えて、投入するカードを決めよう」

 

 ここで少しテコ入れをしよう。

 これからは闇のゲームだのなんだのと命の危険を帯びるデュエルが増えるわけだし。

 

「ちょっと待ってて」

 

 そう言って彼らを置き去りにして寝室に移動。金庫を開けて、目的のカードを探す。

 この際だ、十代にも全部バラしちゃおう。

 さて、どう説明すっかなー。などと考えながらダイニングに戻る。

 

「どこ行ってたんだ? 拓実」

 

「ちょっと、カードを取りにね」

 

 ももえはさっきからずっと鎧猿と遊んでいる。

 どうやら翔のデッキ作りに積極的に関わる気はないらしい。

 

「コチョコチョですわ~」

 

「ウキャキャキャ、キキー」

 

 可愛くないとか言ってたくせに……。

 まぁ、楽しいなら別にいいけどさ。

 

「あ~、翔とももえはもう知ってるけどさ、俺、ネットオークションでカード売ってるんだ」

 

 十代はキョトンとしている。

 急になに言ってんだコイツ? とても思っているのだろうか。

 

「神様のオークションサイトってとこなんだけど、知ってる?

 それなりに有名になっている……はず」

 

 十代の表情はだんだんと驚きの色に染まっていく。

 

「マジかっ!?」

 

「マジだ」

 

「ノーラさんのカードも拓実君から譲ってもらったっす」

 

「そりゃあどっから手に入れたかずっと疑問だったけどよう。マジかよ!?」

 

「マジだ」

 

「コチョコチョコチョ~」

 

「ウキキー」

 

 ふぅ、と一息入れる。

 なんか約一名と一匹が我関せずの姿勢を貫いてるな……。

 

「それで驚いてるとこ悪いけど、本題に入るぞ。

 今度アカデミア限定でメンバーズカードシステムを取り入れようと思ってな。そのうちアカデミア校内限定オークションも開催しようと思ってる」

 

「アカデミア限定オークションって、そんなもんやるのか!?」

 

「ああ。基本皆のお小遣いの範囲内で争われることになるから、そう高い値はつかないと思う。

 一種の学生救済措置かな?」

 

「マジかよ!? ……へへ、そりゃあ楽しみだぜ」

 

「まぁ、とりあえず校内オークションの方は置いといて。もう一つのメンバーズカードの話だ。

 実物が出来上がったら何枚か渡すからさ、それを信頼出来そうな人達に配ってくれないか?」

 

「ぼく達がっすか?」

 

「うん、他に明日香とかにも頼むつもり。あ、もちろん皆の分のメンバーズカードもあるよ」

 

「……にしても、メンバーズカードを適当に配るのかよ。なんかいい加減だな~」

 

「いいのいいの、細かいことは。

 それで配るついでに俺が【神オク】の管理人だってこと、それとなくバラしてくれ」

 

「それってどんな意味があるっすか?」

 

「噂を聞きつけて俺のとこに来た人にもメンバーズカードを配ろうと思ってね」

 

 生徒全員分のカードを作る気は今のところない。ローカルに流行ってくれれば良い感じだ。

 

「まぁ、少しはトラブったりもするかもしれないけど、そう大きなことにはならないだろ」

 

 今の内にしておくべき準備としては、カードのセキュリティを増設するくらい……かな?

 

「OK! なら本当に信頼できるヤツだけに配っとく」

 

 と言っても、肝心のメンバーズカードは昨晩発注したばっかりなんだけどね。

 

「いや~。しっかし、ここ最近で一番驚いたぜ」

 

「あら? このヘルメット、取れそうですわ~」

 

「キィ~」

 

「まぁ、それで依頼料代わりみたいなものなんだけど……カード持ってきた」

 

「え? え? くれるってことっすか?」

 

 とたんに鼻息を荒くしながら食いつく翔。

 

「うん、あげる」

 

「お! そりゃあ楽しみ!

 へへ、どんなカードくれんだろ」

 

 そして、わくわく顔の十代。

 

「じゃあまずは翔、ホイこれ」

 

 翔に何枚かのカードを渡す。

 

「【サイバー・エルタニン】……って【サイバー】!?」

 

「ちなみに後の3枚は、【サイバー・ドラゴン】、【プロト・サイバー・ドラゴン】、【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】だ」

 

「ぼ、ぼぼぼぼくなんかが、お兄さんの【サイバー】シリーズを――」

 

「いや、カイザー亮はそのカード――【サイバー・エルタニン】を持ってないぞ。

 だから、今日からそのカードは翔だけのものだ」

 

「……ぼ、ぼくだけのサイバーシリーズ!? …………えへへへ~」

 

 何を想像しているのか、翔の顔がにやけている。

 "泣いたカラスがもう"という熟語が脳裏を()ぎる。

 

「お前のデッキの弱点は打点が低いことと除去カードが少ないことだ。

 その点、【サイバー・エルタニン】ならその両方をフォローできる。そのカードの効果に合わせてどれくらいデッキを変えるかは……まぁ、自分で考えてくれ」

 

「この留め金、外せませんわ~。

 ここを――

 こう――

 引っ張れば――

 ……う~~ん――」

 

「キ? ウギャーーーー!!」

 

「続けて十代」

 

「よ! 待ってました!」

 

 パチパチパチと手を叩く十代。

 

「十代にはこれ!

【E・HEROフォレストマン】と【E・HEROオーシャン】、

それに融合モンスターの【E・HEROガイア】【E・HEROジ・アース】の4枚だ」

 

「お? おおーーーー!! 新しいヒーロー!!」

 

 目をキラキラと輝かせる十代。

 本当に嬉しそうにカードを受け取り、その効果を真剣に確かめていく。

 

「――すげぇ……、すげぇぜ!

 こんなヒーローがあったなんて……! 拓実、マジで感謝! 最っ高の贈り物だぜ!」

 

 元々漫画版の遊戯王GXで十代が使っていたカードだ。十代の強化には打って付けだろう。

 

「まぁ、お前なら俺がとやかく言わなくてもうまく使うだろうな」

 

「へへへ、今夜は新しいデッキを作らないとな」

 

「ぼくも帰ったらデッキを新しくするっす。いひひひひ~」

 

 ぎゅ~~、すぼっ。

 

「キギャ!」

 

「ふぅ~、ようやくとれましたわ~。

 ――こうして見ると、普通のお猿さんですわね~」

 

「キィ~……」

 

「新ヒーロー! 新ヒーロー!」

 

「僕だけのサイバー! 僕だけのサイバー!」

 

 十代と翔は腕を組んで、ぐるぐると回っている。

 ももえはももえで、ようやく鎧猿のヘルメットを取ることが出来たようである。

 ……なかなかカオスな。

 

「それじゃあ拓実くん。僕、早速帰って新しいデッキを作るっす」

 

「オレもオレも!」

 

 こちらの返事も待たずに早速帰ろうとする二人。

 新しいカードをもらってよっぽと嬉しかったのだろう。

 

「あっ、翔。ちょい待て」 

 

「ん? なに?」

 

「明日中間テストの答案用紙返却だろ? 成績、楽しみにしてるよ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、翔は両手を腰に当てて、胸を反らす。

 

「へへ、今回は自信ありっす。楽しみに待ってるがいい! 拓実くん」

 

 なんだか気取った言い方につい笑ってしまう。

 

「ははは、わかった。楽しみにしてるよ。ほら、早く十代を追いかけなよ」

 

「あれ?」

 

「先に行ったぞ」

 

「ま、待ってよ~、アニキ~~」

 

 

 

 もうすっかりいつもの翔に戻ったな……現金なことで。

 それにしてもカイザー亮か……。

 翔にどんな調教をしたのか知らないけど、結構なトラウマを植えこんでいったものだ。どういった経緯でそうなったのか、あのいつもオドオドとした自信のない様子はカイザーのせいで間違い無いだろう。

 それを克服させる為には、やはり――

 一度翔に兄とデュエルをさせる。それが一番手っ取り早いかな?

 

 あまり家族間のことに深く首を突っ込みたくはないが――

 まぁ……舞台くらいは、整えてあげようじゃないか。


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