遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第02話 デュエルディスクを買おう

 とりあえず市場調査も兼ねて、駅前のカードショップにカードを売りに行くことにする。

 やって来たのは元の世界では冴えない中古ゲーム屋さんだった個人経営店。しかしこちらでは2階建ての、かなり大きな面積を持つ店舗へと変貌していた。どうやら1階はカード売り場、2階がフリーデュエルスペースらしい。

 

「いらっしゃいませ!」

「「「いらっしゃいませー!!」」」

 

 自動ドアを(くぐ)ると、レジ内の店員に合わせ、店内から複数のあいさつが聞こえてくる。

 ――へ~~。

 どこかの田舎から今さっき上京してきたお上りさんのように忙しく首を動かし、あちこちと店内を見回す。

 照明も明るいし、雰囲気のいい店じゃないか。

 

 壁に掛けられたカードパックを確認してみると、全部で12種類あった。

 とりあえず2パックずつ購入することにした。値段は150円で元の世界と一緒である。

 

「ありがとうございました!」

 

 店員の声を尻目に、一旦店の外へと出る。カードパックを開ける為だ。

 僅かに鼻に触れる新品物のカードの香り。何が入っているか分からないドキドキ感。

 いや~、このカードをパックから出す瞬間が一番楽しいよね~。

 

 さて、出てきたカードは9割方がATK900クラスのバニラモンスター。

 しかし、それらはたったの1枚を除き、全て私の知らないカードであった。

 なるほど。きっとこの世界ではカードの種類が多いのだろう。

 ここまで知っているカードが少ないとなると――ひょっとしたら、弱小バニラカードは元の世界の7,8倍種類があるのかもしれない。

 ――あぁ、納得。

 LPが4000になる訳だよ。

 一般的には、ATKが1000を超すモンスターは滅多に出てこないんだから。

 しかし、これでまだ私が集めていない――知らないカードが一気に増えたと言うことになる。

 ふふふ……まったく、コレクター魂が(うず)くってものだ。

 

 次はカードを売って見ることにする。

 今回持って来たのは、【グレムリン】【巨大ねずみ】【軍隊ピラニア】【デーモンの召喚】【サイバードラゴン】の5枚。そして、家を出る前に書いた子供にカード売りを任せる委任書、実印付きだ。

 11年前である今はまだ色々とゆるかった時代である。多分これでも買い取ってくれるはずだ。

 ……。

 …………。

 ……くれるといいな~。

 まぁ、ダメだったらそれはそれで構わない。買い取り価格の査定くらいはしてくれるだろう。

 

 早速買い取りカウンターへと向かう。

 アルバイトらしき若い店員にカードを渡し、査定して貰うことにする。

 店員は【グレムリン】から順番に目を通していき、ふむふむと頷きながら用紙に買い取り価格を書き込んでいく。

 査定対象が【デーモンの召喚】に移った時、店員の動きが止まった。

 少し引きつった顔で横にあるパソコンを操作し、カタカタと何かを検索する店員。しばらくするとようやく目当ての物を見つけたのか、用紙に筆を走らせる。そして次の【サイバードラゴン】を見た時も同じように一瞬動きが止まり、パソコンで何かを検索をしてから数字を書き込んだ。

 

 一通りチェックが終わったところで店員は硬い表情をこちらに向け、頭を下げた。

 

「すみません、もう少々お待ちください。       

 ――――――――――――――――――――店長ーー! 高額買取お願いしまーす!」

 

 そう言いながらバックヤードへと入っていく店員。

 少しすると、中から40代前後の見覚えのある男性が出て来た。

 おお! 元の世界の冴えない中古ゲーム屋の店長じゃないか!

 私の一軒家も同じ場所に建っていたわけだし、この世界は元の世界とはどこか共通点があるらしい。もしかしたら、私の親戚や友人らもこちらに存在しているかもしれない。

 

「お待たせしました。

 大変稀少なカードをお持ちいただき、ありがとうございます」

 

 少々肥満気味の店長は額に汗を浮かべつつ、頭を下げた。

 

「では査定額はこちらになります。

 【グレムリン】4500円。【巨大ねずみ】15000円。【軍隊ピラニア】は200円」

 

 査定値段を読み上げていく店長。

 【グレムリン】4500円って……すごいな。

 

「そしてこちら、【デーモンの召喚】が210万円。【サイバードラゴン】は120万円になります」

 

 ぶっ! にひゃくじゅうまん!?

 

 ほぅわ~、一気に桁が――。

 ふ、ふふふ……。なかなかの値段じゃないか……ちょっと引いたけど。

 しかし、どうやら子供からの高額買取は問題がないらしい。

 やはり個人経営だからこそ出来た荒技なのだろうか?

 

 続けて店長はいかにも申し訳なさそうな声の調子を作り、私に話しかける。

 

「いや~、こちらの2枚は大変稀少な物なのですが、何分うちではこの値段をつけるのが限界でして……」

 

 店長の表情を観察してみる。

 温和そうな微笑――所謂営業スマイルを顔の表面に貼り付けてはいたが、目は獲物を狙う肉食獣の如くギラついていた。

 

 明らかに「欲しい!!」って言ってる目だね、こりゃあ。

 

 もしかしたら、この値段でも買い叩かれているのかもしれない。

 と言うか、今の自分の見た目は15、6歳な訳だし、確実に買い叩かれているのだろう。

 

 ――でもまぁ、いいさ。

 どちらのカードも後10枚以上は持っている。

 

「ええ、それで構いません。お願いします」

 

「あ、はい! ありがとうございます!

 では今から現金をご用意いたしますので、もうしばらくお待ちください」

 

 店長はホッとしたように笑顔を浮べて私に一礼。そして忙々(いそいそ)とバックヤードへ戻っていく。多分、金庫を開けるのだろう。

 それにしても、【サイバードラゴン】よりも【デーモン】の方が高いとは……。

 チャンピオンである武藤遊戯が使っていたカードだからかな?

 ひょっとしたら、何らかのプレミアでも付いたのかもしれない。

 

 手持ち無沙汰となり、レジ周りを見てみることにする。

 色とりどりのカードケースやカードフォルダが陳列してある。

 やはり元の世界と比べるとカードグッズの種類が圧倒的に多く、物珍しさもあって夢中にあれこれと視線を彷徨わせる。

 

 ――ん?

 あのレジ奥の目立つ場所に鎮座している物はもしや!

 あれが欲しいときは店員に声をかければいいのかな?

 

「……あの~、お客様? 大変お待たせいたしました」

 

 いつの間にやら店長が戻って来ていた。

 彼は両手に、現金の札束と小型の機械を持っている。

 

「それでは、こちらの紙幣カウンターで一緒に金額の確認をいたしましょう」

 

 へ~、そういう名前だったのか。何と言うか、そのままだな。

 店長は紙幣カウンターの上に札束を置き、起動スイッチを押す。高速でお札が紙幣カウンターに1枚ずつ吸い込まれていく。機械中央のデジダル画面に吸い込んだ金額が表示され、お札は下から吐き出される。

 店長は吐き出された紙幣を50枚ずつに分けてカウンターに置き、その上に(おもり)を乗せていく。

 しばらくすると、確認作業が終わった。

 

 

「稀少なカードをお売りいただき、誠にありがとうございました!」

 

 そう言って頭を下げる店長は頬をテカテカさせ、表情もニッコニコである。

 こちらも札束を受け取り、財布はパンパンだ。

 ここはお互い得な取引をしたと喜んでおこう。

 

 さて、ついでに欲しい物も買っていこうかな。

 

「すみません。後このカード用カバンケースを2つと、カードフォルダの黒を20個ください。

 それと、その奥にある――」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 両手にカバンケースとビニール袋を持ち、我が家の玄関を潜る。因みにカードフォルダ20個はカバンケースの中に仕舞ってある。

 部屋に入った私はカバンケースをベッドの上に放り出し、早速ビニール袋から目的のものを取り出す。

 

 さ~、いよいよ手に入れました。

 じゃん!

 

 デュエルディスク~!!

 

 おお、パチパチ! やんややんや!

 

 

 早速説明書を斜め読みする。

 え~と、まずここが主電源で……。

 

ブウーン

 

 おお、点いた点いた。

 ん~と、これがシングル対戦モードで、あとタッグモードとテストモードか……。

 とりあえずテストモード起動。

 そして適当にそこらへんにあるカードを――

 

「シャインエンジェル」

 

 ディスクから白い衣装を纏った男性天使のホログラフィが宙に浮かび上がる。

 大きさは普通の人間と同じぐらい。

 近くで見ると、服のしわまで精巧に作られているのが分かる。

 

「おお! すげぇー! SFだー! いいねいいね!」

 

 興奮気味に声を上げる。

 もうテンションマックスである。

 

 あっ。

 そういえば……。

 ――ひょっとしたら、これもいけたりして?

 

「スターダストドラゴン?」

 

 恐る恐る白いカードをデュエルディスクに乗せる。

 ブォンッと白銀の竜のホログラフィが浮かび上がった。

 シンクロ召喚の存在しないこの世界でこのカードがどういう扱いになっているのか知らないけど、そっか……使えるのか……。

 

 よし! 

 これで新たな楽しみが増えた。

 しかしこうなると、デュエルがしたいと思ってしまうのが人情である。

 さて、どうしたものか……。自由に好きなだけデュエルができる場所……。

 街中で手当たりしたい声をかけてみるか?

 それとも、お店のフリーデュエルスペースを回ってみるべきか?

 当たり前だが、勝手が分からない。

 もうここは思い切ってあのデュエルアカデミアに入学してみるのもいいかもしれない。

 ここが遊戯王の世界であるのならきっと存在するはずだ。

 取り敢えず入学すれば、いつでもデュエルができるようになるし、この世界の常識も学べるだろう。

 お金の心配もする必要がなくなった。それに今の自分の見た目なら、年齢的問題もないだろう。

 ……いや、あるのか? 

 とりあえず市役所で今の戸籍とかを確認しなきゃな……。

 いったい自分は今いくつなんだろうか?

 

 頭の中で今後のプランを立てながら立ち上がる。

 顔を上げると、朝から点けっぱなしのパソコンが目に入った。

 

 そうだな、そう焦らなくてもいいだろう。

 まずはデュエルアカデミアのホームページでも探してみよう。


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