遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第17話 属性を爆発させよう

「俺からだな……ドロー!」

 

 先攻がもらえたか。これは幸先がいい。

 手札も事故ってない――と言うより、このデッキはほとんど事故りようがないんだけど。

 

「手札から魔法カード、【暗黒界の取引】を発動!

 お互いデッキからカードを1枚ドローし、手札から1枚捨てる」

 

「手札交換かー」

 

「そんで今捨てたモンスターカード、【暗黒界の軍神シルバ】の効果発動。

 このカードが手札から墓地に捨てられた時、自分フィールド上に特殊召喚する。

 【暗黒界の軍神シルバ】、来い!」

 

 銀色の魔人が特殊召喚される。

 うーん。イラストで見るのと大分イメージが違うなぁ。少しかっこ悪くなったと言うか……。

 

「手札より【シャインエンジェル】を攻撃表示で通常召喚。

 さらにカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

「へへ、いきなり攻撃力2300のモンスターを召喚するなんてすげぇな。

 オレのターン、ドロー」

 

(じん)の場にはカードが1枚セットされてる。

 あいつの性格から考えると、多分なんかのトラップだ。

 て言っても、今オレがシルバを倒せる方法は一つしかねえ……。やって見るっきゃねぇか)

 

「墓地の【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)ネクロダークマン】の効果を発動! 一度だけ手札からヒーローを生贄なしで呼び出すぜ!

 さ~、来い! 【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)エッジマン】を召喚!」

 

 

 

 重厚な黄金の鎧を身に纏ったヒーローが、フィールドにその巨体を現す。

 のっそりと動くその姿は、鈍重さよりも力強さをより感じさせる。

 

「こ、攻撃力2600!? すごいんだな! 十代、あんな強いヒーロー持ってたんだな!」

 

 隼人は【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)エッジマン】のステータスに目を丸くする。

 

「墓地に【ネクロダークマン】……。

 さっき(じん)君が使った【暗黒界の取引】で捨てたのね。なんて抜け目のない……」

 

 

◆◆◆◇

 

「さー、【エッジマン】で【暗黒界の軍神シルバ】に攻撃だ! パワー・エッジ・アタック!!」

 

「やらせないよ! トラップカード、【鳳翼の爆風】を発動! 

 手札を1枚捨て、相手のフィールド上のカードを1枚デッキトップに戻す。

 【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)エッジマン】をデッキトップに戻すぞ」

 

 鳳凰を思わせる巨鳥が通り過ぎ、衝撃波にも似た爆風がフィールドをよぎる。

 【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)エッジマン】はひゅるひゅると風に飛ばされ、デッキトップへと戻っていく。

 

「ちぇ、やっぱそう簡単にいかないか……。

 カードを2枚セットして、ターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

「ん?」

 

「三沢君、どうしたんっすか?」

 

「いや……今神がコストとして捨てたカード、見覚えがあってな。オレも持っているカードだ」

 

(しかし、あのカードの使いづらさは全カードの中でも1,2を争うはずだ。

 コストとして使えたから良かったような物の、なぜあんなものをデッキに入れる?)

 

 

◆◆◆◇

 

「俺のターン、ドロー。

 バトルフェイズに入り、【暗黒界の軍神シルバ】で十代にダイレクトアタックだ!」

 

 【シルバ】はその腕に生えた刃を十代へと向け、駆け出す。

 そして十代の場には伏せカードが2枚。きっとこのまま黙ってはいないだろう。

 

「カウンタートラップ発動! 【攻撃の無力化】!

 相手の攻撃を無効にしてバトルを終了させるぜ!」

 

 やっぱり防がれたか……。まぁ、予想通りだ。

 フィールドには【暗黒界の軍神シルバ】と【シャインエンジェル】がいるが、一応防御系のモンスターも置いておこう。

 

「モンスターを1枚セットし、

 さらに魔法・トラップゾーンにもカードを1枚セットする。ターンエンド」

 

 

◇◆◆◆

 

「オレのターン、ドロー!」

 

(さー、こっから反撃だぜ!)

 

「俺は手札から【融合】を発動!

 手札の【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)クレイマン】と【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)バーストレディ】を融合!

 出でよ! 【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)ランパートガンナー】!」

 

 ゴツゴツとした岩の身体を持つクレイマン。

 そして全身にファイヤーパターンを持つ女性ヒーロー、バーストレディ。

 二体のヒーローは【融合】により、一つに混ざり合う。

 

 左手にはシールド、右手はミサイルランチャー。

 クレイマンを模した強化服を身に着けたバーストレディ――【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)ランパートガンナー】が融合召喚される。その攻撃力は2000。

 

(神のフィールドには攻撃力2300の【暗黒界の軍神シルバ】とセットしたモンスター1枚。それに攻撃表示の【シャインエンジェル】か……。【シルバ】はトラップで何とかするとして……このターンは【シャインエンジェル】を破壊して、ライフを削る!)

 

「【ランパートガンナー】で攻撃表示の【シャインエンジェル】に攻撃!

 ランパートミサイル!!」

 

 

◆◆◆◇

 

「そう簡単にはダメージは受けん! トラップカード、【マジカルシルクハット】を発動!

 自分のモンスターを1枚セット状態に変え、さらにデッキからモンスターカード以外のカード2枚を攻守0のモンスターとしてフィールドにセットする。

 そしてその後、セットモンスターをシャッフル。

 攻撃表示の【シャインエンジェル】とデッキからのカード2枚をセットしてシャッフルするぞ。これで【シャインエンジェル】がどこにあるか分からなくなったろ?」

 

 結果、俺のフィールドにはセットモンスターが3枚増える。

 その中の1枚は【シャインエンジェル】であり、残り2枚はデッキから出した目晦ましだ。

 でも十代ならここからでも【シャインエンジェル】を当てるだろうな。

 ……正直、十代にはぜひこのターンで【シャインエンジェル】を倒して欲しい。当ててもらえれば御の字だ。

 

「確率は3分の1……。

 行け【ランパートガンナー】! 一番右側のカードを攻撃だ!!」

 

 放たれたミサイルはセットカードに直撃し、爆煙に包まれた【シャインエンジェル】が出現と共に砕け散る。

 予想はしてたけど本当に当てるとは……ナイスだ十代!!

 

「【シャインエンジェル】の効果発動!

 戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚する。

 来い! 【ジャンク・コレクター】!」

 

 背中に大量のジャンク品を背負い、手に工具と思しきハンマー状の物を持ったロボットが登場する。全体的にほっそりとしていて、頼りなさげである。

 レベルは5だが、攻撃力は1000しかない。その為、十分【シャインエンジェル】の効果でリクルートできる。

 

「なんか変なのが出てきたな。

 俺はバトルフェイズを終了してターンエンドだ」

 

「バトルフェイズ終了時、【マジカルシルクハット】でモンスター扱いとなっているカードは破壊される」

 

 十代に攻撃してもらえなかったカード2枚が破壊され、墓地へと送られた。

 

「へへ、【マジカルシルクハット】は無駄撃ちだったな」

 

 

◇◆◆◆

 

(ん? 今【マジカルシルクハット】で擬似モンスターに仕立て上げたのは――またしてもあのカードか。いったいなんのためにあんなジャンクカードを……)

 

 墓地に送られたカードを見た三沢は首をかしげる。

 

 

◆◆◆◇

 

「俺のターン、ドロー」

 

 もういつ攻勢に出てもいいが、手札に攻撃に使えるモンスターカードがない。十代にはまだ分からないだろうが、こちらは大きなアドバンテージを握っている。

 もう少し場が整うまで待つか。

 

「【ジャンク・コレクター】を守備表示に変更する。

 そして、【暗黒界の軍神シルバ】で【ランパートガンナー】に攻撃だ! 切り裂け!」

 

「やらせないぜ! トラップ発動! 【炸裂装甲】!

 攻撃を宣言した相手モンスター1体を破壊する!!」

 

 十代の発動したトラップカードより鎧が飛び出し、【暗黒界の軍神シルバ】に引っ付くように装着される。そして間を置かずに大爆発を引き起こす! まさに【炸裂装甲】!

 

「げっ!」

 

 余裕こいて攻撃用モンスターを破壊されてしまった。

 こんなことなら、攻撃宣言せずに次のターンまで待つべきだった……。

 

「でも【ジャンク・コレクター】の守備力は2200! ……簡単にはやられないよ」

 

 きちんと言葉の罠を残していく。これが効いてくれればいいのだが……。

 

◇◇

 

「そいつはどうかな。オレのターン、ドロー。

 魔法カード、【強欲な壺】を発動! さらにカードを2枚ドローするぜ!」

 

 今引いたのは【強欲な壺】だったか。

 ……つくづく幸運なヤツ。

 

「そして2枚目の【融合】を発動! 

 手札の【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)エッジマン】と【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)ワイルドマン】を融合し――

 出でよ! 【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)ワイルドジャギーマン】!!」

 

 背中に巨大な剣を背負ったマッチョなヒーローが出現する。因みに上半身は裸である。

 

「ワイルドジャギーマンの攻撃力は2600!

 これなら【ジャンク・コレクター】くらいなんともないぜ!」

 

 

 やっと、この時が来たか。

 

「十代、これでお前の手札は0だな」

 

「でもフィールドには2体の上級ヒーローがいる!

 いけ、【ワイルドジャギーマン】! 【ジャンク・コレクター】を攻撃!

 インフィニティ・エッジ・スライサー!!」

 

「ここで【ジャンク・コレクター】の効果発動!

 墓地から通常トラップ1枚と【ジャンク・コレクター】自身をゲームから除外し、除外した通常トラップを()()する!!」

 

 【ジャンク・コレクター】は大きなトングのようなものを手に持つ。そう、ゴミ拾いに使うあれだ。そのままトングを墓地に突っ込み、中を漁りはじめる。

 

「……そして除外するカードは、【エレメンタルバースト】!!」

 

 【ジャンク・コレクター】は墓地にある通常トラップ――【エレメンタルバースト】をトングではさみ、天高く掲げる。

 ――そして、赤・青・緑・黄。

 まばゆい4色の光が、轟音と共にフィールドを包み込む。

 

「【エレメンタルバースト】の効果!

 相手フィールド上のカード、その全てを破壊する!!」

 

「ちょっ、うそぉ!!」

 

 やがて、4色の光の奔流が収まり――

 爆発に見舞われた十代のフィールドには、何も残されていなかった。

 役目を終えた【ジャンクコレクター】は錆びつき、ボロボロと崩れ落ちてゆく。

 

 

◇◆◆◆

 

 フィールドの全破壊。

 この事態に対し、観戦者達も混乱していた。

 

「どういうことっすか? 相手フィールドのカードを全て破壊する。

 そんな強力なトラップカードがあるなんて、聞いたことがないっすよ」

 

「あたりまえだ!

 【エレメンタルバースト】は効果こそ強力だが、その発動条件は途方もないものだ!」

 

「三沢君、知ってるの? あのカードのこと」

 

 明日香は眉をひそめ、三沢に聞き返す。

 

「ああ、オレも同じカードを持っているからな。

 【エレメンタルバースト】の発動条件は、自分フィールド上に存在する炎・水・風・地の4属性のモンスターを、それぞれ1体ずつ生贄にささげることだ。

 ……はっきり言ってコストが厳しすぎる。

 その為、【エレメンタルバースト】は常に使えないカードランキングの上位に存在していることで有名だよ」

 

「じゃあ、なんで今発動できたんっすか?」

 

「【ジャンク・コレクター】の効果ですわ~」

 

「ももえ?」

 

 まさか友人があの見たことのないカードに詳しいとは思わなかったのだろう。

 ももえの得意げな声に驚くジュンコ。

 

「わたくし、昨日拓実さまのデッキ調整を手伝いましたので~」

 

 そう言って改めて顔を皆の方に向き直し、説明を始めるももえ。

 

「【ジャンク・コレクター】の効果は墓地の通常トラップを【発動させる】ですもの。

 元々あるそのカードを発動するためのコストなんて、全部無視ですわ~」

 

 ももえはくりっとした目を右上に動かし、昨日のことを思い出しながら続ける。

 

「しかも相手ターンでも使える効果ですので、とても使い勝手がよろしいですのよ~」

 

 あまりものタチの悪さに、皆沈黙する。

 

「…………ねぇ、ちょっと……。

 神君が何枚あのカードを墓地に送ったか、覚えてる?」

 

「最初の【鳳翼の爆風】のコストで手札から1枚。

【マジカルシルクハット】でダミーモンスターとしてデッキから直接2枚。合計3枚だ」

 

「1枚は今除外したから……。

 てことは、あの【サンター・ボルト】と【ハーピィの羽箒】を合体させたような効果が、もしかしたらあと2回も……!?」

 

「とんでもないんだな……」

 

 

(やばい………)

 

 十代は焦っていた。

 自分のフィールドはガラ空きである。そして手札が一枚もない為、何ら対策が打てない状況であった。

 言うなれば、まさに俎板(まないた)の上の鯉状態。

 

(次のターン、神が召喚するモンスターの合計攻撃力が、4000を超えないことを祈るしかねぇ)

 

 そして、観戦者達の声は十代の耳にも届いていた。

 

(しかもあと2回も【エレメンタルバースト】を使うかもしれないって?

 あのカードはオレも持ってるけど、そんな簡単に発動できるもんじゃねぇぞ。

 さすがにシャレになんねぇ)

 

「今は何もできることがねぇ……。オレはこれでターンエンドだ」

 

 

◆◆◆◇

 

「俺のターンだ。カードをドロー。

 どうだ十代。【エレメンタルヒーロー】に対して【エレメンタルバースト】だなんて、なかなかシャレが利いてるだろ?」

 

「はは……冗談じゃないぜ……」

 

「【放浪の勇者フリード】を召喚。そしてダイレクトアタックだ!」

 

 【勇者フリード】は手に錆付いた剣を生み出し、それを十代に向けて投擲する。

 って投げるのかよ!!

 

 と、とにかく剣は十代に突き刺さり、

【勇者フリード】の攻撃力分、1700のダメージが与えられた。

 

十代LP 4000 → 2300

 

 やはり【シルバ】が破壊されたのは痛いな。

 でなければこのターンで終わってたのに。

 

「ターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

「神君はこのターンに決められなかったようね」

 

「ああ。そしてそれは遊城十代を相手する者にとって、致命的な隙となる」

 

「あのデッキ、打点が低くなりがちなのですわ~」

 

 

「へへ、どうやらオレのターンはちゃんと廻ってきたようだな」

 

(たのむぜ、オレのカードたち)

 

「………………カードをドロー! よしっ、来たーーーー!!

 魔法カード、【天よりの宝札】を発動!

 プレイヤーはお互いに手札が6枚になるようデッキからカードをドローする!」

 

 

◆◆◆◇

 

 だよねーー! そんなこったろうと思ったさ!

 そう。強いのは十代のデッキではなく、十代個人。

 なんというか……十代は存在自体チートくさいのだ。カンすれば必ず嶺上開花(リンシャンカイホウ)まで持っていけるとか、あのレベルである。

 

「そんじゃ、俺は4枚ドローするよ」

 

「ああ、オレは6枚ドローだ。へへ、これで戦闘準備ができたな。

 【融合回収】を発動。墓地から【融合】1枚と融合に使用したモンスター1枚を手札に戻す。

 俺は【融合】と【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)バーストレディ】を手札に戻し、さらに回収した【融合】を発動!

 手札の【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)バーストレディ】と【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フェザーマン】を融合し――

来い! 俺のフェイバリットカード! 【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フレイム・ウィングマン】!!」

 

 左肩に片翼の白い翼、尾骶骨に龍の尾、そして右手は赤龍の頭。

 緑色のヒーローがフィールドに降り立つ。まったく、なんとも奇怪な造型である。

 これが十代のフェイバリットカード、【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フレイム・ウィングマン】。攻撃力は2100。

 

 ――まだ手札が4枚残っているな……。

 

「まだだぜ! 手札から魔法カード、【E-エマージェンシーコール】を発動!

 デッキから【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)スパークマン】を手札に加える。

 そして、【スパークマン】を通常召喚!」

 

 全身にバチバチと雷電を纏い、黄色と青の2色により構成されたヒーロー――【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)スパークマン】は手札より飛び出す。攻撃力は1600。

 

 ――これで残り3枚。

 

「さー、バトルだ!【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フレイム・ウィングマン】で【放浪の勇者フリード】を攻撃!

 フレイム・シュート!!」

 

 【フレイム・ウィングマン】は竜の顎である右腕をかざし、灼熱の炎を撃ち出す。

 炎を受け、砕け散る【放浪の勇者フリード】。攻撃力の超過ダメージは400!

 

神LP 4000 → 3600

 

「【放浪の勇者フリード】を撃破したことにより、【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フレイムウィングマン】の効果が発動する! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手プレーヤーに与える。

 【放浪の勇者フリード】の攻撃力分、1700のダメージを受けてもらうぜ!」

 

 【フレイム・ウィングマン】は炎を吐き出し続ける龍の顎を、そのまま俺に向ける。

 

 うお! あっつ……くないけど、こえー。本当に火炎放射されてるみたいだ。

 

神LP 3600 → 1900

 

「くっ……」

 

 相変わらずすごい効果である。

 これだからE・HERO(エレメンタル・ヒーロー)は侮れない。

 

「そして【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)スパークマン】でセットモンスターに攻撃! スパークショック!!」

 

 伏せモンスターが露になる。

 白い饅頭に目を二つ付けたようなモンスターだ。見た目はなかなか可愛い。

 

「セットモンスターは【マシュマロン】。

 【マシュマロン】は戦闘では破壊されない。そしてさらに【マシュマロン】の効果発動!」

 

 【マシュマロン】の頭のてっぺんにある口が大きく開かれる。口の中にはぎざぎざな歯が並んでおり、その姿はまるで小型のワーム。何これ? こ、こわい……。

 

「う、裏側表示の【マシュマロン】を攻撃したモンスターのコントローラーに、1000ポイントのダメージを与える」

 

 マシュマロンが十代に飛び掛り、噛み付く。

 十代もちょっと嫌そうだ。

 

十代LP 2300 → 1300

 

 

◇◆◆◆

 

(まずい……、神のフィールドにモンスターを一体残しちまった)

 

「……オレはバトルを終了する。手札から永続魔法、【悪夢の蜃気楼】を発動!

 相手のスタンバイフェイズに手札が4枚になるようドローし、自分のスタンバイフェイズにドローしたカードを全て捨てる永続効果だ!

 オレはさらに手札のカードを2枚ともセット。そしてターンエンドするぜ!」

 

 

◆◆◆◇

 

「俺のターンだ。ドロー」

 

 十代お得意のドローカードを置いてったんだ。ということは、あのカードも必然……。

 

「へへ、オレは【悪魔の蜃気楼】の効果で神、お前のスタンバイフェイズに4枚ドロー!

 そして速攻魔法【非常食】を発動!

 自分の魔法・トラップゾーンのカードを好きなだけ墓地に送り、1枚に付き1000ポイントのライフを回復する。

 オレは【悪夢の蜃気楼】を墓地に送ってライフを1000ポイント回復!」

 

十代LP 1300 → 2300

 

 

「やるわね。さらに4枚もドローして、しかも【悪夢の蜃気楼】を墓地に送ったことで、自分ターンに発生するはずのデメリット効果を回避したわ」

 

「アニキ、すごいっす」

 

「……でも、こんなことくらいではあのデッキには勝てませんわ~」

 

 

 いいぞももえ! もっと言ったれい!

 さて、十代が【悪夢の蜃気楼】を発動させた時点でこのコンボは規定事項だ。

 これでまたしても手札が4枚になったか……。だが、フィールドは浄化させてもらう!

 

「【マシュマロン】を生贄に、2体目の【ジャンク・コレクター】を召喚する!」

 

「げげっ! やっぱり!?」

 

「【ジャンク・コレクター】の効果発動!

 墓地の通常トラップ――【エレメンタルバースト】と自身を除外し、【エレメンタルバースト】の効果を発動! さー! 属性爆発だ!!」

 

 再び、4色の光がフィールドに満ち溢れる。

 十代のフィールドにあるのは【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フレイム・ウィングマン】【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)スパークマン】、そしてセットカード1枚。その全てが光の奔流に呑み込まれ、破壊される!

 

「ちくしょう! けちけちしないで【非常食】の効果で使っちまえばよかった!」

 

 十代が言っているのは【エレメンタルバースト】で破壊された伏せカードのことだ。

 墓地のトップにある伏せカードの成れの果てを見る。なになに……【O-オーバーソウル】か。

 バニラのE・HERO(エレメンタル・ヒーロー)を生き返らせるカードである。大方次のターン、誰かを生き返らせてから融合するつもりだったのだろう。

 

「このターン【ジャンク・コレクター】を通常召喚してしまったので、俺はもう召喚ができない。

 手札から魔法カード、【光の護封剣】を発動。相手は3ターンの間攻撃できない。

 さらにカードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

「【光の護封剣】とは……。

 よくもまぁ、あんなレアなカードを持っていたものだ」

 

「あら、拓実さまは他にも色んなレアカードを持っていますわ~。

 昨日は拓実さまのお部屋で色々なカードを拝見させてもらえましたもの」

 

「ほう、それは興味深いな。是非とも一度、見せてもらいたいものだ」

 

「いいな……彼氏…………」

 

「ジュンコ……あなた、さっきからそればっかりね」

 

「それにしても神のやつ、ついに2回目の【エレメンタルバースト】を使ったんだな」

 

「またアニキのフィールドがガラ空きっす」

 

「しかし、【ジャンク・コレクター】はもう残り1枚。

 さすがに最後の1枚をドローできる確率は低いだろう。十代もリクルーターモンスターの【シャインエンジェル】には注意しているはずだ。そうそうドジは踏まないさ」

 

「そうね。それに神君のLPは残り1900。このターンに勝負を決められるかもしれない……」

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

(攻撃を通すにはまず、【光の護封剣】をどうにかしなきゃだな。

 もう1枚の伏せカードも不気味だし……)

 

「魔法カード、【愚かな埋葬】を発動! デッキからモンスターを1体墓地へ送る。

 オレはデッキから【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)バブルマン】を墓地に送る」

 

 

◆◆◆◇

 

 これで十代の墓地には全てのE・HERO(エレメンタル・ヒーロー)がそろったわけか。

 

「カードを1枚セット!」

 

 十代の魔法・トラップゾーンにカードが1枚裏側で出現する。

 

 セット? このタイミングでか?

 

「そして魔法カード、【ミラクル・フュージョン】を発動!

 墓地に存在するE・HERO(エレメンタル・ヒーロー)をゲームから除外し、融合召喚を行う。

 オレは【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)バブルマン】と【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)クレイマン】をゲームから除外し、

E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)マッドボールマン】を攻撃表示で融合召喚!」

 

 空間を割り、ずんぐりとした丸っこいヒーローが出現する。

 まるで鉄球をいくつかくっ付けて合体させたような姿だ。

 これが【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)マッドボールマン】。

 攻撃力1900に守備力3000。その姿から想像できる通り、高い守備力を持つヒーローである。

 

「まだ終わらないぜ! 続けて手札から【連続魔法】を発動!

 自分の手札を全て捨て、直前に発動した魔法と同じ効果を得る!」

 

 なるほど、さっき手札を伏せたのはその為か!

 

 【連続魔法)は残った手札1枚をコストに、その姿を【ミラクルフュージョン】へと変化させる。

 捨てた手札は……【エレメンタルバースト】!? 十代も入れてたのか!

 

「墓地の【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)スパークマン】と【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フレイム・ウィングマン】を融合!

 出でよ光の戦士! 【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)シャイニング・フレア・ウィングマン】!!」

 

 そして――光り輝く翼を持つ、白銀の騎士が降臨する。

 

「きれい……」

 

 誰だろうか。無意識に漏らされた言葉。

 それはまさに、最も適切に、この目の前に存在する銀騎士を表現するものであるだろう。

 

「【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)シャイニング・フレア・ウィングマン】の攻撃力は2500。

 さらに効果により、墓地に存在するヒーロー1体につき攻撃力が300ポイントアップする。

 今オレの墓地に存在するヒーローは全部で6体!」

 

 墓地に存在するE・HERO(エレメンタル・ヒーロー)達の魂が蘇るように出現し、【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)シャイニング・フレア・ウィングマン】と重なっていく――。

 

「【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)シャイニング・フレア・ウィングマン】の攻撃力は1800ポイント上がり、4300となる!!」

 

 

◇◆◆◆

 

「す、すごい! 墓地のヒーローを除外して融合!? そ、それに、アニキのヒーローの攻撃力が4000帯まで上がったっす!」

 

「ええ、これで後は護封剣とセットカード1枚をどうにかすれば、勝ちは確実ね」

 

 

「行くぜ、神!

 オレは場に伏せた魔法カード、【R-ライトジャスティス】を発動する!」

 

 つい先程フィールドに伏せたカードを使用する遊城十代。その表情は自信に充ち満ちている。

 

「【R-ライトジャスティス】は自分フィールド上に存在するヒーローの数だけ、相手の魔法・トラップカードを破壊する。

 オレのフィールドにいるヒーローは【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)シャイニング・フレア・ウィングマン】と【E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)マッドボールマン】の2体!!」

 

(これで、終わりだ!!)

 

 

「これで終わりか……」

 

「十代の勝ちなんだな!」

 

 皆が十代の勝利を疑わない。それは場を見ても明らかである。

 今や神の生命線である【光の護封剣】はもう一枚の伏カードと共に破壊されようとしている。ここからの挽回などあろうはずもない。

 だがそんな中、ただ一人。

 それは違うと、そんなのは甘いと、そう確信する人がいた。

 ――ももえである。

 

「十代さんは間違いを犯しましたわ~。

 一息に勝負をかけようとするのではなく、手札を残して次に備えるべきでしたの。

 そうすれば、チャンスはまだあったでしょうに……」

 

 

◆◆◆◇

 

「【R-ライトジャスティス】にチェーンしてトラップ発動!

 【闇よりの罠】!!

 このカードは自分のライフが3000ポイント以下の時、1000のライフを支払い()()する」

 

神LP 1900 → 900

 

「自分の墓地にある通常トラップを1枚選択し、そのカードの効果と同じ効果を得る。

 選択するのはもちろん、【エレメンタルバースト】!!」

 

 【闇よりの罠】は【エレメンタルバースト】へとその姿を変貌させる。

 

「マジで!?」

 

「三度蹂躙せよ! 属・性・爆・発!!」

 

 ――そして、

 4色の光がフィールドを埋め尽くす!!

 

 やがて目を刺す極光と腹の底まで響く爆音は、ジーンとした耳鳴りを残して消え去っていった。

 そして十代のフィールドには――見事何も残されていなかった。

 E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)が存在しなくなった為、不発に終わった【R-ライトジャスティス】が砕け散る。

 

「は、はは……、もう笑うしかないぜ…………」

 

 乾いた笑いを浮べる十代。

 さすがの彼にも今の爆発は堪えたらしい。

 

「【闇よりの罠】は発動後、選択した通常トラップをゲームから除外する。

 最後の【エレメンタルバースト】を除外だ」

 

「何もできねぇ……ターンエンドだ……」

 

 

◇◆◆◆

 

「とうとう3枚とも使い切ったんだな」

 

「なんというすさまじいデュエルタクティクスだ!」

 

「でも、ももえはこの結果を予想してたみたいね」

 

 そう言って明日香はももえに視線を向けると、メンバー全員の注目が彼女に集まる。

 

「ええ、昨日同じことをやられましたから~」

 

 事もなげに微笑むももえ。

 

「強い彼氏を持つと、ももえも大変ね」

 

 その場面を想像したのか、ジュンコはあきれたようにつぶやく。

 

「そんなことはありませんわ~。

 拓実さまは、お優しい方ですから~」

 

「……なんかすごい惚気られてるっす」

 

「肩身が狭いんだな……」

 

 

◆◆◆◇

 

 何やってんだ、あいつら?

 

「オレのターン、ドロー」

 

 引いたカードを見てほくそ笑む。

 正真正銘、これで終わりだ。

 

「オレは墓地から光属性モンスター【シャインエンジェル】と闇属性モンスター【暗黒界の軍神シルバ】をゲームから除外し――

 混沌の魔術師、【カオス・ソーサラー】を特殊召喚する!!」

 

 漆黒のジャンパーを身に纏った魔術師、【カオス・ソーサラー】が降臨する。

 彼には1ターンにつき、問答無用でモンスター1体を除外する効果があるのだが……今そんなものは必要ない。

 

「【カオス・ソーサラー】の攻撃力は2300。

 十代、お前の残りライフと同じだ」

 

 十代はフィールドはおろか、手札にもカードはない。

 彼の表情から見ても、この一撃を防ぐのは不可能なのだろう。

 

「――さー! いくぜ! 十代!!」

 

「――――ああ。来い! 神!!」

 

「【カオス・ソーサラー】! 十代にダイレクトアタック!!」

 

 右手に白、左手に黒。両手を合わせ、エネルギーの奔流は混じりあう。

 カオス・ソーサラーより、魔道波が放たれる。

 そして――――

 

 

十代LP 2300 → 0

 

 

◇◇◇◇

 

 

「俺の勝ちだな、十代」

 

「……ああ! ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 デュエルに負けても、何ら遺恨を残さす。

 思った通り、お前はいいやつだよ。

 

 

◇◆◆◆

 

「ももえ、勝ったよ~」

 

「おかえりなさい~拓実さま~」

 

「ちっくしょう! 最後の最後でやられちまったぜ!」

 

「ははは、今回は神拓実の方が一枚上手だったようだな」

 

(まったく……大した物だ。

 彼にはぜひ、いつか俺ともデュエルをしてもらいたいものだ)

 

「あ、そうそう。ちょうどいい機会だからみんなに言うけどさ」

 

「ん? 神君どうしたんっすか?」

 

「そう、それそれ。

 なんか皆名前で呼び合ってるのに、俺だけいつまでも苗字ってどうなの? それ」

 

「何かと思えば、つまり名前で呼んで欲しいわけね」

 

「まぁ、拓実さまったら」

 

 ジュンコの呆れ顔に対し、ももえはいつも通りのおっとりとした表情である。

 

「まぁまぁ、いいじゃない。

 それじゃあ、これからもよろしくね! 拓実君」

 

 明日香がウインクとともにそう言うと、皆後に続いた。

 

「OK!

 これからは神のこと、拓実って呼ぶぜ!」

 

「これからは拓実って呼ぶんだな~」

 

「うん、拓実君。これからもよろしく!」

 

「はいはい。ももえの彼氏だし、拓実でいいわよね」

 

「ふむ……まだ君とはそれほど親しいわけではないが、よければオレも君の事を拓実と呼ぼう」

 

「ああ、みんな。これからもよろしく!」

 

 

◆◆◆◇

 

 観戦席を見上げると、クロノス先生がこちらを見て「ニカッ」と笑って見せた。

 デュエルの感想は寮に帰ってから、夕飯の時にでも聞こう。

 

 

 

 

 

 今日は何だか、皆と少し仲良くなれた気がした。


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