「俺からだな……ドロー!」
先攻がもらえたか。これは幸先がいい。
手札も事故ってない――と言うより、このデッキはほとんど事故りようがないんだけど。
「手札から魔法カード、【暗黒界の取引】を発動!
お互いデッキからカードを1枚ドローし、手札から1枚捨てる」
「手札交換かー」
「そんで今捨てたモンスターカード、【暗黒界の軍神シルバ】の効果発動。
このカードが手札から墓地に捨てられた時、自分フィールド上に特殊召喚する。
【暗黒界の軍神シルバ】、来い!」
銀色の魔人が特殊召喚される。
うーん。イラストで見るのと大分イメージが違うなぁ。少しかっこ悪くなったと言うか……。
「手札より【シャインエンジェル】を攻撃表示で通常召喚。
さらにカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
◇◆◆◆
「へへ、いきなり攻撃力2300のモンスターを召喚するなんてすげぇな。
オレのターン、ドロー」
(
あいつの性格から考えると、多分なんかのトラップだ。
て言っても、今オレがシルバを倒せる方法は一つしかねえ……。やって見るっきゃねぇか)
「墓地の【
さ~、来い! 【
◇
重厚な黄金の鎧を身に纏ったヒーローが、フィールドにその巨体を現す。
のっそりと動くその姿は、鈍重さよりも力強さをより感じさせる。
「こ、攻撃力2600!? すごいんだな! 十代、あんな強いヒーロー持ってたんだな!」
隼人は【
「墓地に【ネクロダークマン】……。
さっき
◆◆◆◇
「さー、【エッジマン】で【暗黒界の軍神シルバ】に攻撃だ! パワー・エッジ・アタック!!」
「やらせないよ! トラップカード、【鳳翼の爆風】を発動!
手札を1枚捨て、相手のフィールド上のカードを1枚デッキトップに戻す。
【
鳳凰を思わせる巨鳥が通り過ぎ、衝撃波にも似た爆風がフィールドをよぎる。
【
「ちぇ、やっぱそう簡単にいかないか……。
カードを2枚セットして、ターンエンドだ」
◇◆◆◆
「ん?」
「三沢君、どうしたんっすか?」
「いや……今神がコストとして捨てたカード、見覚えがあってな。オレも持っているカードだ」
(しかし、あのカードの使いづらさは全カードの中でも1,2を争うはずだ。
コストとして使えたから良かったような物の、なぜあんなものをデッキに入れる?)
◆◆◆◇
「俺のターン、ドロー。
バトルフェイズに入り、【暗黒界の軍神シルバ】で十代にダイレクトアタックだ!」
【シルバ】はその腕に生えた刃を十代へと向け、駆け出す。
そして十代の場には伏せカードが2枚。きっとこのまま黙ってはいないだろう。
「カウンタートラップ発動! 【攻撃の無力化】!
相手の攻撃を無効にしてバトルを終了させるぜ!」
やっぱり防がれたか……。まぁ、予想通りだ。
フィールドには【暗黒界の軍神シルバ】と【シャインエンジェル】がいるが、一応防御系のモンスターも置いておこう。
「モンスターを1枚セットし、
さらに魔法・トラップゾーンにもカードを1枚セットする。ターンエンド」
◇◆◆◆
「オレのターン、ドロー!」
(さー、こっから反撃だぜ!)
「俺は手札から【融合】を発動!
手札の【
出でよ! 【
ゴツゴツとした岩の身体を持つクレイマン。
そして全身にファイヤーパターンを持つ女性ヒーロー、バーストレディ。
二体のヒーローは【融合】により、一つに混ざり合う。
左手にはシールド、右手はミサイルランチャー。
クレイマンを模した強化服を身に着けたバーストレディ――【
(神のフィールドには攻撃力2300の【暗黒界の軍神シルバ】とセットしたモンスター1枚。それに攻撃表示の【シャインエンジェル】か……。【シルバ】はトラップで何とかするとして……このターンは【シャインエンジェル】を破壊して、ライフを削る!)
「【ランパートガンナー】で攻撃表示の【シャインエンジェル】に攻撃!
ランパートミサイル!!」
◆◆◆◇
「そう簡単にはダメージは受けん! トラップカード、【マジカルシルクハット】を発動!
自分のモンスターを1枚セット状態に変え、さらにデッキからモンスターカード以外のカード2枚を攻守0のモンスターとしてフィールドにセットする。
そしてその後、セットモンスターをシャッフル。
攻撃表示の【シャインエンジェル】とデッキからのカード2枚をセットしてシャッフルするぞ。これで【シャインエンジェル】がどこにあるか分からなくなったろ?」
結果、俺のフィールドにはセットモンスターが3枚増える。
その中の1枚は【シャインエンジェル】であり、残り2枚はデッキから出した目晦ましだ。
でも十代ならここからでも【シャインエンジェル】を当てるだろうな。
……正直、十代にはぜひこのターンで【シャインエンジェル】を倒して欲しい。当ててもらえれば御の字だ。
「確率は3分の1……。
行け【ランパートガンナー】! 一番右側のカードを攻撃だ!!」
放たれたミサイルはセットカードに直撃し、爆煙に包まれた【シャインエンジェル】が出現と共に砕け散る。
予想はしてたけど本当に当てるとは……ナイスだ十代!!
「【シャインエンジェル】の効果発動!
戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚する。
来い! 【ジャンク・コレクター】!」
背中に大量のジャンク品を背負い、手に工具と思しきハンマー状の物を持ったロボットが登場する。全体的にほっそりとしていて、頼りなさげである。
レベルは5だが、攻撃力は1000しかない。その為、十分【シャインエンジェル】の効果でリクルートできる。
「なんか変なのが出てきたな。
俺はバトルフェイズを終了してターンエンドだ」
「バトルフェイズ終了時、【マジカルシルクハット】でモンスター扱いとなっているカードは破壊される」
十代に攻撃してもらえなかったカード2枚が破壊され、墓地へと送られた。
「へへ、【マジカルシルクハット】は無駄撃ちだったな」
◇◆◆◆
(ん? 今【マジカルシルクハット】で擬似モンスターに仕立て上げたのは――またしてもあのカードか。いったいなんのためにあんなジャンクカードを……)
墓地に送られたカードを見た三沢は首をかしげる。
◆◆◆◇
「俺のターン、ドロー」
もういつ攻勢に出てもいいが、手札に攻撃に使えるモンスターカードがない。十代にはまだ分からないだろうが、こちらは大きなアドバンテージを握っている。
もう少し場が整うまで待つか。
「【ジャンク・コレクター】を守備表示に変更する。
そして、【暗黒界の軍神シルバ】で【ランパートガンナー】に攻撃だ! 切り裂け!」
「やらせないぜ! トラップ発動! 【炸裂装甲】!
攻撃を宣言した相手モンスター1体を破壊する!!」
十代の発動したトラップカードより鎧が飛び出し、【暗黒界の軍神シルバ】に引っ付くように装着される。そして間を置かずに大爆発を引き起こす! まさに【炸裂装甲】!
「げっ!」
余裕こいて攻撃用モンスターを破壊されてしまった。
こんなことなら、攻撃宣言せずに次のターンまで待つべきだった……。
「でも【ジャンク・コレクター】の守備力は2200! ……簡単にはやられないよ」
きちんと言葉の罠を残していく。これが効いてくれればいいのだが……。
◇◇
「そいつはどうかな。オレのターン、ドロー。
魔法カード、【強欲な壺】を発動! さらにカードを2枚ドローするぜ!」
今引いたのは【強欲な壺】だったか。
……つくづく幸運なヤツ。
「そして2枚目の【融合】を発動!
手札の【
出でよ! 【
背中に巨大な剣を背負ったマッチョなヒーローが出現する。因みに上半身は裸である。
「ワイルドジャギーマンの攻撃力は2600!
これなら【ジャンク・コレクター】くらいなんともないぜ!」
やっと、この時が来たか。
「十代、これでお前の手札は0だな」
「でもフィールドには2体の上級ヒーローがいる!
いけ、【ワイルドジャギーマン】! 【ジャンク・コレクター】を攻撃!
インフィニティ・エッジ・スライサー!!」
「ここで【ジャンク・コレクター】の効果発動!
墓地から通常トラップ1枚と【ジャンク・コレクター】自身をゲームから除外し、除外した通常トラップを
【ジャンク・コレクター】は大きなトングのようなものを手に持つ。そう、ゴミ拾いに使うあれだ。そのままトングを墓地に突っ込み、中を漁りはじめる。
「……そして除外するカードは、【エレメンタルバースト】!!」
【ジャンク・コレクター】は墓地にある通常トラップ――【エレメンタルバースト】をトングではさみ、天高く掲げる。
――そして、赤・青・緑・黄。
まばゆい4色の光が、轟音と共にフィールドを包み込む。
「【エレメンタルバースト】の効果!
相手フィールド上のカード、その全てを破壊する!!」
「ちょっ、うそぉ!!」
やがて、4色の光の奔流が収まり――
爆発に見舞われた十代のフィールドには、何も残されていなかった。
役目を終えた【ジャンクコレクター】は錆びつき、ボロボロと崩れ落ちてゆく。
◇◆◆◆
フィールドの全破壊。
この事態に対し、観戦者達も混乱していた。
「どういうことっすか? 相手フィールドのカードを全て破壊する。
そんな強力なトラップカードがあるなんて、聞いたことがないっすよ」
「あたりまえだ!
【エレメンタルバースト】は効果こそ強力だが、その発動条件は途方もないものだ!」
「三沢君、知ってるの? あのカードのこと」
明日香は眉をひそめ、三沢に聞き返す。
「ああ、オレも同じカードを持っているからな。
【エレメンタルバースト】の発動条件は、自分フィールド上に存在する炎・水・風・地の4属性のモンスターを、それぞれ1体ずつ生贄にささげることだ。
……はっきり言ってコストが厳しすぎる。
その為、【エレメンタルバースト】は常に使えないカードランキングの上位に存在していることで有名だよ」
「じゃあ、なんで今発動できたんっすか?」
「【ジャンク・コレクター】の効果ですわ~」
「ももえ?」
まさか友人があの見たことのないカードに詳しいとは思わなかったのだろう。
ももえの得意げな声に驚くジュンコ。
「わたくし、昨日拓実さまのデッキ調整を手伝いましたので~」
そう言って改めて顔を皆の方に向き直し、説明を始めるももえ。
「【ジャンク・コレクター】の効果は墓地の通常トラップを【発動させる】ですもの。
元々あるそのカードを発動するためのコストなんて、全部無視ですわ~」
ももえはくりっとした目を右上に動かし、昨日のことを思い出しながら続ける。
「しかも相手ターンでも使える効果ですので、とても使い勝手がよろしいですのよ~」
あまりものタチの悪さに、皆沈黙する。
「…………ねぇ、ちょっと……。
神君が何枚あのカードを墓地に送ったか、覚えてる?」
「最初の【鳳翼の爆風】のコストで手札から1枚。
【マジカルシルクハット】でダミーモンスターとしてデッキから直接2枚。合計3枚だ」
「1枚は今除外したから……。
てことは、あの【サンター・ボルト】と【ハーピィの羽箒】を合体させたような効果が、もしかしたらあと2回も……!?」
「とんでもないんだな……」
◇
(やばい………)
十代は焦っていた。
自分のフィールドはガラ空きである。そして手札が一枚もない為、何ら対策が打てない状況であった。
言うなれば、まさに
(次のターン、神が召喚するモンスターの合計攻撃力が、4000を超えないことを祈るしかねぇ)
そして、観戦者達の声は十代の耳にも届いていた。
(しかもあと2回も【エレメンタルバースト】を使うかもしれないって?
あのカードはオレも持ってるけど、そんな簡単に発動できるもんじゃねぇぞ。
さすがにシャレになんねぇ)
「今は何もできることがねぇ……。オレはこれでターンエンドだ」
◆◆◆◇
「俺のターンだ。カードをドロー。
どうだ十代。【エレメンタルヒーロー】に対して【エレメンタルバースト】だなんて、なかなかシャレが利いてるだろ?」
「はは……冗談じゃないぜ……」
「【放浪の勇者フリード】を召喚。そしてダイレクトアタックだ!」
【勇者フリード】は手に錆付いた剣を生み出し、それを十代に向けて投擲する。
って投げるのかよ!!
と、とにかく剣は十代に突き刺さり、
【勇者フリード】の攻撃力分、1700のダメージが与えられた。
十代LP 4000 → 2300
やはり【シルバ】が破壊されたのは痛いな。
でなければこのターンで終わってたのに。
「ターンエンドだ」
◇◆◆◆
「神君はこのターンに決められなかったようね」
「ああ。そしてそれは遊城十代を相手する者にとって、致命的な隙となる」
「あのデッキ、打点が低くなりがちなのですわ~」
◇
「へへ、どうやらオレのターンはちゃんと廻ってきたようだな」
(たのむぜ、オレのカードたち)
「………………カードをドロー! よしっ、来たーーーー!!
魔法カード、【天よりの宝札】を発動!
プレイヤーはお互いに手札が6枚になるようデッキからカードをドローする!」
◆◆◆◇
だよねーー! そんなこったろうと思ったさ!
そう。強いのは十代のデッキではなく、十代個人。
なんというか……十代は存在自体チートくさいのだ。カンすれば必ず
「そんじゃ、俺は4枚ドローするよ」
「ああ、オレは6枚ドローだ。へへ、これで戦闘準備ができたな。
【融合回収】を発動。墓地から【融合】1枚と融合に使用したモンスター1枚を手札に戻す。
俺は【融合】と【
手札の【
来い! 俺のフェイバリットカード! 【
左肩に片翼の白い翼、尾骶骨に龍の尾、そして右手は赤龍の頭。
緑色のヒーローがフィールドに降り立つ。まったく、なんとも奇怪な造型である。
これが十代のフェイバリットカード、【
――まだ手札が4枚残っているな……。
「まだだぜ! 手札から魔法カード、【E-エマージェンシーコール】を発動!
デッキから【
そして、【スパークマン】を通常召喚!」
全身にバチバチと雷電を纏い、黄色と青の2色により構成されたヒーロー――【
――これで残り3枚。
「さー、バトルだ!【
フレイム・シュート!!」
【フレイム・ウィングマン】は竜の顎である右腕をかざし、灼熱の炎を撃ち出す。
炎を受け、砕け散る【放浪の勇者フリード】。攻撃力の超過ダメージは400!
神LP 4000 → 3600
「【放浪の勇者フリード】を撃破したことにより、【
【放浪の勇者フリード】の攻撃力分、1700のダメージを受けてもらうぜ!」
【フレイム・ウィングマン】は炎を吐き出し続ける龍の顎を、そのまま俺に向ける。
うお! あっつ……くないけど、こえー。本当に火炎放射されてるみたいだ。
神LP 3600 → 1900
「くっ……」
相変わらずすごい効果である。
これだから
「そして【
伏せモンスターが露になる。
白い饅頭に目を二つ付けたようなモンスターだ。見た目はなかなか可愛い。
「セットモンスターは【マシュマロン】。
【マシュマロン】は戦闘では破壊されない。そしてさらに【マシュマロン】の効果発動!」
【マシュマロン】の頭のてっぺんにある口が大きく開かれる。口の中にはぎざぎざな歯が並んでおり、その姿はまるで小型のワーム。何これ? こ、こわい……。
「う、裏側表示の【マシュマロン】を攻撃したモンスターのコントローラーに、1000ポイントのダメージを与える」
マシュマロンが十代に飛び掛り、噛み付く。
十代もちょっと嫌そうだ。
十代LP 2300 → 1300
◇◆◆◆
(まずい……、神のフィールドにモンスターを一体残しちまった)
「……オレはバトルを終了する。手札から永続魔法、【悪夢の蜃気楼】を発動!
相手のスタンバイフェイズに手札が4枚になるようドローし、自分のスタンバイフェイズにドローしたカードを全て捨てる永続効果だ!
オレはさらに手札のカードを2枚ともセット。そしてターンエンドするぜ!」
◆◆◆◇
「俺のターンだ。ドロー」
十代お得意のドローカードを置いてったんだ。ということは、あのカードも必然……。
「へへ、オレは【悪魔の蜃気楼】の効果で神、お前のスタンバイフェイズに4枚ドロー!
そして速攻魔法【非常食】を発動!
自分の魔法・トラップゾーンのカードを好きなだけ墓地に送り、1枚に付き1000ポイントのライフを回復する。
オレは【悪夢の蜃気楼】を墓地に送ってライフを1000ポイント回復!」
十代LP 1300 → 2300
◇
「やるわね。さらに4枚もドローして、しかも【悪夢の蜃気楼】を墓地に送ったことで、自分ターンに発生するはずのデメリット効果を回避したわ」
「アニキ、すごいっす」
「……でも、こんなことくらいではあのデッキには勝てませんわ~」
◇
いいぞももえ! もっと言ったれい!
さて、十代が【悪夢の蜃気楼】を発動させた時点でこのコンボは規定事項だ。
これでまたしても手札が4枚になったか……。だが、フィールドは浄化させてもらう!
「【マシュマロン】を生贄に、2体目の【ジャンク・コレクター】を召喚する!」
「げげっ! やっぱり!?」
「【ジャンク・コレクター】の効果発動!
墓地の通常トラップ――【エレメンタルバースト】と自身を除外し、【エレメンタルバースト】の効果を発動! さー! 属性爆発だ!!」
再び、4色の光がフィールドに満ち溢れる。
十代のフィールドにあるのは【
「ちくしょう! けちけちしないで【非常食】の効果で使っちまえばよかった!」
十代が言っているのは【エレメンタルバースト】で破壊された伏せカードのことだ。
墓地のトップにある伏せカードの成れの果てを見る。なになに……【O-オーバーソウル】か。
バニラの
「このターン【ジャンク・コレクター】を通常召喚してしまったので、俺はもう召喚ができない。
手札から魔法カード、【光の護封剣】を発動。相手は3ターンの間攻撃できない。
さらにカードを1枚セットし、ターンエンドだ」
◇◆◆◆
「【光の護封剣】とは……。
よくもまぁ、あんなレアなカードを持っていたものだ」
「あら、拓実さまは他にも色んなレアカードを持っていますわ~。
昨日は拓実さまのお部屋で色々なカードを拝見させてもらえましたもの」
「ほう、それは興味深いな。是非とも一度、見せてもらいたいものだ」
「いいな……彼氏…………」
「ジュンコ……あなた、さっきからそればっかりね」
「それにしても神のやつ、ついに2回目の【エレメンタルバースト】を使ったんだな」
「またアニキのフィールドがガラ空きっす」
「しかし、【ジャンク・コレクター】はもう残り1枚。
さすがに最後の1枚をドローできる確率は低いだろう。十代もリクルーターモンスターの【シャインエンジェル】には注意しているはずだ。そうそうドジは踏まないさ」
「そうね。それに神君のLPは残り1900。このターンに勝負を決められるかもしれない……」
◇
「オレのターン、ドロー!」
(攻撃を通すにはまず、【光の護封剣】をどうにかしなきゃだな。
もう1枚の伏せカードも不気味だし……)
「魔法カード、【愚かな埋葬】を発動! デッキからモンスターを1体墓地へ送る。
オレはデッキから【
◆◆◆◇
これで十代の墓地には全ての
「カードを1枚セット!」
十代の魔法・トラップゾーンにカードが1枚裏側で出現する。
セット? このタイミングでか?
「そして魔法カード、【ミラクル・フュージョン】を発動!
墓地に存在する
オレは【
【
空間を割り、ずんぐりとした丸っこいヒーローが出現する。
まるで鉄球をいくつかくっ付けて合体させたような姿だ。
これが【
攻撃力1900に守備力3000。その姿から想像できる通り、高い守備力を持つヒーローである。
「まだ終わらないぜ! 続けて手札から【連続魔法】を発動!
自分の手札を全て捨て、直前に発動した魔法と同じ効果を得る!」
なるほど、さっき手札を伏せたのはその為か!
【連続魔法)は残った手札1枚をコストに、その姿を【ミラクルフュージョン】へと変化させる。
捨てた手札は……【エレメンタルバースト】!? 十代も入れてたのか!
「墓地の【
出でよ光の戦士! 【
そして――光り輝く翼を持つ、白銀の騎士が降臨する。
「きれい……」
誰だろうか。無意識に漏らされた言葉。
それはまさに、最も適切に、この目の前に存在する銀騎士を表現するものであるだろう。
「【
さらに効果により、墓地に存在するヒーロー1体につき攻撃力が300ポイントアップする。
今オレの墓地に存在するヒーローは全部で6体!」
墓地に存在する
「【
◇◆◆◆
「す、すごい! 墓地のヒーローを除外して融合!? そ、それに、アニキのヒーローの攻撃力が4000帯まで上がったっす!」
「ええ、これで後は護封剣とセットカード1枚をどうにかすれば、勝ちは確実ね」
◇
「行くぜ、神!
オレは場に伏せた魔法カード、【R-ライトジャスティス】を発動する!」
つい先程フィールドに伏せたカードを使用する遊城十代。その表情は自信に充ち満ちている。
「【R-ライトジャスティス】は自分フィールド上に存在するヒーローの数だけ、相手の魔法・トラップカードを破壊する。
オレのフィールドにいるヒーローは【
(これで、終わりだ!!)
◇
「これで終わりか……」
「十代の勝ちなんだな!」
皆が十代の勝利を疑わない。それは場を見ても明らかである。
今や神の生命線である【光の護封剣】はもう一枚の伏カードと共に破壊されようとしている。ここからの挽回などあろうはずもない。
だがそんな中、ただ一人。
それは違うと、そんなのは甘いと、そう確信する人がいた。
――ももえである。
「十代さんは間違いを犯しましたわ~。
一息に勝負をかけようとするのではなく、手札を残して次に備えるべきでしたの。
そうすれば、チャンスはまだあったでしょうに……」
◆◆◆◇
「【R-ライトジャスティス】にチェーンしてトラップ発動!
【闇よりの罠】!!
このカードは自分のライフが3000ポイント以下の時、1000のライフを支払い
神LP 1900 → 900
「自分の墓地にある通常トラップを1枚選択し、そのカードの効果と同じ効果を得る。
選択するのはもちろん、【エレメンタルバースト】!!」
【闇よりの罠】は【エレメンタルバースト】へとその姿を変貌させる。
「マジで!?」
「三度蹂躙せよ! 属・性・爆・発!!」
――そして、
4色の光がフィールドを埋め尽くす!!
やがて目を刺す極光と腹の底まで響く爆音は、ジーンとした耳鳴りを残して消え去っていった。
そして十代のフィールドには――見事何も残されていなかった。
「は、はは……、もう笑うしかないぜ…………」
乾いた笑いを浮べる十代。
さすがの彼にも今の爆発は堪えたらしい。
「【闇よりの罠】は発動後、選択した通常トラップをゲームから除外する。
最後の【エレメンタルバースト】を除外だ」
「何もできねぇ……ターンエンドだ……」
◇◆◆◆
「とうとう3枚とも使い切ったんだな」
「なんというすさまじいデュエルタクティクスだ!」
「でも、ももえはこの結果を予想してたみたいね」
そう言って明日香はももえに視線を向けると、メンバー全員の注目が彼女に集まる。
「ええ、昨日同じことをやられましたから~」
事もなげに微笑むももえ。
「強い彼氏を持つと、ももえも大変ね」
その場面を想像したのか、ジュンコはあきれたようにつぶやく。
「そんなことはありませんわ~。
拓実さまは、お優しい方ですから~」
「……なんかすごい惚気られてるっす」
「肩身が狭いんだな……」
◆◆◆◇
何やってんだ、あいつら?
「オレのターン、ドロー」
引いたカードを見てほくそ笑む。
正真正銘、これで終わりだ。
「オレは墓地から光属性モンスター【シャインエンジェル】と闇属性モンスター【暗黒界の軍神シルバ】をゲームから除外し――
混沌の魔術師、【カオス・ソーサラー】を特殊召喚する!!」
漆黒のジャンパーを身に纏った魔術師、【カオス・ソーサラー】が降臨する。
彼には1ターンにつき、問答無用でモンスター1体を除外する効果があるのだが……今そんなものは必要ない。
「【カオス・ソーサラー】の攻撃力は2300。
十代、お前の残りライフと同じだ」
十代はフィールドはおろか、手札にもカードはない。
彼の表情から見ても、この一撃を防ぐのは不可能なのだろう。
「――さー! いくぜ! 十代!!」
「――――ああ。来い! 神!!」
「【カオス・ソーサラー】! 十代にダイレクトアタック!!」
右手に白、左手に黒。両手を合わせ、エネルギーの奔流は混じりあう。
カオス・ソーサラーより、魔道波が放たれる。
そして――――
十代LP 2300 → 0
◇◇◇◇
「俺の勝ちだな、十代」
「……ああ! ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」
デュエルに負けても、何ら遺恨を残さす。
思った通り、お前はいいやつだよ。
◇◆◆◆
「ももえ、勝ったよ~」
「おかえりなさい~拓実さま~」
「ちっくしょう! 最後の最後でやられちまったぜ!」
「ははは、今回は神拓実の方が一枚上手だったようだな」
(まったく……大した物だ。
彼にはぜひ、いつか俺ともデュエルをしてもらいたいものだ)
「あ、そうそう。ちょうどいい機会だからみんなに言うけどさ」
「ん? 神君どうしたんっすか?」
「そう、それそれ。
なんか皆名前で呼び合ってるのに、俺だけいつまでも苗字ってどうなの? それ」
「何かと思えば、つまり名前で呼んで欲しいわけね」
「まぁ、拓実さまったら」
ジュンコの呆れ顔に対し、ももえはいつも通りのおっとりとした表情である。
「まぁまぁ、いいじゃない。
それじゃあ、これからもよろしくね! 拓実君」
明日香がウインクとともにそう言うと、皆後に続いた。
「OK!
これからは神のこと、拓実って呼ぶぜ!」
「これからは拓実って呼ぶんだな~」
「うん、拓実君。これからもよろしく!」
「はいはい。ももえの彼氏だし、拓実でいいわよね」
「ふむ……まだ君とはそれほど親しいわけではないが、よければオレも君の事を拓実と呼ぼう」
「ああ、みんな。これからもよろしく!」
◆◆◆◇
観戦席を見上げると、クロノス先生がこちらを見て「ニカッ」と笑って見せた。
デュエルの感想は寮に帰ってから、夕飯の時にでも聞こう。
今日は何だか、皆と少し仲良くなれた気がした。