遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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 原作での流れ:

 その日はデュエルアカデミアの試験日だった。と同時に、新カードパックの入荷日でもあった。デュエル実技試験に備えるため、デッキを強化しようと売店へと突入する生徒達。だがしかし、新カードパックはなかった。その全てが謎の男に買われてしまったというのだ。

 朝、登校する最中に困っていた中年女性を見つけ、そのお手伝いをする十代。そのせいで、筆記試験に遅れてしまう。

 筆記試験後、みんなに遅れて売店へとやってきた十代と翔。カードパックが一つも残されていないことを知り、二人は困惑する。そこで登場したのは、朝に助けた中年女性だった。なんと、女性は売店のおばちゃんだったのだ。おばちゃんは朝のお礼にと、隠しておいた”とっておきの”カードパックを十代に渡す。

 一方その頃、万丈目の前にクロノス教諭が怪しい学ラン姿で現れていた。なんと、カードの買い占めを行ったのはクロノスであった。
 彼は万丈目に超レアカードであるXYZドラゴンシリーズを託し、デュエル実技試験での遊城十代打倒を命じる。
 そして訪れるデュエル実技試験。
 十代はおばちゃんからのカードを使い、見事万丈目を返り討ちにした。


第16話 青春してみよう

 ももえを女子寮に送り届け、自分もブルー男子寮に戻ることにする。

 

 雨に霞んでなお豪華絢爛な寮の外装。

 どこのお城だ! と毎度おなじみのツッコミを入れ、正面玄関をくぐる。

 今日はオークションの結果が出る日だ。果たしてブラマジガールにいくらの値段が付くのだろうか。今から楽しみで仕方がない。

 部屋に戻り、早速パソコンの電源を入れる。

 昨日の午後時点で1億を超えていたから、もしかすると2億近くまで行くかもしれない。某掲示板では昨日から祭り状態が続いている。

 そして――――――

 

 

「3億4800万……か。……おまえら、カード一枚にどんだけ?」

 

 嬉しさよりも驚きの感情が勝る。何でこんなことに?

 

 掲示板を流し読みし、大体の流れは把握できた。

 どうやら昨日の深夜3:00の時点より、急遽日本にて【sinBMGファンクラブ(仮)】が結成。アラブの金持ち連中に対し団体戦を仕掛け、骨肉の争いを繰り広げたとか。今日の午後からの終盤戦では、もはや皆さん意地になっているとしか思えないような価格の吊り上げっぷりであった。

 …………アホだろこいつら……。

 

 終了時間の7分42秒前。

 ファンクラブは長き交渉の末、新たな有力スポンサーの獲得に成功。

 一気に価格を3000万吊り上げる。そしてそれが決定打となった。

 落札した絵違いの【ブラック・マジシャン・ガール】はファンクラブのご神体として祭り上げられるのだとか……。

 

「sinBMGファンクラブサイトリンク?」

 

 掲示板のコメントにはファンクラブへのリンクが貼ってあるものがいくつかあった。さっそく野次馬根性丸出しでお邪魔してみることにする。

 

 さ、どんなのかな?

 

 

「……まだ何もないな」

 

 まだ作ったばかりなのだろう。ファンクラブサイトには連絡事項とコメント欄しかなかった。

 とりあえず連絡事項のページを開き、読み進んでいく。

 

 なになに? ブラック・マジシャン・ガール鑑賞会?

 えっと……―――――

 

◇◇

 

 会員の皆様へ

 この度、皆様の努力により我々は無事、絵違い【ブラック・マジシャン・ガール】を落札することができました。

 つきまして、6月2日より、落札致しました【ブラック・マジシャン・ガール】のカード及びソリッドビジョン鑑賞会を行いたいと思います。

 一回ごとの定員は12名前後に限定し、全32回を予定しております。

 

・第一回から第三回までの鑑賞会は、高額出資者の方優先となります。

・第四回以後の順番は、くじ抽選にて決定いたします。

・抽選結果は6月9日早朝、本サイトに掲載させていただきます。

・鑑賞会の日程は、随時本サイトにてお知らせいたします。

 

 

一回目~三回目

鑑賞会当日の流れ

 

10:00 会場開放

10:30 会長挨拶

10:50 カード鑑賞会開始

12:10 カード鑑賞会終了

12:20 昼食

13:30 会場開放

13:50 ソリッドビジョン鑑賞会開始

14:50 ソリッドビジョン鑑賞会終了

15:10 ファンクラブ交流会開始

16:50 各自解散

17:30 飲み会(希望者のみ)

 

会場:赤坂グランドホテルB1 部屋名:欄

※各自ファンクラブ会員証をご持参ください。

 

 

BMGファンクラブ

会長:ダイナソー竜崎  副会長:海馬モクバ

 

◇◇

 

「……なんだこれ?」

 

 どっからつっこんでいいのか分からない。非常に反応に困る。

 こいつらに精霊が宿っているかもしれないカードを渡して本当に大丈夫なのだろうか?

 

 ……まぁ、お買い上げいただいた以上、ちゃんとお渡ししますけどね。

 実際、大事にしてくれるという意味では最高の環境だろうし。

 

 ふぅ……。

 カードを郵送する準備でもしますか。

 とりあえずヘリ呼んで、護衛も呼ばないとな……。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 いつの間にやら時刻はもう夜の9時すぎ。

 あれこれと手配をすませてみると、大分遅い時間となってしまった。

 夕食がまだだったので、すきっ腹をさすりつつ食堂へと進む。この時間になるともう給食はやっていないが、備え付けのカップ麺自販機がある。

 さて、何にしようか? う~ん――

 

 今日はちょっとみそな気分、かな?

 

 入り口付近にある自販機で味噌味のカップ麺を買い、食堂の中へと歩みを進める。

 カップ麺の蓋を開き、配膳カウンターに備え付けてあるポットからお湯を入れる。

 熱々のカップを持って振り返ると、見慣れた顔が視界に入った。テーブルの端っこでクロノス先生が、一人さびしくカップ麺をすすっていたのである。

 まさにこれから一人さびしくカップ麺をすする予定だった俺は先生の横に腰掛ける。

 

「こんばんわ、クロノス先生」

 

 今は寮長という立場である時間帯なのだが、どうもクロノス先生は「先生」と言う印象が強い。

 

「これはシニョール神。こんな時間にどうしたノーネ?」

 

「ちょっと作業に夢中になってたら夕飯食べそびれちゃって……。

 クロノス先生こそ、カップ麺ですか?」

 

 こんな時間に? という意を言外に含ませる。

 

「はぁ~……。ワタ~シにも色々あるノーネ」

 

 はぁ~~……ともう一度クロノス先生はより深い溜息を付く。

 何か悩みでもあるのだろうか?

 

「先生、嫌なことでもあったんですか?」

 

 先生は視線を自分のカップ麺と俺の顔を行ったり来たりさせる。話そうかどうか逡巡しているようだ。

 

「まぁ、話すだけ話してみてくださいよ。役に立つかは分かりませんが、聞いてあげるくらいの事なら僕にも出来ますし」

 

「…………それなら、シニョール神には聞いて欲しいーノ」

 

 クロノス先生はぽつぽつと話を始める。

 目をかけていた教え子がプロになったのはいいが、何回か公式試合に負けただけで自信をなくし、プロを辞めてしまったのだそうだ。アカデミア時代に自分はもっと何かしてあげられたのではないか。結局自分は彼に必要なことを教えることが出来なかったのではないか。とまぁ、こんな感じの話だった。

 

「彼のデュエルはとても力強かったノーネ。

 ワタシはそれに満足シ、彼に知識以外の何も与えてやれなかったーノ……。せめて立ち直り方ぐらイーは、教えておくべきだったと後悔しているノーネ。……全ては今更なノーネ……」

 

 沈んだ表情のまま、クロノス先生はそう後悔の意を吐露した。

 

「……それは……仕方のないことでしょう。いくら先生でも全てを教えられるわけじゃありませんし……そもそも、知識以外を教えようとする先生なんてめったにいないですよ?」

 

「でも……ワターシのセイーで、彼の人生を台無しにしてしまったのかも知れないノーネ……」

 

 きっと特別可愛がっていたのだろう。今で言うと万丈目あたりの立ち位置だったのかな?

 

「その彼のことは残念でしたけど、過ぎたことはもう考えないでください。そもそも先生が生徒の人生に対して責任を持とうだなんで、傲慢もいいところですよ。その人の人生はその人のものですし、どうしようと当人の勝手です。

 案外彼にとって、プロを辞めた今の方がより幸せな人生を送れるのかもしれません。だから……先生がそれを気にすることはないと思います。それよりもその反省を生かして、今の生徒である皆に、敗北との付き合い方をきちんと教えてあげることがより大切……なんじゃないでしょうか……? 過去よりも今を見るべきだと……僕は思います」

 

 自身の考えをぶつけ、俺はクロノス先生を見やる。

 過去の失敗を教訓にし、今に生かそう。……少々クサかったかもしれないが、人間社会で生きるには必要な考え方だと思う。今のクロノス先生はきっと、プロを辞めたという元生徒と同じ心理状況に陥っている。ひょっとしたら、クロノス先生自身もこれまで失敗らしい失敗をしたことがなかったのかもしれない……。

 

 クロノス先生は顔を上げ、大きく目を見開いた後、徐々に表情を曇らせていった。

 

「……シニョール神は考え方がとっても大人なノーネ……。しかし……ドロップアウトボーイにすら負ける今のワターシには、生徒に敗北を教えるなんて出来るわけがないノーネ……」 

 

 そう言うと、クロノス先生はまた落ち込んでしまった。

 こりゃあ重症だな。確かに十代に負けてからはずっと何もかもがうまくいってない感じだったしね……。

 

 十代は確かに強いけれど、クロノス先生の呼称するドロップアウトボーイという表現も決して間違いではない。少なくとも、今の十代のデッキは滅茶苦茶なのだ。バランスも何もあったものじゃない。そのデッキの大半はヒーロー専用のサポートカードであり、モンスターカードは主力となるヒーローを含め10枚も入っていない。俺がこのデッキを使えば、10回中7、8回は事故るだろう。十代が今まで勝ってこれたのは、その並外れた強運のおかげなのだ。

 クロノス先生としては、そんなデッキに負けるのは納得がいかないのだろう。正直、それは分からないでもない。

 

 

 ここまで話を聞いたのも何かの縁だ。

 よし! どうにか元気付けてあげよう!

 

「先生、実は……僕は趣味でカードオークションを開催しているんですよ。ネット上で」

 

「シニョール神が、ですーノ?」

 

「はい。その商品の中で先生にぴったりのカードがあるんです。今持って来ますから、良かったら買いませんか? あ、もちろん欲しかったらでいいですので」

 

「ワタシにぴったり~のカプチ~ノ?」

 

「はい! それでデッキを強化すれば、きっと誰にだって勝てますよ!

 ちょっと待ってください。今持って来ますので」

 

 カードを取りに行く為、小走りで部屋まで駆け戻ることにした。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「お待たせしました。

 クロノス先生用のスペシャルカードセットです」

 

 

 【歯車街】(ギア・タウン)―――――――――3枚

 【古代の機械巨竜】(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)―――――3枚

 【マインフィールド】――――2枚

 【邪神の大災害】――――――1枚

 【マジカルシルクハット】――1枚

 

 合計10枚。

 いつかオークションで出そうと思っていたセットである。

 それらを先生に手渡す。とりあえず現物を見てもらうことにしよう。

 

 始め懐疑的な表情でカードを受け取るクロノス先生であったが、カードに【アンティークギア】の文字を見つけると、とたんに目の色を変えた。一枚、もう一枚とカードのテキストを真剣に黙読していく。そして……徐々に、その表情は笑みへと変わり、最終的には歓喜一色に染まっていった。

 星でも生み出せそうな程に目をキラキラさせるクロノス先生。

 

「こ、これは! すばらしいノーネ!!

 このカード達があれ~ば、アンティークギアの戦術はまるまる変わるノーネ!

 これはまさにエボリュ~ション! 革命ナノ~ネ!」

 

「本当はこのカード10枚セットをオークションにかけるつもりだったんですが……、

 特別価格、4千万円でお譲りしますよ」

 

 いや、高くないよ~。本当に特別価格だから、これで。

 

「買ったノ~ネ!! これのどれか一枚で~も、喉から手がでるほと欲しイ~ノ。

 それにアンティークギアはとても珍しいカードだか~ら、どこも売りに出してこないノ~ネ。

 本当にたったの4千万円で売ってくれる~ノ?」

 

 さすが先生。そのカードの価値をよく分かってらっしゃる。

 今日はマジシャンガールがバカみたいな値段で売れたんだ。多少は気にしないさ。

 よし、やっぱりこいつも出そう!

 

「もちろんですよ。それと後もう一枚秘蔵子が残ってます。

 これを売るかは最後まで悩みましたが、先生にならお譲りしましょう」

 

 何しろ俺も一枚しか持ってないからね。

 

 懐から秘蔵子カードを取り出す。

 カードの名は、【古代の(アンティーク・)機械(ギア・アル)究極巨人】(ティメット・ゴーレム)。その名から推測できる通り、【古代の機械巨人】(アンティーク・ギアゴーレム)の融合体である。前述したように俺も一枚しか持っていないカードだ。

 

「こ、これは! アルティメット・ゴレーム!?

 これはワタ~シが長年探していたカードなノ~ネ! まさかここで見ることができるとは思わなかった~ノ! 今日一番の感動なノーネ! カンツォーネ!」

 

「ええ、それは2千万でお譲りしましょう。

 少々高いのですが……なにしろ私にとっても思い入れのあるカードでして……」

 

「貯金ぎりぎりなノ~ネ。でも買うノ~ネ!」

 

 またまた即答するクロノス先生であった。

 

◇◇◇◇

 

 持ってきたカードを全てクロノス先生に渡した後、細かな支払い方法についての確認をする。

 それが終了すると、先生は晴れやかな顔で自室に戻ろうと歩き出した。

 

「さっそく今夜はデッキ調整をする~ノ。速く部屋に戻るノ~ネ」

 

「あ……そうだ。先生!」

 

 スキップ混じりの先生を呼び止める。

 

「もちろんシニョール神には感謝してるノーネ」

 

「いえ、そういう方面の話ではなく。

 ――今回の中間試験の最終日に、俺と十代でデュエルをすることになりました。よかったら見に来てください」

 

「シニョール神とドロップアウトボーイがデュエール? それは今からとても楽しみなノ~ネ。これでやっとドロップアウトボーイの吠え面が見られるノ~ネノ~ネ!」

 

 ニシシシシと意地悪ばあさん風な笑顔を浮かべるクロノス先生。……もうすっかり元気になったようだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 時間は「あっ!」と言う間に流れ、中間試験も残すは明日のデュエル実技だけとなった。

 生徒同士でランダムにペアを組んでデュエルをし、実力を見るのである。この試験では自分自身のデッキが使われる。

 

「と言う訳で拓実さま、一緒にデッキ調整をいたしませんか?

 拓実さまの意見が聞きたいですわ~」

 

「うんOK! じゃあいつもどおり」

 

「はい! 放課後、拓実さまのお部屋にまいりますわ~」

 

 ここ試験期間の数日、ももえは毎日のように試験勉強をしに俺の部屋へ来る。恋人同士が同じ部屋でなど……ふんぬっ!! などと思う人もいるかもしれないが、本当に勉強だけである。ももえはまだ高1で、付き合ったのも俺が初めてだと言っていた。いかがわしい事をするのもなんだか躊躇われる。

 それに最近、なんだかこうやって青臭い春を味わうのもいいものだと、そう思うようになってきていた。ビバ青春である。

 

 さて。今日はいつものお勉強じゃなく、デッキ構築になるのか。

 と言っても、この世界じゃあこれも勉強の一環だけど。

 

 【神様のオークション会場】の管理人であることを今日ももえに話そうと思う。

 今後色々と協力してもらうことが出てくるかもしれないし、ももえに大きな隠し事をするのも気が引ける。

 

 部屋に戻ると、いつものように軽く掃除機をかける。

 それが終わると、ももえにプレゼントしようと思っているカードをケースごと大金庫から取り出す。

 

 

 トン、トン、トンと、ノックの音。

 タイミング的にはちょうどいい。

 

「拓実さま~」

 

 ここ最近聞き慣れた声がドアの向こうからくぐもって響く。

 

「開いてるから入っていいよ」

 

「はい~、お邪魔いたしますわ~」

 

 オベリスクブルー寮の部屋はかなり広い。何しろ一人用の部屋の中に、寝室に居間、ダイニングとキッチンがある。つまり2LDKである。

 いつものようにももえをダイニングにある4人掛けのテーブルに案内し、茶菓子とジュースの準備を始める。

 

「それでさ、ももえのデッキは前に一度デュエルしてるから大体分かるけど、どうしたいの? 大幅に改造? それとも微調整?」

 

 ももえにデッキ改造の方針を聞きながら、グラスにオレンジジュースを注ぐ。

 

「はい~。大幅にと言いましても、わたくしはあまりカードを持っていませんし~。

 微調整をして、事故を少なくしていこうと思っていますわ~」

 

「ふふん~」

 

 オレンジジュースと水羊羹の乗った盆を手に、鼻でひと笑い。

 そんな俺を見て、ももえは怪訝な顔をする。

 

「どうしましたの? 拓実さま~」

 

 俺は茶菓子をテーブルに置き、パタパタと寝室へ。

 そして予め用意した大量のレアカードが入ったカバンケースを手に、またパタパタとダイニングに戻る。

 

「あの~……拓実さま?」

 

 はいはい、わたくしの彼氏さんは何をやってらっしゃるのでしょう~、的な視線をこちらに向けない。

 

 ケースをテーブルに置き、カチャリと蓋を開く。

 すると、中にぎっしりと詰まれたレアカードがその姿を現す。

 前の世界ではこれくらい普通だぜって人も多いだろうけど、この世界においては滅多に見られない光景である。さしずめ、宝石のたっぷりと入った鞄を見せるのと同じようなものか。

 

「まぁ! すごいですわ~」

 

 さすがのマイペースなももえも目をキラキラとさせる。

 何度も言うようだが、本当にこれは宝の山なのだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「まぁ! すごいですわ~」

 

 はい、本日2回目の"まぁすごいですわ~"いただきましたー。

 

 どうして拓実さまはこんなにカードを? から始まり、【神オク】の管理人をしていることをももえに話したらこの反応である。

 

「でも~、どうしてこんなにカードを持っているかの説明にはなっていませんわ~」

 

 何!? ぽわぽわしているくせにそこに気づくとは!? おのれぃ、コヤツやりおるわ!!

 ――――う~ん、どう説明しよう……。

 

「まぁ……、そこの説明をするとかな~り長くなるので、今回は勘弁してください。

 でも、このカードは全部俺が正規の手段で集めたもので、決して何かの不正で入手した訳じゃないよ。これだけは絶対に本当」

 

 とりあえず説明をなげた。

 異世界から来ました~! なんて言われてそのまま信じる人はいない。というか俺なら信じない。むしろ救急車を呼ぶね。窓に鉄格子が付いた病院行きの。

 

「……拓実さまが話されたくないのでしたら、無理にとは言いませんわ~。

 でも、いつか教えてくださいね」

 

「……うん。そうだね。いつか教えるよ……絶対」

 

「はい! お待ちしていますわ~」

 

 うんうん。ええ子や~。

 

 

「それでだ!」

 

「はい~」

 

「ももえのデッキを作るのに、ここのカードを使っていい」

 

「でも……これは売り物なのでは~?」

 

「まぁ売り物でもあるが、全部俺の私物だよ。

 さすがに全部持ってかれたら困るけど、デッキ一つ分くらいなら好きなのをあげる」

 

「まぁ! 本当ですの~!? …………でも……」

 

 いきなり大金をあげると言われても――しかも彼氏から――どうしたら良いか分からない。ももえは今まさにそんな心境なのだろう。

 しかし、俺はすでに一生遊んで暮らせるお金を棚ボタで手に入れてしまっている。今更これくらいのことは負担にすらならない。自惚れではあるが、ここ約3週間でももえの人格はおおよそ理解できたと思う。悪い子ではない――と言うか、かなりいい子である。

 彼女になら、これくらいの融通はしてあげても良いと思った。

 

「いいよいいよ。ももえが喜んでくれたら俺もうれしいしね」

 

 しばらく視線を彷徨わせ、迷うももえ。

 俺の顔を見たので「にこ」っと微笑んで手の平をケースに向け、「どうぞ」のジェスチャーをとってみる。

 

「――――え、ええ…………とっても……嬉しいですわ……。

 ありがとうございます~。拓実さま」

 

 深々と頭を下げるももえ。どうやら踏ん切りが付いたようだ。

 

「んでさっそく。デッキタイプはどうする? 相変わらずバーンデッキでいくのか?」

 

 これだけカードがあるのだ。その気になれば、全く違うタイプのデッキも作れるだろう。

 

「はい~、バーンデッキがいいですわ~。わたくしのデッキは見た目が地味ですので……できれば、もっと(はな)のあるバーンがいいですわ~」

 

「華か……プロになるなら確かに大事な要素だよね」

 

「ええ~。

 【デス・ウォンバット】の能力は優秀なのですが、モンスターとしてはいささか派手さに欠けますので……。

 もっと、一目見たらこう、忘れられないようなモンスターが居ればいいのですが……」

 

「それでいてバーンの役に立つモンスター、か。ならちょうど良いのがある」

 

 俺はポケットからカードを取り出す。

 

「この鞄にあるカードとは別に、今日ももえにプレゼントしようと思っていたカードだよ」

 

「……白いカード……ですわ……」

 

 マジマジとカードを見るももえ。

 

「シンクロモンスターと呼ばれる、融合を使わない特殊な融合モンスターだ。

 使い方は後で教えるよ」

 

「……【ブラックフェザー・ドラゴン】……。きれいな黒色……」

 

「ああ、まさにももえにぴったりな効果を持っている。シンクロ系統のモンスターは今のところ俺しか持っていない。オークションにも出してないしな。これを使えば目立つぞ~」

 

「こんな貴重なカード……本当に……いいんですの?」

 

 他のカードとは違うあからさまな稀少オーラを感じ取ったのか、気後れするももえ。

 いやまぁ、白いしね……。

 でも受け取って貰うさ。何より俺が送りたいと思っているんだ。

 

「言ったじゃないか、元々ももえにプレゼントしようと思ってたって」

 

 ももえの手にカードを押し付ける。

 逡巡な表情でカードと俺の顔に対し、交互に視線を彷徨わせるももえ。しかし、真剣な目で見つめる俺に何か感じる物でもあったのか、やがて、笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございますわ~! 拓実さま~~~~!」

 

 ももえが全身で喜びを表現するように、俺の腕にギューーーーッ! と抱きつく。

 うおぉーー! でけーーーー!! 具体的に何かとは言わないけど、でけーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 そして、ももえとの午後は過ぎてゆく――。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「へへ、これでやっと(じん)とデュエルができる!

 それじゃあいくぜ! 神!」

 

 次の日。中間試験全科目終了後、第1デュエル場。

 俺と十代は先日約束したデュエルをここで行おうとしていた。

 観戦者はレッドから丸藤翔と前田隼人。ブルー女子からももえと天上院明日香、枕田ジュンコ。そしてクロノス先生となぜかイエローから三沢大地。

 

「あの万丈目をあっさりと破った遊城十代とブルーの1番くんのデュエルだ。

 これほど興味をそそられる対戦カードは滅多にない。オレも観戦させてもらおう」

 

 十代のデュエル実技試験では、なぜか万丈目が対戦相手に選ばれた。基本同じ色同士でのデュエルとなるはずなのだが……謎である。まぁ、多分アニメイベントなのだろう。

 結局十代は【ハネクリボー】と【進化する翼】コンボで、特にピンチに陥ることもなくあっさりと勝ってしまった。

 そう言えば万丈目、XYZドラゴンシリーズを使わなかったな。

 確かアニメじゃここら辺から使い始めてたはずなのに……。

 まぁ、こういうこともあるか。

 

 視線を一人観戦席にいるクロノス先生に向ける。

 ステージの脇で観戦の準備をしている皆とは合流しないようである。

 ニヤついたかと思ったら悲哀感たっぷりな表情をし、最後に何か決意のこもった視線を俺に向けるクロノス先生。何だろう?

 

 

◇◆◆◆

 

(今日入荷したカードを買い占めて、ドロップアウトボーイの邪魔をしようと思ったけれ~ど、よく考えたらもうお金がなかったノ~ネ。シニョール万丈目は負けてしまったし……後はシニョール神に全てを託すしかないノ~ネ!)

 

 

◆◆◆◇

 

「アニキも神くんもガンバレー!」

 

「どっちも頑張るんだなー!」

 

「拓実さま~! がんばって~~~!」

 

「ももえ、張り切ってるわね」

 

「いいなぁ……ももえ、彼氏できて……」

 

 

「ギャラリーも揃ったことだし……真剣勝負だ! いくぞ十代!」

 

「ああ! 大分待ってたんだ。楽しいデュエルにしようぜ!」

 

「ほんじゃ、まっ!」

 

 

 

「「デュエル!!」」


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